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凡人と神様  作者: 遺志又ハ魂
第一部 【詰まらない物語】
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第4話 『テクノ野郎』

《そんなだせぇ眼鏡、よくかけられんな》


別なクラスの姉ちゃんと別れ、自分の教室に入る前に眼鏡を着用すると、神に批判された。

黒縁の大きな眼鏡は着用する人を選ぶ。

小顔な女子や爽やかなイケメンならば似合う。

俺みたいな目立たない顔立ちの奴がかけると更に目立たなくなり、モブ感が大幅増量する。


けれど、それでも、かけ続けるのは何故か。


教室に一歩入れば、その理由が明らかとなる。


「おっす、テクノ」

「おはよ〜テクノ君」

「今日も地味だな、テクノ委員長」


クラスメイト達の朝の挨拶。これが理由だ。

『テクノ』とは俺のあだ名である。

一応念を押しておくが、別にもみあげをテクノカットしている訳ではない。では、何故か。

その理由については追い追い説明するとして、とりあえず眼鏡の関連性から説明をしよう。

まず知って貰いたいのは、俺はそのあだ名が嫌いだ。まったく気に入っていない。


だから新しいあだ名を求めてイメチェンした。


高校三年生になってから伊達眼鏡をかけたのはその為だ。それなのに、効果は現れていない。


《無駄な努力すぎて草》


げんなりする俺を嘲笑する神。草生やすな。


「それにしても羨ましいぜ、テクノ」


クラスの男子から羨望の視線を送られる。

これもまた最近頭を悩ませている事項である。

その羨望の理由は、俺の後ろの席の女生徒だ。


「学校一の美少女の前に座れるなんてよ」

「なあなあ、やっぱりいい匂いするか?」

「吐息とか後頭部に当たったりすんのか?」

「このテクノ野郎! 席代われよ!!」


テクノ野郎はやめてくれ。

頭がおかしい人みたいだから。


それはさておき、学校一の美少女が後ろの席。

とはいえ、それには諸説ある。

我が学校のマドンナ候補は3名存在するのだ。


1人は俺の姉ちゃん。個人的な推しメンだ。

もう1人は生徒会長。曰く付きの美少女。

そして最後の1人は俺の後ろの席の美少女。


鬱陶しい男子どもに愛想笑いをしつつ、自分の席へと向かう。艶やかな黒髪が視界に入る。


まるで何処かの神社の巫女さんのように切り揃えられた長髪。机に頬杖をついて窓の外を眺めている。隣を通り過ぎるとちらっとこちらを見る。他の生徒は気づかない程、一瞬の眼差し。


そして、にっと口の端を上げる。

恐らく、これは俺だけが知る特徴だろう。

完璧な美貌を誇るこの美少女の最大の特徴。


それは、異常に発達した、八重歯だ。


明らかに人類の物ではない長く鋭い八重歯に目を奪われると、彼女の黒い瞳が赤く発光した。

それを見ると酷く不安な気持ちとなり、早々に自分の席に着席する。後頭部に視線が刺さる。


彼女は何者なのだろう。気になる。


《気にすんな。そのうちわかるさ》


またそれか。知っていて、教える気がない。


《眼福だと思えよ。姉ちゃんとは大違いだろ?》


姉ちゃんとは大違い。それは、確かに。

後ろの席の謎の美少女は、胸がデカい。

姉ちゃんがゼロだとすれば、100くらい。

いや、まったく比較にはならないけれど。


それでも素直に喜べない程、不気味な美少女。


寒気を覚えていると、教室の扉が開き、教師が入ってくる。予鈴が鳴り、朝のSHRが始まる。

点呼を取る教師の声を聞きながら、胸にまつわる曰くを回想する。嫌な事件ばかりである。


《ひんにゅー事件は爆笑したな》


いやいや、笑えない。悲惨な事件だ。


話は幼児期の頃まで戻る。

神を『かみたま』と呼び、姉ちゃんを『ねえたん』と呼んでいた頃、神に唆された。


《貧乳って呼べば、姉ちゃん喜ぶぜ?》


「わかった!」


姉ちゃんのところに駆け寄り、大声で。


「ひんにゅー!!」

「なっ!?」


衝撃を受けた姉ちゃんが、問いただす。


「ど、どこでその、禁断の言葉を……?」

「かみたまがよろこぶって!」

「……なるほど。よく、わかった」


その後、姉ちゃんは外出して、30分程で戻ってきた。そして俺の肩を掴んで言い聞かせる。


「お姉ちゃんは、貧乳じゃない」

「ひんにゅーじゃないの?」

「そう。わかった?」

「ひんにゅーってなに?」


無邪気な子供の質問に涙目となる姉ちゃん。

あの時は悲壮な表情は忘れられない。

本当に悪いことをした。可哀想な姉ちゃん。

なんて、改めて悔悟の念を抱いていると。


「っ……ぷぷっ」


そんなくすくす笑いが背後から聞こえた。

思わず後ろを振り向くと、後ろの美少女は頬杖をついて窓の外を見ながら前方を指さして。


「おーい、テクノー? 返事しろ〜」

「は、はいっ!」


担任教師の点呼を聞き逃していたようで、慌てて返事をする。担任が生徒をあだ名で呼ぶなよ。

それにしても、タイミングが良すぎる。

俺の回想に合わせて、笑ったように聞こえた。


まさかこちらの思考が読めるのだろうか?


そんな馬鹿な。しかし、否定は出来ない。

それだけの不気味さを、俺は感じていた。


俺の後ろの席の美少女は、奇妙な女子である。

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