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凡人と神様  作者: 遺志又ハ魂
第一部 【詰まらない物語】
18/72

第17話 『化け物と呼ばれて』

「ん? テクノ、お前何をしてるんだ?」


神に取り残された俺は、とりあえず帰宅しようと早朝の校内を昇降口へと向けて歩いていた。

すると背後から声をかけられ、ぎょっとする。


振り返ると、そこには担任教師が立っていた。


「せ、先生……」

「こんなに朝早くに学校で何をしている。それにその制服はどうした? ボロボロじゃないか」


痛いところを突かれて、返答に窮する。

神との戦闘の際に盛大に破け散った制服。

ほとんど上半身裸みたいなものだ。

言い訳が思いつかず、目を泳がせていると。


「なあ……テクノ、生徒会長を見なかったか?」


これまた非常に困る質問だ。

生徒会長なら俺が吸い殺しました。

なんて、当然言える筈もなく。

シラを切ろうとして、違和感を覚えた。


あまりに脈略がなさすぎる問いかけだ。


この担任教師は、生徒会の顧問である。

そんな後付け設定を付け加えたところで、文脈には何ら影響を及ぼさない。怪しい言動。

そもそも、この教師こそ、こんな朝っぱらからどうして校内をうろついているんだ?

てか、なんか長い物を手に持ってるんだけど。


訝しんで、様子を伺っていると。


「黙ってたら何もわからないだろう……はあ」


肩を竦めて、長物を肩に乗せる仕草。

これまた後付け設定で申し訳ないが、彼は剣道部の顧問だったりする。長物は木刀だろうか。


と、思ったら、違った。もっと物騒な物だ。


「俺も教師としてこんなことはしたくないが」


木刀だと思っていた刀身から、刃が現れる。

鞘から抜き放たれた真の刀身が、鈍く光る。

それはなんと、黄金の輝きを放っていた。

まさか金ってわけはないだろうが、とにかく。

それはいわゆる真剣であり、銃刀法違反だ。


「せ、先生……刀はマズくないですか?」

「大丈夫だ。ちゃんと許可を得ている」

「ですが、持ち歩いたりしたら、その……」

「お前が答えないから、こうせざるを得ない」


なんだそりゃ。全くもって理解不能だ。

先生は切っ先を俺に向けて、睨みつけてきた。

ダラダラ冷や汗を流す俺に、再度問い質す。


「もう一度聞く。生徒会長は、どこだ?」


なんだこれは、どんな状況だよ。

生徒会長を探している様子の教師。

しかし、シチュエーションが尋常じゃない。

時刻は早朝で、生徒はおろか他の教師陣すら出勤している様子はない。完全に無人の校内。


そんな中、何故か会長を探していた教師。

それが何故かは定かではないが、恐らく夜通し探していたのではないだろうか。なんとなく。

そう考えれば、こうして鉢合わせしたのも頷けるが、やはり気になるのはその理由である。


剣呑な雰囲気を打破するべく、口を開いた。


「生徒会長に、どんな用事があるんです?」

「その牙は、なんだ?」


あちゃー。失策だった。

出来るだけフレンドリーに笑ったのが失敗。

俺の長く鋭い牙を見咎められて、自ら墓穴を掘ってしまったことを悟る。教師は刀を構えて。


「場所を変える。そこの教室に入れ」

「わ、わかりました」


大人しく、手近な教室内に入る。

ガラッと扉を開くと、眩しい朝陽が降り注ぎ。

その瞬間に、背後から袈裟斬りにされた。


「い、いきなり何すんですかっ!?」


ズルリと上半身が切断面から滑り落ちる。

落下しながら怒鳴り、冷静に下半身を跪かせ。

まったくもう、なんて文句を言いながら接着。


この程度ならば、慣れたものだ。

昨晩は散々もっと酷い目に遭ったからな。

神の鋭い爪で微塵切りにされたりとか。


ぷんぷん怒って振り返ると、教師は瞠目して。


「その牙、その再生力。やはり、吸血鬼か」


おっと。早速バレちまった。試されていた。


「しかし、日光を浴びても平然としている」


教師はしばらく何やら考え、憎悪の視線で。


「お前……生徒会長のスキルを、奪ったな?」


ああ、なるほど。だから陽の光が平気なのか。

そういや神も炎耐性がどうとか言ってたな。

炎耐性があれば、日光は平気らしい。


さて、納得している場合ではない。


そこまでバレてしまっては惚けられないな。

俺は開き直って、昨晩の経緯を告げる。

ただ、起こったことを、ありのままに。


「はい。俺は、会長を、吸い殺しました」

「……なら、お前はもう、俺の生徒ではない」


教師から殺気が迸るが、今更だ。

だいたいさっきだっていきなり斬られたしな。

あの時点、というか刀を抜いた瞬間に、この教師は俺の敵となった。だけど、一応。


「あの、聞いてください。生徒会長を殺したのは正当防衛でして、人質も取られていまして」

「黙れ化け物っ!! 聞く耳はもたんっ!!」


あらら。完全にキレていらっしゃる。

話し合いの余地はなさそうだ。

ならば、こちらも相応の対応をしよう。


「俺と、戦うつもりですか?」

「テクノ、お前は生かしてはおけない」

「先生に俺は殺せませんよ」

「黙れ、NPCが偉そうに。調子に乗るな」


またNPCって言われたよ。会長と同じ認識か。

100歩譲って、まだテクノ呼ばわりは許せる。

気に入らないあだ名だが、まあいいさ。

しかし、NPCってのは、どうも鼻に付く。


こっちだって、感情があり、人格があんだよ。


温厚な俺だって、そりゃあむっとするさ。


「あんたはもう、俺の担任じゃない」

「生意気だな。ズタズタにしてやる」

「やってみろよ。あ、そう言えば……」


敬語はやめて、気になることを聞いておく。


「その剣技は、あんたのスキルか?」

「ああ、俺は剣の才能を授かった」

「へぇ……そりゃ随分と、美味そうだ」


剣のスキルか。食欲を唆る。吸いたい。

剣を扱えない俺は、そのスキルが欲しい。

正直偶発的すぎて、あまり気乗りのしない遭遇戦だったけれど、やる気が出た。スキル強奪。


ウキウキする俺。

対して教師は、心底軽蔑して唾を吐く。

それが開戦の合図だった。


「死ね、化け物」

「頂きます」


噛み合わないやり取りで、命を奪い合う。

吸血鬼の身体能力と昨晩の戦闘経験を用いて、死角を伺うが、全く隙が見当たらない。

マジモードの教師は刀を鞘に収め、腰だめに構えて居合抜きの姿勢。試しに、一歩接近。


「ぬんっ!」

「おろ?」


さすがにベタすぎる奇声を発して、足を見る。

綺麗に切断されていた。骨までスッパリ。

ひょいと拾って、接着。いや、痛いよ?


痛いけど、昨晩の戦闘で、慣れた。


瞬時に治癒は終わり、状況を把握した。

だいたい半径10メートルの範囲で即座に斬撃を放てるらしい。目に見えない程の剣速だ。


さて、どうするか。

真剣白刃は……無理そうだな。見えないし。

じゃあ、この手段でいくか。


方針を決めて、実行に移す前に。


「その剣、綺麗だな」

「……我々の同志による、最高傑作だ」

「同志? 仲間がいんの?」

「生徒会長も、我らの仲間だった」


なるほどな。それが憤怒の理由か。

しかし、仲間……ねぇ。あんまピンとこないな。

モブの特性を存分に発揮して沢山の友人を得た俺だったけれど、それは仲間とはちと違う。


友人と何かを成し遂げたことはない。

たとえば学校の行事で一致団結をして物事に当たる際も、俺の立ち位置は数合わせでしかなく、たまに活躍する機会があったとしても、それは結果に影響を及ぼすことはなかった。


わかりやすく言うなら……そうだな。

例えば、俺がバスケの試合でブザービーターを決めらるのは点差が開いている時のみである。

僅差、あと1本で勝敗が分かれる時は、俺はボールに触れる事さえ出来なかった。世界の断絶。


だから試合後の喜びを分かち合った事はない。

俺が居ても居なくても、勝敗は決まる。

それに俺は関わることは出来なかった。


考えようによっては、美味しい立ち位置だ。

例えば野球で、最後の最後で凡フライを取り損なって逆転されるようなことは怒らない。

そもそもそんな瀬戸際の状況下で俺に向かってボールは飛んでこないから。虚しい話だ。


何故そんな現象が起きたかと言えば、簡単だ。

俺には才能がなかった。もちろん練習はした。

バスケも、野球も、サッカーも努力してみた。

だからこそ、人並み以上には動けた。しかし。


世界は俺に、努力を披露する場を、与えない。


才能を求められる場面が、訪れない。

才能ゼロってのは、そんな立場のことだ。

なんて、長ったらしい自分語りは、さておき。


詰まるところ(とはいえ、つまらないのだが)、仲間との絆の価値を、俺は知らない。


本当につまらない人間だと、自覚はある。

だけど、知らないものは知らない。

そりゃあもちろん憧れはある。仲間欲しい。


だけど、本当の意味のぼっち歴が長すぎて、想像が出来ない、というのが本音である。


しかも吸血鬼になっちまったしな。

こんな俺にこの先仲間が出来るのかしら?

いや、将来のことよりも、大切なのは今だ。


仲間の価値を理解出来ない俺は、無神経に。


「あんたが死んだら、その刀貰っていいか?」

「ほざくな、糞NPCが……!」


教師の怒りのボルテージが上がっていく。

無知な俺なりに神経を逆なでするように言ってみた、わりとストレートな要望であったけれど、挑発としてはいい感じだったらしい。


とりあえず怒らせて、作戦を実行に移す。


「ほらほら、何度でも切り刻んでみろよ!」

「望み通りにしてやる!!」


居合範囲に入って、斬撃を全身を浴びる。

痛い。痛いな、ちくしょう。あーいてぇ。

頭、腕、腹、足、あらゆるところを斬られた。

特に腹は目も当てられないほど、悲惨だ。


ズルズルと腸がうどんみたいに溢れた。


それをせっせと仕舞って、傷を治すと、また腹が裂けて溢れ落ちた。それを数回繰り返す。

教師は気づいてない。返り血だと思っている。


真っ赤に染まったその意味を。


刀身が、赤熱していることに。


そして、腹を裂いた刀身が、歪み、止まった。


「な、なんだと!?」


ぐにゃりと、形を歪ませた刀。

腹に食い込んだまま、どんどん溶けていく。

そりゃそうだ。俺の腹は、高熱を帯びている。


「すみませんね。臍で茶を沸かしてまして」


ヘラヘラとおどけると、教師は取り乱して。


「馬鹿なっ!? この刀は最高硬度のヒヒイロカネを炎のスキルを持った生徒会長が鍛えた代物だぞ! ちょっとやそっとの熱で溶ける程やわな刀ではない!! それなのに、何故……?」


ヒヒイロカネ。実在してたんだな。

それはともかく、ネタバラシをしてやる。

というか、彼が自分で答えを口走っていた。


「その会長のスキルを奪ったの、俺なんで」


そう。だから、俺は臍で茶を沸かせる。

今出来るのは体温を上昇させることくらいだ。

その熱を利用して、教師の刀を溶かしたのだ。


腹を何度も切ってくれて助かった。

一番分厚くて、厚くて、熱い部位だからな。

馬鹿な教師で、楽に武装解除できた。


「んじゃ、血を吸わせて貰いますね」


テクテクと歩み寄り、大口を開けると。


「刀がなければ、切れないとでも?」


鼻から上がスポンと切り飛ばされた。

舞い上がった両眼で、眼下を眺める。

手刀を振り抜いた姿勢の教師が見えた。


だが、手刀の斬撃には、慣れている。


「へぇ、やるじゃん。まあ、関係ないけど」


口だけの俺は賞賛して、構わず吸血を開始。

鼻から上の頭部が、床に転がる。

その瞬間、鼻上から目と脳みそが生えてきた。


「そ、そんな……!?」

「あまり化け物を舐めないで下さいよ、先生」


最期くらいは生徒面をして、吸い殺す。

驚愕に目を見開いた教師は、砂となって消滅。

えっ? 味? なんか糞不味かった。吐きそう。


男の血液はどうやら美味しくないらしい。


担任教師を殺した感想は、その程度だ。

罪悪感が希薄なのは正当防衛だからか?

それとも……俺が、変わってしまったからか。


化け物と呼ばれた俺は。


ただひとつ、溶けた刀が、惜しいと思った。

今晩もう1話投稿予定です。

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