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凡人と神様  作者: 遺志又ハ魂
第二部 【詰むまでの物語】
38/72

第37話 『死を望む気持ち』

「くっくっくっ……待つがいい」


炎のボブカットエルフを宥める痛い子。

エルフになってもその芝居臭さは相変わらず。

なまじファンタジー的な外見となった為に、余計に痛々しさが悪化してる。コスプレ的な。


「その人間はたった今、我の下僕に……」

「もう大丈夫だよ! 私の後ろに隠れてて!」

「えっ? あ、うん……邪魔してごめんね」


押しに弱いのも相変わらずか。頼りにならん。

聞く耳持たない生徒会長は、炎の剣を構えて。

その煌めき切っ先を俺に向け、冷酷な眼差し。


「何か申し開きはあるかい?」

「どうせ、聞いちゃくれないんだろ?」

「あは、わかっちゃった?」


ペロリと出した舌の赤さが、酷く残酷だ。


「お前はこの状況を楽しんでやがるよな?」

「んー? どうしてそう思うのかな?」

「俺はそれなりにお前の性格を知ってるから」


炎の生徒会長は前の世界をゲームと称した。

ゆえに、この炎のエルフも似たような性質。

誘拐事件に首を突っ込まずにいられないのだ。


「お前は、この手のイベントが好きだろう?」


俺が淡々と答えると彼女はキョトンとして。

それからいかにもおかしそうにくすくす笑い。

小悪魔めいた上目遣いで、俺を値踏みした。


「なになに? 君はもしかしてボクのファン?」

「確かに、お前は可愛くて、魅力的だよ」

「あはは。口説かれちゃった。嬉しいなぁ」


口調とは裏腹に、細めた目は冷え切っている。


「もし仮に俺が誘拐犯だとしたらどうする?」

「もちろん、叩きのめすよ。当たり前さ」


誘拐犯じゃなくても、手合わせ願いたいと。

好奇心旺盛なギラついた目を輝かせる。

ひりついた空気。戦闘開始前の緊張感。


まあ、会長との戦闘なんて、断固お断りだ。


「その前に、こいつを見てくれ」

「んん? なんだい、その布切れは?」

「見ての通り、女物の、パンツだ」


俺は何気ない動作で、闇のゲートを展開。

そこから、オレンジ色のパンツを取り出した。

絶句するエルフに転生した生徒会長。隙あり。

好機到来。極めて自然にそれを頭に装着した。


「どう思う?」

「嫌悪感が募るね。端的に、キモい」

「嫌わないでくれ」

「……泣いちゃうなら被らなければいいのに」


泣いた。グサッときた。死にたくなった。


「ほら、もう泣かないで? 冗談だから」

「頭を撫でてくれ」

「もう、しょうがないなぁ」


シクシク涙を流すパンツを被った俺の頭を、面倒見の良い生徒会長は、優しくなでてくれた。

その優しさに感謝して、泥棒スキルを発動。

前世での会長との記憶を、彼女に覗かせる。


「なに、今の……魔法? 幻術かい?」


白昼夢を見たように唖然とする会長エルフ。

燃え滾る炎の剣の火力が、みるみる弱まり。

鎮火したのを確認して、説明をする。


「いや、記憶さ。泥棒のスキルだ」

「それって、記憶を盗む魔法だよね?」

「知ってるなら、話が早い」

「その魔法にそんな使い方があったなんて」


泥棒のスキルについては知識があるようだ。

しかし、この応用は、初見だったらしい。

関心したような表情で、ふむと顎に手をやり。


「見たところ、この世界の記憶じゃないね?」

「ご明察だ。俺は別ね世界からやってきた」

「なにその主人公設定。嫉妬しちゃうなぁ」


むすっとした炎のエルフは、何かを閃いた。


「そうだ! いいこと思いついたよ!」

「そこはかとなく、嫌な予感がするんだが?」

「君はこの世界を侵略しに来た魔王なんだ!」

「はい?」


おやおや? 何やら雲行きが怪しくなってきた。


「くっくっくっ。魔王か……いいなぁ〜」


痛いエルフがキラキラした眼差し。馬鹿かな?


「いや、まあ、前世ではそんな役だったけど」


渋々認めると、生徒会長エルフは鼻息荒く。


「それならボクが君を倒せば勇者になれる!」


などと、訳のわからないことを申しており。

今度はこちらが唖然とする番だ。意外な一面。

この会長エルフは存外、精神年齢が低いのか?


「勇者になりたいのか?」

「いいや? 面白ければ、なんでもいいのさ」

「あーなるほど。お前はそういう奴だよな」


戦闘狂というか、バーサーカー的な?

うんざりして頭痛を堪えていると。

エルフ会長はまたもや炎の剣を作り出して。


「さあ、戦おう。久しぶりに燃えてきたよ」


周囲を猛火に包まれ、逃げ道を塞がれた。

頬を焦がす熱気が、彼女の本気を示している。

俺は一応、前世の記憶を持ち出して警告した。


「お前は一度、俺に負けたんだぜ?」

「それは別な世界のボクだろう?」

「そうだが……見たところ、同じ炎使いだろ?」

「それはどうかな……炎よ、ボクに力を!」


にやりと笑い、炎に語りかける。詠唱か?

先程よりも、もっと大きく、もっと高温で。

彼女から立ち上る炎が、鮮やかな青に変わる。


「ボクの指先へ光となりて、収束せよ!」


青い炎が、彼女の指先に凝縮され、収束。

それは例えるならば、ガス溶接のトーチ。

もしくは虫眼鏡の焦点か。レーザーみたいな。


「青き炎の剣が、万物を切断せしめん!」


天高く振りかざした輝く指先を、振り下ろす。


「えっ?」


光点が、俺の右腕の付け根を通過して、切断。

その威力に痛みを忘れて、息を飲む。

ボタリと、腕が地面に落ちて、我に返る。


これが詠唱の力。あと、めっちゃ、痛いお。


「ぐっ! なんつー切断力だよ!」

「前の世界より、強力だろう?」


慌てて腕で拾うが、切断面が焼け焦げている。

くっつけようとするが、上手くいかない。

炎のエルフっ子は、勝ち誇った様子。強い。


「くそっ! これならどうだ!?」


やけになって、右腕に噛み付いて、吸血。

右腕はすぐに砂となって、また生えてきた。

ほっと安堵する俺を、炎の会長エルフが嘲笑。


「へぇ、たいした生命力だね」

「記憶で見ただろ? 俺は吸血鬼だ」

「そんな生き物、この世界には存在しないからね。実際に見て驚いたんだよ。だけどさ」


強さを増した生徒会長は、嗜虐的な笑みで。


「これで首を刎ねたら、おしまいでしょ?」


それは困る……という程でもないか。

俺には転移魔法もある。首だけでも移動可能。

しかし、それでは先の戦いの焼き増しだ。


俺はもう、彼女を殺したくない。だから。


「頼むからもうやめてくれ! お願いだ!」

「あは。駄目だよ……やめたげない」


縦横無尽に指先を振り回すボブカットエルフ。

俺は念力で飛び回りながら、必死に回避。

身体にいくつもの切り傷を作りながら、説得。


「俺はお前と戦いたくない!」

「ボクは戦いたい。最高に楽しい気持ちだよ」

「どうしてそこまで戦いを求める!?」

「どうしてだって? それなら説明してあげる」


戦闘狂の炎使いのエルフは、一旦攻撃を止め。


「君はエルフについてどのくらい知ってる?」

「エ、エルフについて?」

「そう。ボクらは、どんな種族だと思う?」


突然の問いかけに戸惑いつつ、記憶を探る。

前の世界のファンタジー知識を掻き集めて。

俺が知る限りのエルフの設定を、口にした。


「エルフは、耳が長くて、美しくて……」

「褒めてくれてありがと。あとは?」

「あとは……とても、寿命が長い、とか?」

「その通り! 大正解だよ!」


大きく頷いて、肯定。反面、声音は苛立って。


「エルフは長生き。だから、退屈なんだよね」

「た、退屈……?」

「そ。ダラダラと、ただ生きているだけ」


吐き捨てるように、その特性を、毛嫌いして。


「ボクは退屈が大嫌い。死んだ方がマシさ」


ああ、そうか。納得した。実に彼女らしい。


前の世界でもワールド・オーナーに挑んだ。

勝ち目とか、勝算なんかは、度外視。

退屈を嫌う生徒会長に、エルフは似合わない。


でもさ。


だからって、死んだ方がマシとか、言うなよ。


「俺は、お前がこの世界に居て、嬉かった」


嬉かった。自分が殺した相手に、また会えて。


「だから、もう殺したくない。生きて欲しい」


心からの願い。しかし、それは相手に届かず。


「なに勝手なことを言ってるのかな?」

「ぐあっ!?」


右足を切られ、蹲る。会長エルフは歩み寄り。


「ボクの生き方に、文句を言わないでよ!」

「ぐはっ!?」


顔面を踏みつけられた。げしげしと、何度も。


「君にボクの気持ちがわかるのかい!?」

「わかんないよ! 死を望む気持ちなんて!」

「ならわかってよ! 生き地獄から解放して!」


生き地獄。そう言われて、はっとした。

俺にも覚えはある。状況は全く異るが。

死にたくても、死ねない、吸血鬼の身体。

最後には廃人になって、死を望んだ。


彼女は、その時の俺と、同じかもしれない。


だったら、殺してやることが、償いに……?


「は〜い。そこまで〜喧嘩はよくないよ〜」


馬鹿な考えが過ったその時、間延びした声が。


「なんだ、起きちゃったのかい?」

「あはは〜寝たふりだったのでした〜」


声の主は、気絶していたもう1人の被害者。

そして、いつの間にか俺の周囲には、結界が。

踏みつける炎のエルフの足を、防いでいる。

それは俺の結界よりも、何倍も分厚くて。

ふわふわと、優しく包み込んでくれていた。


「もう大丈夫。私が守ってあげるよ〜」

「ありがとう……ダルっ子」


涙ぐみながら転生したダルっ子エルフに感謝。

すると彼女はポカンとしつつも、朗らかに。

俺の前で両手を広げて、会長エルフを叱った。


「ちょっと、やりすぎじゃないの〜?」

「ごめん。少し、熱くなりすぎたかも」

「とりあえず、仲直りしよ〜ね?」


ダルっ子エルフが俺を立たせて、互いに握手。


「ほら、ちゃんと謝って〜」

「ごめんよ。つい、カッとなって」

「いや、もういいよ。俺も無神経だった」


互いに頭を下げる。俺は被害者だけれど。

しかし、エルフの長寿に理解が足りなかった。

会長エルフの気持ちを、汲み取れなかった。

それについては、反省するべきだろう。


反省して、もう同じ過ちを繰り返さない為に。


「くっくっくっ。余興はもう終わりか?」


そこで空気が読めない痛いエルフが口を挟み。


「こらっ! ちゃんと止めてあげなよ〜」

「あぅ……ご、ごめんなさい」


ダルっ子にめっとされて、しょんぼり反省。


「それじゃ、とりあえず里に帰ろ〜」

「里?」

「エルフの里だよ〜君もおいで〜」


場を収めたダルっ子が、帰宅を提案。

彼女達はエルフの里に住んでいるらしい。

エルフ里か……とても興味が唆られる。

招待に預かり、期待に胸を膨らます俺をよそに、ダルっ子は怠そうに痛い子の背に乗った。


ダルっ子をおんぶした痛い子は、念力で浮上。


「それじゃ、里までレッツゴ〜!」

「ふははっ! 我についてこれるかっ!?」


そのまま猛スピードで飛び去った。

いけね。置いてかれると思い、焦っていると。

炎のエルフに、くいくいと袖を引かれた。


「ん? どうかしたか?」

「君も念力が使えるんだろう?」

「ああ、使えるけど……」

「なら、ボクを乗せてくれないかい?」


どうやら念力で運んで欲しい様子。でも何故?


「お前は念力を使えないのか?」

「エルフにも得手不得手があるんだよ」

「そうなのか。じゃあ、背中に乗れよ」

「ありがとう! それでは、失礼するよ」


エルフにも苦手な魔法が存在するらしい。

俺は快く、彼女を背中に乗せて、感触に感動。

やっぱり女の子は柔らかい。いい匂いがする。


ふがふが鼻を鳴らしていると、耳を噛まれた。


「あひゃっ!?」

「あ、ごめん。つい、意地悪したくなって」


くすくす笑いが耳朶を打ち、俺は悶絶して。


「もっと、虐めてくれ」

「あは。君は素直だね。虐めて欲しいの?」

「会長と、もっと仲良くなりたいから」

「しょうがないな〜仲良くしてあげるよ」


なんか言ってて恥ずかしい。念力で浮上。

照れを誤魔化すように、痛い子を追う。

夜風はそれほど冷たくはない。結界は不要か。


青い月光が、身体の傷を徐々に癒してくれた。


「ところで、吸血鬼くん?」

「なんだ?」

「いつまでパンツを被っているのかな?」


言われて気づく。パンツを被ったままだ。

そんな有様で死闘を演じていたのか。

とても恥ずかしい……いや、誇らしいな。


「そのくらい、会長が大事ってことだよ」

「いや、意味がわからないから。これは没収」

「そんなっ!?」


ひょいとパンツを取り上げられた。横暴だ。


「返せよ! それは大切な思い出なんだよ!」

「それなら、新しい思い出を作ってあげる」


喚くと、会長は耳元で甘ったるく囁いて。


「ほら、よく思い出してみて。君の記憶の中のボクは、お股に何かを貼ってたよね?」

「絆創膏のことか?」


そういや、会長は絆創膏を貼っていた。

あれは素晴らしかった。センスに溢れてた。

しかし、それが今、なんの関係があるのか?


「同じようなものを、今貼ってるとしたら?」

「それは、マジか?」

「うん。マジだよ。マジカルだよ」


まさにマジカル。アンビリーバブル。最高だ。


「そしてボクは今、ブラをつけてない」

「それも、マジか?」

「うん。マジだよ。ほら、感じるでしょ?」


言われて見れば、背中に何か当たっている。

エルフの薄いローブを隔てて、伝わる感触。

柔らかな彼女の胸に存在する、それは芯だ。


それをこちらの背中に擦り付けて、甘い息。


「全力を出したから、感じちゃった」


なんとあざとい。俺は大興奮で全力飛行。


「いやっほーい!」

「んなっ!? こら! 我を追い抜くな!」


先行していた痛いエルフをぶち抜く。

通過する際に、彼女の下着も見えた。

真っ赤な下着。痛い子はやはり意外と大胆。


テンション上がりまくりの俺は、ふと気づく。


「なあ、会長」

「ん? なんだい?」

「お前はそんな格好で俺を踏みつけたのか?」


痛い子の下着で、踏みつけ攻撃を思い出した。

会長エルフは股に絆創膏を貼っているらしい。

そんな格好でげしげしと踏みつけたとすれば。


「うん、そうだよ。見てなかったの?」

「くそっ! 何やってんだ、俺は!?」


血の涙を流して、悔やむ。ありえない失態。

どうして、どうしてあの時見上げなかった?

何を考えていたんだ俺は。死を望む理由?

んなもんどうでもいい。絆創膏が見たかった。


「あは。残念でした。……また今度ね」


悔しがる俺の首筋に会長エルフはキスをした。


すると、不思議なことに気持ちは晴れて。

まあいっかと、思いながら。

エルフの里へと、向かったのだった。

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