第34話 『復讐者の末路』
「とりあえず、逃げよう。そうしよう」
隆起した校庭をどうすることも出来ずに、このまま逃走することにした。空間魔法を使おう。
千里眼で目的地の自宅を補足。ゲートを開く。
「んん? デカくなってるぞ」
また頭部のみを転移させようとしたら、なんかゲートが大きい。成人男性が潜れる大きさだ。
考えられるのは、スキルの成長。努力の結果。
今晩だけでも相当使ったからな。それから。
「神の莫大な魔力の恩恵ってことか?」
俺が吸い尽くしたであろう、神の魔力。
それも少なからず影響しているのだろう。
まあ、真偽の程は定かではない。死んだから。
「これなら、ちょっと寄り道していくか」
格段に便利になった空間魔法で寄り道をする。
幾つかの地点にて、小用を済ませて、自宅へ。
ちなみに、あの路地裏やギルドにも行ってみたが、人っ子ひとりいなかった。無人だった。
もしかしたら、もう異能力者はいないのかも。
俺が狩り尽くしてしまったのかも知れない。
そう思うと、余計に孤独感が強まり、寂しい。
「ただいま〜……やっぱり、誰もいないか」
自宅に入り、またも虚しい独り言を漏らす。
頭ではわかっていても、つい期待してしまう。
実は姉ちゃんは生きていて、俺の帰りを待っているのではないかと。儚い妄想。夢まぼろし。
「とりあえず、遺品を整理しよう」
独りになると、独り言が増えるらしい。
誰もいない家の廊下を進み、自室へ。
電気を点けずとも、月明かりで十分な明度。
「ここがいいかな、よし」
部屋の窓のそばで、空間魔法を展開。
寄り道ついでに回収した荷物を取り出す。
それは、ダルっ子のベッド。その他の遺品。
ベッドがあまり豪奢でなくて、良かった。
天蓋が付くようなサイズだと、持ち帰れない。
「はあ……くたびれた」
ダルっ子の香りが染み付いたベッドに転がる。
部屋には自分のベッドもあるが、今日はダルっ子のベッドに寝たかった。癒されたかった。
しかし、妙な香りが。げっ! ニンニクかよ。
毒耐性がついたので平気だが、臭いのは嫌だ。
窓を開けて、投げ捨てる。これでよし、と。
しばらくゴロゴロしていると、背中に異物感。
「ん? ……ああ、これか」
布団の中に手を入れると、ガラス玉があった。
ダルっ子が生前披露してくれた物理結界の玉。
どうやらこれは死後も残ったらしい。遺品。
ガラス玉を月に翳して眺めながら、ため息。
吸血後に残った遺品は少ない。数える程だ。
どのような理屈なのかは定かではないが、身に付けていた衣服などはまとめて砂となった。
結局、残った遺品は、6点のみ。
生徒会長のオレンジ色の下着、上下一式。
金ピカ幼女の鎧一式。
大泥棒愛用のデュポン。
姉ちゃんの私物入り、ボストンバック。
ダルっ子のベッド。
優しい魔王様のパイプ。
それらの遺品を一点ずつ、手にとって眺める。
生徒会長は死ぬ前に下着を脱ぎ、遺した。
金ピカ幼女はヒヒイロカネの鎧を遺した。
大泥棒は高価そうなデュポンを遺した。
姉ちゃんの私物は大半が下着。ヘッドホンも。
ダルっ子のベッドは安物ではあるが心地良い。
優しい魔王様のパイプは美しい水色の陶器製。
それぞれ、思い出深い物ばかりだ。
大泥棒のデュポンを開くと、キンッと金属音。
開いて閉じてを繰り返しながら、故人を悼む。
俺が殺した全ての者達に、感謝と懺悔を。
彼らの能力のおかげで、神を殺せた。
キンッ……キンッ……デュポンの音が響き渡る。
その美しい音色を聴きながら、省みる。
自分がしたこと。その結果、何が遺ったか。
「なんにも……遺らなかったんだな」
神を殺す目的は果たした。この手で殺した。
あれだけ渇望していた、神の死。
姉ちゃんの仇を討った。だが、無意味だった。
「仇を殺しても……生き返る訳じゃない」
そんな当たり前のこと、最初からわかってた。
その証拠に、姉ちゃんはいない。もういない。
こんな結末の為に、俺は沢山の人を殺した。
だけど、どうしても、殺したかった。
結局、最期まで神は謝らなかった。
謝って欲しかった。あいつを、許したかった。
だけど、その甘えを、神は許さなかった。
神を殺す為に、沢山の人を殺したのだ。
その復讐対象を許すような結末は許されない。
殺してきた全ての者達に、不誠実だ。
だからこそ、俺は神を殺し、独りになった。
ならば、この孤独はその報いだろう。罰だ。
「償う相手がいないのが……たまらないな」
償うべきは、故人だ。俺が殺した全ての者達。
彼らに謝りたかった。それすらできない。
間違っていたとは思えない。思いたくない。
しかし、彼らは俺の我儘の被害に遭った。
巻き込み、巻き込まれ、巻き添えにした。
そのことだけは、心底申し訳なく、思った。
それから数日、いや、数週間かも知れない。
俺はダルっ子のベッドの上で、懺悔し続けた。
朝陽が昇り、夕陽が沈み、何度も夜が来た。
腹は空かないが、喉は渇く。吸血衝動である。
しかし、これ以上、過ちは繰り返せない。
喉の渇きを埋める為、下着を頬張った。
生徒会長と、姉ちゃんの下着。
モグモグして、洗濯。それを繰り返した。
俺はどう見ても、廃人だった。復讐者の末路。
気分転換に姉ちゃんのヘッドホンを装着。
シャカシャカ音楽を聴きながら、泣いた。
デュポンの開閉音を聴きながら、泣いた。
パンツを被ったり食べたりしながら、泣いた。
ある日、金ピカ幼女の鎧を色々と弄ってみた。
その結果、意外な新能力が明らかとなった。
高い硬度のヒヒイロカネの鎧だが、幼女サイズの為、俺の身体には小さすぎて着れなかった。
どうにか出来ないものか。試行錯誤を重ねる。
「お?」
突然、まるで粘土のように鎧が変形した。
驚いて、デコピンしてみる。カッチカチだ。
もう一度、変形させようとすると、くにゃり。
どうやらこちらの意識で硬度が変わるようだ。
その金ピカ粘土を捏ねながら、数日が経過。
幼女の鎧の大部分を使い、金ピカの盾を形成。
装飾は皆無。無骨な盾に満足して、制作終了。
闇のゲートに仕舞い込み、可能性を模索。
「次はスライムの能力の研究をしてみるか」
ヒヒイロカネの能力の新機能を知って。
今度はスライムの能力の研究に着手した。
まずは獣人化の能力で作った衣服を脱ぐ。
全裸でベッドに横になり、念じてみる。
すると、胸が膨らみ、女の身体に変身。
「すっげー……柔らけぇ」
スライムのような胸を揉みしだく。
触覚はあるが、それだけだ。柔いだけ。
様々な大きさにしてみる。貧乳、微乳、巨乳。
全てのサイズを試して、閃いた。
「この能力があれば、誰にでも変身できるぞ」
善は急げと言わんばかりに、飛び起きる。
脱衣所に向かい、鏡の前に立った。
しかし、吸血鬼は鏡に映らない。
湯船の水面を、鏡の代わりとした。
するとそこには、虚ろな目をした、変質者が。
「誰だよこいつ……気持ち悪いな」
そいつは頭に姉ちゃんのパンツを被り。
裸体に生徒会長の下着を身につけて。
俺の口の動きに合わせて気持ち悪いと呟いた。
それは、変わり果てた、自分の姿だった。
「おぇっ……グロすぎだろ」
吐き気がこみ上げる。醜悪な姿だ。
すぐに被ったパンツを取り払う。
身に付けた会長の下着も全て脱いだ。
全裸となって、変身を開始。
「まずは、生徒会長だな」
記憶の中の生徒会長を再現。
あの小悪魔めいた笑みが再現出来ない。
次は、気さくなクラスの女子。
愛嬌のある表情が出来ない。
気を取り直して、幼女に変身。
あの可愛らしい舌足らずな口調が出来ない。
ならば、猫娘に変身。
彼女の天真爛漫さを真似できない。
お次は痛い子。
厨二めいた笑い方が出来ない。
そしてダルっ子。
俺の死んだ魚の目と彼女の怠そうな目は違う。
ギルドの受付嬢。
出来そうな女ではなく駄目そうな女となった。
優しい魔王様。
何もかもが違う。彼女はもっと魅力的だった。
わりといい線いってたのは新聞記者。
寂しさは再現出来るが、それだけだ。
「全然駄目だな……皆、可愛すぎて無理だ」
諦めて、男性陣も試してみた。
担任教師はまるで覇気がなく。
クラスの男子は、ちょい悪感が皆無。
重力使いは彼女が出来なさそう。
大泥棒はコソ泥並みの小物感。
猛毒使いの下衆さすら再現出来ない。
「結局、コピーなんざ不可能ってことか」
自分の浅はかさに、呆れて長嘆。
姿形は真似出来ても、中身が伴わない。
だから不完全。だからこそ、魅力に欠ける。
それでも、俺は故人に、逢いたかった。
「姉ちゃん……くそ、全然似てねぇ」
姉ちゃんの姿になって、顔を歪める。
その泣き顔が、全然らしくなくて。
クールな姉ちゃんが台無しで、申し訳ない。
「何馬鹿なことやってんだ、ひよっこ」
神の姿となって、自分を罵倒する。
すると、声音や表情を含めて、自然だった。
きっと神は、こんな風に俺を叱るだろう。
同じ姿だった、かわゆいラスボスとは程遠い。
しかし、神の真似なら、上手く出来ている。
ガキの頃から声を聞いていたからだろうか。
「ほら、泣くなよ。みっともねぇな」
思わず、涙が溢れ、自分で慰める。
それはまるで、あいつに慰められたようで。
自分の頭を、自分で撫でて、失笑する。
「本当に、何をやってんだろうな……俺は」
このようにして、俺は徐々に壊れていった。
「このまま、永遠に過ごすのかな……」
ベッドに寝転び、ひと月余りが経過した。
喉の渇きはあるが、それ以外は何も感じない。
空腹も、尿意も、便意も、何もかも皆無。
眠くもないのに、ひたすら惰眠を貪った。
魔王だったスライム姫が、言っていた。
『化け物は、怠惰であるべきだ』と。
だから俺は、それを実践していた。
誰にも迷惑をかけないように。
もう二度、人を殺さないように。
ひたすら怠惰に、堕落していた。
引きこもり初めて数日は外が騒がしかった。
恐らく、隆起した校庭の件だと思う。
大量の重機が、道路を行き交っていた。
それも今は静かなものだ。落ち着いている。
それと、家の電話が何度も鳴っていた。
たぶん、学校からだろう。無視した。
すると教師が家を訪ねてきた。居留守をした。
余りに電話がやかましいので、電源を抜いた。
インターホンに苛立ち、ヘッドホンを付けた。
シャカシャカ音楽を鳴らして、現実を拒否。
この地獄を、永遠に受け入れよう。
それしか、俺に出来ることはない。
殺されても死なない、不死の身体。
そんな俺にはこの地獄が相応しい。
「また夜になった……今晩は、烏が多いな」
ぼんやりと月夜を眺めていると、突然。
けたたましいサイレンが、鳴り響いた。
発信源は防災無線。街中に警報が響き渡る。
「なんだなんだ? 何が起きやがった?」
慌てて遺品をベッドごと異空間に収納。
リビングに向かい、テレビをつける。
すると、俺の住む町が中継されていて。
リポーターが何なら恐慌状態で、叫んでいる。
『住民の皆さんは、直ちに避難して下さい!』
避難ってどういうことだ? 首を傾げていると。
ズンッと、地鳴りがして、家が揺れた。
地震か? それとも爆発? 慌てて、外に出る。
「なんだよ……あれは……?」
街の中心部に、そびえ立つ、漆黒の巨体。
ビルか山のようなシルエット。それが動く。
ゆっくりと、翼を広げた。蝙蝠の皮翼である。
「こ、蝙蝠……だと?」
あれは、巨体な、蝙蝠の怪物。いや、怪獣か?
ポカンとしていると、目の前を烏が……否。
烏サイズの蝙蝠が、飛び交っていた。
俺の頭上を中心に沢山の蝙蝠が旋回していた。
「なんだよ、これ。まさか……!」
神は言っていた。見返りの莫大な魔力。
その結果が、これか? 草も生えねぇ。
かわゆいボスがいたダンジョンを思い出す。
強大な魔力で魔物が繁殖していた魔境。
恐らく、これはそれと同じ現象だろう。
ありがた迷惑どころか、純粋に、迷惑だ。
俺の存在自体が、明白な迷惑だったと知った。
「うおっ!? 戦闘機かっ!?」
爆音が頭上を駆け抜け、戦闘機が飛来。
強大な蝙蝠の怪獣に、攻撃を仕掛ける。
光弾がばら撒かれ、怪獣に着弾する。
遅れて、発射音が街中に響き渡る。
しかし、毛ほども効いた様子はない。無傷。
爆音がまた接近してくる。誘導弾を発射。
着弾して、閃光が夜の街を明るく照らす。
遅れて、衝撃音。窓ガラスがびりつく。
花火の何倍も腹に響く炸裂音。爆炎が上がる。
怪獣は頭部にまともに喰らい、出血。
「キィィイイイイイイイイイッ!!!!」
口を開き、高周波を放った。耳が割れそうだ。
家中の窓ガラスが、粉々に砕け散った。
頭上で戦闘機が爆発する。パラシュートが開く。
どうやらパイロットは脱出した模様。
しかし、それを見て怪獣が動く。
皮翼がはためき、浮上。
牙を剥き出しに、パラシュートを目指す。
「駄目だっ! 殺すなっ!?」
もう見てられない。念力で飛び立つ。
グングン加速。よし、間に合った。
パラシュートの前で、両手を広げる。
パイロットが、何かを喚いている。
「な、なんだ君は!? 早く逃げなさい!」
「いいから、黙ってて下さいっ!!」
とにかく、怪獣との意思疎通を図る。
「お前、俺の言ってることが、わかるか?」
「ハイ、マスター」
低く、恐ろしい怪物の声。しかし、従順だ。
よしよし、これなら大丈夫かも知れない。
ゆっくりパラシュートで降下していくパイロットは何がなんだかわかっていない表情。
怪物語は人間には理解出来ないらしい。
翻訳スキルがあって、助かった。
「人を殺してはいけない。これは命令だ」
「ワカリマシタ……シカシ、マスター」
「なんだ?」
意外にも尋ね返してきた怪物。首を傾げると。
「タベナケレバ、シンデシマイマス」
「ッ!?」
愕然とした。そりゃあ、そうだ。餓死する。
この怪獣だって、生き物だ。俺とは違う。
俺は食べなくても平気だけど、こいつは死ぬ。
この巨体を維持するには、相当食料が必要。
察するに、その食料とは。
「人間が、エサってことか……?」
「イカニモ。ゴクジョウノ、エサデス」
「か、家畜とかじゃ、駄目なのか?」
「ニンゲンハ、カチクデハナイノデスカ?」
駄目だ。価値観が違い過ぎる。とにかく。
「とりあえず、ここから離れるぞ」
「ハイ、マスター」
怪獣を先導して、町を離れる。
当然、その様子は多数の市民に目撃され。
怪獣を従えた俺は、全世界の敵となった。
「くそっ! また見つかった!!」
近くに戦車砲が着弾。飛び起きる。
現在地は辺境の砂漠のど真ん中。
上空にはヘリと、戦闘機が飛び交う。
「コロシマスカ?」
「駄目だっ! 逃げるぞっ!!」
この数ヶ月、世界を点々とした。
各国を巡り、甚大な被害を出していた。
怪獣につきまとう烏サイズの蝙蝠が問題だ。
あれが生態系を壊してしまう。
北極に降り立った時もそうだ。
静かな氷の上で、オーロラを眺めた。
怪獣には、俺の魔力を分け与えていた。
月明かりで無限に供給されるから無問題。
そばに居るだけで、腹は満たされるらしい。
味も良いらしく、文句も言わなかった。
しかし、手下の蝙蝠どもが、行儀悪かった。
かわいいペンギン達を皆殺しにして。
アシカやアザラシまでも食い散らかした。
ホッキョクグマすら集団で襲う始末。
当然、長居など出来る筈もなかった。
「ようやく、居場所を見つけたってのに!」
そういった経緯もあって、砂漠に辿り着いた。
見渡す限りの不毛な砂山。
ここなら食い散らかす生き物など存在しない。
だから、静かに暮らすつもりだったのに。
人間共は、臆病で、しつこかった。
一旦脅威と見れば、仕留めるまで追ってくる。
どこに居ようが、偵察衛星で見つけ出す。
そして大軍を率いてやってくる。弱い癖に。
「おらっ! これでも食いやがれっ!!」
砂漠を進軍する大隊に向けて、魔法を放つ。
もちろん、殺傷能力はない。人殺しは沢山だ。
ゆえに、殺さず抵抗力のみを、奪う秘技。
「んがっ!? と、突然、尿意がっ!?」
「は、腹が痛ぇっ!?」
「駄目だっ!? どっちも漏れちまうっ!」
大隊が阿鼻叫喚に呑まれる。
俺が使用したのは、尿意促進魔法。
そして、便意促進魔法の2種類。
膨大な魔力を湯水のように用いて、水を発生。
それを数千人の兵士の腸と膀胱に、強制転移。
彼らの戦意を奪い、行動不能にする。
その悪業により、ついた二つ名は【糞魔王】。
ホーリー・シットが代名詞。
余りにも不名誉すぎる、最悪のテロリスト。
そんな人類最大の敵が、俺だった。
「くそっ! 便意がなんだ! 尿意がなんだ!」
「こうなったら、全部ぶちまけてやるっ!!」
「たとえ漏らしてでも、ぶっ殺してやる!!」
このように、中には精鋭も存在しており。
彼らの罵詈雑言に辟易としつつも、対処。
水圧をあげて、局部にダメージを与える。
「ぬおっ!?」
「ズ、ズボンに、穴がっ!?」
「ひぎぃっ!?」
余りの水圧に浮き上がる兵士達。
尻を押さえて、次々蹲る。地獄絵図。
悪臭漂う戦場に向かって、怒鳴り散らす。
「これに懲りたらもう諦めやがれっ!!」
しかし、人間共は、諦めが悪かった。
その場を離れて、しばらくして。
巨大蝙蝠の背に乗って、砂の海を飛んでいた。
臭い兵士共は、もう追ってこなかった。
ほっと安堵した。それが一瞬の気の緩み。
「ん? なんだ……?」
「マスター、ドウシマシタカ?」
「なにか、来る」
獣人の野生の直感力で、察知。
何かが接近している。空からだ。
恐ろしく早い、回避は……無理か。
そう判断した、その瞬間。
真夜中の砂漠に、太陽が出現した。
最後に見たのは、眩い閃光。
次の瞬間には蒸発して、俺は死んだ。
まさか、この兵器を使うとは。信じられない。
閃光に包まれながら、呆れ果てた。
それは美しいが、なんとも醜い、人工の太陽。
広大な砂漠だからこそ、踏み切ったのだろう。
人類が誇る、最大の火力で、殺しにきた。
蒸発した俺はそのまま爆炎と共に、高度数万メートルまで上昇して、汚いチリや埃と混ざり合い、黒い雨となって、再び地面へと落下した。
黒い雨は数時間降りしきり、大地を汚す。
そして、その水滴が寄せ集まり、復活した。
「何考えてんだよ……人間共は」
口に入った汚い雨を、吐き捨てる。糞不味い。
「ああ……お前は、死んじまったのか」
すぐ傍に、炭化した怪獣の亡骸が転がっていた。
「お前は誰も、殺してないのにな……すまん」
謝って、噛みつく。すぐに砂となって消えた。
同時に配下の蝙蝠達も、砂になった。
また、独りだ。独りで、生き残っちまった。
「これで死なないとか……どうすんだよ」
かなり深刻だ。笑い事じゃなかった。
この兵器を使うまで、人類を追い詰めた。
砂漠とはいえ、それなりに責任を負った筈。
それなのに殺せなかったじゃ、話にならない。
不味い。本当に、不味い。大変なことになる。
この責任を誰が取れる?
間違いなく、暴動が起きる。
そして大量の死傷者が出る。
それだけは避けなければ。その為には。
「どうにかして、死なないと、いけない」
俺はこの兵器で滅んだことにしよう。
そうしないと、また人が死ぬ。
もはや時間がない。今すぐ死ななくては。
不死身の吸血鬼は、考える。
どうすれば、詰むことが、出来るのかを。




