幕間 10 復讐
私がいる場所、そこは明らかに街では無い煌びやかな場所だった。
そしてその場所が幻では無い、そのことを確かめるように私は2、3度目を瞬く。
だが、目を開けても目の前の光景が消えることはなかった。
「ふ、うふふ!」
そのことを確かめた私の口から堪え切れないように笑いが漏れる。
それは隠し切れない歓喜の感情が浮かんでいふ笑い。
私はそのかんきによいしれるように声をあげて笑う。
そしてその服装も変わっていた。
決して私が王子の妾として過ごしていた時ほどでは無い。
だがそれでもその服は平民ではまず着れない服。
「あははははっ!」
そしてその服を身体に纏って私は優越感に哄笑を上げる。
それは仲間の資金を盗って街へと繰り出した翌日。
ーーー 私は貴族へと成り上がっていた。
◇◆◇
街で黄昏ていた私に声をかけた男、それは酷く肥えた男だった。
決して身なりは悪く無い。
けれども不快な印象が拭われることのない、そんな男。
最初、私はその男から逃げようとした。
決してその男に危険を感じたわけでないが、生理て嫌悪に耐えかねて。
「私の妾にならないか?」
「えっ?」
だが、その私の足は貴族の証である印章を出した男の声に止まった。
「私はコエンダ・テーブロー。ここの貴族だ」
そう名乗った男は私が貴族であった頃なら絶対に見向きもしなかった人間。
身分に関しても低い、見た目に関しては絶望的な人間。
だが、それでも私はこの男の誘いを受けなければならないだろう。
貴族として生きる為にはこんな男であっても受けなければならない。
違うもっとカッコいい人が自分を娶ろうとしてくれる、そんな想像はもう私にはない。
そんな想像が持てるだけの時期はもう終わった。
今私の目の前にあるのはどんな相手だろうと、もう一度貴族になりたいと望むのならば手を取らなければならないという過酷な現実。
「はい。貴方様のような方の妾に私はなりたいです!」
だが、そのことをわかりながら私の胸にあるのは優越感だった。
ー 本当に彼女に俺たちは酷いことをしてしまった………
ー 私も今なら分かる。平民を馬鹿にしていた態度が、どれだけ愚かな行為だったことか……
「くはっ」
私の頭に蘇るもの、それは仲間達の言っていた言葉。
それは一時酷く羨ましく思えた言葉。
そんな風に簡単に自分を省みれることを酷く嫉妬した。
だが、最終的に私はまた貴族に戻れる。
「お前は賢いな!まぁ、断っても意味など無いがな!」
私の了承に目の前の豚はそう笑う。
そしてその豚の言葉に私は悟る。
こいつは本当に貴族として、いや、人間としてもダメな存在だと。
そんな存在に、今から私は身体を差し出さなければならないことを。
そのことを考えた瞬間私の身体に嫌悪感による鳥肌が立つ。
「いえ、そんなことは望んでいませんわ」
だが、私はその嫌悪感を胸に巣食う憎悪で押さえ込んで笑った。
確かに目の前の豚の妾になるなんて、そんなことは絶対に嫌なことの1つだ。
最悪で最低で、どうしようもないそんな状況だ。
実際私の頭の片隅では平民であった時の方が良いのではないか、そんな風に頭のどこかで囁いているのが分かる。
だが、それで復讐が成せるのならそんなことなんの関係は無かった。
「アリス……」
口から漏れる言葉、その時漏れ出た声には溢れんばかりの憎悪が籠っていた。
それはもう、正しいかどうかなんて関係なかった。
ただ私は自分が被害者でいつか報われる主人公だと信じて行動を起こす。
今目の前の男の妾になるのも、ただ最後の幸運の前の悲劇。
そう思い込んで私は豚の妾として改めて貴族の称号を手に入れた……
そして私は見当違いな復讐を始める。
あくまでそれはただ自分を納得させるためのものの。
ただ自分を満足させるため、それだけの行為。
だからその時私は気づくことはなかった。
その先に繋がっているのはもう戻ることのできない暗闇であることを。
私の夢想する輝かしい未来。
それが実現することはないというそのことを………




