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凡人と神様  作者: 遺志又ハ魂
第一部 【詰まらない物語】
31/72

第30話 『ジレンマ』

「何なんだよ、この煙は……?」


酒場の外に出ると紫色の煙が立ち込めていた。

それを吸うたびに、身体の自由が失われる。

恐らく、毒ガスだろう。嫌な予感がする。

痺れる手足を気にしながら、とにかく外で待っている2人組の姿を探す。すぐに見つかった。


「ッ!? お、おいっ! 大丈夫かっ!?」


痛い子とダルっ子は、ベッドに倒れていた。

慌てて駆け寄り、声をかけるが、反応なし。

しかし、幸いなことにまだ息はあるようだ。


「いったい何があった!?」


肩を揺すっても起きない。状況を知りたい。


「そうだ、泥棒のスキルを使えば……!」


先ほど手に入れた泥棒のスキル。

それを使えば彼女達の記憶を盗める。

しかし、逡巡する。覗きはよくない。

けれど、まずは状況を把握するのが、第一。


申し訳ないと思いつつ、人差し指を2人の額に。


直前の2人の記憶が、脳裏に浮かんだ。


『……随分と、中は静かだな』

『そうだね〜もしかして、心配?』

『そ、そんなわけないでしょっ!?』

『だよね〜仲間の仇だもんね〜』

『……うん。やっぱり、許せない』

『記憶を取り戻した後は、どうする〜?』

『ひき肉にする』

『あはは〜でも彼は復活するよ〜?」

『何度でもひき肉にして、そして……』

『そして〜?』

『どうして殺したのかを、聞く』

『そだね〜きっと何か深い理由があるよ〜』

『あの変態吸血鬼が意味もなく殺人をするとは思えない。それを聞いた上で、話し合いたい』

『優しいね〜もしかして惚れちゃった〜?』

『それだけはない。あんな変態なんて大嫌い』

『ふーん。それじゃ、私が飼おうかな〜』

『ぺ、ペットにでもするつもりか……?』

『ん〜どっちかって言うと、奴隷みたいな?』

『い、いや、さすがに、それは……』

『でも、殺人の罪は一生消えないでしょ〜?』

『まあ、そうだけど、だからって奴隷って』

『死ぬまで、奴隷として罪を償ってもらお〜』

『なるほど、そうか! ふはは! それは名案だ! 私が奴を馬車馬のように働かせてやろう!!』

『ちょっと〜テクノ君は私の奴隷だよ〜?』

『いや、テクノは我々の共有奴隷としよう』

『ぶぅ〜。さっきは大嫌いって言った癖に〜』

『だ、黙れっ!って、なんだこの煙は……?』

『へっ? やばっ! これって猛毒使いの……!』


そこで意識は途絶えた。なんつー回想だよ。

しかし、けれど、とても優しい回想だった。

殺人犯の俺に対する、厚遇。胸が熱くなる。


もちろん、奴隷になるつもりはない。

俺は理由を話したあと、彼女達を吸い殺すつもりだった。そのスキルを、奪う為に。

神を殺す為、姉ちゃんの仇を討つ為に。


そんな俺が憤るのは、酷く歪んだ怒りである。

それでも、声を荒げずには、いられない。

優しい2人を、昏倒させた、猛毒使いとやらに。


「いるんだろ! 猛毒使い! 出てこいよっ!」

「ふひひっ。さーせん」


路地裏の店舗の影から、彼は現れた。

毒々しい瘴気を纏った、痩せぎすな男。

陰気な眼差しで、ヘラヘラ笑い、歩み寄る。


「ちーっす。鬼畜で有名な吸血鬼サン」

「だれが鬼畜だ」

「違うんすか? あんたとは気が合うと思ったんすけど。あ、もし良ければ一緒にどうすか?」

「は?」

「やだな〜わかってんでしょ? これからこの2人をめちゃくちゃにしましょうよ〜。ね?」


ダルっ子がこの猛毒使いを生理的に無理って言ってた訳がよくわかった。こいつは駄目だ。


「その為に、毒ガスで意識を奪ったのか?」

「そっすよ〜。ちなみにこれ、遅効性の猛毒でしてね。だいたい1時間くらいで、死にます」

「あ?」

「死人に口なしっすよ。だから安心して……」

「ふざけたこと言ってんじゃねぇっ!!」


激昂した俺は飛びかかろうとした。

が、しかし。


「か、身体が、動かない……!?」

「ぷっ。あひゃひゃひゃひゃ。ばぁーか!」


膝から崩れ落ちる。猛毒使いの嘲笑が響いた。


「吸血鬼もこうなっちまえばただの雑魚だな」


毒に侵され、自由を奪われた俺を足蹴にする。


「ま、そこで見てろよ。俺がこの2人をめちゃくちゃにするところをよぉ! 大サービスだ!!」


そのままベッドに向かおうとして、痙攣。


「ぎっ!? な、なんだ? 雷撃だとっ!?」


雷使いの雷撃。まだ威力は弱いが、充分。


「ぶべっ!? こ、今度は重力魔法……!?」


重力魔法を使用。猛毒使いを転倒させる。


「この死に損ないの吸血鬼がぁっ!?」


起き上がった彼が、猛毒ブレスを放ってきた。

薄汚い、紫の煙に包まれ、死亡。

それが狙い。即座に復活。無論、健康体で。


「ありがとよ、わざわざ殺してくれて」

「ひぃっ!?」


獣人化の脚力にて、一気に肉薄。死刑宣告。


「てめぇ、死んだぜ?」

「うわぁあああああっ!?!!」


手刀を振り上げると、猛毒使いは失禁。

こいつはクズだ。ゴミだ。薄汚い、害虫だ。

血を吸うまでもない。生きたまま腹わたを引きずり出し、脳天をかち割って、腐った脳みそを地面にぶちまけて、そして、そして……!


『意味もなく犯罪を犯すな』


不意に、大泥棒の遺言がよぎる。

ギリッと歯を食いしばり、殺人衝動を抑える。

俺は誓った。人を殺すのは能力を奪う為だと。

それ以外の殺人は信念に、ポリシーに反する。


このクソッタレの命も、吸い尽くすべき。


「ぐっ……畜生っ!!」

「あぎゃっ!? い、嫌だぁっ!? 死にたくない! 死にたくないよぉ!? 助けてぇ!?」


猛毒使いの酷く不味い血を啜る。吐きそうだ。

ジタバタとみっともなく暴れる。無様である。

この先、どんなことがあっても、この猛毒使いのように外道に成り下がることがないように、その醜い最期の足掻きを、目に焼き付けた。


あらかた吸い尽くしてから、問いただす。


「おい、死ぬ前に、解毒方法を教えろ」

「かひゅっ……解毒、方法……?」

「猛毒使いなら、解毒だって出来んだろ?」

「はあ? 出来るわけ、ないだろ、馬鹿か?」

「そうか。お前を差し向けたのは、誰だ?」

「決まってる、だろ。ギルド・マスターだよ」

「わかった。じゃあ、もう死ね」


猛毒を撒き散らし、自分で解毒すら出来ない。

一縷の望みにかけたのだが、無駄だった。

猛毒使いを差し向けたのはギルド・マスター。

そのことをしかと記憶に刻み、吸血再開。

そのまま吸い殺し、汚い砂へと変えた。


周囲にはまだ毒ガスが漂っている。

しかし、猛毒使いのスキルを得た俺には、支障はない。それなのに、解毒は出来ないなんて。

ファンタジー知識を思い返す。解毒は光魔法。

残念なことに、俺は光魔法を収集していない。


ベッドに横たわる彼女達を救う術は、ない。


「巻き込んで、すまなかったな」


ぐったりした痛い子とダルっ子に、謝罪。

そんな自分に、失笑してしまう。

最初に述べた通り、俺はもとより彼女達を殺すつもりだった。その為に泥棒スキルを欲した。


それなのに、何だ、この状況は。支離滅裂だ。


ダルっ子の結界を突破する為に泥棒スキルが必要で、それを有している大泥棒に返り討ちに遭い、記憶をなくしたところを彼女達に救われて、その結末が、こんな有様。草も生えない。


「なあ、神。笑ってくれよ。こんな俺を」


どこかで見ているであろう神に、声をかける。

当然、返事はない。奴は笑っているだろうか。

盛大に嘲笑して、俺を蔑んでいるのだろうか。


愚かな俺は、考える。自分に出来ること。


こめかみに両手の人差し指を当てる。

該当する記憶を吸い出し、彼女達の額へ。

これが償いになるかは、わからない。

それでも、仲間を殺した理由を、伝える。


すると、奇跡が起こった。


「ふん……なんとも酷い記憶、だな」

「ッ!? 目が、覚めたのか……?」

「くっくっくっ……そんな、悪夢を見せられたら、おちおち、寝ていられない、だろう?」


意識が戻った痛い子。

しかし、解毒された様子はない。

目は虚ろで、光を失っている。


「すまない。本当に、本当に……!」

「あは、は〜テクノ君は、泣き虫だね〜」


同じく意識が戻ったダルっ子。

死ぬ寸前であるのに、穏やかな表情。

しかし、不意に顔を歪ませて、泣き出した。


「ぐすっ……油断、してたよ、守れなかった」


ダルっ子の悔し涙。結界使いの矜持。

恐らく、物理結界ならばあの猛毒も防げた筈。

しかし、彼女は油断していた。それを悔いた。


その涙を拭う資格は、俺にはなかった。


「おい、吸血鬼。何を惚けて、いる?」

「えっ?」

「早く、我々の血を、吸うがいい」


痛い子の叱責。吸血を促された。

もとより吸うつもりだった。

しかし、ここにきて感じる、ジレンマ。


血を吸って、能力を奪いたい。

だけど、殺したくない。

神を殺す為には、必要な能力だ。

けれど、死んで欲しくない。

姉ちゃんの仇を、討たなくてはならない。

でも、だって、しかし、それでもっ!


逡巡する俺に、痛い子は乾いた笑みを漏らし。


「ふっ……どうせ、我々はもうすぐ、死ぬ」

「だ、だからって……!」

「我々の死を、無駄にしないで、くれ」


痛い子の懇願。死に、意味を与える。

その力が、俺にはある。吸血鬼の能力。

彼女達の血は、有意義に俺の力となる。


それをわかった上で、彼女達は促した。


「テクノ君、私からも、お願いだよ〜」

「吸血鬼、だろう? その本性を、示せ」


俺は2人に言われるがまま、覆い被さる。


最初に、痛い子に牙を突き立てた。

彼女はピクンと可愛い反応をした。

最期に、俺の股間を、念力で捻って。


「変態吸血鬼よ……その痛みを、忘れるな」


股間の痛みで、涙が滲む。痛い子は消滅した。


「テクノ君、痛く、しないでね?」

「……ああ、わかってるよ」


次に、ダルっ子の首筋に噛み付く。

優しく、鋭く、優しい彼女を、傷つけた。

甘い嬌声を漏らし、太ももで俺を挟んできた。


「私がずっと、テクノ君を、守ってあげるね」


柔らかな感触を遺して消滅。優しい結界使い。


「あっ……あ、ああ、あああああッ!!!!」


彼女達だった砂山の前に跪き、慟哭した。

死んだ。死んでしまった。俺が殺した。

神と対峙してからずっと求めていた仲間。

けれど、彼女達は俺とは違い、生身だった。

不死身の俺とは違い、猛毒程度で死ぬ身体。


彼女達の会話が、脳裏に蘇る。

俺を死ぬまで奴隷にするつもりだった。

しかし、それは無理な話だ。俺は死なない。

彼女達は歳を取り、いずれ先に死んでしまう。

奴隷の俺を残して。消えない罪を、遺して。


「そんなの……あんまりじゃねぇか……!」


独りぼっちになって初めて気付く、孤独。

もう痛い子の電波な発言は聞けない。

もうダルっ子の柔らかな笑みは見れない。

たった独りで、俺は生きていくのだ。


たった1人で、神に、立ち向かうのだ。


「……その前に、ケジメはつけないとな」


夜空に浮かぶ月に、盛大に哭き声を聞かせて。


悲しみを怒りに、孤独を力に変え。


痛い子のサイコキネシスで、宵闇に浮かぶ。


俺はまず、四天王の親玉の元へと、向かった。

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