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凡人と神様  作者: 遺志又ハ魂
第一部 【詰まらない物語】
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第5話 『駄洒落た人生』

《平和だねぇ》


昼休み時間。のほほんとした神の声。

しかし、その声は普段よりも小さく聞こえる。

現在俺の耳を挟むヘッドホンのおかげだ。


ここは我が校の小さな図書室。

実は俺は図書委員長だったりする。

平凡なモブが委員長になれたことに疑問を持つ者も居るかも知れないが、対立候補が存在しなかった為、すんなりと役職に就けた。


我が校の図書室は利用する生徒が少ない。

この情報化社会で調べ物をするのにわざわざ図書室に来る者はおらず、閑散としていた。

だからこそ、こうしてヘッドホンをシャカシャカ鳴らしていても咎められない。安息の地。


こうしてのんびりするのが割と好きだ。

その弊害としておかしなあだ名を付けられた。

『テクノ』とは、愛用のヘッドホンの製造会社の社名を短縮したものである。安直な発想だ。


そんなあだ名が嫌ならば、ヘッドホンなんて着けなければいいのだろうが、このヘッドホンはお気に入りなので、それは出来ない相談だ。


《貧乳姉ちゃんとお揃いだもんな》


貧乳は余計だ。姉ちゃんはあれでいいのさ。


神に反論しつつこのヘッドホンを買った時のことを回想する。初めてのバイト代で購入した。

大半は姉ちゃんへの贈り物に消費したが、いくらか余った為、姉ちゃんの使っている物と同じのを電気屋で買ってきた。高1の時である。


それを知った姉ちゃんは大層喜び、おすすめの曲をいろいろと教えてくれた。懐かしいな。


しかし、その時気になったことがある。

今考えても不可思議なことであるが、そのヘッドホンはその年に発売された新製品だった。


物心がついた頃から、姉ちゃんはそのヘッドホンを使っていた。それでは辻褄が合わない。

形が似ているだけで古い機種なのかと思って調べても、型番は同じ。最新機種なのだ。


そして、プレーヤーとして使っているmp3プレーヤーもまた、同じく最新機種だった。

それを思い出して、首を傾げていると。


《ま、そんなこともあるさ》


脱力した神の声が響き、思考を阻害する。

そんなことあってたまるか。おかしいだろう。

食ってかかると、神は露骨に話題を逸らした。


《それより今朝はいいもん見れたな》


今朝? 例の後ろの席の巨乳美少女のことか?


《ちげーよ! 姉ちゃんの貧乳だよ!》


ああ。そういや、姉ちゃん全裸だったな。


その光景が脳裏にフラッシュバック。

とはいえムラムラはしない。姉ちゃんだから。

一応、描写をしておくと、子供みたいだった。

姉ちゃんはいわゆる残念なお胸の持ち主ではなく、子供みたいな身体の持ち主なのである。


顔や背丈は大人びているのに、身体はまるで小学生にまま成長が止まっているような、そんな体型をしている。だから色気は全くない。

そんな分析をしていると見計らったように。


「また、失礼なこと、考えた?」


いつの間にか隣に椅子を引いて座る姉ちゃん。

ヘッドホンを取り上げ、仁王立ちで見下す。

しかし、驚いたりはしない。いつものことだ。


「考えてないよ」

「ほんと?」

「うん。弁当に中身を想像してただけ」


姉ちゃんが手に提げる弁当に話題を移す。

本来ならば飲食厳禁の図書室ではあるが、委員長権限により黙認されている。越権行為だが。


「今日は、タコさんウインナー」


ぱかっと弁当箱を開いて見せてくれる。

そこには真っ赤に茹で上がったタコが三匹。

黄色い卵焼きとの対比が食欲をそそる。


「いつもありがとな」

「ん。召し上がれ」

「頂きます」


弁当に食らいつく。姉ちゃんは見てるだけ。

いつもの日常。いつもの穏やかな日々。

そんな俺の前のカウンターに一枚の紙切れが。


「ん?」


それは図書カードであり、珍しく利用者が本を借りるつもりらしい。弁当は一時中断だ。

図書カードを受け取る間際、生徒に胸元が視界に入った。それは今朝見た爆乳であり。


視線をあげると、後ろの席の美少女だった。


にししと、八重歯を光らせて笑う美少女。

すると姉ちゃんはぺこりと頭を下げた。

なんだろう。顔見知りなのかと思いながらも、貸し出しの判子を押してカードを返却。


ピラピラとそれを振って美少女は立ち去った。


「姉ちゃん、知り合いなの?」

「ん。それより、お弁当」

「あ、うん」


追求をはぐらかされた。疎外感を感じる。

生まれた時から感じていた、疎外感。

何をやっても、どれだけ努力をしても超えられない世界の隔たり。つまらない人生。


努力をする俺を神は笑う。無駄な努力だと。

それでも、努力をしたから平均より少しマシだ。

勉強も中の上、運動だって、中の上だ。

モブだからこそ、友人も多かったりする。

それは努力の成果だと、信じたい。


《お前の真面目なところは、評価してるよ》


それでも、俺は他の者とは違う。


皆、何かしらの才能を持って生まれてくる。

しかし、その芽を見出せない者は存在する。

自分の才能に気付けず、一生を終える者。


一見すると彼らもモブだが本質は違うのだ。

何もない俺とは、全く異なる人生。


才能に恵まれていても、努力を怠る者がいる。

すると、才能を無駄にしてしまう。

神はそんな人を沢山見てきたらしい。


才能を振りかざし、人間として堕落したりな。

人気者が、人を虐めて、逆に虐められたりも。

あらゆる詰み方を、神は知っていた。


才能を持つものは高い確率で挫折するらしい。

それを乗り越え、高みへと昇る。通過儀礼。

しかし、そこで詰んでしまう者も多い。

努力を諦め、才能を捨ててしまうのだ。


本当に、ままならない。勿体無い。

才能を持つゆえに、詰む者もいる。

詰むか、詰まないか。だからこそ、面白い。

そこに人生の醍醐味が詰まっている。

本当に、心の底から、羨ましい。


初めから才能のない俺との隔たりは、そこだ。


才能ゼロ。だからこそ、詰まない人生。

つまらない。そして、詰まない。

つまらないから、詰まない。駄洒落た人生。


《へっ。本当につまらない駄洒落だな》


神は鼻で笑う。けれど、それでも。

俺はそう悪くないと、納得していた。

このままモブのままでも、そこそこ楽しく生きていけると、信じていたんだ。


しかし、それもそろそろ終わる。

そろそろ、詰んでしまう。予言をされた。

高校入学直後に聞いた、神のお告げ。


《お前は高校卒業前に、死ぬ》


ずしりと胃が重くなる。弁当をかっこむ。

盛大にむせて、姉ちゃんに背中を撫でられる。

感謝をしながら、俺は思う。


あと何回、こうして弁当が食えるのかと。

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