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凡人と神様  作者: 遺志又ハ魂
第二部 【詰むまでの物語】
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第59話 『先端の罠』

「おい眷属、起きろ」

「んん……なんだよ、寝させてくれよ」

「吾輩は吸血をご所望だ」

「またかよっ!?」


あれから体感時間で数週間が経過した。

かわゆいボスとの共同生活は、過酷だった。

起きて吸血。寝る前に吸血。また起きて吸血。

まるで盛りのついた猫か犬のような暮らし。


ちなみに、主導権はかわゆいボスにある。

俺は基本的に受け身。搾取される側だ。

たまに、俺からも誘う時があるのだが。


『血を吸いたいんだけど』

『あとにしろ。吾輩は忙しい』

『俺のヘッドホンで音楽聴いてるだけじゃん』

『これは素晴らしい代物だな。くれ』

『誰がやるか! それよりも、血を……』

『吾輩は眠たくなってきた。あっちにいけ』


このように、追い払われてしまう。

音楽を聴きながら、爆睡するかわゆいボス。

俺は礼拝堂の片隅で膝を抱えて渇きに耐えた。


しばらくして、俺がウトウトしていた頃。


「おい眷属、起きろ」


と言った具合に、冒頭に立ち返る。

かわゆいボスは基本的に唯我独尊で暴虐無人。

しかしながら美しい銀髪と美貌を有している。

それでも、この一方的な搾取は考えものだ。


まあ、結局、押し切られてしまうのだけど。


「まさか、これほどの快楽があるとはな」

「ああ、俺もびっくりだ」

「同族が子作りに溺れた気持ちもわかる」

「たしかに、息抜きにはちょうどいいな」


記憶に押し潰された吸血鬼達。

彼らはこの快楽に溺れた。

その気持ちも今ならば、よくわかる。


頭がぼーっとして、ジンジン痺れる。

目は開けていられなくて、自然に目を瞑る。

ゴクゴクと血を啜り、そして吸われる。

互いに流れる血液が混ざり合いひとつになる。


究極の一体感は、心に平穏と安寧をもたらす。


「眷属」

「なんだよ?」

「貴様に吾輩はどう見える?」

「そら、かわゆいけど。それがどうした?」

「かわゆいのは知っている。そうではなくて」


棺桶の中で丸い月を見上げながら質問された。


「吾輩は、いやらしい女だろうか?」


そんな自嘲げな問いかけ。

たしかに、現在の状況は、よろしくない。

辛いことから目を背け、心地よさを求める。


しかし、それはいけないことだろうか?


「俺は、あんたは立派だったと思うよ」


当たり障りのない感想で、茶を濁す。

同族殺しの罪の意識に押し潰された銀髪。

けれど、それは誰かがやらねばならなかった。

誰かが終わらせなければ、地獄は続いた。


ならば、それを終わらせた彼女は、英雄だ。


「ま、エッチな英雄ってところじゃないか?」

「なんだそれは不名誉極まりないぞ」

「じゃあ、ビッチな英雄とか?」

「どうして悪化させるのだ!?」


あまりシリアスにはならぬよう、心がける。

そうしなければ、また泣いてしまう。

あの銀色の涙は、もう見たくない。

だから、怒らせるくらいが、ちょうどいい。


しかし、状況が芳しくないのは事実である。


「あんたの世間体より重大な問題がある」

「そんなものがあるわけないだろう」

「あるんだな、それが。あんたにも関係ある」

「ふむ。ならば、聞かせてみよ」


相変わらず自分本意なかわゆいボスだ。

自分に関係する問題には、聞く耳を持つ。

俺は呆れつつも、その問題を口にした。


「そろそろ、俺の理性が限界だ」

「貴様に理性などあったのか?」

「あったさ。あったとも。証拠がある」

「ほう? 証拠とはなんだ? 示してみよ」


俺はケダモノじゃない。その証拠を示す。


「俺たちは未だ童貞であり、処女だろう?」

「それがどうしたというのだ?」

「それこそが、この俺の理性の証だ」


数週間経っても、一線は越えていなかった。

あれほどの快楽の中でも、理性を保った。

なかなか出来ることではない。想像してくれ。


際どいドレスを着た、かわゆいボス。

それと四六時中、密着する状況。

膝に乗られたり、上に乗られたり。

ある時は、互いの太ももを吸い合った。


どんな体勢だったかは、ご想像にお任せする。


そんな生活を数週間続けて、限界が訪れた。

最初はおっかなびっくりだったが打ち解けた。

気さくに話す間柄となり、距離も詰まった。


吸血の最中に、湧き上がる欲求。

それは抗い切れるものではない、衝動だ。

何度も、一線を越えたいと思った。

それでも出歯亀のアホ面を思い出し心頭滅却。

すんでのところで、ことなきを得てきた。


だが、それでいつまでも耐えられる筈もない。

先っちょだけならと何度も誘惑にに駆られた。

そしてこれまた問題なのは、彼女の反応だ。


俺はジト目で、かわゆいボスに苦言を呈する。


「こっちが必死に我慢してんのにさ」

「な、なんだ? 吾輩に文句があるのか?」

「あんたは全然拒否しないんだよな」

「そ、そそ、そんなことはない!」

「嘘つけ。大体、なんで下着穿いてないんだ」

「な、なな、なんで知ってるんだ!?」

「ふっ。やっぱりな。ノーパンだったか」

「しまった!?」


なんて馬鹿でビッチな吸血鬼の王女だ。

それよりも、やはり、ノーパンだったか。

これはキツく、お灸を据える必要があるな。


「もう無防備な姿を晒さないでくれ」

「下着を穿くか穿かぬかは吾輩の自由だ!」

「穿けよ。なんで穿かない選択があんだよ」

「そ、それはその、その方が気持ち良くて……」


駄目だこいつは。早くなんとかしなければ。


「どうすんだよ、スポッと入ったら」

「な、生々しい表現はやめろっ!!」

「だったらパンツ穿け」

「ぐっ……そもそも貴様こそどうなんだ!?」

「と、仰りますと?」

「この頃、貴様は常に全裸ではないか!?」


やっべー。俺の悪行がばれちまったぜ。


「だ、だって、その方が気持ち良くて……」

「スルッと入ったらどうするつもりだ!!」

「な、生々しい表現はやめてくれ」


今度は逆に叱られてしまった。

しかし、声を大にして言いたい。

こいつにだけは、言われたくないと。


さて、そんな込み入った事情もありつつ。

両者痛み分けとなった訳だが、どうするか。

このままではいけない。矛盾が生じてしまう。


俺は塾考して、解決策を閃いた。


「なら、こっちにも考えがある」

「どうするつもりだ?」

「なに、簡単なことだ。こうするのさ」


パチンと指を打ち鳴らして、変身。

俺は女体化して、女の姿となった。

イメージしたのは、スライム姫。

当然、付いていた一物は消え去った。


「これなら、間違いが起こる心配はない」


水色の髪をさらりと耳にかけ、安全宣言。

男でなくなった俺に股間の牙はもうない。

しかし、かわゆいボスは何故か眉を顰めて。


「……その女は、誰だ?」

「あん? これは俺の心の清涼剤というか……」

「つまり、前の女という訳か?」

「はあ?」


なんか、追求が始まった。

腕を組み、頬を膨らませるかわゆいボス。

かわいいけれど、何故怒るのか、わからない。


「ちげーよ。スライム姫はスライムで……」

「言い訳は聞きたくない。最低。浮気者」

「浮気者って……なんで嫁気取りなんだよ」

「よ、嫁!? わ、吾輩がお嫁さん!?」


何やら慌てて、頬を押さえて、赤面した。


「なんだその反応……あんた、もしかして?」

「な、何が言いたい?」

「俺に、惚れてるとか?」

「馬鹿か貴様は!? のたれ死ねっ!!」

「そ、それは言い過ぎじゃないか……?」


期待に胸膨らませた俺は、現実へと帰還。

わかってた。わかってたけどさぁ……泣ける。

しょんぼりして、項垂れていると。


「そんな情けない顔をするな」

「だって、やっぱり俺は嫌われ者で……」

「それでも、貴様は吾輩の眷属だろう?」


ポンポン頭を撫でられて、胸キュン。

やば。ちょーかっこいい。惚れそう。

スライム姫の姿で、頬を染めて、ドキドキ。


そんな俺に、かわゆいボスは、詰問した。


「とにかく、前の女ではないのだな?」

「だから、違うってば。童貞だし」

「ならばよし。その姿になることを認める」

「なんでそんなに気にするんだよ?」

「眷属の交際を把握するのは当然だろう?」


なにそれ。完全に自分ルールじゃん。


「あんたは俺の母親かよ」

「まあ、そのようなものだ。嬉しいか?」

「そりゃあ、まあ、嬉しいけどさ」


俺は母親の記憶を持たない。

産まれてまもなく、死んでしまったからだ。

だから、こんなかわゆい母親なら、嬉しい。


はにかんでいると、ジロジロと眺められて。


「しかし、貧相な身体の娘だな」


スライム姫の身体を酷評するかわゆいボス。


「失礼な。かなり大きい方だろう?」

「ふん。吾輩の方が大きいぞ」

「あんたは規格外だからな。比べるな」


誇らしげに胸を張る、爆乳銀髪吸血鬼。


「とにかく、吾輩の勝ちだな」

「さて、それはどうかな?」

「む? 見るからに明らかではないか」


たしかに、見るからにかわゆいボスの圧勝。

しかし、胸の良し悪しは見た目だけではない。

俺は不敵に笑い、スライム姫の胸を解説した。


「このスライム姫は、文字通りスライムだ」

「だからなんだ?」

「だから、とっても柔らかいのさ」


スライム姫はスライムの魔王。

その身体の特性は、極めて柔らかいことだ。

もうプルンプルンのたゆんたゆんである。


これ見よがしに、胸を持ち上げて、威張る。

それをしげしげと観察するかわゆいボス。

そして彼女はおもむろに手を伸ばしてきて。


「ふむ……どれどれ?」

「なっ!? い、いきなり触んなよ!?」

「よいではないか。減るものではなかろう」

「じゃあ、代わりにあんたの胸を……」

「死にたいのか?」

「ごめんなさい」


なんて横暴。なんて不条理。なんて不公平。

血の涙を流しつつも、暴力には逆らえない。

俺はされるがまま、胸を揉みしだかれた。


「なるほど。たしかに、とても柔らかいな」

「だろ? すげー気持ちいい感触だよな」


かわゆいボスは関心した様子。しかし。


「だが、それだけが全てではない。脱げ」

「へっ?」

「やはり見た目も大切だ。脱いで見せてみろ」


唐突に脱げと言われて、困惑。

とはいえ、別に隠す必要はない。

体毛で作った着衣はすぐ脱げるしな。

変身の際に身に纏った水色のドレスを脱ぐ。

全裸となって、裸体を晒すと、目を丸くして。


「なんだそれは! 何もないではないか!?」

「な、なにかおかしいですかね?」

「おかしいに決まってる! どういうことだ!」

「そう言われても、困るというか……」


スライム姫の水風船のような胸。

ツルンとして、スベスベだ。

どこもおかしな様子はないのだが。


「どうして何も付いてないのだ!?」

「だから、何のことだよ?」

「胸には先端があって然るべきだろう!?」


ああ。なるほど、そういうことか。

言われて理解した。胸の先端ね。

たしかにそれは付いていない。何故ならば。


「見たことないからな。当たり前だろう?」

「そうか……そう言えば貴様は童貞だったな」

「なにその憐れむような目。やめて」


なんかめちゃくちゃ侮辱された気分だ。

しかしながら、童貞なのは揺るぎない事実。

悔しいけれど、見たことないのは、本当だ。


「残念ながら、それでは判断が出来ぬな」


やれやれと呆れた様子の彼女にむっとして。


「じゃあ、あんたはどうなんだよ?」

「へっ?」

「そこまで言うからにはさぞ美乳なんだろ?」


俺は意地悪なかわゆいボスに追求開始。


「あ、当たり前だ! 吾輩の胸は最高だ!!」

「なら、見せろよ」

「は?」

「見せてみろよ。いや、見せて下さいっ!!」


満を持して、土下座を敢行。

プライド? んなもん、犬にでも食わせろ。

かわゆいボスは最高の胸をお持ちらしい。


ならば、是非とも、拝んでおきたい。


「み、見せるわけないだろう!?」

「そこをなんとか、おなしゃすっ!!」

「いいから頭を上げろ! でないと……」

「なにか、不都合でもあるんですか?」

「わ、吾輩は今、下着を穿いてないから……」


そうだった。やったぜ。顔を上げよう。


「なら、先にそっちの確認から……」

「やっぱり貴様はそのまま這いつくばれ!!」

「ぐぎゃっ!?」


顔を上げようとしたら、踏み潰された。

そのまま何度もスタンピング。過激すぎ。

顔面が完全に潰されて、背中に乗られた。


「まったく、油断も隙もない奴だ」

「じょ、冗談っすよ、冗談」

「ふん。信用出来るか」


完全に不信感を持たれてしまった。

しかし、見ようと思えば、千里眼で見れる。

それなのに何故見ないかと言えば紳士だから。


紳士な俺は、かわゆいボスに指摘する。


「ていうか、いいんですか?」

「ん? 何のことだ?」

「ノーパンなのに、背中座るのは、どうかと」

「あっ! この変態っ!!」

「ぐへっ!?」


結局、踏みつけられる運命らしい。

ま、いいけどね。ご褒美だし。

それよりも、話を戻そう。美乳について、だ。


「ちなみに俺はあんたにも変身できるんだよ」

「ほう? そうなのか?」

「胸だけを再現するならば、こんな感じだ」


パチンと指を鳴らして、身体を変身。

顔はスライム姫のまま、爆乳を再現。

衣服は纏わず、全裸のまま、見せつける。


「ふん。やはり何も付いてないではないか」


俺の再現した先端のない胸を一瞥して。

つまらなそうに鼻を鳴らす、かわゆいボス。

そうだろう。そして、ここからが、本題だ。


「そこで提案があります」

「提案だと?」

「これから何種類か先端を付けます」

「ふむ、それで?」

「それがあんたの胸に近いか教えてくれ」

「なるほど、間違い探しみたいなものか」

「協力して貰えますか?」

「面白そうだ。やってやろうではないか」


画して、胸の先端当てゲームが開催された。


「こんな感じですか?」

「デカすぎる。もっと小さい」

「では、このくらいですか?」

「大きさはいいが、色が違う」

「ならば、この様な色合いで?」

「もっとグラデーションをかけろ」

「ふむふむ。こんな具合で如何でしょう?」

「ああ、そんな感じだ。あとは形だな」

「どのような形をしているのですか?」

「こう、先端に向けて尖るような形だ」

「かしこまりました。これで、完成です」


証言を元に、かわゆいボスの胸を再現。

大きさ、色、そして形。全てを整えた。

こうして見ると……すげーエロい胸だ。


かわゆいボスはその胸を見て、品定め。

後ろ向きで自分の胸と見比べて、確認。

何度も見比べて、満足げに頷いた。


「うむ! それこそが、吾輩の美乳だ!」

「なるほど。すっごい、エッチな胸ですね」

「なっ!? あ、しまった!?」


馬鹿が。こうも容易く罠に引っかかるとは。

もうお分りの通り、これはオレ様の策略だ。

胸を見せようとしない愚かな銀髪を、騙した。

ゲームとかこつけて、その胸を暴いたのだ。


完全勝利を成し遂げたオレ様は哄笑を轟かす。


「ワハハハ! あんたの胸は見させて貰った!」

「ぐぬぬ……この外道! 人でなし!!」

「最っ高の、褒め言葉だ! ワハハハハハハ!」


笑いながら、再現した美乳を揉みしだく。

これぞ至高の愉悦。生まれてきて良かった!

擬似かわゆいボスの胸を堪能していると。


「おい眷属、いい加減にしろよ?」


やっベー。完全に激おこプンプン丸だわ。

しかし、焦る必要はない。もはや、遅い。

彼女のエロい胸は完璧に記憶した。勝った。


「凄んでも無駄だ。オレ様の勝ちだ」

「いいから、忘れてしまえっ!!」

「ワハハ! 何度殴られようと……も?」


あれ? 今まで何してたっけ? 思い出せない。


「な、何をした!?」

「貴様のスキルを使わせて貰った」

「オレ様の……スキルだと?」

「そうだ。記憶を操作したのだ」


なんだと? 俺の泥棒スキルを使ったのか?

要するに、直前の記憶を抜き取られたのか。

何か大事な……大切な、記憶だったような。

大きな喪失感を覚えつつ、疑問を口にする。


「なんであんたが俺のスキルを使えるんだ?」

「吸血し合ったからに決まっているだろう?」

「あっ」


何という単純な理屈。

言われて見れば、当たり前だ。

俺自身、そうしてスキルを奪った。

ならば、俺の能力は失われたのだろうか?


「とりあえず、着火!」

「ほう? そんなスキルも持っていたのか?」

「良かった……奪われたわけじゃないのか」


指先から火が出て、一安心。使えるようだ。

吸血し合っても、吸い殺されたわけではない。

察するに、血と共にスキルも共有したようだ。

ふっと火を吹き消すと、彼女は感心した様子。

そして、かわゆいボスも、指から火を出した。


「吸血鬼が火を扱えるとは、驚きだ」

「驚いてるところ、悪いんだけどさ」

「なんだ?」

「そういうことは早く言えよな」

「ふん。思い至らなかった貴様が悪い」


こちらの落ち度を指摘されて、がっくり。

かわゆいボスの原点に干渉するのは危険だ。

これによって何か影響が出ないといいけど。

まあ、元いた世界でも、記憶球を持ってたし。

そう考えると、必然だったのかも知れないな。


持ち前の気楽さで、そう結論付け、ひと段落。

ふと気がついたら、何故か全裸だった。

しかも、なんかすげーエロい胸なんだけど。


「なあ、この胸はなんなんだ?」

「知るか! 貴様の妄想の産物だろう!?」

「はあ? 何を怒ってんだよ?」


尋ねると、何やらキレられた。何なんだ。


「いいから、さっさと先端を消せっ!!」

「わ、わかったよ。これでいいか?」


言われるがまま、変身能力で先端を消す。


「まったく、貴様は本当に最低な奴だ」

「いったい何があったんだよ?」

「誰が教えてやるものか! 反省しろ!!」

「いや、反省も何も、覚えてなくて……」

「いいから黙って、罪を償えっ!!」

「だから、罪ってなんだよ?」

「うるさい! つべこべ言わず、優しくしろ!」


要領の得ないやり取りの果てに、命令された。


「何がなんだかわかんないけど、わかったよ」


不承不承ながら頷く。聞いても無駄らしい。


「それでいい。では、吸血をするぞ」

「ああ。女の姿だから、思う存分吸えるぜ」


女体化した経緯については、覚えている。

男女同士では間違いが起きる可能性があった。

だから、俺はスライム姫の姿となったのだ。


なので、意気揚々と、棺桶に入ろうとすると。


「ならば、場所を変えてみるか?」

「あん? 棺桶以外に、どこかあるのか?」

「吾輩が昔使っていた部屋がある。来い」


突然そんな提案をされて、城の上階へ。

彼女は立派な扉の前で立ち止まった。

ドアノブに手をかけて、こちらを振り向く。


「さあ、入れ。ここが吾輩の寝室だ」


ガチャリと扉を開き、招き入れた。

部屋は長い年月で埃だらけ。

見覚えのある豪奢な寝台も、無残な有様。

俺は神の指輪の力で、魔法を発動。


お片付けの魔法で、部屋を掃除した。


「その指輪、とても便利だな」

「だろ? 貴重な代物だからな」

「部屋を掃除してくれて……ありがとう」


おお? なんだ。えらく素直じゃねぇか。


「何を惚けている。こっちに来い」

「あ、はい。失礼します」


たまに素直になられると、調子が狂うな。

俺はギクシャクしつつも、寝台に向かった。

かわゆいボスがふかふかの寝台に寝転がる。

天蓋がついた寝台で眠る、銀髪の吸血鬼。

初めて出会った光景と重なり、ドキリとする。


「なんだ? 吾輩に惚れたのか?」


そんな俺を見て、かわゆいボスはにやり。

銀色の牙を剥き出しにして、嘲笑う。

その蠱惑的な笑みは、酷く扇情的であり。


俺は、女体化していて良かったと、思った。


「もし惚れてたらどうすんだ?」

「もちろん、振ってやるとも」

「なら、ベッドに誘ったりすんな」

「貴様は特別だ。吾輩の眷属だからな」


ずるい。恋愛感情がなくても、嬉しい。


「あんたはたしかにアバズレだな」

「貴様も間違いなく、不埒者だ」

「不埒者は、嫌いか?」

「いや、別に嫌いではないさ」


手を掴まれ引き寄せられた。ベッドに上がる。


「美女同士なら、絵面的にも問題ねぇな」

「そうだな。ただ、吾輩としては……」

「ん?」

「冴えない女顔の貴様も、悪くない」


そう囁いて、首筋に噛み付いてきた。

その真意を聞く暇なく、吸血し合う。

酷い殺し文句と、強引な口封じの手段。


キスで黙らせられるのは、こんな感じかな。


そんなことを思いつつ、吸血し合う。

大罪を背負った吸血鬼同士の、傷の舐め合い。

傍から見れば、不埒な関係に見えるだろう。


だけど、それでも、放っては、おけないのだ。


同時に、俺も孤独感を味わずに済む。

かわゆいボスも、独りぼっちにならずに済む。

だから俺たちは、互いの血を吸い合う。

相手の罪を、咎めるように、何度も、何度も。

お互いの肌に、牙を突き刺し合うのだ。


そんな俺たちは、間違っているだろうか?


部屋の窓から満月を見上げながら自問する。

当然、答えなど返ってくる筈もなく。

月明かりに照らされながら、血を貪り合った。

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