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凡人と神様  作者: 遺志又ハ魂
第二部 【詰むまでの物語】
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第62話 『気狂いな博士』

「とりあえず、お茶でも飲むかね?」

「あ、はい。頂きます」


白衣を纏った、博士と名乗る怪人物。

奇抜な見た目とは裏腹に、良識的なようだ。

あらかじめ挿れておいたらしいお茶を頂く。


しかし、そのお茶は、冷め切っていた。


「おや? お茶が冷めてしまったようだね」

「そのようですね」

「フハハ! ワタシとしたことが、面目ない!」


冷えたお茶の代わりに新しいお茶を淹れた。

今度は湯気が立ち上っている。

それを啜ると、ただのお湯だった。


「おや? ワタシとしたことが茶葉を忘れた」

「わざとですか?」

「とんでもない! テンパっているだけだ!!」


力強く、テンパり宣言をされた。

やはり見た目通り、変わり者らしい。

というか、ただ慣れてないだけかも。


「あの、気を使わなくても構いませんよ?」

「そうかい? いや〜実は接客は久しぶりでね」

「博士はお一人で研究をされてるんですか?」

「そうとも! ワタシは孤高の科学者なのだ!」


フハハ!と笑い、キメポーズ。

白衣をバサッとするのが好きらしい。

ともあれ、尋ねたいことは山ほどある。


「博士はどんな研究をしているんですか?」

「ワタシは幸福を追い求める科学者だ!」

「幸福?」

「そう、人はワタシを救世主と呼ぶ!!」


またもやバサッと(ry。

この博士は幸福とやらを研究しているらしい。

なんとも胡散臭い。救世主には、見えない。


そんな俺の胡乱な目つきを見て。

博士は何やら勘違いをしたようで。

ぐるぐる眼鏡をクイッと持ち上げ、世迷言を。


「そんなに熱い視線を送らないでくれ!」

「いえ、冷め切ってますが」

「あ、そう? ご、ごめんね。ついはしゃいで」


きっぱり否定すると意気消沈した。

異常なテンションは演技だったらしい。

しょんぼりして、白衣の袖口をイジイジ。


なんだか居たたまれなくなって、話題変更。


「ちなみになんで俺はここに?」

「よく聞いてくれた! 話せば長いのだが……」

「無理せず、簡潔にお願いします」

「あ、うん。なら、さらっと説明するね」


釘を刺すと、簡単に説明してくれた。


「研究所の敷地内で君を発見して保護した」

「そうだったんですか。それは有り難い」


ペコリと頭を下げると、博士は嬉しそうに。


「礼などいらないさ。ワタシも楽しかった」

「えっ?」

「君を昏睡状態にして色々調べさせて貰った」

「えっ? えっ?」

「そしたらなんと吸血鬼! 実に有意義だった」


夢見心地な様子の博士。血の気が引く俺。

話についていけずに困惑していると。

興奮した様子で、実験内容を、まくし立てた。


「昏睡状態を維持するには常人における致死量の数倍の麻酔薬が必要でね。それを投与しながら解剖と解体の日々。組織を採取しようとするとすぐに砂に変わってしまうので苦労したよ。試行錯誤の末に、生きたまま脳髄を取り出すことに成功。とはいえ、その脳も数日後には木乃伊化してしまってね。どうやら暗室に安置していたのが不味かったようで、そこから様々な光を照射して月光の波長が組織の維持に必要不可欠とわかり、それを照射してみたら復活。あの時は焦った焦った。その後、脳髄を身体へと戻して実験を再開。脳自体は人間のそれと仕組みは変わらなかったので、意識レベルを徐々に上げつつ脳波を計測して様々な信号パターンを試した結果、蓄積された記憶の解読および夢への介入が可能となり、そこから最適な信号を脳に送って、先ほどの夢を見せていたのだけど、いや〜! まさか途中で起きるとは。驚天動地の青天の霹靂とは、まさにこのことさ!!」


要約すると、俺はモルモットにされたらしい。


「色々言いたいことはありますけど……」

「なんだい? 遠慮せずに言ってみたまえ!」


半眼を向けると、何故か博士はワクワク。

青白い頬がほんの少しだけ上気している。

おまけに鼻息も僅かに荒い。勘違いすんな。


「人を実験動物扱いすんなっ!!」

「ええっ!? ど、どうして怒るんだい?」

「これが怒らずにいられるかっ!!」


白衣の胸ぐらを掴んで、怒鳴り散らす。

俺が不死身だったからまだしも。

常人なら脳髄を取り出した時点でアウトだ。

マッドなサイエンティストにもほどがある。

この博士は完全に気が狂っているらしい。

身体を好き勝手に弄られた不快感はもちろん。

何よりも人道的に怒らずにはいられなかった。


すると、博士はズルッと鼻水を垂らして。


「ご、ごめんなざぁああああいっ!!!」


突然、ワンワン泣き始めた。

ぐるぐる眼鏡から涙が滴る滴る。

びっくりして、掴んでいた胸ぐらを離す。


「な、泣くなよ。俺も言い過ぎたからさ……」

「ぶぁあああああんっ! ぴぎゃああああ!!」

「お、落ち着けって。もう怒ってないから」

「ぐすっ……ほ、本当かね……?」

「ああ、だから泣きやんでくれよ」

「わかった。なら、泣くのはやめだ」


ぴたりと泣きやむ博士。

洪水のようだった涙と鼻水も収まった。

それを白衣の袖で綺麗に拭い去る。


それから、平然とした様子で。


「とまあ、保護した経緯はそんなところさ」

「おい」


思わずツッコミを入れる。なんだよ、それ。


「ん? 何か説明に不備があったかね?」

「いや、そうじゃなくてさ」

「なんだい? なんでも言ってみたまえ」

「さっきのは、泣き真似だったのかよ?」


ジト目で問うと、博士はキョトンとして。


「君が怒ったから、泣いて謝ったのだが?」

「そうすれば俺が許してくれると思ってか?」

「いや、心から謝罪する為だ」


キリッと断言されたが、信憑性に欠ける。


「心から泣き真似をして、謝ったわけか?」

「泣き真似ではない。本気の号泣だ」

「にしては、あっさりしすぎじゃね?」

「君に泣きやめと言われたから、泣きやんだ」

「いや、だから、そこがおかしいだろ」

「何がおかしいのかね?」

「本気の号泣が、そんなすぐに収まるか?」

「オンオフは自由に変更可能な仕様だ」

「仕様って……どういう意味だ?」

「この機体の仕様だよ。興味があるのかね?」


話がまったく噛み合わない。

認識に差がありすぎる感覚だ。

とりあえず、機体のことを追求する。


「機体って、なんのことだよ?」

「ワタシが現在搭乗している、この機体だ」

「もう少しわかりやすく言ってくれ」

「そうだな……この身体と言えばわかるか?」

「あんたの身体が、機体ってことか?」

「そうだ。読んで字の如く、機械の身体だ」


なんと。博士はサイボーグだったらしい。


「サ、サイボーグ、だったのか?」

「サイバネティック・オーガニズムではない」

「はい?」

「簡単に言えば、ワタシはロボットだ」

「アンドロイドってことか?」

「違う。ワタシには生きた魂が宿っている」


ことごとく否定されて、謎が謎を呼ぶ。

サイボーグではなく。

アンドロイドでもなく。

生きた魂が宿った、ロボットらしい。


「AIじゃなくて、生身の脳みそがあるのか?」

「ワタシの意思と記憶を、コピーしたのだ」

「脳みそはないのか?」

「代わりに集積回路と記憶媒体を積んでいる」

「じゃあ、やっぱりアンドロイドなのか?」

「肉体は持たないが、魂のあるロボットだ」

「記憶と意思があれば、魂が宿るのか?」

「遺志又は魂こそが記憶であり、逆も然りだ」


よくわからないが、一応、尋ねてみる。


「あんたの本来の肉体はどうしたんだ?」

「廃棄した」

「廃棄って、死んじまったのか?」

「肉体は死んだが、精神は生きている」

「そしてロボットになったと?」

「ワタシは、人形と呼んでいるがね」


淡々と質問に答える博士。

口調とは裏腹に、何故か嬉しげな様子。

口元が緩んで、心なしか身を乗り出している。

まるで、もっと尋ねて貰いたいようだ。


ならば、このとんでも話の核心をつこう。


「あんたがロボットだって、証明出来るか?」

「いいとも。少しばかり恥ずかしいが……」


博士は大きく頷いて、何やら照れた。

モジモジしながら、白衣のボタンを外す。

すると、信じられないことに。


その下は、全裸だった。


「あ、あまり見つめないでくれたまえ」

「いや、ドン引きしてんだけど」

「あ、そうか……ごめんね。貧相な身体で」


しょぼんとして、全裸のままいじける博士。

その身体は、そこまで貧相ではない。

スレンダーだが、姉ちゃんほど無乳じゃない。

人化した蝙蝠よりも、わずかに大きな胸。

慎ましいそれは、個人的には、とても。


「丁度いいんじゃないか? 気にするな」


思わず褒めると、博士は瞬時に機嫌を回復。


「ほ、本当かね!? それなら良かった!!」

「う、嬉しいのはわかるけど、抱きつくなよ」


抱きつかれて、童貞特有の奇病を発症。

反射的に振りほどこうとしたのだが。

博士は上機嫌で、胸を擦り付けてきた。


「構わん! 触ってみたまえ!」

「では、遠慮なく」


触れと言われたからには、触るのが筋だ。

紳士な俺は躊躇なく微乳を揉みしだく。

感触は、硬すぎず、柔らかすぎず。

正直言って、ロボットとは思えない。

どんな素材を使っているのだろう。

なんて思いながら、モミモミ。


しかしながら、不思議と劣情は催さない。

理由は恐らく、ぐるぐる眼鏡だ。

そしてどことなく、出歯亀に似ている博士。

色々と残念な部分が、似かよっている。


だから俺は、至って冷静に、堪能した。


「結構なお点前で」

「私の自信作は気に入ってくれたかね?」

「ああ。本当に丁度いいサイズ感だった」

「君とは気が合うね。このくらいが一番さ!」

「異論はない。また今度、触らせてくれ」

「もちろん! いつでも触ってくれたまえ!」


意気投合したところで、閑話休題。


「それで、その胸がどうしたんだ?」

「ああ、そうだったね。説明しよう」


博士は言われて本題に入った。

胸の自慢を終えて、すっかりご満悦。

それが目的だったのかも知れない。


「今から開胸するから、見ていたまえ」

「はい?」

「ポチッとな」


両胸の先端を、ポチッと押した。

すると、切れ目が入り、肋骨が開いた。

そこには内臓の代わりに機械が詰まっている。


「マジかよ」

「これで信じてくれたかね?」

「ああ。風邪ひかないうちに、しまってくれ」

「ワタシは風邪なんてひかないよ?」

「こっちが寒気しちまうよ」

「そうか? もっと見て欲しかったのだが……」


残念そうに、開いた胸を戻した。

そして再び、ポチポチ白衣のボタンを留める。

それから思い出したようにバサッとして。

博士は高笑いをして、キメ顔。


「実はワタシは、ロボットだったのだ!!」

「改めて言う必要あったか?」

「あぅ……調子に乗って、ごめんね?」


なんだか気の抜ける博士である。

やっぱり、どことなく出歯亀に似ている。

気になって、俺は要望を口にした。


「眼鏡を外してみてくれないか?」

「あれ? この眼鏡が好きなんじゃないの?」

「どちらかと言えば、嫌いだな」

「す、すぐ外すから、嫌わないでっ!!」


率直に好みを告げると、博士は大慌て。

急いで眼鏡をおでこ付近まで持ち上げた。

露わとなった瞳は、漆黒。

闇色のその瞳は、俺の姉ちゃんを思わせる。

というか顔立ちも、全体的に似ている。


またしても、興奮出来ない理由が増えた。


「はあ……なるほどな。よくわかったよ」

「き、気に入らないのかい……?」

「そういう訳じゃないけど、萎えた」

「ガーン!」


気に入らないなんてことはありえない。

姉ちゃんは美人だし、共に暮らした仲だ。

親愛すら覚えるが、中身は出歯亀。

見た目は姉ちゃんで、中身があいつとは。

どうあがいても、劣情は湧かないわけだ。


自身の賢者モードに納得していると。

博士はまたしても鼻水を垂らし始めた。

漆黒の瞳に、大粒の涙が溜まり、溢れる。


頬を伝うその涙を眺めながら、再度尋ねる。


「なあ、博士。それは本物の涙なのか?」

「ぐすっ……成分は、違う」

「てことは、ただの水か?」

「ぐすっ……じゅ、純水だよ」

「純水って……随分と手間がかかってんだな」


鼻水を啜り、泣きながら返答する博士。

その透き通った涙は、純水らしい。

無駄に手間がかかっていることに呆れると。

博士は白衣の袖で鼻をかみつつ、答えた。


「ぐすっ……汚いのは、嫌いなんだ」


汚いのが、嫌い。


それが彼女の、本質らしい。


気になるが、今はひとまず。


「とりあえず、泣きやんでくれ」

「ぐすっ……抱っこ」

「は?」

「ぐすっ……抱っこしてくれたら、泣きやむ」


なんかどんどん図々しくなってやがんな。

若干イラッとしたが、ぐっと堪えて。

俺はげんなりして、長嘆を吐きつつ、承諾。


「ほら、来いよ」

「やたー! 君はなんて優しいんだ!」


ぴょんと、俺の寝ていた台に飛び乗る博士。


ちなみにこの台は、手術台である。

ここで脳髄を抜き取られたのだろうか?

想像すると背筋に悪寒が走る。

青ざめる俺とは裏腹に、博士は上機嫌。


鼻歌を歌いながら、膝の間に収まった。


そんな仕草がやはり出歯亀に似ていて。

ためしに、頭頂部の匂いをクンカクンカ。

新聞記者の出歯亀は、インクの匂いがした。

しかし、この残念な博士は、薬臭い。

消毒液のような香りで、別人だとわかる。


俺は博士を抱っこしながら、話を促す。


「あんたの話を聞かせてくれ」

「いいとも。沢山、聞かせてあげよう」


博士は語る。自らと、この世界の物語を。

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