101.受け入れ
翌朝、食事を済ませたところで砦の外に緑のローブを着たエルフの男女が十名、姿を見せる。
使節を受け入れるための特別チームであり、帝国側にも前もって伝えられていた。
ミーナとバルは以前に通達もせずに転移魔術を使っていたが、本来褒められたことではないどころか違法行為である。
彼らでなければ厳罰に処せられただろう。
今は正式な国家同士の交流であるから、事前にきちんと必要な情報を交換し、転移魔術で移動するために必要なメンツが用意されたのである。
「面倒だけど仕方ないかしら」
ベアーテが迎えのエルフたちに聞こえぬように小声で言うと、隣に立っていたシドーニエが同じく小声で答えた。
「自分たちで用意した者を使うなら転移魔術での入国も認めるあたり、エルフはまだまだ寛大ですわ。他国ですともっと面倒ですわよ」
「そうね」
彼女の言い分はもっともだと皇女はあきらめる。
大陸の国によっては転移魔術そのものを禁止している場合もあるほどだ。
もしも犯罪に悪用されれば……という恐怖を否定できない以上、帝国やエルフのほうが異端なのかもしれないが。
「帝国やエルフが自信過剰だという見方もできるな」
とミーナが皮肉な言い方をする。
彼女はいったいどこの味方なのだろうとベアーテもシドーニエも感じたりはしない。
彼女はバル以外すべてに対して辛らつだと思えばよいと考えているからだ。
エルフの一団が砦から約百歩のところで立ち止まり、ベアーテたちは砦の外に出て対面する。
先頭にベアーテ、その右側にシドーニエ、左側にミーナ、彼女たちの後ろに侍女たち、侍女たちを半円状に囲むように護衛騎士たちが並ぶ。
「お初にお目にかかる、ベアーテ皇女ですな」
「ええ」
エルフたちは人間たちのように礼を行ったりせず、単刀直入に切り出す。
ベアーテやシドーニエは「ヴィルヘミーナにそっくり」と思う。
「我らが長の命令で参上した。我は彼らのリーダー、ファラハという」
一歩前に出て名乗ったのは、かつてバルと手合わせをした六つの花輪、ファラハであった。
「これはご丁寧に。ベアーテと申します。お世話になります、ファラハ殿」
ベアーテのほうは可憐な笑顔を浮かべ、簡素だが礼に反せぬ拝礼を行う。
次にファラハは皇女の隣に立つミーナに向かって跪いた。
「ご尊顔を拝し恐悦に存じます、ヴィルヘミーナ様」
これには帝国の人間全員が驚く。
当のミーナ自身は不快そうに眉を動かし、冷淡な声を出す。
「今の私は使節団の副使にすぎぬ。愚か者めが」
「し、失礼いたしました!」
叱責されたエルフたちは慌てて立ち上がった。
取り繕いようがない大失態だろう。
「さて、転移魔術の発動をお願いできますか?」
ベアーテはにこやかに、何事もなかったように話しかける。
エルフたちの失敗は見なかったことにするという意思表示だ。
「心得ました」
エルフたちが答えると、ベアーテたちを大きな円で囲むように位置を変える。
「御霊の力を借り、かの地との道を開かん……」
十名のエルフたちは同時に呪文を唱え、白い光で全員が包まれて、転移魔術は発動した。
ベアーテたちが移動したのはバルが以前来たシュタルク・オルドヌングの本拠の入り口である。
木の門を前にベアーテたち帝国人は物珍しそうな顔で、まじまじと観察した。
「ここがエルフの国なのね」
「お前たちの言葉で首都に当たるところかな」
皇女のつぶやきに対してミーナが返す。
「ああ、そうらしいわね。何でもファラハってエルフ、バルトロメウスと手合わせしたんでしょ? 私も見たかったわ」
「バル様は見世物じゃないぞ」
無邪気に笑うベアーテに彼女は苦々しい顔でくぎを刺した。
「えへ」
対する皇女は舌をペロッと出してごまかし笑いを浮かべる。
この反応をしてくるあたり、ベアーテは皇族の中でもマシな部類だ。
何を言われたのか分からないという反応をしたり、居直ったりする者もいるくらいだから。
「こちらです」
彼女たちのやりとりを聞かなかったふりを装い、ファラハが声をかける。




