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凡人と神様  作者: 遺志又ハ魂
第二部 【詰むまでの物語】
55/72

第54話 『2度目の死』

「マスター! ニンゲンガ、キマス!」

「わかった。総員戦闘配置!」


伝令の蝙蝠が敵の来襲を告げた。

非戦闘員と客人は退避させて、待ち構える。

城内の転移魔法陣が発光して、敵が出現した。


「やあ、テクノ君。久しぶりだね」

「元気そうじゃねぇか……会長」

「大泥棒が盗んだスライムの分体のおかげさ」


現れたのはツヤツヤの生徒会長エルフ。

スライムの分体は盗まれた設定である。

それを食したであろう彼女は若々しい。


「やっぱりお前は可愛い姿がよく似合うぜ」

「ありがと。君もなかなか可愛い姿だね」


結局回復しきれず、俺は今、ショタ姿だ。


「なんだ? お前までショタコンだったのか?」

「そうだね……君を見てたら、目覚めたかも」


舌舐めずりをして、嗜虐的な笑みを浮かべる。

もちろんその目には赤々と炎が渦巻いており。

炎使いのエルフはやる気満々でこちらに接近。


「さあ、ボクの絆創膏を返して貰おうか?」

「残念ながら、あれはもう俺の物だ」

「君が貼って使うとでも言うのかい?」

「もう貼っている……と、言ったら?」

「当然、ひん剥いて、剥がしてあげるよ!」


彼女の目当ては奪われた絆創膏。

返還の要求に、挑発で返した。

熱くなりやすい会長は、たちまち燃え上がる。

紅蓮の炎を纏い、飛びかかろうとして。


「悪いが、小娘」

「この先は、通せない」

「マスターハ、ワレラガ、マモリマス」

「うひょー! 美人な女の子っすー!!」


頼りになる盟友と配下が行く手を阻む。

若干1名は俺の手で始末したい。女好きめ。

女体姿の俺にしつこくつきまとってた癖に。

気の多い毒蜘蛛男に、イライラしていると。


「それならこちらも援軍を呼ぼう」


炎使いのエルフの背後で魔法陣が再び発光。

そこから2人の敵が、増援として現れた。

魔法陣は魔法適正がなければ、使用不可。

となると、それなりの使い手の筈である。


身構えつつ、光の向こうに目を凝らすと。


「よお! 久しぶりだな、糞魔王野郎!」

「ご先祖様の恨み、今晴らします!」


現れたのは、年老いたドワーフと人間の娘。

年老いたドワーフはよく見ると、水使い。

人間の娘は、黄金の刀を握り締めている。

どうやら彼女は、担任教師の子孫のようだ。


俺は少々驚きつつも、まずドワーフに一言。


「水使い、お前、まだ生きてたのか」

「当たり前だ! 童貞のまま死ねるかよ!!」


あっ……地雷を踏んじまった。童貞なのね。

彼は怒りの眼差しを俺に向けている。

恐らく誘拐を邪魔したことを根に持っている。

数百年も前のことだが、まだ覚えていたのか。


苦い顔をしていると、担任教師の子孫が。


「私のご先祖様を辱めた罪は重いでしゅ!!」


興奮しすぎて、語尾が怪しい。先祖譲りか。

彼女はヒヒイロカネの幼女によく似ている。

そんなことより、辱めたなど、人聞きの悪い。


「俺はお前の先祖に手出しはしてないぞ」

「嘘でしゅ! おトイレを覗かれたでしゅ!」

「いや、あれは毒蜘蛛から助けようと……」

「問答無用!!」


戦端を切ったのは、担任教師の子孫の娘。

黄金の長刀を振りかざし、切りつけてきた。

しかしながら、その刃が俺に届くことはない。


「ここいらは俺のテリトリーっすよ〜」


事前に城内に張り巡らされた、蜘蛛の糸。

目に見えぬ程、非常に細く、それでいて強靭。

知らず知らずに飛び込めば、動けなくなる。


「くっ! こんなものっ!!」

「へぇ。生きがいいっすね。美味そうっす!」


されど、担任教師の子孫もさるもの。

黄金の長刀を巧みに操り、拘束から逃れた。

彼女と毒蜘蛛はそのまま戦闘に突入。


一応、女好きの毒蜘蛛に、念を押しておく。


「毒は使うなよ?」

「わかってるっすよ〜」


彼らの戦闘と同時に、他の戦闘も始まった。


「君の相手はこの私だ」

「言っとくが、俺はロリコンじゃねぇぞ?」

「安心したまえ。筆下ろしをする気はない」


水使いのドワーフと対峙するのはスライム姫。

幼女姿の彼女に、水使いは不満げ。

スライム姫が妖艶な笑みで挑発すると、激昂。


「スライムなぞに筆下ろしされてたまるか!」

「おや? 私の身体を甘く見ないで欲しいね」

「うるせえ! この戦いが終わったら、俺はあの炎使いのエルフに筆下ろしをして貰うんだ!」


そんな妄言を喚き散らしながら、戦闘開始。

水使いが水弾を放つ。しかし、効かない。

スライム姫はたちまちその水弾を吸収。

水色の髪から水が滴り、幼さと色気が混じる。


「よかろう。この私が君を逝かせてあげよう」

「てめぇみたいなガキにイかせられるかよ!」


戦闘の余波で、水飛沫が飛び散る中、竜王が。


「炎使いの小娘、貴様は正気か?」

「ん? 何がだい?」

「あのドワーフの筆下ろしなど、考えられん」

「あは。もちろん、生きて帰れたらの話さ」


訝しむ竜王に、あっけらかんと言い放つ会長。

どうやら生き残れるとは思っていないらしい。

なんとも憐れなドワーフだが、どうでもいい。


それよりも目が離せない戦闘が、火蓋を切る。


「あれよりは儂の盟友の方が幾分マシじゃな」

「なになに? テクノ君に惚れてるの?」

「たわけ。消去法で言ったらの話じゃよ!」

「でもきっと、彼はボクのことが好きだよ?」

「ほう? 随分と自意識過剰な小娘じゃな」

「だって、ボクの大事な絆創膏を取られたし」

「あれは確かに、悍ましい行為じゃったな」

「きっと隠れてペロペロ舐めたりしてる筈さ」


互いに、炎弾を放ちながら、俺の悪口合戦。

風評被害もいいとこだ。むすっとして睨む。

まあ、あながち、的外れではないけれどね。

ペロペロとか、たまに、いや、違うけどさ。


そんな俺の引きつった表情を竜王がチラ見。


「ふむ。あの小僧ならば、ありえるな」

「だから、そんな男を守る必要なんかないよ」

「それとこれとは、話が別じゃ」


一瞬俺は見捨てられるかと思ったが違った。

竜王は背に翼を広げ、炎の生徒会長に肉薄。

鉤爪の付いた小さな幼女の指を突きつけて。


「儂はそんな小僧が気に入っておるのじゃ」

「それってやっぱり好きってこと?」

「少なくとも、嫌いではないな」

「ボクも、彼のことは嫌いじゃないよ」


出たよ、嫌いじゃない宣言。一番傷つく言葉。


「儂はあやつの卵を産んでも良いと思っとる」

「ボクも、彼だったら筆下ろしをしてあげる」

「小僧を殺しに来た癖に、都合のいい奴じゃ」

「彼の上に跨って、ボクは焼き殺したいのさ」


なにそれ怖い。いや、是非やって欲しいけど。


「それは確かに気持ち良さそうじゃな」

「でしょ? 竜王ちゃんも混ざるかい?」

「魅力的な誘いじゃが、そうはいかん」


幼女の竜王は、参加しないらしい。少し残念。


「ボクはさ、君を殺したくないんだよ」

「ふん。たわけ。貴様は勇者じゃろう」

「そうだった。ごめんね、いまのナシ」


クスクス笑って前言撤回をするエルフの勇者。


「邪神と同様、竜王は勇者に倒される」

「なにそれ、正妻面は気に食わないな」


赤眼を細める炎の勇者。竜王は挑発を重ねる。


「勇者のご機嫌を取るつもりはないぞ」

「だったらもう、終わらせてあげるよ」

「貴様の温い炎で儂を焼けるとでも?」


温い炎と言われた会長は切り札を取り出した。


「見せてあげる。ボクの指輪の力を!」


その指輪は神の指輪とは程遠い形をしていた。

白銀のリングは、俺の記憶と一致しているが。

赤い宝石のサイズが、明らかに異なっている。


手のひら大の真紅の宝玉に、リングが備わる。

その宝玉を手のひらに持つとヨーヨーみたい。

そのような外見ではあるものの、性能は同一。


「燃え尽きろ! 邪悪なしもべ共よ!!」


会長は宝玉を掲げ、高らかに指を打ち鳴らす。

すると、先ほどとは比べ物にならない熱量が。

城内が白い閃光に包まれ、その最中、蝙蝠が。


「マスター、アブナイ!」


背後に控えていた蝙蝠美女に庇われて、転倒。

蝙蝠は、身に纏うマントで、俺を覆い隠した。

マントの下は素肌が露出していて、スベスベ。


だが発情している場合ではない。身を起こす。


「蝙蝠、大丈夫か!?」

「マスターコソ、ヘイキ、デスカ?」


マントから這い出ると、そこは凄惨たる有様。

そこらじゅうが燃えていて熱気が立ち込める。

蝙蝠は倒れ伏しており背中が焼け爛れていた。


「お前、なんでこんな……」

「マタ、クロコゲニ、ナリマシタネ」

「どうして庇ったんだよ!」

「シモベニ、フサワシイ、サイゴ、カト」


これが、俺のしもべたる蝙蝠が望んだ、最期。

俺は黒焦げになっても再生するっていうのに。

様々な思いがこみ上げてくるが、それを堪え。


「ッ……よくやってくれた、我がしもべよ」


俺はせめて主人らしく、配下を労ってやった。

蝙蝠はほっとした表情で、静かに目を閉じた。

思えば、彼女が一番、忠義に厚かったしもべ。


そんな蝙蝠美女の死から、終わりは始まった。


「小僧、蝙蝠が死んだのか?」

「ああ。たった今、な」

「ならば、儂も続くとしよう」


至近距離から炎を浴びた竜王も死に体である。

火の耐性を持つ竜王の鱗。赤熱して燃え盛る。

生命を削る炎を纏いながら死に場所を定めた。


「スライム! そいつを儂によこせ!!」

「やれやれ、横取りは良くないよ?」

「せめて1人くらい巻き添えにせねばならん!」

「うん……わかったよ。好きにしたまえ」


竜王の懇願に、スライム姫は応え、引き渡す。

ドワーフはスライムによって窒息寸前だった。

スライム塗れの彼を、火だるまの竜王が抱く。


「ぐあっ!? 熱いっ! 離しやがれ!!」

「黙れ! 美女に抱かれて死ねるのじゃぞ!」

「何が美女だ! 俺はロリコンじゃねぇ!!」


なんとも贅沢な、老いぼれ水使いドワーフだ。

いかにちびっ子とはいえ、竜王は美人さんだ。

彼女と共に死ねることを、感謝して貰いたい。


「おい、水使い。無駄な抵抗はもうやめろ」

「うるせえ! 俺の気持ちがわかんのかよ!?」

「何がそんなに心残りなんだよ?」


聞いてやると、水使いのドワーフは涙を流し。


「童貞で死ぬ気持ちがてめぇにわかるか!?」


童貞で死ぬ気持ちか。なるほどそれが理由か。


「わかるよ。その気持ちは、よくわかる」

「女を囲ってる糞魔王が、何言ってやがる!」

「囲っているからって、非童貞とは限らない」

「な、なんだと……まさか、てめぇ……?」


驚愕の表情を浮かべる水使いに、俺は告げる。


「いかにも。オレ様も……童貞だ」

「そ、そんな、馬鹿な……」

「笑えよ。女を囲ってる癖に童貞のオレ様を」


カミングアウトして自嘲すると、目を閉じて。


「なんだ……そうだったのか。仲間だったか」

「ああ。だから、安心して眠れ」

「良かった……俺だけじゃ、なかっ、た……」


心からの安堵の笑みを浮かべて、彼は死んだ。

火に包まれるドワーフから竜王は身を起こし。

やれやれと肩を竦めて俺に今際の際の頼みを。


「小僧、儂を孕ませろ」

「いや、それはちょっと……」


それはいつかのようなやり取り。彼女は笑い。


「たわけ。冗談に決まっておる」

「そりゃ残念。結局、卵は産まれず、か」

「まあ、それが正解じゃったのだろう」


竜王の身体から力が失われていく。目も虚ろ。

燃え盛る背中を支え、手のひらが焼けていく。

その生命を燃やす熱さを感じながら、考える。


この終わる世界に卵を残さずに、良かったと。


「最期に、聞かせてくれ」

「なんだよ、改まって」

「竜王失格な儂を、貴様は好いておるか?」


自虐的な竜王の問いかけ。その答えは、当然。


「もちろん、嫌いじゃないさ」

「ふん。これは一本、取られた、な……」


満足げに鼻を鳴らして、孤高の竜王は死んだ。


「マスター、こっちも、終わったっすよ」

「酷いざまだな、毒蜘蛛男」


時同じくして毒蜘蛛男の戦闘も終わっていた。

彼は腹を裂かれ、紫の体液を垂れ流している。

毒蜘蛛を切った担任教師の子孫は、既に絶命。


彼女は毒蜘蛛男の猛毒の体液で、死んでいた。


「本当にお前は、始末に負えない奴だな」

「その言い草は酷すぎないっすか!?」


呆れると彼は涙目になって反論。だから俺は。


「そんなお前のことも、俺は嫌いじゃない」

「マスターは、ツンデレっす、ね……」


人をツンデレ呼ばわりして、毒蜘蛛男も死亡。


「マスター、連れて来たよ」

「スライム姫、お前は平気なのか?」


炎使いのエルフを抱えた幼女姿のスライム姫。

指輪の力を使った会長エルフは衰弱した様子。

生き残った最後の配下を気遣うと、首を振り。


「私だけが生き残る訳にはいかないさ」

「無理に心中する必要はないんだぞ?」

「それでも、私は君のしもべ、だから」


スライム姫は最期の力を使って分体を作成。

もともと幼女だった彼女は赤子まで縮んで。

出来上がった可愛い分体を俺に差し出した。


「これを彼女に食べさせたまえ」

「会長に食べさせればいいのか?」

「そうすれば、少しだけ話が出来るだろう」

「そうか……ありがとよ」


スライム姫の気遣いに感謝。分体を受け取る。

彼女の身体は既に形を失いかけ、溶け始めた。

魔力が枯渇して死ぬその寸前で駆け寄る人影。


「スライム様!」

「おや? 来てくれたのかい?」


現れたのは受付嬢。涙を流して彼女は謝罪。


「すみません……人間のせいで」

「その話は誰から聞いたのかな?」

「さっき大泥棒さんから聞きました」


どうやら、この結末の概要を聞いたらしい。


「君が気にすることではない」

「でも、私は人間で……」

「だからこそ、私は人間を憎んだりしない」


赤子のようなスライム姫に諭される受付嬢。


「君のような優しい人間が、私は大好きだ」

「私も、優しいスライム様が、大好きです」

「ありがと。マスターには申し訳ないけど」


カップル成立を見せつけられた俺に振るな。


「ふん。どうせ俺は誰からも好かれませんよ」

「ふふっ。拗ねているのかい?」

「別に。ただ、羨ましいだけだ」


おっと。思わず本音が。そんな俺に彼女は。


「大丈夫。また新しい出会いがあるさ」

「これから俺も死ぬけどな」

「そう言えば、そうだったね」


前世と同じ、その遺言に思わず突っ込む。

スライム姫はクスクス笑って溶けていく。

まるで、俺が死ぬとは思っていない笑み。


確かなことは、俺より先に彼女は死ぬ事。


「スライム様! どうか、私も一緒に!!」

「ああ、そう言えば、君は知ったのだったね」

「はい。だから、どうせ死ぬなら……!」

「よかろう。君も連れていってあげるよ」


世界の滅亡を知った受付嬢は殉死を望んだ。

一瞬悲しげな表情を浮かべた、スライム姫。

それでも、スライムの身体で受付嬢を包む。


愛しい相手の身体に包み込まれた、受付嬢。

窒息している筈なのに、その顔は穏やかで。

同じくスライム姫も穏やかに、溶けていく。


「それではマスター、あとは頼んだよ」

「ああ。あとは任せて、ゆっくり眠れ」


スライム姫と受付嬢が死に、取り残された。


「ほら、会長。これを食べてくれ」


すぐに会長エルフにスライムを食べさせる。

指輪の力は確かに絶大だが魔力を消費する。

魔力が枯渇寸前の彼女は分体によって回復。


「どうして……ボクを、助けたの……?」

「勇者に倒して貰う為さ」

「やっぱり、全部君の、作戦なんだね……」


記憶を抜き取っても勘付かれていたらしい。


「悪いな。いいように使わせて貰ったよ」

「それにしても、絆創膏は、酷いよ」

「大丈夫。宝物にするから」

「あは。返すつもりは、ないんだね」

「当たり前だ。墓まで持っていくさ」


軽い談笑を交わして本題に移る。詰めだ。


「もう一度、指輪を使ってくれ」

「それで、君は死ぬの……?」

「死なないが、しばらく動けなくなる」

「そこで、聖女ちゃんの出番ってわけ……?」

「いいクライマックスだろう?」

「ありきたりな、英雄譚、だね」


ありきたりな英雄譚。それがシナリオだ。


「気に入らないか?」

「いや、ありがとう」

「どうして、お礼なんか……」

「ボクの願いを、叶えてくれて……ありがとう」


あまりにも見透かされて、なんか照れる。


「いいから早く指パッチンしろって」

「焦らない、でよ。ムードが、肝心だよ?」

「ムード? どんな?」

「ボクのスカートを、弄ってくれ」

「はあ!? な、なんで、そんな……」


この会長はやはり頭おかしい。困惑してると。


「あれ以来、ボクは……ノーパン、だよ?」

「よし、弄ればいいんだな?」

「本当に、君は、わかりやすい、ね」


即座にスカートに手を伸ばすと、指パッチン。


「ぎゃあああああああああっ!?!!」

「さようなら、エッチな邪神くん」


燃え盛る俺に、小悪魔めいた笑みを向けて。

炎の会長エルフは、土くれとなって死んだ。

大きな宝玉のついた、神の指輪を、遺して。


これは残しておくべきではない代物と判断。

火だるまになりつつもそれを異空間に回収。

すると、打ち合わせ通りに奥の部屋が開き。

大泥棒と、聖女と姫巫女が駆け寄ってきた。


「ほら、聖女様方、出番だぜ!」

「いつまで待たせんのよ、糞魔王!」

「あらあら、これで私達の出番は終わり?」


口々に文句を言いつつ、手首を切る聖女達。

聖女と姫巫女の鮮血が、頭上に滴り落ちる。

会長の火よりも何倍も熱いその血を浴びる。


「また、お前らに、世話になったな」

「我々の使命ですので、お気になさらずに」

「あたしたちしかあんたを殺せないでしょ!」

「ああ……本当に、ありがとう」


彼女達は今回も一緒に死んでくれるらしい。

2度目の聖女の慈悲に心から感謝を告げる。

すると、世界樹がゆっくりと、傾いてきた。


「こりゃ、世界が終わっちまう訳だぜ」

「おっさん……逃げろ」

「言っただろ? 最期まで見届けるってよ」


倒れゆく世界樹。死にゆく邪神と聖女達。

それを見届けながら大泥棒は紫煙を吐く。

傾きが大きくなり、地平線が見え出した。


木が倒れる方角は人間の国を向いている。


「ま、オレ様には知ったこっちゃねぇな」


邪神たるオレ様は、邪悪にほくそ笑む。

ワールド・オーナーたる世界樹の意思。

世界を滅ぼした人間を道連れにする木。

しかしながらそれは慈悲かもしれない。


「ゆっくり死ぬよりは、マシだろうさ」


大地が干上がり、飢餓に苦しむよりも。

湖が枯れて、乾きに喘ぐよりも。

濁った空を見上げ続けるよりも、マシだ。


「それでは、さようなら。優しい邪神様」

「今度はもっと良い夢を見なさいよね!」


前世と似たような別れの言葉が耳に残って。


「坊主、お前と出会えて、楽しかったぜ」


最期に大泥棒に頭をくしゃりと撫でられ。


俺は、死んだ。


結局最後は修羅場になった。

姉ちゃんや神とは再会出来ず終い。

そういや、猫娘にも会えなかった。

それでも、悪くはなかったと、思えた。


それはきっと、出歯亀のおかげだろう。

あいつのアホヅラが死の間際によぎる。

彼女に感謝を捧げつつ意識は消失して。


しかしながら、また唐突に目覚めることに。


「はあ……やっぱり、詰まないのかよ」


辺りを見渡すと、知らない場所。

身体はいつもの吸血鬼の肉体。

また、別な世界に転生したらしい。


詰まる所、とはいえ、詰まらない。


不死身の吸血鬼は邪神となり異世界を彷徨う。

何度も、何度も、何度も、何度も、何度も。

それでも、詰まない。詰まらない、物語。


何百、何千の世界を巡った俺は、いつしか。


詰むために、異世界を放浪することとなる。


そして、93万年の体感時間が、流れた。

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