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121.八神輝マヌエル

 マヌエルは帝国の西方国境に来ていた。

 どこまでが領土とするか、都市国家連合ともめているところである。

 軍が目を光らせることができないため、魔物の間引きが思うようにできない。

 その結果、たまに強大な魔物が出現することがある。

「まあ、今回はゴブリンとオークの群れみたいだが」

 マヌエルは一人笑う。

 他にも冒険者たちはいる。

 今回の目的は都市連合国家に属する都市近くの森に巣くったゴブリン・オーク連合の討伐だ。

 五級冒険者パーティー二組が行方不明になったことで、冒険者ギルドは本腰を入れる。

「百や二百はくだらないとみている」

 リーダー格の三級冒険者がそう言う。

「くれぐれも単独行動は慎むべきだ」

 この意見に他のメンバーもうなずく。

 顔ぶれはマヌエルを除けば三級冒険者パーティー一組、四級パーティー二組、五級パーティーが二組である。

「我々の目標はあくまでも偵察だ」

「敵の全貌を把握すればいい」

 都市連合国家はそのつもりでいるのだ。

 マヌエルは「悠長なことだ」と冷笑する。

「ぬるくせー。俺が行く」

 彼がそう言うと、他のメンバーが驚き顔をしかめた。

「君は帝国から来たのかな? 一人で何ができる?」

「悪いことは言わない。連携しよう」

「五級パーティーが二組もやられたんだぞ。たかがゴブリンとオークの群れと考えるのは危険だ」

 彼らは口々に言う。

「ハッ、正論だな」

 マヌエルは嘲笑する。

「俺が斬りこむ。てめえらは黙って見てな。ああ、討ち漏らしがでた場合の処理は任せた」

「おい!」

 マヌエルは制止を無視してずかずかと奥へと突っ込んでいく。

 はた目から見れば自分の力を過信して無謀な突入を試みる、救いようがない愚者だった。

 彼が森に踏み込めば、ギイギイと大きな鳴き声が起こり、槍や剣を持ったゴブリンの群れが二十ほどわいてくる。

「先兵で二十ってことは、総数は五百くらいはいそうだな、オイ?」

 マヌエルは大きな声で言いながら背後をふり向いた。

 そして腰から下げていた二本の湾曲刀を抜き放つ。

 ゴブリンの集団対たった一人の男。

 勝敗は明らかだと冒険者たちは思い、目を背けた。

 しかし、彼らの予想に反して聞こえてくるのは醜悪なゴブリンたちの悲鳴だった。

 見るとマヌエルは目にもとまらない速さで刀を振るい、ゴブリンを一方的に斬り捨てている。

 信じられないことに、ゴブリンが槍をくり出すよりもマヌエルが剣を振るいながら移動するほうが速いのだ。

 亀とウサギ以上の速度差がなければ成立しないような、一方的な殺戮劇である。

「うそ、だろ?」

「し、信じられない」

「いくらゴブリンと言っても、二十対一だぞ? 魔術攻撃なしで圧倒できるものなのか?」

 冒険者たちの間では「多勢に無勢」という常識が、音を立てて壊れていった。

「は、肩慣らしにもならねえな」

 二十匹をしとめたマヌエルは冷笑する。

 息一つ乱さずに彼はそのまま前進していった。

「ま、まさか、あの男は一人で何とかしてしまうつもりか?」

「無理だ……と言いたいが、あのムチャクチャな強さを見た後だと分からないな」

 彼らは黙って互いの顔を見合わせていたが、やがてマヌエルの後を追う。

 討ち漏らしが出た場合の処理を頼まれたし、それに圧倒的な強さをもっと見たいという気持ちもあった。

 追いかけた先では五十のゴブリンと十のオークの死体が転がっていた。

 相変わらずマヌエルは目にもとまらぬ速さで湾曲刀をふるい、まるで平原を散歩しているかのように屍の山を築く。

「平野をいくかのように……」

「すげええ」

「あんな冒険者見たことねえ」

 冒険者たちからは畏怖の声が漏れる。

「あいつは一体何者なんだ?」

「まさか、特級冒険者なんじゃ!?」

 一人が叫ぶ。

 特級冒険者とは文字通り特別な強さを持ち、特別扱いをされる者だ。

 一級と特級の差は一階級ながら分厚い。

「帝国の特級冒険者だとすれば、あの異常な強さには納得できるな」

 と誰かが言う。

 帝国は大国である。

 人口も多く、有望な才能が次々に出てくる土台ができているらしいという話は、彼らも知っていた。

「都市国家連合は俺らを送ったのに、帝国は特級冒険者を出してきたのか」

 初期対応の差を思えば、愚痴りたくもなってくる。

 帝国が強いのは、この対応の速さが表しているのではないのか。

 そんな風に思えるのだ。

「は、俺は特級冒険者じゃねえよ」

 すべての敵を斬り伏せたマヌエルはそう話に加わってくる。

「え、特級じゃない?」

 冒険者たちは愕然とした。

 彼が特級でなくて何なのかと思ったのだ。

 一方でマヌエルは人の悪い笑みを浮かべる。

 彼が特級冒険者ではないと言うのはうそではない。

 特級冒険者となった後八神輝に抜擢されたため、「元」特級というのが正確だ。

「だいたい片づけたぜ。じゃあな」

 マヌエルは去っていく。

 残されたのは死体である。

 脅威とみなされていたオーク・ゴブリン連合はたしかに壊滅したのだった。

(ゴブリンやオーク相手じゃつまんねえな)

 とマヌエルは思いながら転移魔術で帰還する。

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『神速詠唱の最強賢者《マジックマスター》』

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