34.命乞い
「えっ、」
サルマートの言葉に最初王子が反応することはなかった。
ただ何を言われたのかわからない、そんな様子で立ち尽くす。
ー あの王子は絶対に許さない!
ー ……分かった。今息子は王子の座から下ろし貴方方に引き渡すことにする。
「あぁぁぁぁあ!」
だが、スクリーン内の貴族と国王陛下の会話にようやく悟る。
ーーー 今、自分は追放なんてそれどころではない危機に陥っていることを。
「やめてくれ!嫌だ!頼む!追放でもなんでも受けるから!」
王子は泣き喚きながらサルマートにしがみつく。
「煩い」
「ぐっ!」
だがサルマートがその王子の訴えを聞き入れることはなかった。
ただ、服についた汚れを払うかのように王子を蹴り飛ばす。
「自業自得だろうが!」
「ぅえっ?」
そして嫌悪感を隠そうとしない表情で王子に向かってサルマートは吐き捨てた。
「お前は令嬢を強姦しただけでなく、何人か口封じのために殺しただろう?で、その報いを受ける時が来ただけだ」
「嫌だ!巫山戯るな!この俺は王子だぞ!何でもやる!望むものはすべてお前にやるから、だから俺を……」
だが、サルマートにそう冷たく告げられても王子が命乞いを止めることはなかった。
恥も外聞もかなぐり捨て、王子はサルマートに叫ぶ。
「ーーー お前はもう、王子じゃない」
「っぁ!」
だが、その王子に向けてサルマートはただ一言告げた。
そしてその一言で王子はようやく悟る。
絶対にサルマートは自分を手助けしてくれることはないということを。
その様子を見て私はもう王子はどうすることもできないのを悟る。
今まであれだけ周りを騒がせて来た王子、だが彼はもう王族として生きることは無いだろう。
「アリス!」
「っ!」
しかし、突然自分の方へと振り向いた王子の姿に私は間違いを悟る。
王子は未だ諦めていなかったのだ。
そして私の胸にその王子の姿に疑問を感じる。
何故、王子はまだ諦めないのか。
もう王子を守ってくれる存在などこの国にはいない。
そのことを先程のスクリーンで王子は知ったはずなのに……
「愛する者の危機だ!俺を助けろ!」
だが、その私の思考は王子の全く意味がわからない言葉に停止した。
何を王子が言ったのか、その意味さえ頭に入ってこない。
数十秒の間、私はそのままの状態で唖然と立ち尽くし、それからようやく王子の言った言葉の意味だけを悟る。
「はぁ?」
だが、何故王子がそんな風に思い込めたのか私に分かることはなかった。
◇◆◇
「……何故そんな結論に?」
「照れなくて良い!」
「っ!」
私の嫌悪感から固くなってしまった声を照れ隠しだと思い込んだのか、王子は何故か顔に笑みを浮かべながらそう告げる。
そしてその王子の様子に私の身体に怖気が走り、鳥肌が全身に立つ。
けれども王子はそんな私の様子に気づくことなく得意げに口を開く。
「俺は知っている。アリス、お前が婚約者となった時ずっと俺を見つめていたことを!」
「えっ?」
「その時はお前が俺との初夜を待ち望んでいたこともわかっていた。照れ屋のお前がそのことを恥ずかしがっていることもな!それに今回だってお前は俺のことを心配げに見つめていただろう!」
「何の、ごとですか?」
全く意味のわからない王子の言葉に私は思わずそう尋ねてしまう。
「だから照れなくて良いと言っているだろう。まぁ、そんな所も俺は嫌いでは無いが」
「っ!」
一瞬、王子を殴り飛ばしたい衝動に私は駆られる。
横を見ると、サルマートを同じ表情をしていてそんな勘違いをしているのは王子だけなのだと悟る。
そして私は溜息をつくと、あり得ない思考の王子の誤解を解くために口を開いた。
「……私は決して好きで貴方を見ていたわけではありません。国王陛下の指示で貴方の動向を監視してくれと言われたから見ていただけです」
「はっ?」
私が告げた言葉に王子の今までの得意げな表情が崩れ始める。
「それも照れ隠しなのだろう!その他にもお前は俺に敬意を欠かすことはなかっただろう!婚約破棄された後でも俺のことが忘れられなかったんだろう?それに自慢では無いが、俺はお前の危機を救ったことだってある!メリーに襲われていたお前を……」
だが、それでも未だ王子の勘違いは治ることはなかった。
王子はまるで自分が私に嫌われている可能性を信じようとせず、事実を捻じ曲げて行く。
「やめて下さい!」
「っ!」
そして最終的に私は王子の言葉を遮り叫んでいた。
王子はまさか怒鳴られるとは思っていなかったのか、信じられないものを見るような目で私を眺める。
だが、その目を無視して私は叫ぶ。
「私は貴方が王子でなければ一生会うことなかっただろうし、絶対に会いたくはありませんでした。
ーーー 貴方のことが私は嫌いです」
「えっ、?」
誤魔化しようの無い私の言葉。
そしてその私の言葉にようやく王子は自分が私に好かれていない、それどころか嫌われていることに気付き言葉を失う。
「嘘だ……」
「いえ、本当です」
「っ!巫山戯るな!」
だが、次の瞬間王子は激昂した。
憎々しげに私を睨みつけながら王子は叫ぶ。
「お前は、俺が王子であるということしか見ていなかったのか!巫山戯るな!そんな人間が領民に聖女だなんて言われて調子に乗りやがって!お前は人を身分でしか見れないのか!」
それはただの子供の我儘でしかなかった。
「そうだ!俺は悪く無い!お前が全て悪いんだ!」
だが、王子はその謎理論で自分を正当化し始める。
そして私の方へと足を踏み出し、
「時間切れだ」
「あがっ!」
そしてサルマートに殴り飛ばされた。
「俺を王子としてしか見てない?巫山戯るなはこちらの台詞だ。
ーーー お前が、自分が王子であることしか見せようとしていなかっただけだろうが」
サルマートは王子に冷ややかに告げる。
だが、王子の目はただ私への憎悪しか存在しなかった。
「まぁいい。もうそろそろ出頭の時間だ」
「っ!」
そしてその王子の目を見てサルマートが告げた言葉にようやく王子は自分の立場を思い出して叫び始める。
「やめてくれ!アリス許してやるから俺を助けろ!」
だが、その言葉に私は動かない。
「安心しろ。死ぬことはないさ。
ーーー 死んだ方が良いと思う目なら合うだろうがな」
「っ!助けてぇ!誰かぁ!」
それが私の見た、最後の王子のまともな姿だった……




