第21話 『金ピカの幼女』
「そんで、ここどこだよ」
戦闘を終えて、途方に暮れる。
路地裏には人通りもなく、閑散としている。
通りには何やら怪しげな店が立ち並んでいた。
とりあえず、どこかに入って情報収集か。
流石にそこまで遠くに来たわけではない筈。
そう思って、歩き始めると、エンカウント。
「パパを殺ちたのはあなたでしゅか?」
舌足らずな幼女の声が背中にかけられて。
迷子だろうかと思い、振り返ると。
そこには、フルプレート姿の戦士の姿が。
うぉっ!? 眩しっ! 目がチカチカしやがる!
眩い金色の鎧に目をやられた。
全身金ピカの戦士。ガッチガチだ。
背中には何本も武器を背負っている。
まるでどっかの大佐だか少佐の専用機だ。
けれど、そのゴツさとは裏腹に、低身長。
だいたい俺の腰ほどの背丈しかない。
「えっと、どちら様ですか……?」
「あたちはパパの娘だお!」
金ピカの兜の中から幼女の声がする。
恐らく、この厳つい戦士の中身は幼女だ。
強きを挫き、弱きを助ける俺は見過ごせない。
なんて、余計なヒーロー属性を発揮して。
「鎧のお嬢ちゃん、迷子かな? パパはどこ?」
「パパは、あなたに殺されたのでしゅ」
膝を折って尋ねると、物騒な返答。
俺がパパを殺した? そんな覚えはない。
もしかしたらあのクラスのちょい悪同級生は生徒会長と本当に出来ていて、その結果産まれた娘がこの厳つい鎧姿の幼女……なわけないか。
となると、担任教師の娘さんか?
「君のパパは、どんな人だった?」
「パパは学校のせんせーだったのでしゅ」
ビンゴ。あの教師には娘が居たのか。
それは悪いことをしたな。可哀想に。
一応あれも正当防衛ではあるのだけど。
そんな言い訳を、幼女にはしたくない。
言っても理解出来ないだろうしな。
ゆえに、俺は地面に這い蹲って、謝罪した。
「君のパパを殺して、ごめんなさい」
「死んで」
背中に背負った金色の大鎚を振るう幼女。
背丈に見合った大きさでも、威力は充分。
後頭部が前頭部とくっつく。ぺしゃんこ。
とはいえ、すぐに回復するんだけどな。
瞬時に再生して、顔の汚れを落とす。
「はい、死んだよ。許してくれる?」
「むぅー! ちゃんと死ななきゃだめ!」
1回死んでやったのに許してくれない。とほほ。
大鎚を背中に戻し、今度は剣を取る幼女。
もちろんその剣も金ピカで、不思議な形。
刃が波打っている。フランベルジェか。
切断力を高めたその金色の刃が緩やかに迫る。
はっきり言って幼女の太刀筋は未熟だ。
しかしながら重さを感じている様子はない。
どうやら、非常に軽い素材らしい。
とはいえ、その切れ味は、想像以上だった。
遅いフランベルジェを難なく躱す。
すると、目標を失った刀身が地面に刺さる。
ズブズブと、中ほどまで、ゆっくりと。
いやいや、切れすぎだから。
通販もびっくりな切れ味。スパスパ包丁かよ。
電話帳なんかを切ったら注文殺到だろうな。
驚きの切れ味を披露した幼女は悔しそうに。
「どーして避けるの!? 死んでよぉ!」
地団駄を踏んで無茶な不満をぶつけてくる。
無邪気であるからこそ、恐ろしい幼女だ。
あの担任教師はどんな教育をしてんだよ。
そもそも子供にこんな物騒なもんを……ん?
そう言えば、あの先生の刀も金色だったな。
ヒヒイロカネがどうとか言ってたような。
もしかすると、この子の武器防具もそれか?
それにしたって、なんでまたこんな幼女に。
「なあ、ひとつだけ教えて貰っていいか?」
「なにー?」
「その鎧、どこで作って貰ったんだ?」
「これはあたちが作ったんだお!」
えへんと胸を張る鎧幼女。かわいい。
デレデレしている場合じゃない。マジかよ。
ということは、この子は武器防具職人か?
とてもそうは見えないけど、そもそもだ。
「その金色の素材はどうしたんだ?」
「あたちが生み出したの」
「どうやって?」
「えっとね、あのね、うぅ……恥ずかしいよ」
ええっ!? なんでいきなり照れたの!?
いや、かわいいけども! そうじゃなくて!
俺は根気強く、恥じらう幼女に再度尋ねた。
「そこをなんとかおしえてよ〜」
「でも、恥ずかしいんだもん」
「大丈夫。絶対に誰にも言わないから」
「ほんと?」
「ああ、本当さ。約束だ」
指切りをすると、幼女はおずおずと。
「絶対に誰にも言わないでね?」
「もちろん。俺と君だけの秘密だよ」
「あのね、素材は、おトイレでするの」
What? Pardon? おトイレ?
「おトイレでね、頑張って出すの」
「それって、もしかして、うん……」
「わあーっ!? 言わないで! 違うからぁ!!」
鎧の幼女が、慌てて遮る。
その様子から見るに、図星って感じだ。
しかし、俄かには信じ難い。嘘だろ。
そんな、まさか、いや、しかし、だって。
こんないたいけな幼女からヒヒイロカネが?
なんだそれ。いろいろとアウトじゃね?
でも、出てくるのは、ヒヒイロカネだ。
排泄物ではないのだから、セーフだろうか?
いやだけど、出てくる場所が場所だよな。
とにかく、実証してみよう。そうしよう。
「ちょっと出して見せてくれないか?」
「だ、だめだよぉ! 恥ずかしいもん!!」
「いいじゃん。誰にも言わないからさ」
「だめだめ! それに朝出したばっかだし!」
ふむ。それは困ったな。だけど諦めきれない。
それではこうしよう。今まで奪ったスキル。
それらを上手く使って、便意を誘発。
そして、幼女がうん……じゃなくて、ヒヒイロカネを生み出すように仕向けよう。腕がなるぜ。
方針を決めて、下準備に取り掛かる。
まずは水使いの技を用いて、水鉄砲。
それを空間魔法で異空間に転送。
異空間に冷たさが伝わる。ある程度貯めて。
その転送した水を、新たなゲートから排出。
左手の人差し指から出た水が、右手で開いたゲートからチョロチョロ出てきた。成功だ。
「すごいすごい! どうやってるのー?」
金ピカ鎧の幼女は俺の水芸を見て大層喜んだ。
パチパチと拍手してくる。なんだか照れるな。
とりあえず、説明を省いて、幼女に忠告する。
「今からちょっと、お腹苦しくなるからね」
「ふぇっ?」
「我慢はしなくていいから」
よし、注入開始。幼女の腸内に水を注ぎ込む。
すると金ピカ鎧はモジモジして。
俺は全てが計画通り進んだことを、確信した。
「ふぁああっ!? お、おトイレ行ってくる!」
「今ここでしちゃいなよ。漏らしたら大変だ」
「は、恥ずかしいよぉ!? 出来ないよぉ!!」
「大丈夫。ほら、後ろを向いてるからさ」
紳士たる俺は、気遣いを忘れない。マナーだ。
催した幼女に背を向けて路地の向こうを睨む。
周囲に気を配り、幼女の尊厳を守る為だ。
誤解しないで貰いたいが、幼女に興味はない。
なにせ姉ちゃんがロリボディだったもんでね。
正直見飽きてるのだ。だから、欲情はしない。
そんな頼り甲斐のある、紳士の背中に。
「お、覚えてろよ。絶対にぶっ殺す……!」
幼女の怨嗟の声が聞こえた気がした。幻聴か?
「出たかー?」
「ちょっ!? まだそっち向いてて!!」
とにかく数分で事態は収束して。
振り返ると丁度パンツを穿き直した幼女。
見たところ、6歳前後くらいだろうか。
可愛い黄色のワンピースに身を包んでいる。
用を足す際に脱いだ鎧が辺りに散乱していた。
初めて拝んだ彼女の顔立ちは幼女らしく幼いながらも、目はつり目で勝気そう。髪はお団子。
そして地面には、金色の団子が落ちていた。
「へぇ〜。すごいスキルだな」
「あ、あんまりジロジロ見ないで!」
「ヒヒイロカネだから、セーフだ」
「完全アウトだと思うんだけど……」
どうやら猫を被ることをやめたらしい幼女。
的確なツッコミを入れてくる。偉い偉い。
お団子頭を撫でて褒めながら、金団子を観察。
金色に輝くそれは、排泄物とは思えない。
いや、本当に排泄物ではないのだ。無臭だし。
これはマジモンのヒヒイロカネである。
一応、確認しとくか。手刀を金団子に振るう。
「ッ……硬いな。すごい硬度だ」
カキンと弾かれて、手がジンジン痺れる。
この感覚は、神を殴った時に似ている。
彼女の父親から奪った剣のスキルによる手刀。
その切れ味はもちろんまだまだなまくらだ。
担任教師の手刀よりも、遥かに劣っている。
極めれば両断可能かも知れないが、これを鍛錬して武器防具にすればより硬さは増すだろう。
実に優秀なスキルだ。これは是非とも欲しい。
「その手刀……パパのスキル……!」
「ああ、そうだ。やっぱり、許せないか?」
「当たり前よ! こんな仕打ち絶対許さない!」
フランベルジェを片手に幼女が飛びかかる。
頭に血が上っていて、金ピカ鎧を着ていない。
俺が父親のスキルを使ったので激昂している。
「あたちのおトイレを見た罪は重いわ!」
と、勘違いしていたが乙女の恥じらいらしい。
いや、見てないから。後ろ向いてたじゃん。
面倒臭いから、片腕を切り飛ばそうとした。
しかし、カキンと、金属音。そんな馬鹿な。
俺の未熟な手刀は、彼女の素肌に弾かれた。
「なるほどな。身体全体がヒヒイロカネか」
「あたちには誰も傷一つ付けられないの!」
俺は冷静に弾かれた二の腕を掴み、指摘する。
「そうか。だけど、この牙は防げない」
「えっ?」
金ピカの鎧には歯が立たないだろう。
けれど、いくら硬くてもそれが生身であれば。
用を足す為に鎧を脱ぎ捨てた、今ならば。
俺の反則級の牙は、ズブリと肩口に沈んだ。
「本当に、悪かった。天国で先生と仲良くな」
「うぐっ……パパに……会えるかな……?」
「きっと会えるさ。だから、おやすみ」
それは、根拠のない気休め。無責任な発言。
それでも、言わないよりは遥かにマシだろう。
安堵の笑みを浮かべて、幼女は砂となった。
殺すべきではなかっただろうか。
けれどきっと、あの子は俺を許さない。
俺が神を許さないのと、同じように。




