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凡人と神様  作者: 遺志又ハ魂
第一部 【詰まらない物語】
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第3話 『朝ちゅん』

「そろそろ、起きて」

「あ、うん。おはよう、姉ちゃん」

「おはよ」


いつの間にか寝てしまったようだ。

部屋の窓からチュンチュンと小鳥がさえずり、射し込んでくる光が朝の訪れを告げている。そして隣に寝ている姉ちゃんと朝の挨拶を交わして……おかしい。


「姉ちゃん」

「どうか、した?」

「なんで一緒に寝てんの?」

「なんと、なく?」


無表情で小首を傾げる姉ちゃん。

こんなことが良くあるのが日常だ。

姉ちゃんはそのまま目を閉じて。


「ん。おはようの、ちゅー」

「いや、しないから」


さっさと身を起こして距離を取る。

すると姉ちゃんも起き上がり、掛かっていた布団が取り除かれると、目に悪い白いきめ細やかな素肌が露わとなって。


「はい、これ着て。すぐに」

「ぷはっ……ありがと」


俺は慣れた手つきで着ていたTシャツを着させてお約束展開を阻止した。

ノーブラだから余計扇情的になるのではとの心配は不要だ。姉ちゃんは無乳なのでブラはおろかキャミソールだって必要ないのだ。なんて思考を見透かされて。


「また、失礼なこと、考えた?」

「いや? 朝飯なんだろって考えてた」

「今日は、たまごサンド」


さらりといなして部屋から退室。

姉ちゃんはTシャツの匂いを嗅ぎながら後ろをついてくる。階段を降り居間に。


「いただきます」

「召し上がれ」


テーブルに着座してたまごサンドを頬張る。対面の席に座る姉ちゃんは食べずに俺の食事風景を見守っている。


姉ちゃんは基本的に飯を食べない。

本人はダイエットの為と言うがそれにしたって昼も夜も食べないのはおかしい。

飲食店で働いている時はまかないが出るのだろうと思っていたが、流石に工場職で働いている際におかしいと気づいた。


一時期は家計の逼迫を疑ったのだが、友人と遊べるようにゲームを買って貰ったり、姉ちゃんも同じゲームを購入しているので、そこまで金がないわけはない。

それから姉ちゃんはファッションなんかに気を使う人だから、そっちにはわりとお金がかかっているように見える。

ま、何着ても可愛いけどな。


「口に出して、褒めて」

「姉ちゃんは可愛いよ」

「気持ちが、こもって、ない」

「はいはい。ごちそうさまでした」


例によって思考を読む姉ちゃんをあしらいながら、完食。食器を片付ける。

俺が皿を洗い、姉ちゃんがそれを拭く。

そうしていると、なんで飯を食わないのだろうなんて疑念はどうでもよくなる。

わざわざ日常を壊すつもりはないのだ。


「んじゃ、着替えてくる」

「ん。私も、準備する」


顔を洗って部屋に戻り、着替える。

ワイシャツと制服のブレザー、スラックスを着用して、高校生の出来上がりだ。


《今日も冴えないモブキャラだな》


欠伸混じりに神が茶化してくる。

冴えないモブキャラ。俺の容姿だ。

長めの髪は姉ちゃんと同じようにカットしていて、あまり男らしくない。

そんな髪型に敢えてしているのには、もちろん海よりも深い理由があって。


《ただ単に女に振られただけだろうが》


うるさい。そんな単純に言い捨てるな。

とはいえ、それはかなり昔の話だ。

まだ俺が小学校低学年だった頃に好きだった女の子に、わたし好きなひとがいるの、なんて言われて、ぼくも好きなひとがいるよ、などと答えたら追求された挙句白状させられて告白的な言葉を口に出したらその女の子から振られたのだ。


なんでも。


《ごめん、異性としては見れない。だったか? マジ草。自殺するレベル》


神が声音を真似てトラウマを蘇らせる。

異性とは見れないお友達。残酷な言葉。

それ以来、スポーツ刈りだった髪を伸ばし、男であることを放棄した。やけだ。

あっさりした顔立ちなので違和感は皆無だ。

そんな俺の髪型を姉ちゃんは気に入った。


「寝癖、ついてるよ?」

「あ、悪い。ありがと」

「ん。じゃ、いこっか」


再び居間に戻った俺の寝癖を、女子の制服に身を包んだ姉ちゃんが直し、鞄を持って外に出る。そのまま2人で登校。


《手くらい繋いでやれよ朴念仁》


神の冷やかしもいつものこと。

聞こえない振りをしてポケットに手を突っ込む。ちらりと姉ちゃんを伺う。


やっぱりどう見ても女子高生だ。

そこまで短くはないけれど期待を裏切らない程度に露出されている細脚は、驚きの白さと滑らかさを併せ持ち、思わず頬ずりをしたくなる程で、当然ながらそのよこしまな考えは鋭い姉ちゃんに読まれており、こちらに視線を向けて一言。


「実は今日、パンツ履いてない」


時が止まり、一拍あけて再び動き出す。


「マジで!?」

「て、言ったら、喜ぶ?」

「なんだよ嘘かよふざけんな」


食いつくとちょっとだけ口角を上げて微笑み、俺を揶揄う姉ちゃん。罠だった。

落胆しているとスカートの裾をつまみ。


「いま、脱いだ方が、いい?」


なんて追撃は流石に間に受けずに、至極冷静に俺は返答する。ちょっと怒って。


「天下の往来で冗談はよせって」


行き交う車や通行人に見られたらどうするのだ。そんなことは容認出来ないね。


《だっせぇ独占欲だな》


神は嘲り、俺は仏頂面。

しかし姉ちゃんだけは機嫌よく。


「ん。帰ったら、ね」


俺の姉ちゃんは、少々痴女である。

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