表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
凡人と神様  作者: 遺志又ハ魂
第一部 【詰まらない物語】
15/72

第14話 『小悪魔の最期』

「このっ! 離れろ痴漢っ!!」


噛まれた生徒会長がジタバタもがく。

それでも食らいついたまま離さない俺に、灼熱のブレスを吹き付けてきた。切り札らしい。

頭部だけの俺はもちろんなす術なく直撃を浴びて、自分の詰めの甘さ、つまらなさに呆れつつ、こりゃ今度こそ詰んだかな、と諦めかけたのだが、やはりというべきか詰まらなかった。


「そんなっ!? ボクの炎が効かないなんて!」


会長の絶望の叫びを聞いて、恐る恐る咄嗟に瞑った目を開けると、なんとまだ生きていた。

痛覚が正常に機能しているのであれば、火傷ひとつ負った様子はない。何故だろう。


暫し考えて、結論に至った。

どうやら俺は吸血の際に相手のスキルを奪うことが出来るらしい。かなりのチート能力だ。

それによって生徒会長の炎属性を我が物としたわけだ。火に対する耐性を、獲得した。


「ズルすぎるよ。あーあ……ここまでかぁ」


会長は観念したらしく、その場に座り込んだ。

その間も吸血を続ける俺の首の断面に違和感。

ムズムズしたかと思ったら、首から身体が生えてきた。ニュルっと脱皮したかのような感覚。

もっとも生まれてこの方脱皮経験は皆無だが。


失った右腕もキチンと再生していて、両手を使って会長を抱きかかえながら吸血を継続。

彼女の血は、あのかわゆいボスに負けず劣らず美味であった。爽快な喉越しが、たまらない。

知らず知らずのうちに抱きかかえる両手に力が入り、抱きしめるような形となった。


そんな体勢に、会長は居心地悪そうにぼやく。


「ちょっと……当たってるんだけど」


おっと、いっけねぇ。言われて気づく。

首から生えた身体が全裸であることに。

素っ裸で抱きしめれば、当然色々と当たる。

しかしながら、そんなことは瑣末な問題だ。

むしろ、こちらから当てにいこう。


「まったく……デリカシーがないんだから」


気まずそうに嘆息する会長の吐息が生々しくて、酷く興奮した。これが『リビドー』か。

一気に飲み干そうになるが、ぐっと堪える。

一旦口を離して、気になったことを尋ねる。


「どうして絆創膏を見られて慌てたんだ?」


我ながら頭のおかしい質問であることは重々承知しているが、会長のこれまでの小悪魔めいた言動から鑑みるに、あれほど慌てて羞恥心を露わにしたことに、少々違和感を感じた。

なので、そのことを聞くと会長は自嘲して。


「それは……君が強くなったからさ」


眠たそうな目をして、そう説明した。

大量に吸血されたことにより、もう目が見えていないのかもしれない。酷く衰弱している。

俺は、その青白く染まった可愛らしい頬に手を当てて、視力を失った彼女を撫でた。

すると彼女も弱々しく手を重ねて続きを語る。


「ただのNPCじゃなくなったから、つい意識しちゃったんだよ。他のプレイヤーに恥ずかしいところを見られたと思って、照れちゃったのさ」


てへっと、舌を出しておどける生徒会長。

そのあざとさに、酷く喉の渇きを覚えて。

荒々しく、再び牙を突き立てた。


「そんなにボクの血は美味しいかい?」


その問いかけに大きく頷くと、彼女は笑い。


「それは良かった。嬉しいよ」


心底嬉しそうに、安堵の息を漏らした。

そろそろ吸い終わる気配がした。

生徒会長の足先が、細かな砂に変わり始める。


「もしもまたどこかで会えたら……よろしくね」


そんな末期の囁きに一抹の切なさを覚えて。

俺は会長の程よい胸に手を伸ばして、揉んだ。

ふよふよしてる。その感触を、右手に刻んだ。


「ちょっ!? もぅ……バイバイ。変態くん」


ギョッとしたような声を残して、消滅。

そのおかげで、悲しみや寂しさが薄れた。

実に小悪魔めいた会長らしい最期であった。


《デビュー戦で快勝出来て良かったな》


右手に残った会長の感触を噛み締めながら、神の賞賛を聞き流す。快勝の喜びなど皆無だ。

如何に正当防衛とはいえ、殺人は殺人である。

吸血鬼であるかわゆいボスを倒すのとは違う。


俺は今日、初めて人を殺したのだ。


だが、罪悪感に浸っている暇などない。

放置していた重症の姉ちゃんの元に駆け寄る。

しかし、失念していた。俺は全裸であった。


「あなたを、そんな子に育てた覚えは、ない」

「ごめんなさい」


開口一番に叱られて、愚息は意気消沈した。


「とりあえず、服着ておいで?」

「はい……わかりました」


促されて、床に残された制服を着用。

首が千切れる前の俺の身体は、再生後に消失したらしい。制服だけがそのまま落ちていた。


着替えて、再び姉ちゃんの元へ向かう。


「もっと、マシな勝ち方は、なかったの?」

「すんません」

「お姉ちゃんは、恥ずかしいよ」


重ねて叱責されて、しょんぼり俯くと。


「だけど、嬉しかった。強く、なったね」


ほんの少しだけ柔らかな声で、褒められた。

姉ちゃんは飴と鞭の使い分けが上手だ。

嬉しくなって、胴体と頭部だけとなった姉ちゃんを抱え上げる。そのまま抱きしめる前に。


「なあ、神。お前なら姉ちゃんを直せるか?」


駄目元で、神に尋ねた。脳内に返信が届く。


《ああ、オレ様に不可能はない。見せてみろ》


本当に大した神様だ。その返答に一安心して、姉ちゃんを抱えたまま、神の元へと向かう。

容態がよく見えるように差し出すと、姉ちゃんは俺にだけわかる照れた笑みを浮かべて。


「すみません……壊れちゃいました」

「気にするな。ポンコツにしては、上出来だ」


なんか2人だけの世界を構築している。

なんとなく、気にいらない。どんな関係だよ。

それに、姉ちゃんをポンコツと呼ぶなよ。

無性にイライラしつつ、姉ちゃんが直ったら根掘り葉掘り問い正そうと、決意をしていると。


神は、何気ない仕草で顔を近づけてきて。


「今まで、ご苦労だった」


ガブリと、姉ちゃんの首筋に、噛み付いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ