第35話 『聖女の慈悲』
「さて、どうしたもんかね」
砂漠のど真ん中で胡座をかいて思案に暮れる。
不死身の俺はどうしたら死ねるのか。熟考。
神やかわゆいボスも不死身だったが、死んだ。
2人に共通するのは、俺に吸血されたこと。
ならば、俺も血を吸われれば、死ぬ筈だ。
試しに自分の腕を噛んで、吸血してみる。
「う〜ん……やっぱり、駄目か」
俺が吸った血液は体内を循環しただけだった。
しばらく吸ってみたが、まるで死ねない。
他の方法を模索しよう。何かしらの弱点など。
「光属性の魔法があれば、死ねるかな」
なんとなく、そう思った。ゲーム脳である。
吸血鬼は聖なる光に弱いイメージがある。
炎耐性により日光を克服した俺でも死ぬ筈だ。
「あとは、除霊とか? お祓い的な?」
除霊にお祓い。オカルト頼み。
これまでそんなものはまるで信じてなかった。
幽霊や宇宙人なんて存在しないと信じていた。
けれど、自分が化け物になって、覆された。
そうだ、俺は人外だ。
ならば、オカルトが通用する筈。
ニンニクだって効いたじゃないか。
もっとも、毒耐性のある今じゃ効かないが。
先程の兵器による汚染も、全く問題ないしな。
「あれで、死ねないんだよな……びっくりだ」
爆心地から立ち昇るキノコ雲を眺める。
改めて、自らの馬鹿げた生命力に、溜息。
まさか、これ程とは、思わなんだ。
事ここに至り、改めて忠告の意味を理解した。
素敵な大泥棒は言った。
全てを忘れて、普通に暮らせと。
優しい魔王のスライム姫は提案した。
全てを諦めて、共に生きようと。
裏切り者の神は言った。
自分が殺して、楽にしてやると。
その意味が、ようやくわかった。
『化け物は、怠惰でなくてはならない』
その真意も、ようやくわかった。
強大すぎる化け物は、死ぬことすら出来ない。
だから、強くなりすぎてはいけないのだ。
存在しているだけで、悪影響及ぼすのだから。
「ま、今更だよな。とにかく、試してみよう」
前向きに、死ぬ方法を検討、試験してみる。
とりあえず、光魔法の使い手を探そう。
これまで出会ったことのない属性である。
恐らく、神社仏閣辺りにいるのではないか?
とりあえず俺は、自分の町の神社に転移した。
「お? こっちは丁度、夕暮れ時か」
見知った鳥居は、夕陽を受けてそびえていた。
いつの間にか、季節は冬。雪が積もっていた。
山中に伸びる山道を見上げて、思い出す。
そういや、毎年姉ちゃんと初詣に来たな。
神の声が聞ける俺が神社に初詣など、笑える。
それでも、姉ちゃんの振袖姿が見たくて。
「いや、感傷に浸ってる場合じゃないか」
とにかく、山道を登ろうとして、違和感。
なんか薄っぺらい膜が、鳥居に張ってある。
結界だろうか。そんもん関係ないけどな。
泥棒スキルで結界内にやすやすと進入した。
サクサクと雪道を登っていくと、囲まれた。
「そこの者、待たれい!」
修験者風の体格の良い男の集団。怖いお。
「いや、俺は別に怪しいもんじゃ……」
「怪しすぎるわ! たわけ者!!」
敵意がないことを示したが、無意味だった。
何故だろう。自分の服装を見下ろしてみる。
失礼がないようにと、黒のタキシード姿。
シルクハットだって、ちゃんと被っている。
それからヒヒイロカネ製のステッキを携えて。
どこからどう見ても、完璧な紳士じゃないか。
「ボ、ボンジュール」
「ふざけるな! どうやって結界を破った!?」
シルクハットを掲げて挨拶するが、無視。
真っ白な荒い息を吐いて、臨戦態勢な修験者。
やれやれ、事を荒立てたくはないのだが。
「あんなペラペラな結界、意味あんのか?」
「ぬけぬけと……何が目的だっ!!」
怒ってる怒ってる。一応、素直に答えよう。
「ここなら死ねるかなと思ってさ」
「ならば我らが滅ぼしてくれよう!」
修験者が襲いかかってきた。リンチされる。
なんか棒でボコボコに殴られた。でも平気。
しかし、こいつらは雑魚だった。一般人並。
何も特別な力は感じない。全然、痛くない。
これはハズレかな、と思ったら、女の声。
「ようやく来たわね! あたしの宿敵が!!」
凛と響く、真の強そうな声音。いい声だ。
視線向けると、1人の巫女さんが佇んでいた。
深い藍色の髪を、ポニテにして束ねている。
あれ? 巫女さんってポニテNGじゃないの?
まあ、可愛けりゃ、何でもいいか。美少女だ。
巫女さんは射殺すような眼差しで、歩み寄る。
「ひ、姫巫女さま! お下がり下さいっ!」
「うっさい」
修験者の諫言をばっさり切り捨てる。
そのまま俺の眼前に来て、至近距離で睨む。
しかしながら、この巫女さん、チビである。
痛い子よりも小さい。中学生だろうか?
中学生の姫巫女か……萌え要素の塊だな。
「何その目。馬鹿にしてんの?」
「大丈夫だ。JCはギリギリ対象内だから」
「誰が中学生よっ!」
「ぶへっ!?」
張り手をかまされた。頬がジンジン痛む。
腰に手をやって偉そうに顎を上げる巫女さん。
ヒヒイロカネの硬度が通用しない、光属性。
間違いない。この中学生は、本物だ。
修験者がどよめくのを尻目に、耳打ちされた。
「何ぼさっとしてんのよ、あんたの手番よ」
「は?」
「いいからさっさとあたしを攫いなさい!」
「へっ? あ、あの、ちょっと!?」
姫巫女はいきなり俺に飛びついて、叫んだ。
「キャー! 乱暴しないでー!?」
「はあっ!?」
乱暴したのはそっちだろうが!
そんな俺の冤罪はもちろん認知されず。
修験者達がギラついた視線で罵声を浴びせる。
「この下郎! なんと羨ましい!」
「姫巫女さんはどんな匂いだこの野郎!」
「柔らかいのか!? どうなんだ!?」
こいつら……修行が全然足りてないらしい。
もちろん、いい匂いだし、柔らかいのだが。
いちいち答えるのも億劫だ。攫っちまおう。
「しっかり捕まってろよ!」
「ひゃほーいっ!」
お姫様抱っこして、念力で浮上。
喚く修験者を置き去りに、夕闇に消える。
巫女姫とやらは、随分楽しそうだった。
しかし、しばらく飛行して、異変に気づく。
「ん? なんだよ、震えてんのか?」
「見ればわかるでしょ!? 寒いのよ!」
ガタガタ震える姫巫女。巫女服は生地が薄い。
それによく見ると裸足だ。しもやけになるぞ。
青白い唇を尖らせて、赤くなった鼻を鳴らす。
「ふんっ! 気づくのが遅いわよ!」
「そりゃ失敬」
結界を展開して、冷たい外気を遮断。
しかし、それで暖が取れるわけではない。
炎魔法は加減が難しいからな。やめとこう。
自宅から防寒着でも持って来るとしよう。
「とりあえず、俺の家に向かうぞ」
「さっさと行けっ!」
「はいはい」
暴虐無人な姫巫女に辟易としつつ、帰宅。
「とりあえず、そこに座って待ってろ」
「ふん! しけた家ね!」
リビングに通して、ソファに座らせた。
口調とは裏腹に、興味津々な様子の姫巫女。
俺は姉ちゃんの部屋に向かい、箪笥を物色。
白いファー付きのダウンジャケットを確保。
リビングに戻ると、姫巫女はむっとして。
「遅いっ!」
「ごめんごめん。ほら、これを着ろよ」
「仕方ないから着てあげるわ!」
ダウンジャケットを放ると、素直に着用。
巫女服とダウンジャケットの相性は抜群だ。
ついでに持ってきた、モコモコ靴下も手渡す。
「これも履いとけ」
「いらない」
「なんでだよ。裸足じゃ寒いだろ?」
「あんたが温めなさいよっ!」
「どうやって?」
「吐息をかけて、手で揉んで!」
「よろこんで!」
嫌々ながら、姫巫女の御足をスリスリ。
丁寧に吐息をかけて、しもやけを癒す。
そんな甲斐甲斐しい俺に、彼女は鼻を鳴らし。
「あんた、糞魔王でしょ?」
「そんな汚い名前の魔王は知らないな」
「ふーん。それじゃあ、あれは誰?」
姫巫女がリビングのテレビをつける。
すると、特番が放送されており、俺の顔が。
世界最悪の糞魔王として紹介されていた。
テレビを消して、素直に認める。
「いかにも。我こそが糞魔王なり」
「この嘘つき! 死ねっ!」
「へぶっ!?」
顔面を蹴られて、悶絶。癖になりそうだぜ。
「どうしてあんな悪事を働いたのよ?」
「いや、それが、かくかくしかじかで……」
尋ねられたので、経緯を説明する。すると。
「到底、信じられないわね!」
「だと思ったよ。なら、こうするまでだ」
「なっ!? 何すんのよ!?」
姫巫女をソファに押し倒して、額を接触。
泥棒スキルで、記憶を覗かせる。
暴れていた姫巫女は、すぐに大人しくなって。
「そう……だから、私に殺して欲しいのね?」
「理解が早くて、助かるよ」
納得した彼女の上から退く。溜息が漏れた。
リビングは、変わり果てた有様だ。
大犯罪者の自宅には、ガサが入っていた。
留守中に、警察が色々と物色したのだろう。
ダウンジャケットが残ったのは、幸いだった。
姫巫女が、憔悴する俺の肩に手を乗せる。
「あんたの願いはわかったわ」
「お前なら俺を殺せるのか?」
「あたし1人の力では、無理ね」
その言葉にがっかり。姫巫女にも無理なのか。
じゃあ、どうしよう。泣きそうになる。
死なないと駄目だ。大勢の人が死んでしまう。
もう、人を殺したくない。拳を握りしめる。
その拳に姫巫女は柔らかな小さい手を乗せて。
「外国に、あたしと同じ力を持った子がいる」
「お前と同じ力? 光魔法の使い手か?」
「その子と力を合わせれば、きっと殺せる」
姫巫女は力強く、断言した。俺は、嬉しくて。
「ありがとう! 大好きだよ中学生っ!!」
「だから誰が中学生よっ! 触んなっ!!」
「ぼへっ!?」
思わず抱きつくと、みぞおちに一撃。ご褒美。
ソファから転げ落ち、ゲーゲーしていると。
姫巫女は俺の頭を素足で踏みつけ、高らかに。
「あたしは高校生よっ! 通ってないけどね!」
自らが合法ロリであることを、宣言した。
「んじゃあ、そのシスターのとこに行くか」
「さっさと飛んで」
「転移魔法も使えるけど、どうする?」
「あたしは空が飛びたいのっ!」
長居は禁物。ということで、家を出た。
姫巫女は空が飛びたいようなので念力を使用。
見慣れた我が家が、遠ざかっていく。
恐らく、これが最後となるだろう。
姉ちゃんとの思い出が詰まった、自宅。
姉ちゃんのヘッドホンは、机に仕舞ってきた。
代わりに、自分の物を異空間にぶち込んだ。
MP3プレイヤーの充電器も、忘れずに。
この家から、俺の痕跡を、消してきた。
犯罪者の家と呼ばれるのが、嫌だったから。
「すごーい! たかーい!」
「そんなに高いところが好きなのか?」
「あたしはお外が好きなのっ!」
念力による高速移動とはいえ、長旅だ。
道中、様々なことを話した。俺の身の上話。
そして、姫巫女の境遇などを、聞いた。
「あたしはずっと軟禁されてたのよ」
姫巫女の力は、稀有だった。希少な存在。
ゆえに、神社の奥にて、軟禁されていた。
自由な外出は不可能で、窓すらない生活。
「ずっと、この日を夢見てたわ」
彼女の幼少時、白き神より信託が下った。
それは、将来現われる魔王を滅ぼすこと。
その日まで、姫巫女は丁重に保管された。
そしてついに、滅ぼすべき魔王が、現われた。
「本当はもっと早くあなたに会いたかった」
「会いに来てくれたら良かったのに」
「修験者達が臆病者だから行けなかったの!」
なるほどな。姫巫女が心配だったんだろう。
「あんたこそ、真っ先に会いに来なさいよ!」
「んな無茶な。俺は廃人だったんだぜ?」
「今だって、大して変わりないわよ!」
姫巫女は俺の言い訳を一蹴して、鼻を鳴らし。
「これから死ぬ癖に、随分と嬉しそうね」
「ああ、嬉しいよ。ほっとしてる」
「歪みすぎ。正直、気持ち悪いわ」
「キモイついでに、実はこのタキシード」
「なによ?」
「俺の体毛で出来てたりするんだよね」
「キッショ!? 汚いっ! 触らないで!」
「ワハハ。そこは丁度、胸毛あたりだな」
「いやぁああああああ!?」
意外と優しい姫巫女を揶揄いつつ、目的地へ。
「ここで間違いないのか?」
「ええ、この教会よ」
なんかめっちゃ立派な教会なんですけど。
それこそ、ファンタジーな建物だ。
俺は扉を開けられないので、姫巫女が開ける。
すると中には、神官服のお爺様方が。
「化け物め、教会に土足で踏み込むとは」
「神聖な教会に何用じゃ」
「悪魔に与える恵などありゃせんぞ」
あ、修験者と同じ反応だ。酷い言い草だな。
「えっと、シスターに会いたくて……」
「なんと! 目的は聖女様かっ!?」
「そこの少女同様に拐かすつもりか!?」
「そしてあんなことやこんなことを……」
「許せんっ! 万死に値するっ!!」
こっちも修行が足りないようで。元気だな。
「とにかく、シスターに会わせてくれ」
「我ら枢機卿が聖女様を危険に晒せるか!」
残念。一戦交えるのがチュートリアルらしい。
枢機卿とやらのおじいちゃん達と戦闘開始。
姫巫女ちゃんは、我関せずで傍観している。
ギャラリーも居るので新しい装備を取り出す。
「むっ! なんじゃ、その黄金の盾は!?」
「ヒヒイロカネ製の特注品だよ」
「悪魔の癖に、金の盾とは何事かっ!!」
うるせえ。金の盾くらい持たせろよ。
じいちゃん達は、正直ヨボヨボ。
しかし、手に持つ十字架を模した剣は逸品。
試しに軽く斬られたら、再生が遅い。
遅ればせながら気づく、吸血鬼の弱点。
ニンニク同様、十字架に弱いようだ。
しかし、剣筋が悪すぎて、致命傷にならない。
じいちゃん達、もうちょっと励もうな。
「よっと。やっぱり、盾なら防げるんだな」
金の盾で剣を弾く。盾や鎧でカバー出来る。
十字架とはいえ、その程度か。しょぼいな。
欠伸をしつつ爺さん達の剣撃を凌いでいると。
「あらあら、まあまあ」
修羅場にそぐわぬ、柔らかな美声が響いて。
「皆さん、お客様に失礼ですよ?」
「せ、聖女様っ!?」
聖女様とやらが、聖堂においで下さった。
まるで金糸のように細く、美しい長い金髪。
純白の法衣に身を包み、ニコニコ笑っている。
特筆すべきはその大きな胸。かなりの存在感。
神やスライム姫ほどではないが、生徒会長よりは大きく、新聞記者よりは幾分か小さい。
なんだろう。つい、飛びつきたくなる胸だ。
きっと、柔らかくて、温かくて、幸せだろう。
そんな俺の煩悩を敏感に感じ取った姫巫女が。
「あたしの友達をいやらしい目で見ないで!」
「げぶぉっ!?」
強力なレバー。思わずその場に蹲る。
巫女姫さんは微乳だから嫉妬してるのかも。
すると、それを見て、聖女様は目を丸くして。
巨乳を揺らして駆け寄ってきた。神々しい。
「ようこそいらっしゃいました」
「会えて嬉しいわ」
「ついに、その時が来たのですね?」
「見ての通りよ」
「それではどうぞ、私のお部屋へ」
意外にも英語がペラペラな姫巫女。
道中聞いたところによると、軟禁中に暇だったから勉強していたらしい。素直に偉いと思う。
トントン拍子に話は進むが、枢機卿が騒ぐ。
「聖女様! 危険ですぞ!」
「純潔を奪われては大変です!」
「なんなら儂がその前に純潔を……」
「いや、儂じゃ! 引っ込んどれ、おいぼれ!」
駄目だこのじじい共。呆れていると聖女様が。
「お黙りなさい。私の使命をお忘れですか?」
「も、申し訳ありません」
まさに鶴の一声。枢機卿はその場に平服した。
「さあ、参りましょう」
コロコロと鈴を転がすように笑い、促す。
聖女様に先導されて、教会の地下へと潜る。
最奥の部屋は、甘い香りで満たされていた。
「お邪魔するわ!」
「いい部屋っすね」
「散らかっていて、恥ずかしいですわ」
慌てて片付けを始める聖女様。初々しい。
たしかにちょっとごちゃついているな。
ガラスのフラスコなんか、何に使うのだろう。
片付けを手伝おうと、手を伸ばすと。
「あ、それは……!」
「触ったら不味かったですか?」
「いえ、実はそれは聖水でして……」
なんと、フラスコの中身は聖水らしい。
流石聖女様だ。聖水を生み出せるのか。
そこでふと、気になった。聖水? 聖水だと?
「あの、付かぬ事をお聞きしますが……」
「はい、なんでしょう?」
「聖水って、その……どうやってお作りに?」
「ッ!?」
聖女様のほっぺが薔薇色に染まる。ビンゴだ。
そりゃ、なんてったって、聖水だからな。
ヒヒイロカネの幼女と、同じ理屈だ。
光魔法の使い手が生み出す、聖水なんだから。
いや、まだだ。まだ喜ぶのは、早い。
「ねぇ、教えて下さいよ……聖女様」
「そ、そんなこと……言えません」
「言えよ。言って、楽になっちまえよ」
俺は不敵な笑みを浮かべ、聖女を追い詰める。
両手をわきわきしながら、にじり寄る。
背後は簡素な寝台。つまずいて、転んだ。
「きゃっ!?」
「おおっとぉ? なんだぁ? 誘ってんのか?」
「違っ……!」
「聖女様……俺の二つ名、ご存知ですか?」
「な、なにを……?」
「俺は尿意促進魔法が得意中の得意でしてね」
「や、やめて下さいっ!」
ベッドに押し倒し、舌舐めずりをして、脅迫。
「なら、言っちゃえよ。聖水の正体をよ?」
「そ、そんな……!」
「じゃあ、俺が代わりに言ってやろうか?」
「やめ……て」
「ネタは上がってんだよ! 聖水の正体は……」
「やめてぇえええええっ!?!!」
その正体を告げようとした、その時。
「あんた、いい加減にしなさいよっ!?」
「ぐっへぇっ!?」
「きゃああああああああっ!?!!」
姫巫女が、思い切り尻にミドルキック。
弾みで聖女様の巨乳にダイブ。胸に溺れる。
そんな不埒な俺の尻を姫巫女が蹴りまくる。
「本当に最低ね、この糞魔王は!!」
「う、生まれてきて、ごめんなさい」
謝罪しつつ生きてて良かったと思う。心から。
閑話休題。
「というわけなんです」
「なるほど……そんなことが……」
これまでの経緯を聖女様にも伝える。
彼女は哀しげに目を伏せて、同情してくれた。
余談だが、あの慈悲深い聖女様の境遇も、姫巫女と同様に軟禁生活だったようだ。痛ましい。
そんな彼女は、俺を豊満な胸に抱き寄せて。
「わかりました。貴方の願いを叶えましょう」
よしよしと撫でて、願いを受け入れてくれた。
すると、姫巫女もベッドに上がってきた。
なんだなんだ、濡れ場の予感。ドキドキ。
「覚悟はいいの?」
「ええ。この為に、生きてきましたから」
「あたしも同じ。やっと役目を果たせる」
真剣な表情で意味深なやり取りを交わす2人。
しかし、俺は美少女に挟まれてヘブン状態。
堪らない気持ちで、ワクテカしていると。
「それじゃあ、いくわよ」
「はい、よろしくお願いします」
ボタボタッと、顔に何かが降って来た。
きょとんとして、2人を見上げると。
姫巫女の手には、いつの間にか、小太刀が。
それが、聖女様の手首に、食い込んでいた。
意味がわからず、困惑していると。熱い。
熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い。
滴った鮮血が、熱い。溶けた鉄のようだ。
「ぎゃああああああああああっ!?!!」
「すぐ、済みますから……!」
瀕死の聖女様の抱擁による、拘束。
灼熱の血を振りまき、しがみついてくる。
その青白い顔は、悲壮で、悲痛であり。
「あんただけを、死なせたりはしない」
姫巫女もまた、己の手首を切り裂き、抱擁。
2人の聖なる血液が、俺を溶かしていく。
熱耐性など、何の意味も持たない、光魔法。
これが、不死身の吸血鬼たる俺を殺す方法。
「お、お前らまで、どうして……!」
「お独りで死ぬのは、お寂しいでしょう?」
「ッ!?」
焼け爛れて、溶けながら、理解した。
姫巫女と、聖女様の、優しさ。慈悲深さを。
俺が寂しいと思って、付き合ってくれた。
「ふん、勘違い、しないでよね」
「姫巫女……」
「使命だから、仕方なく、よ」
これが彼女達に課せられた、使命。
魔王を殺す為に、人柱となること。
これを成し遂げる為に彼女達は生まれてきた。
罪人と共に死んでくれる、慈悲。慈愛。
この2人こそ、真の聖女と呼ぶに、相応しい。
ならば、俺は感謝しよう。滂沱の涙を流して。
「ありがとう……助かった、救われた……!」
この2人がいなければ、詰まなかった。
遠からず、世界を滅ぼしていただろう。
彼女達のおかげで、罪を重ねずに、済んだ。
焼けながら、溶け落ちながら、涙を拭う。
そんな俺に2人は寄り添い、出血した手首をこちらの胸に乗せ、優しい声音でお別れを告げた。
「おやすみなさいませ……優しい魔王様」
「もう、悪夢を見ないことを、祈ってるわ」
最後に残った聴覚に届き、そして消える。
平凡だった主人公の奇妙な一生が終わる。
ようやく詰むことが出来たかに、思われたが。
「あれ? どこだ、ここは……?」
唐突に、覚醒する意識。
視覚、聴覚、触覚が回復。
知らない場所だ。森の中みたいだ。
鬱蒼と生い茂る草の中で、目が覚めた。
「まさか、まだ死んでないのか……?」
むくりと、起き上がる。
身体を眺める。何故か全裸。
自分の身体だ。異常はない。
けれど、現在地がわからない。
「とにかく、森の上から見渡そう」
念力を使ってみる。浮いた。そのまま上昇。
「なんだここは……アマゾンか?」
そこは見渡す限りの、森林。
地平の先まで、木で覆われている。
視線を巡らせて、目を疑う。
「なんだ、あの、馬鹿デカい木は……!?」
それは巨大な、一本の大木。
否、巨大なんてものじゃない。
木の先端は、雲に隠れて、見えない。
明らかに、地球上の植物では、なかった。
「てことは、ここはもしかして……?」
もしかしなくても、ここは俺の世界ではない。
いやはや、なんともご都合主義的展開だ。
ほらな? プロローグで申し上げた通りさ。
オチまで含めて、つまらない話だったろう?
そう、ここまでが、【詰まらない物語】だ。
不死身となった俺は、死んでも、詰まらない。
詰まらなかった俺の、次の物語が幕を開ける。
その舞台はお分かりの通り、異世界である。
これにて第一部は終わりです。
次回からは第二部が始まります。
これからもどうぞ、よろしくお願いします。




