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凡人と神様  作者: 遺志又ハ魂
第二部 【詰むまでの物語】
68/72

第67話 『心の育て方』

「具体的には何を教育するんだ?」

「君にはアドバイスを貰いたい」

「アドバイスって、どんな?」

「人間らしさとは何かを教えて欲しい」


ポンコツ人形の教育を引き受けたのだけど。

具体的な教育方針が分からず、尋ねた。

すると、人間らしさを教えて欲しいらしい。


博士のその要望に、俺は首を傾げて。


「あんたは人間が嫌いなんじゃないのか?」

「もちろん、汚い部分は嫌いだよ」

「なら、なんで人間らしさを求める?」

「それがワタシの理想の人形だからさ」


人間らしい、人形。

それが博士の理想らしい。

しかし、どうにも解せない。


「人間の汚さを人形を教えたいのか?」

「そんなわけないだろう。汚さはいらない」

「でも、人間らしくしたいんだろう?」

「ワタシは汚くない人間を作りたいんだ」


ようやく、言わんとしてることがわかった。

汚くない人間。それは生身では不可能。

だから、美しい人形で、それを作り出す。


それこそが、博士の夢らしい。


「綺麗な人間を作ればいいのか?」

「簡単に言えば、そうだね」

「あんたになら作れるんじゃないか?」

「それが出来ないから、君に頼んだんだ」


綺麗な人間の作成。

それを博士は作れなかったらしい。

この天才にも、出来ないことがあるようだ。


「どうして作れなかったんだ?」

「綺麗にしようとすると、人形になる」

「人間らしくなくなるってことか?」

「その通り。だから、難しいんだよ」


なんとなく、理解出来る。

先ほど眺めた人形達は皆、人間ではなかった。

そして目の前のポンコツも人間らしくない。


試しにポンコツに、話しかけてみる。


「お前には好きな物はあるか?」

「好きな、もの、ですか?」

「そうだ。なんでもいいから言ってみろ」

「ポコ……チン?」


やっぱり駄目だ。完全にスクラップだ。

その意味不明な返答は、ともかくとして。

人形には意思又は魂が、備わっていないのだ。


だから、人形は人間にはなれない。


「問題の難解さを理解出来たかね?」

「科学でなんとか出来ないのか?」

「出来ないから、君を頼っている」


またもや頼りにされてしまい、困る。

俺は様々なスキルを持つ、吸血鬼だ。

大抵の頼み事なら、叶えてやれる。

だからこそ、その頼みを引き受けたのだが。


これは、思っていた以上に、難解らしい。


「なんとも、難しそうだな」

「しかし、君ならばきっと出来る」

「その自信の根拠は?」

「君がワタシの理想の存在だからだ」


またそれか。理想の存在。

そう言われても、よくわからない。

俺は自分自身をそこまで高く評価していない。


「俺が不死身の吸血鬼だから理想なのか?」

「それも理由の一つだけど、本質ではない」

「どういう意味だ?」

「例えば、君が吸血鬼化した原因の女の子」

「かわゆいボスのことか?」

「そう、あのかわゆい吸血鬼は理想ではない」


その博士の発言で、余計に謎が深まる。

あのかわゆいボスは、理想ではないらしい。

しかし、それはおかしい。彼女は完璧だ。


美しい銀髪と美貌を兼ね揃えた、絶世の美鬼。

冴えない俺よりも、よっぽど完成されている。

そもそも、生まれからして、純粋な吸血鬼だ。


かわゆいボス以上に美しい存在は、いない。


「あいつこそ、完璧で完全な存在だろう?」

「彼女は、完璧で、完全な、吸血鬼だ」

「だから、そう言ってるだろ?」

「だから、人間ではないと、言っている」


そう言われて、納得。なるほどね。

かわゆいボスは純然たる、吸血鬼。

吸血鬼として生まれ、吸血鬼として育った。

だからこそ美しい。人間では、ないから。


それに対して俺は人間から吸血鬼になった。

元々は人間であり、血を吸って、吸血鬼化。

その経緯が、博士の目に留まったらしい。


「ワタシは完璧で完全な人間を作りたいんだ」


完璧で完全な人間。それが博士の理想。


「君みたいな、ね」


そう付け加えられて、俺は盛大に溜息を吐く。


「俺が完璧で完全な人間だって?」

「その通り。ワタシはそう信仰している」

「あんたの目は節穴かよ?」

「ワタシのレンズは全てを見通している」

「なら、その立派なおめめでよく見やがれ」


俺は両手を広げて、全身を誇示する。

いや、別に誇っているわけではない。

自らの情けなさを、見せつけたのだ。


別段、身体を鍛えているわけではない。

身長もそこそこで、体格も中肉中背。

そして何より、この冴えない顔面。


「これが完璧で完全な人間か?」

「顔の好みは、人それぞれだからね」

「じゃあ、俺の顔が好きな奴を連れてこい!」


やんわりと慰められて、憤り、怒鳴る。

様々な異世界を旅して、顔の重要性を知った。

素顔では、誰からも好かれない。

変身すれば、そのままでいろと言われる。

元の顔は、嫌いじゃない止まりの偏差値だ。


血の涙を流して、喚くと、ポンコツがポツリ。


「私は、好き、です」

「へっ?」

「おや? こんなところにいたらしいね?」


キョトンとすると、博士が目を見開く。

マジかよ。初対面なのに、好きとか言われた。

いや、喜ぶのはまだ早い。確認しよう。


「ど、どんなところが好きなんだ?」

「ポコチンが、好きです」

「あ?」

「ご主人たまの、ポコチンが……」

「もういい。ポンコツは黙ってろ」


深く聞いた俺が馬鹿だった。

顔の話をしてんだよ。ポコチンじゃない。

すると博士は何やら、にやにや笑って。


「それならワタシも好きだよ」

「汚いものが嫌いなんじゃないのかよ?」

「君は童貞だから、綺麗だろう?」

「ほっとけ」

「失礼。新品と言うべきだったね」

「ほっといてくれってば!!」


童貞を揶揄われて、憤慨。

ぷんすか怒ると、博士はくすくす。

ひとしきり笑い者にして、言い訳した。


「そのことも、君が完璧な理由なのさ」

「童貞なのに完璧なのかよ?」

「童貞だからこそ、綺麗で、新品だ」

「冴えない顔してるのに完全なのかよ?」

「冴えないけれど、人間として完全だ」


冴えないって部分は否定しないんだな。

そもそも、完全な人間の定義がわからん。

だからそれを、尋ねてみる。


「あんたの言う、完全な人間ってなんだ?」

「自分の汚さを理解している人間のことだ」

「それならそいつは汚いってことだろう?」

「そうだね。それで開き直ったら、駄目だ」

「だったら、俺はやっぱり完全じゃないよ」

「君は開き直らずに、93万年も向き合った」


まるで母親のようにそう諭す、博士。


「君は、もとの世界で大罪を犯しただろう?」

「……ああ。俺は、薄汚い、人殺しだ」

「それでも君は、その記憶を消さなかった」

「消せるわけ、ないだろうが」

「到底、償い切れる罪ではないのにかい?」

「それでも、背負い続ける責任があんだろ」


もとの世界で犯した大罪。

俺は沢山の異能力者を、殺した。

あれから93万年、罪を償い続けた。

いろんな異世界で、犠牲者に謝った。

過度な干渉には、ならない程度に、助けた。

それでも、その大罪は、消えることはない。


消すつもりもない。

償い切れない、大罪。

それを、死ぬまで、背負うと、決めていた。


その俺の覚悟を、博士は理解して。


「だからこそ、君は完全であり、美しい」


そう褒めて、額にキスをした。

そこで、また母性の香りがした。

気恥ずかしくなっていると、袖口を引かれて。


見るとポンコツが俺を見上げ、何か言いたげ。


「ん? どうかしたのか?」


恥ずかしいところを見られた事に赤面しつつ。

促しても、ポンコツはだんまり。

それでも、無機質な顔で、口をムズムズ。


そんな人形の様子に首を傾げてると、博士が。


「先ほど君は、黙っていろと命じただろう?」

「ん? ああ……なるほど。喋っていいぞ」


どうやら発言の許可を貰いたかったらしい。

ポンコツではあるが、とても従順だ。

発言を許可すると、ポンコツは口を開いた。


「私も、キス、したいです」

「い、いや、もう間に合ってるから……」


思いもよらない、まさかの発言。

博士のキスに、触発された様子。

学習能力があると言っていたな。

好奇心が旺盛な、人形のようだ。

ドギマギしながら、遠慮すると。


「ポコチンに、キスが、したいです」

「よしわかった。やっぱり黙ってろ」


一気に冷めて、ぴしゃりと閉口を命じる。

なんでよりにもよって、そこなんだ。

ポコチンはもう忘れて頂きたいものだ。


黙らせて、げんなりしてると、博士が忠告。


「ワタシの人形を汚さないでくれたまえよ?」

「当たり前だろ。顔も姉ちゃんだし、萎える」


その忠告に、更にげんなり。しなしなだ。

顔はもちろん、身体まで姉ちゃんと同じ。

そんなポンコツ人形を汚すつもりはない。


「こんなに可愛いのに、萎えるのかい?」

「小さい頃から一緒だったからな」

「本当に、君は無欲だね」

「紳士だからな」


胸を張って嘯くと、博士はにやりと笑って。


「実は君は、女の子だったりして?」

「失敬な。ちゃんと付いてるぞ」

「顔に似合わないサイズらしいね」

「ああ、評判は上々だ」

「その割には一度も使ったことがないよね」

「だから、ほっとけってばよ!」


なんか、どんどん博士が意地悪になっていく。

まあ、個人的に、女に虐められるのは好きだ。

この、ゾクゾクする感じが、堪らない。


そんな俺の性癖を見抜いた博士が、追撃。


「使わないなら、取っちゃえばいいのに」

「なんてこと言いやがる」

「君は女の子にも変身出来るんだろう?」

「ああ、スライムの変身能力でな」

「きっと、女の子の方が、向いてるよ」


そう言われると、そのような気もしてくる。


「そうなのかな?」

「そうさ。大泥棒さんが好きなんだろう?」


突然、大泥棒のことを持ち出されて、焦る。

そんな記憶まで覗かれていたのか。恥ずい。

堪らず、目を逸らして、俯き、答える。


「あのおっさんは、素敵だから仕方ないよ」

「じゃあ、猛毒使いくんは?」

「あいつは嫌い」

「でも、ほっとけないんでしょ?」

「まあ、そばに居てやるくらいなら……いい」


ふんっと鼻を鳴らすと、博士は耳元で囁く。


「吸血鬼くんは……かなり、ビッチだね」

「ビ、ビッチじゃねぇよ!?」

「ビッチだよ。そんなのいけないよ?」

「ご、ごめん……なさい」


なんだろう、この状況。

怒られている。それは確かだ。

しかし、博士はとても楽しそうで。

俺も何故だか、ほんの少し、楽しい。


そんな俺の頬を博士は優しく撫でて、感嘆。


「ああ、やっぱり、君は可愛いね」

「褒めてんのか?」

「もちろん。男の子にしておくのが勿体ない」

「取った方が……いいのかな?」

「どうせ使わないのならば、不要だろう?」


博士の言葉には、説得力があった。

なにせ93万年間も使わなかった代物だ。

彼女の言う通り、不要かも知れない。

そう思うと、急に無用の長物に見えてきて。


あれ? これ、いらなくない?


なんて、思いつつも、踏み止まる。

博士の甘言に騙されてはいけない。

彼女は高潔であり極度の潔癖症だ。

そんな高潔な博士が、作った人形。

それは全て、可愛い美少女だった。

きっと博士は女の子が好きなのだ。


だからこそ、俺を女にしたがっている。


ふぅ……あぶないあぶない。

危うく、乗せられちまうところだったぜ。

だけど……使う当てがないのは事実だし。

やっぱり取っちまうべきか、悩んでいると。


再び、ポンコツが袖を引き、物言いたげ。


「なんだ? 発言を許可する」

「要らないなら、ポコチン、下さい」

「やらん。黙って、反省しろ」


ポンコツのポンコツ発言で、目が覚めた。

やっぱり俺は男でいよう。そうしよう。

じゃないと、姉ちゃんが男になりかねない。


もっともこの人形が姉ちゃんとは限らないが。


「だいぶポンコツとも打ち解けたようだね?」


そんなやり取りを見て、博士は満足げ。


「こにポンコツ具合はどうにかならんのか?」

「それをどうにかするのが、君の仕事さ」

「俺には荷が重過ぎるぞ」

「いや、そうでもないさ」


自信を失っていると、博士は確信を持って。


「君には教師としての才能があるらしい」

「教師?」

「そうとも。すぐにポンコツと打ち解けた」

「別に、大したことはしてないけどな」


たぶんきっと、馬が合ったのだろう。


「なら、保護者と表現するのが適切かもね」

「保護者はあんただろ?」

「ワタシはポンコツを作っただけだ」

「じゃあ、愛してないのか?」


別段、深い意味があったわけではない。

なんとなく、聞いてみただけだ。

ポンコツの生みの親の、博士の内心。


しかしながら、博士は何故か衝撃を受けて。


「愛……だと?」

「何をそんなに驚いてんだよ?」

「す、すまない……あまりに予想外で」

「はあ? それで、愛してんのか?」


狼狽する博士を追求すると、彼女は。


「ワタシはただ、作るだけだった……」

「理想を追い求めて、か?」

「そう。だから、愛する余裕が、なかった」


理想を追い求めて、人形を作り続けた。

より完璧で、より完全に、近づく為に。

それを聞いて、俺は問題点が、わかった。


何故、人形に魂が宿らないのか。

その理由に、検討がついた。

俺は、博士の肩を手を乗せて、それを諭す。


「愛してやらなきゃ、心は育たない」

「心?」

「意思又は魂こそが、記憶であり、心なんだ」


上手く言語化出来ず、博士は困惑。

たぶん、意味がわからないのだろう。

生まれてまもなく、政府に保護された、天才。


きっと博士は、愛情を受けずに、育ったのだ。


「教育ってのは、意思や記憶を伝える作業だ」

「どういうことだい?」

「自分の考えや経験を、子供に伝えるんだよ」


あれをしてはいけないとか。

こうしたほうがいいとか。

それは間違っているとか。

それは正しいから褒めるとか。


それが意思又は魂そして記憶を伝える作業だ。


「考えや経験を伝える……それが、愛かね?」

「それが、愛として、子供に伝わる」


かくいう俺にも、両親がいない。

それでも、姉ちゃんが育ててくれた。

姉ちゃんは不器用で、口数も少なかった。

けれど、確かに、愛を受け取った。

姉ちゃんの愛情を受けて、俺は育った。


「愛情を持って育てることが、大切なんだ」


童貞の俺には、子育ての経験はないけれど。

これだけは、確信を持って、断言出来る。

姉ちゃんが居なければ、今の自分はないと。


博士は打ちのめされたような表情をして。

弱々しい声音で、尋ねてきた。

まるで、愛を知らない、人形のように。


「具体的には、どうしたらいいんだい?」

「さあな……特別なことはいらないだろ」

「そ、そんな曖昧に言われてもわからない」


自他共に認める天才の博士が、狼狽えている。

やはり、彼女は愛を知らないらしい。

しかしながら、特別なことはいらない筈だ。


「そんなに悩む必要なんてないんだよ」

「だったら、教えてくれ。どうすればいい?」

「俺や人間と同じように接してやればいい」


愛を知らない博士は自覚がないだけだ。

俺はこの博士と話して、知っている。

機械の身体を持つ彼女が、人間であると。


博士から感じた母性。

それがなによりの人間の証。

彼女は人間と同じく、愛を持っている。


「あんたは人間を救っただろう?」

「それが、ワタシの責務だからだ」

「違う。あんたは人間を愛していた」


その事実を告げると、博士は嫌がった。


「ワタシは、人間を愛してない」

「なら、なんでわざわざ助けたんだ?」

「それは罪を償い、理想を実現する為に……」

「そんなのはただの言い訳だ」


頑なに認めようとしない博士。話題を変える。


「じゃあ、どうして俺を愛してくれたんだ?」

「君が、ワタシの理想の存在だからだ」

「人間のまま、吸血鬼化したからだろ?」

「そう。君は人間の汚点を克服した存在だ」

「それでも、俺はやっぱり、人間なんだよ」


噛んで含めるように、根気強く、説明する。


「あんたは俺が人間だから、愛したんだ」

「違う……ワタシは、人間が嫌いだ」

「意地っ張りは、嫌われちまうぜ?」

「ワタシも……こんな自分が、嫌いだ」


博士とて、わかっているのだろう。

理解は出来るが、受け入れがたい。

そのジレンマは、とても人間らしく。


とても、汚く、醜い、感情だ。


「あんたを追い詰めるつもりはない」

「気を遣わせて、申し訳ない」

「気にすんな。泣かれたくないからな」


今にも泣きそうな博士。

だから、これ以上の追求は控えた。

いずれ、彼女も受け入れる筈だ。


何故ならば、この高潔な博士は、天才だから。


「話を戻そう。あんたは人形が好きだろう?」

「人形は、もちろん好きだ」

「なら、愛してやれ。俺と同じように、な」


博士は初対面の俺を解析して、愛した。

それは彼女にとって理想の存在だったから。

だったら、大好きな人形も愛せる筈だ。

それが理想ではなくとも、好きならば。


「ポンコツ、こっち来い」


無機質な表情でやり取りを眺めていた人形。

命じられた通り、黙って佇んでいた。

俺が手招くと、従順に、そばに寄った。


「もう喋っていいぞ」

「はい。先ほどは、失礼しました」

「さっきのことは許す。そこにいろ」


ペコリと頭を下げるポンコツを許してやる。

その場に待機を命じて、博士を促す。

俺と同じように愛してやれと、背中を押す。


「君と同じように接すればいいのかい?」

「そうだ。抱きしめて、キスしてやれ」

「わ、わかった。それで理想が実現するなら」


博士は意を決して、ポンコツを抱きしめた。


「愛しているよ……ワタシの可愛い人形」


囁いて、丸い額に、優しいキスをした。

ポンコツは無表情。しかし、俺は見た。

ほんの僅かに、目が見開き、驚いた様子を。


その無機質な視線が、不意にこちらを向いた。


「ご主人、たま……」

「なんだ?」


博士に抱かれたまま、ポンコツは震える声で。


「嬉しい……です」


そう言って喜ぶ人形は、人形には見えない。

そのあまりの人間らしさに、思わず微笑む。

俺はこの手法が正解だと悟って、安堵した。


「良かったな。これから沢山愛して貰え」

「わかり……ました」

「博士も、わかったな?」


ポンコツを抱きしめる博士の表情は伺えない。

それでも、彼女の機械の耳たぶが赤く見えて。

意地悪く、念を押してやると、博士は怒って。


「わかったよ! これも理想の実現の為だ!」


なんてぶっきら棒な返答が返ってきた。

しかし、その声音は全く怒っておらず。

ウキウキと、弾むような声で、わかる。

たぶん、博士も、嬉しかったのだろう。


自分の愛が子供に伝わって、嬉しかったのだ。


これならば、ひとまず大丈夫だろう。

というか、親子水入らずを邪魔したくない。

思いの外、早く仕事が終わり、寂しいけど。


「んじゃ、あとは上手くやれよ」


ここで立ち去りのがスマートだろうと思い。

片手を挙げて、ソファから立ち上がると。

両手をグイッと引かれて、座らされた。


「な、何のつもりだよ!?」

「それはこちらの台詞だよ、吸血鬼くん」


せっかく格好つけたのに、邪魔をされて憤慨。

すると博士がジト目で睨んできた。

ついでに、ポンコツまで手を掴んでいる。


「育児放棄は感心しないな」

「あんたがいれば大丈夫だろ!?」

「女にだけ育児を押し付けるとは、最低だね」

「人聞き悪いこと言うなよ!?」


まるで2人の子供のような言い草。

ポンコツは博士が1人で作った人形だ。

俺は童貞であり、孕ませた覚えはない。

よって、認知する理由もなく、俺は無実だ。


なんて、言い訳を脳内で構築していると。


「ご主人、たま」

「ん? お前までどうしたんだ、ポンコツ」

「抱っこして、下さい」


ポンコツが抱っこをせがんできた。

というか、勝手に膝に乗った。

向かい合わせで、こちらに抱きついてきた。


「ほら、ポンコツも君がお気に入りさ」

「なんか、外堀を埋められた感覚だな」

「これで既成事実が出来たわけだ」

「俺は絶対に、認知はしないからな」

「いつまでそんなことが言えるかな……パパ」


パパとか、言うな。その気になってしまう。


というか、既に手遅れかもしれない。

ポンコツを膝に乗せて、隣に博士が座って。

俺はこの状況を、心地いいと、感じた。


「それにどうせ他に行く当てもないだろう?」

「それもそうだな」

「だったら、ここで一緒に暮らしたまえよ」


言われて見れば、行く当てなどなかった。

この世界は既に滅亡している。

残ったのは、この地下深くの研究施設だけ。


ならば、ここで共に暮らすことにしよう。


「わかったよ。それじゃあ、よろしく」

「うん。末永くよろしくね、吸血鬼くん」

「不束者ですが、よろしく、お願いします」


2人の返事がおかしい。

特にポンコツは絶対意味がわかってない。

しかしながら、博士の言葉は現実となった。


あっという間に時は流れて。


それから、数万年も。


この世界で、長いこと、過ごすことになった。

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