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凡人と神様  作者: 遺志又ハ魂
第二部 【詰むまでの物語】
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第52話 『陳腐なシナリオ』

「人間共に、落とし前をつけさせる」


出歯亀の死後、俺はこれからの方針を定めた。

盟友の竜王と、配下の3匹を招集して、告げた。

落とし前。責任を取らせる。それが俺の決断。


「具体的にはどうするつもりじゃ?」


竜王が難しい顔で問う。そしてスライム姫も。


「私は賛同しかねるな」

「どうしてだ?」

「我々から動く必要はないと言ってるんだよ」


あくまでも、怠惰であれと言外に諭された。

無論、それは承知の上だ。弔い合戦ではない。

今更、人間を殺そうなどとは思っていない。

恨みもない。しかし、責任は負って貰おう。


「安心しろ。こっちから動くつもりはない」

「ならば、どうするつもりじゃ?」

「俺の予想通りなら、恐らく、今頃……」


その時、哨戒に当たらせていた蝙蝠が慌てて。


「マスター! エルフノサトニ、ニンゲンガ!」

「やっぱりな。向こうから来てくれたようだ」


出歯亀の残した宝石を握りしめて千里眼発動。


眼下には、人間の軍隊が見て取れた。

家主が不在となったエルフ宅を漁っている。

まるでハイエナのような人間の習性。


魔法適正のない彼らは知識を望むと踏んだ。

敢えて、土足で踏み込む彼らを放置。

俺は生き残った会長エルフの看病に専念。


炎使いの会長エルフは、強い女だった。

意識こそなく、眠ってはいるが、生きている。

彼女の願いと、俺の望む結末の方向性は同じ。


俺は会長エルフを生かしつつ、作戦を詰める。


「いいか、これから先は強制はしない」


盟友と配下に命令をする前に、前置きをする。


「これは俺が詰む為の作戦だ」

「君が、詰む為? どういう意味だね?」


怪訝な顔をするスライム姫。概要を説明。


「俺は人間共と真正面から敵対する」

「穏やかではないね」

「それは儂の役目じゃろうが」


不服げなスライム姫と竜王。一応、補足。


「俺は不死身の吸血鬼だ。だから、死ぬには一手間がかかる。そのプロセスを、人間共に手伝わせ、そして世界を奴らの手で終わらせる」


吸血鬼が死ぬ為には、特殊な条件が必要だ。

まだそれに必要な存在は見つかっていない。

しかし、直感が告げている。そろそろだと。


「要するに俺の死で奴らにわからせるってことだ。スライム姫ならその意味がわかるよな?」


スライム姫は得心のいった顔で、頷いた。


「君が死ねば、世界樹は枯れるだろうね」

「そう。そして、この世界は終わる」


世界樹が弱っただけで、この有様なのだ。

ワールド・オーナーを失えば、終わるだろう。

他ならぬ人間の手でこの異世界を終わらせる。


それは復讐とも呼べる、責任の取らせ方。


「小僧が死ぬのを、儂らは黙ってみてろと?」

「ああ。そうして貰えると、助かる」

「たわけ。それを見過ごすわけにはいかん」


眉根を寄せて、竜王様がご立腹。

義に厚い盟友だ。想定していたが、困った。

どうしたものかと、途方にくれていると。


「儂も共に死のう。それなら文句はない」

「は? い、いや、それは……」

「文句など言わせんぞ。黙って心中させろ」


なにこの男前な竜王。主人公だろうか?

格好良すぎて、惚れちゃいそうだけど。

それでも心中などさせるつもりはない。


しかし、俺が反論する前に、他の2匹が。


「ワタシモ、オトモ、シマス」

「もちろん、私も一緒に死ぬつもりさ」


黒と水色の瞳に強い意志を込められて。

俺はタジタジになりつつも、考えてみる。

俺の死で世界は終わる。それは間違いない。

ならば、彼女らを残していく訳にはいかない。


終わった世界に残されても、迷惑だろう。

そして俺が何もせずとも、じきに終わる。

ならば、こちらの望む形で、幕を引こう。


「わかったよ。お前ら……ありがとな」

「なんじゃ、小僧。また涙目になっとるぞ?」

「マスターハ、ナキムシ」

「おやおや。ほら、私が膝枕をしてあげよう」


泣き虫な俺は、優しい怪獣達に慰めて貰った。


それから数日間、要となる会長エルフを看病。

竜王と炎使いのエルフは、相性がいいらしく。

竜王からも魔力を受け取り、容態は安定。

まだ目は覚まさないものの、顔色は改善した。


その反面、俺はみるみる、やつれていった。


「マスター、あまり無理は禁物だよ?」

「ああ。わかってるけど、死なれたら困る」

「君にも死なれたら困るのだよ。だから……」


俺の言い分に嘆息して、スライム姫が提案。


「これを食べたまえ」

「これは、なんだ……?」

「私の分体だよ。可愛いだろう?」


スライム姫が差し出したのは彼女の分体。

チビスライム。俺の雑魚スライムより可愛い。

丸い水まんじゅうのようなそれは美味そうで。


思わずゴクリと喉を鳴らすと、彼女は促した。


「ほら、口開けて。あーんしたまえ」

「い、いや、でも、食べるわけには……」

「別に分体を食べられても私は死なないよ」

「ほ、本当に平気なのか……?」

「うん。ちょっとロリになるだけさ」


片目を瞑っておどけるスライム姫。

その悪戯めいた表情はほんの少し幼い。

分体を出すたびに、幼女化するらしい。

俺は紳士なので、幼女には興味はないが。


このスライム姫の幼女姿なら、別腹である。


「じゃあ、食べるぞ」

「うん。口、開けて」

「こうか? あーん……」

「ふふっ。綺麗な牙だね。はい、どうぞ」


開けた口に、分体を放り込まれた。

飴玉程のスライムを、舌で転がす。

そのグミのような感触を楽しんでから。

プチッと、八重歯で突き刺す。すると。


「な、なんだこれ。美味い! 美味すぎる!」

「お気に召したかね? ジューシーだろう?」

「すごいよ! トロトロで、ヌルヌルで……」

「こ、こらっ! 変な表現はやめたまえよ!」


ありのままを口に出すと、叱られた。

ぷくっと膨らんだ頬で、余計に幼く見える。

そんな可愛いスライム姫の分体を吸収。


これは言うなれば、準吸血行為である。

久しぶりの、吸血。しかもスライム姫の。

美味くないわけがない。乾いた喉も潤った。


すると、身体に力が漲ってきた。ムクムクと。


「おお? なんか、元気になったぞ?」

「……顔に似合わず、大きいんだね」

「ああ、前も言われたな。触ってみるか?」

「へっ? そ、そうした方が、いいのかな?」


意外にも初心な反応を見せるスライム姫。

いかんいかん。出歯亀に叱られてしまう。

俺はあいつの顔を思い浮かべて、心頭滅却。


「あっ……縮んじゃった」

「そんな残念そうな顔をされても困る」


手を伸ばしかけたスライム姫がしゅんとする。

なんか悪いことした気になるが、それよりも。

まずは、分体の効能について、説明を求める。


「結局、さっきの分体はなんだったんだ?」

「あれは魔力の塊みたいなものだよ」

「魔力の塊?」

「そう。だからマスターは元気になったのさ」


なるほどな。栄養ドリンクみたいなものか。

ならば、作戦にも使えるかも知れない。

俺は思いつきで、スライム姫に質問した。


「それは会長エルフにも効果あるか?」

「エルフも魔法生物だから効果は見込めるよ」

「なら、準備が整ったら、頼めるか?」

「もちろんさ。私は君の、しもべなのだから」


胸に手を置いて、恭しく傅くスライム姫。

可愛くて、優しくて、従順で、気の利く美女。

それが、俺のしもべ。しもべ……いい響きだ。


思わず良からぬ命令をしそうになるけれど。


きっと、出歯亀に怒られると思って。


サラサラな水色髪を撫でるに、留めた。


「マスター、ホウコクガ、アリマス」

「どうした、蝙蝠?」

「ニンゲンガ、ナニカヲ、ミツケタヨウデス」


数日後、事態は進展した。

エルフの里を占領した人間が、それを発見。

それは、俺が死ぬ為に必要な存在だった。


前世で俺を殺してくれた、聖女が見つかった。


「聖女じゃと? そんなものがおったとは」

「どうやら世界樹の花から産まれたらしい」


驚く竜王に、千里眼で見た情報を告げる。

エルフの里に、大輪の花が咲いていた。

その花の中から聖女を見つけたらしい。


もしやと思い、ドワーフの里に視線を向ける。


そちらでも人間が集まっていた。

恐らく姫巫女が坑道から見つかったのだろう。

まだ会長エルフは生きている。間に合った。


いや、これは定めなのかも知れない。

出歯亀や他のエルフが死んだ、今だからこそ。

もう俺の存在理由はない。だから、目覚めた。


俺が死を求め、聖女と姫巫女が、応えたのだ。


「よし、作戦を第二段階に進めるぞ」


第1段階は、静観。会長エルフの看病だった。

次は多少暴れつつ、水面下で暗躍する計画だ。

聖女と姫巫女を得た人間の出方を、見ながら。


それからすぐに人間は調子に乗り始めた。

聖女達はエルフでもドワーフでもなかった。

人間の姿で、聖なる力を備えている存在だ。


人間は、邪神たる俺に、匹敵する力を得た。


「おや? 誰か転移してくるみたいだね」


エルフの里の転移魔法陣を勝手に使って。

人間は何者かを、送り込もうとしていた。

発光する城内の魔法陣の前にて、待ち受ける。


まさか聖女や姫巫女を送り込むわけはない。

しかし魔法陣は魔法適正がなければ使用不可。

ならば、いったい誰が来るのかと、思ったら。


「お初にお目にかかります、邪神様」


それは前世で見た顔の、人間の美女。

深々と頭を下げて、敬意を示した。

美女は、異能力者ギルドの、受付嬢だった。

まさか彼女が転生しているとは思わなんだ。


動揺をなんとか隠しつつ、俺は尋ねる。


「お前は何者だ?」

「私は国王の使いの者でございます」

「人間の国の使者か」

「はい、私は翻訳スキルを持っているゆえ」

「なるほど、適任だったというわけか」


受付嬢の転生者である彼女も翻訳スキル持ち。

人間には珍しく、魔法適正があるらしい。

だから転移魔法陣を使用できたということか。


納得しつつ、本題に移る。


「それで、俺の城に何をしに来た?」

「降伏勧告に参りました」

「なんだと?」

「我々は邪神を滅する力を手に入れたのです」


何を言うかと思えば、降伏勧告とは。

馬鹿馬鹿しい。人間とはなんと愚かだろう。

思わず溜息を漏らしかけるが、今は不味い。

盟友の竜王と、しもべの2匹が苛立っている。


ここはビシッと、邪神らしく応対しよう。


「降伏はしない。そう伝えろ」

「そうですか……戦争は避けたいのですが」


哀しげな表情の使者。彼女は善人らしい。

時折、スライム姫に視線をチラチラ。

顔が赤い。一目惚れかな? それはともかく。


俺は少し怒った振りをして、吐き捨てる。


「思い上がるな。戦いにすらならんと知れ」

「しかし、我々は聖女と姫巫女を……」

「それがなんだ。すぐに思い知らせてやる」


それっきり話を打ち切り、帰らせた。

帰り際、使者がスライム姫に視線を送る。

スライム姫は小さくウインクして揶揄う。

すると、使者の頬が薔薇色に。落ちたな。

ともあれ、言われっぱなしは、癪なので。


使者が帰ってから、俺は人間の国を襲った。


狙ったのは首都。蜘蛛男を引き連れて、転移。

突然現れた糞魔王に驚く、一般市民。

念力で中空に浮かび、魔法を発動。


使用したのはもちろん、便意促進魔法。


「オレ様の力を思い知れ! ワハハハハハ!!」

「マスター、やりすぎっすよ……」


邪神らしく、一人称をオレ様にしてみた。

高笑いを響かせ、猛威を振るう俺を見て。

引きつった表情で、毒蜘蛛男はどん引き。


画して、人間の国の首都は、便に沈んだ。

突如襲った便意により、阿鼻叫喚。

その隙に、城に忍び込み、聖女2人を攫った。


蜘蛛男の糸で簀巻きにして、帰還。

聖女2人はどちらも楽しげだった。

蜘蛛の糸から解放してやると、はしゃいだ。

物珍しそうに魔王城を走り回り、口々に。


「あらあら、攫われてしまいましたわ」

「遅いのよ! ずっと待ってたんだから!」


攫われたがりの性質も相変わらずらしい。


「やれやれ、緊張感がないな」

「まったく、拍子抜けしたぜ」

「お? おっさんもそう思うか?」

「ああ。とりあえず、無事で何よりだ」


そこで、ふと違和感。俺は誰と話している?


「あ、あんたは、もしや……?」

「俺は通りすがりの、コソ泥さ」


振り返ると、そこに大泥棒がいた。


「大泥棒の、おっさん……?」

「ん? なんだ、俺を知ってるのか?」

「ずっと、探してたよ」

「その言い方はちょっと気持ち悪いな」


前世と同じく、緑色の派手な頭髪。

彼は胸元からタバコを取り出して、咥える。

俺は慌てて女体化して、デュポンを取り出す。


キンッと開いて、火を灯し、かすれ声で。


「ど、どうぞ……」

「あん? なんで女になってんだよ?」

「その方が、絵面的に、健全かと」

「なんだそりゃ。ま、ありがとよ」


ポカンとした大泥棒がタバコに火をつける。

それを美味そうに吸って、紫煙を吐き出し。

どっかりと、俺の玉座に座って、例の一言。


「吸っていいか?」


もう吸ってるじゃん。この人も相変わらずだ。

転生しても固茹で卵が好きそうな、大人の男。

俺はキュンときて、ごくごく自然に膝に座る。


「は?」

「え?」


大泥棒がキョトンとしたので、俺もキョトン。

何かおかしいだろうかと、首を傾げていると。

大泥棒のおっさんは困惑顔で俺に尋ねてきた。


「坊主、なんで膝に座ったんだ?」

「今は女体化してっから、坊主じゃないよ?」

「いや、さっきまで男だっただろう?」

「それがなにか?」

「それが問題だろうが」


問題の意味がよくわかりませんね。

俺は知らんぷりをして、彼の膝に居座る。

大泥棒と会ったら、こうすると決めていた。


「それでおっさん、何しに来たんだよ?」

「このまま話をしろってのか?」

「俺に会いに来てくれたのか?」

「どうしてそうなるんだ。まあ、いい」


諦めたように紫煙を吐いて、用件を告げた。


「俺は泥棒だ。当然、盗みに来た」

「記憶をか?」

「あん? 違うよ。聖女様達をだよ」


今回の目的は俺の記憶ではなく、聖女らしい。

俺が盗んだ聖女を取り戻しに来たのだろう。

きっと、転移する時についてきたのだ。

改めて、その泥棒の潜伏技術に感心。しかし。


どうにも腑に落ちなくて、問いかける。


「それならこっそり盗めばいいだろ?」

「そんなケチな泥棒に見えるか?」

「見えないけど、これは些かお粗末だろ」


わざわざ俺に声をかける必要はない。

どうしてそんな真似を? もしかしたら。

大泥棒に気に入られちゃったか? やば。

なんかドキドキしてきて、頬に手を当てると。


「おい坊主。なんか勘違いしてねぇか?」

「いや、まさか、おっさんと両想いだとは……」

「やめろよ。俺はホモじゃない」

「大丈夫。今の俺は身も心も女だから」

「余計に怖いっての。そうじゃなくてだな……」


げんなりした大泥棒が、面倒そうに説明した。


「お前を見てたら、話が通じるかと思ってよ」

「俺が聖女2人を返すとでも?」

「そう見えたから、声をかけた」


そこで、予期せぬ乱入者が現れた。


「ちょっとあんた! なに俺のマスターといちゃいちゃしてんすか!? 羨まけしからんっす!」


現れたのは毒蜘蛛男。誰がお前のマスターだ。


「毒蜘蛛男……まだ居たのか、お前」

「マスターもデレデレしないでください!」

「うるさい。彼氏面すんな。ひっこめ」


空間魔法で強制的に排除。俺は咳払いして。


「配下のバカが騒がしくてごめんなさい」

「どうでもいいが、三角関係は勘弁しろ」

「大丈夫。おっさんが本命だから」

「だから、俺を巻き込むなっての」


おっと。これ以上は出歯亀に叱られそうだ。


閑話休題。


俺と聖女達の様子を見て、声をかけた大泥棒。

どうやら彼は筋を通そうとしてくれたらしい。

ならば、こちらも筋を通そう。膝から降りて。

俺はおっさんと向き合い、取引を持ちかけた。


「聖女は返せないが、代わりを用意した」

「代わりだと?」

「ああ、ついてきてくれ」


おっさんを先導して、とある一室へ。

そこは、眠れる会長エルフの病室だ。

中には竜王がいて、俺は彼女に命じた。


「竜王、スライム姫を呼んで来てくれ」

「わかった。いよいよじゃな?」

「そうだ。準備は整った」


それだけ交わして、竜王は退室。

首を傾げている大泥棒に、説明する。

俺の計画の要となる、会長エルフについて。


「あんたらは、俺を殺したいんだろう?」

「ああ、そうだな」

「なら、このエルフをくれてやる」


あくまでも悪役っぽく、偉そうに。

会長エルフを、人間達に引き渡す。

そう告げると、大泥棒は訝しんで。


「坊主、いったい何をたくらんでやがる?」

「邪神たるオレ様の望みは、世界の滅亡だ」


邪神モードで、オレ様は口角を釣り上げる。


「その計画の片棒を俺に担げと?」

「担ごうが担がまいが、滅亡は避けられない」

「ふん。なら、選択の余地はないってことか」


それだけで、大泥棒は察した様子。

この世界の限界を、悟っているのだろう。

彼だけではなく、人間全てが、感づいている。

だからこそ、国王も民衆も、怯えているのだ。


その恐怖を汲み、オレ様は神らしく、嘯く。


「オレ様が終わらせてやる。だから、手伝え」


すると大泥棒は、わざとらしく一礼して。


「仰せのままに。ま、俺が見届けてやるさ」


ニヒルに笑う大泥棒。やっぱり彼は素敵だ。


「とりあえず、このエルフを丁重に扱え」

「丁重って、今にも死にそうだぜ?」

「だからこれからありったけ魔力を注ぎ込む」


作業を始めようとすると、丁度良く配下登場。


「小僧、スライム姫を連れて来たぞ!」

「よし。スライム姫は分体の作成を頼む」

「わかった。私に任せたまえ」

「竜王は俺と一緒に魔力を注ぎ込んでくれ」

「あい、わかった!」


それぞれに役割を命じて、作業開始。

ありったけの魔力を会長エルフに注ぎ込む。

手の甲がシワシワになるが、気にしない。

竜王は魔力の減少に伴い、幼女化。


そしてスライム姫もまた、幼女化した。

彼女の周りには、複数の分体の群れ。

これだけいれば、だいぶ時間は稼げるだろう。


「小僧! 炎使いのエルフが目を覚ましたぞ!」

「んっ……ここは……?」


ぼんやりと目を開けた炎の生徒会長。

俺は説明を省き、彼女の額に手を触れる。

そして記憶を見せる。神との戦闘の記憶だ。


神が使っていた指輪の知識を、彼女に与えた。


あれはエルフとドワーフの合作らしい。

ならば、この異世界で作り出せる筈だ。

エルフ達の死後に残った宝石も、渡す。

これが必要なのかはわからないけれど。

直感的に、それが重要だと思ったのだ。


突然記憶を見せられ、ぼんやりとした会長。

俺も頭が痛い。頭痛を堪えながら、仕上げ。

純白のウェディングドレスの股に手を入れた。


「ふわっ!? な、何をするんだい!?」

「絆創膏は、確かに頂いたぜ」


彼女の股に貼ってあった絆創膏を剥がして。

俺は不敵に笑い異空間に収納。これでよし。

呆然とする会長エルフに、念を押しておく。


「お前は俺に絆創膏を奪われた」

「は、早く返して欲しいのだけど……」

「返して欲しくば、指輪を作り、俺を倒せ」


これで破廉恥な敵であると認識させた。

あとは余計な記憶を盗むだけだ。

ここ暫く、俺が世話した記憶を、抜き取る。


頭が痛い。だけど、あとひと息だ。


「必ずオレ様を倒しに来い!」

「なんで、こんな、ことを……?」


消えゆく意識で、そう尋ねる会長に。


「邪神は、勇者に討ち滅ぼされるもんだろ?」


俺の考えた安いシナリオを告げて、作業完了。

会長エルフは眠りにつき、大泥棒に引き渡す。

ついでに分体の群れを袋に詰め、それも渡す。


「弱ってきたら、これを食べさせてくれ」

「ああ、わかった。それにしても……」

「なんだ?」

「いや、随分と優しい邪神がいたもんだと」


大泥棒に揶揄われて、少し照れる。

優しいというか、ただの阿呆な邪神だ。

自殺する為に、エルフを勇者に仕立てあげた。

とはいえ、この手法は互いに利がある。


それが、彼女の願いでも、あったから。


会長は前世でも勇者に憧れていた。

この世界でも、それは変わらなかった。

ならば、俺は彼女の願いを叶えてやりたい。


それこそが、最大の償いになると、信じて。


そんな俺の胸中を大泥棒は見透かして。

盛大に溜息を吐いて、タバコの火を消して。

肩に会長エルフを担ぎながら、忠告。


「坊主は色々と溜め込みすぎだ」

「色々あったからな」

「泥棒のスキルを使えるみたいだな?」

「ああ、前世であんたから奪った」

「前世だと?」

「俺には前世の記憶があるんだよ」


説明すると、大泥棒はふむと考え込んで。


「なら、頭が痛くならないか?」

「ん? 痛いけど、何故それを……?」

「記憶が容量を超えてんだよ」

「どういうことだ?」

「脳みそがパンク寸前ってことだ」

「そりゃ困ったな。どうしよう……」

「さっさと、余計なもんは何かに移せ」


記憶を移す、か。それは思いつかなかった。


「わかった。そうするよ」

「あとよ、あまり記憶を弄ったりすんな」

「なんで?」

「何が現実か、わからなくなっちまうからな」


それだけ言って、彼は立ち去る。

城の転移陣に向かうと、先客が。

この前の人間の国の使者が佇んでいた。


「あれ? また来たのか?」

「はい、先ほどの襲撃の抗議に参りました」


そんな彼女に大泥棒は分体入りの袋を渡して。


「詫びの品はもう受け取った」

「へ? そうなんですか?」

「とりあえず、本国に戻るぞ」

「は、はい! それでは、失礼します!」


大泥棒は偉いエージェントらしい。

下っ端の使者は振り回されて可哀想。

それでも幼女化したスライム姫を見つけて。


「な、なんて可愛らしい……」

「君も可愛いよ。また遊びに来たまえ」

「は、はい! 必ず参ります!!」


逢瀬の約束を交わして、帰って行った。


さあ、これで、役者は揃った。

そして、準備も全て、整った。

何もかも、計画通り。邪神の手のひらの上。

順調に、陳腐なシナリオは進んでいく。

あとは指輪の誕生を、座して待つだけ。


その傍に、あの出歯亀が居ないのが、辛い。


黄ばんだ月は、蒼い月よりも、力が弱い。

俺は枯渇気味な魔力を少しでも補うべく。

月夜の下で、ひたすら、待つことにする。


この異世界が終わる、その時まで。

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