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凡人と神様  作者: 遺志又ハ魂
第一部 【詰まらない物語】
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第10話 『バトル展開』

「ぐすっ……が、がみだま……っ!」

「おいおい。なんだよそのザマは」


恐怖心と安堵感から滂沱の涙を流して泣きじゃくる俺を神は嗤い、視線を会長へと向ける。


「よくも好き勝手やってくれたな。悪いが、こいつにはここで死なれちゃ困るんだよ」


不敵な神の文句に燃え盛る炎の勢いが弱まり。


「びっくりした。感じていたもう一つの視線の招待は君だったんだね。君は何者なの?」

「お前も転生者の端くれならわかるだろう?」


そう言って、神はその容姿を変質させていく。

長い黒髪は白く染まり、瞳だけは赤々と光る。

常識では考えられない、変身を遂げた神。


その姿に、生徒会長は目を見開いて。


「あはっ。まさか世界の主……【ワールド・オーナー】のお出ましとは。恐れ入ったよ」


嬉しそうに、恭しく頭を下げて一礼する。

厨二っぽい単語をちらほら口にしているが、当然ながら俺にはちんぷんかんぷんでさっぱり。

文脈から推察するに、神は世界の主らしい。

ワールド・オーナーなんて呼ばれてんのか。


「んで? オレ様の正体を知った上でまだ歯向かう気はあんのか? 賢明な判断を期待したいが」

「当然挑むよ。なにせラスボス戦だしね」

「やっぱそうなるか。ま、そうこなくちゃな」


やる気満々な生徒会長に、げんなりしつつも神はやり合うつもりらしい。バトル展開かよ。

どうでもいいけど、他所でやってくれよな。


「お前だって、ワクワクしてんだろ? ほれ」


真っ白な神はこちらの図星を突いて、制服のポケットから何やら小瓶を取り出し、その中に入っていた綺麗な青色の液体をふりかけてきた。

その冷たさに抗議を上げる前に異変に気付く。


「あれ? 怪我が、直ってる……?」

「ハイポーションだ。いや、エリクサーだっけ? ま、どっちでもいいが、さっさと起き上がって隅っこに隠れてろ。巻き込まれるぞ」


ハイポーションだかエリクサーだか知らないがありがたい。折れた肋骨の痛みが消え失せた。

俺は言われるがまま、図書室の隅へと移動。


かぶりつきで神と異能力者の戦闘を見学する。


普通こんな目に遭ったならばすぐさまこの場から逃げるべきだと思うが、そろそろ普通のモブを卒業したい歳頃の俺は居残ることを決めた。


「いや〜彼にちょっかいかければ何かしらのイベントが発生するとは思っていたけど、想像以上だったよ。セーブ出来ないのが辛いけどね」

「戯言はいいから、さっさと来な」


おどける生徒会長を黙らせて、戦闘開始。


「じゃあ、いっくよー! 火炎斬っ!!」


炎の剣で横薙ぎ一閃。咄嗟に身を伏せる。

なんとなく反射的にそうしたが、正解だった。

図書室内のあらゆる物が薙ぎ払われ、燃えた。

けれど、不思議と窓や壁は無事である。


「戦闘前に結界張っといたからな。校舎一棟吹き飛ばす程度じゃ済まないだろうからよ」


解説する神の声に納得して、視線を向けると。


神はお腹辺りで綺麗に両断されていた。


嘘みたいだろう? 俺だって信じたくないさ。

でも、上半身は轢かれたカエルみたいに床に這い蹲っていて、下半身は直立してるんだよ。

切断面からぷすぷす煙りまで上げている始末。


あんだけ強キャラ振ってた神は、死んだ。


「いやいや、勝手に殺すなよ」


這い蹲った上半身から呆れた声が。

ギョッとして見ると、生きていた。

棒立ちの下半身が膝を折り、切断面を接着。


むくりと起き上がり、何事もなかったように。


「それじゃあ、今度はこっちの番だな」


神は凶悪な笑みを浮かべて、反撃開始。

白い髪が、まるで翼のような形を作る。

すると、神の細身の身体がふわりと浮かんだ。


原理は不明だが、神は飛べるらしい。


「オレ様に一撃に耐えてみな」


空中で力を溜める仕草をして、消えた。

ふっと、その場から消え失せて、見失う。

その刹那、閃光と衝撃音が図書室を襲う。


閃光手榴弾のようなその光と大音響で視覚と聴覚を奪われ、ついでに前後不覚に陥った。

しばらくして、視界が戻ってきた。

耳鳴りが酷い。クラクラしつつも見渡すと。


「けほっ。 どんな攻撃力なのさ」


燃え盛る本棚をなぎ倒して壁に張り付く会長。

着弾点と思しき場所に、神が右腕を前方に振り抜いた姿勢で立っていた。

高速移動の運動エネルギーを右ストレートに乗せて殴り飛ばしたらしい。


「これで、肋骨の借りは返したぜ」


俺の折れた肋骨の借りを返してくれたのか。

ガッツポーズをする神に歓声を送るべきか悩んでいると、会長もポーションらしき物を飲む。


「ふぅ……レベル差を感じちゃうね」

「悪いが、お前じゃあ相手になんねぇよ」


そう神に諭されて、会長はむっとしたようで。


「悪いけど、ボクはまだ本気出してないよ?」

「それをわかった上で言ってるんだ。それでも諦められないなら……そうだな。こうしよう」


神はパチンと指を鳴らす。

すると、足元に魔法陣と思しき幾何学模様が現れて、光り輝くそれに目を奪われていると。


「いらっしゃいませ、ご主人様」


猫耳メイド姿の姉ちゃんが現れた。


「何やってんだ、姉ちゃん」

「わ、私は、バイト中で……それよりも、どうして、あなたが? ここは……図書室?」


まさかメイド喫茶でバイトをしているとは。

白けた視線を送ると、姉ちゃんも困惑した様子で辺りを見渡して、神と目が合った。


「ポンコツ、仕事だ」

「か、かしこまりました。ご主人様」


ぺこりと頭を下げる姉ちゃん。

神を何故かご主人様と呼んだ。

神は姉ちゃんをポンコツと呼ぶ。失礼な。

バイトの感覚が抜け切っていないのかとも思ったが、いささか不自然だ。どんな関係なんだ?


「というわけで、お前の相手はこいつだ」

「ワールド・オーナーのお人形を倒したら、また戦ってくれるってことかな?」

「さて。それは今のところ何とも言えないな。とりあえず、まずはこいつを倒してからだ」


神は会長と姉ちゃんを戦わせるつもりらしい。

あんな人外と姉ちゃんが戦うなんて。

姉ちゃんも状況が飲み込めないらしく。


「どうして、彼女と、戦うのですか?」

「そこのゼロ才児の肋骨をへし折ったからだ」

「よろしい。ならば、戦争です」


それだけで戦う理由に足りるらしい。

だけど、俺は気が気じゃない。

あんなバケモノと戦って、無事で済むとは思えない。慌てて、割って入ろうとするが。


「ここは姉ちゃんに任せて、お前はこっちだ」

「うわっ!? 何すんだよ!?」


首根っこを掴まれて、ふわりと浮く。

ジタバタともがく俺を無視して、神は姉ちゃんに向けてまるで主人のように一言命じた。


「死ぬなよ」

「かしこまりました」


パチンと神が指を打ち鳴らす。

その瞬間、景色が一変した。

そこは絶海の孤島。荒波が飛沫を上げている。


どうやら、瞬間移動をしたらしい。


「さあ、ここからが正念場だぜ?」


隣に立つ神が、進路を指し示す。

ゴツゴツした岩肌が剥き出しの島の中央にぽっかりと、穴が空いている。洞窟らしい。


いやいや、洞窟探検なんかしてる場合じゃないだろう。姉ちゃんが心配だから帰してくれ。


「姉ちゃんはあの生徒会長には勝てない」

「は?」


何言ってんだ。じゃあ、なんで呼び出した。

勝てない相手に、どうして挑ませたんだ。

神の意図がわからず、困惑していると。


「姉ちゃんを助けたいなら、洞窟へ行け」

「だから、なんでだよ?」

「あの生徒会長に、勝つ為だ」


益々わからない。どういうことだ。

会長を圧倒していた神なら簡単に勝てる筈だ。

さっさと図書室に戻って、姉ちゃんと交代するなりして助けてやれよ。お願いだから。


「悪いが、これ以上は干渉出来ないんだ。それに、なんでも神に頼るのはやめろ。甘えるな」


じゃあどうすりゃいいんだよ。


「だから、洞窟へ行け。そしてお前の意思で選択をして、自分の力で姉ちゃんを救え」


神の言ってることはさっぱりわからない。

わかるのはこのままでは姉ちゃんが危ないということだけだ。ならば、俺がなんとかする。


「わかった。あの洞窟に行けばいいんだろ?」

「ああ。安心しろ。俺も付いて行ってやる」


そんな暇があるなら姉ちゃんを加勢しに行けよという文句を飲み込みつつ、硬い岩肌を進む。


真っ暗な洞窟に、飲み込まれる感覚。


もう、後には引けないのだと、直感した。

22時にもう1話投稿します。

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