18.追放 Ⅱ
今回もメリー目線です
ー 今回ばかりは父も私を追放するかもしれない。
そんな考えが、メリーの頭によぎる。
そしてそんなことになれば私は生きて行けるかどうかさえ厳しいだろう。
この社会は貴族や王族などの特権階級が絶大な権力を持つ社会。
農民などの権利は殆ど認められておらず、酷く厳しい生活の中暮らしている。
そしてそんな中で自分が汗水垂らしながら働く光景など一切思い浮かべられない。
「嘘、ですよね?」
だが、そんなことは些事でしかなかった。
メリーは呆然とした表情で王子の服を掴んで問いかける。
「貴方と私は運命に結ばれていて、私のこと愛してくれてますよね!いえ!愛している!なのに何で?こんなにも愛しているのに、私がいなければ貴方は駄目なのに!私と貴方は生涯繋がっていなければならないのに!」
メリーは必死な、いや狂気的というべき表情で王子に叫ぶ。
「愛しているのに、愛しているのに、愛しているのに!」
だが、王子が何らかの反応を示すことはなかった。
そしてその王子の態度に最終的にメリーの声は縋るような響きになって行き、
「気持ちが、悪いな」
「っ!」
王子はその時冷ややかな声で吐き捨てた。
「こんなにも気持ち悪いやつだったとは……本当にお前は外見だけだったのだな」
「え、何で……」
王子が自分を見る冷ややかな視線に、そして罵る言葉にメリーの中で何かが崩れて行く。
それは今まで必死にメリーが縋っていたもので、それが全て崩れようやくメリーは悟る。
「お前ごときが、私のアリスに手を出すな!」
王子に持っていた理想、それはただの自分の思い込みでしかなかったということを。
王子はメリーの内面を気にしていなかったのではない。
ただ、王子は最初からメリーの外見だけしか見ようとしていなかった、それだけでしかなかったことを。
「私の目の前から消えろ!」
そして、この日メリーは全てを失った。
◇◆◇
王宮から王子の部下に連れ出されたメリーにはもう何をする気力も残っていなかった。
もしかしたらもう家では家名剥奪されているかもしれない、そのことを知りながらも何も思うこともない。
ただ、側の草叢に投げ捨てられから動く気力も存在せず、脱力した状態でいるだけ。
「何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で、王子様!」
ーーー だがその目には狂気的な光が宿っていた。
それは王子に対する愛情が全てを憎悪に変化したような、背筋に悪寒が走る光。
「あら、いい顔しているじゃない」
「っ!」
突然そのメリーの様子を面白がるような声が、その場に響いた。
それは人を見定めるような響きを持った声。
そして顔を上げその声を発した主を見たメリーは言葉を失った。
「これこれはメリー嬢」
そこにいたのはアリスか冤罪を掛けられる理由となった少女だった。
褐色色の肌にメリハリの付いた身体つき。
最初はメリーもアリスに継ぐライバルになるのではないかと警戒していた女性。
だが彼女は直ぐに目にすることが減るようになり、てっきり身分が低いことが理由に逃げ出したのだとメリーは考えていた。
しかし何故か彼女は突然目の前に現れていて、メリーは彼女の名前を叫ぼうとする。
「あ、れ?」
ーーー だが何故かメリーは彼女の名前を思い出すことができなかった。
貴族にとって名前を覚えるというのは必要不可欠な能力でメリーももちろんその能力を持っている。
だが、目の前の彼女の名前だけはどうしても思い出すことができず、不快感が溢れ出す。
「そんなに身構えなくてもいいのに。私の名前なんて分からなくても良いんじゃない」
そしてその不快感は目の前の女性を前にしてさらに膨らんで行く。
直感が目の前の女性が危険だと大音量で警報を鳴らしている。
その警報に従いジリジリとメリーは後ろに下がりながら、メリーは恐怖と疑問に満ちた叫びを女性に投げかけた。
「貴女は、何!」
「私はマイアよ。最も貴女たちは忘れてしまっているだろうけどもね」
女性、マイアはそう笑うと素早い動きでメリーとの間の距離を詰め、彼女の頭に手を置く。
「あああぁぁぁぁぁぁあああ!」
そして次の瞬間、その女性の手が置かれたところから眩い光が何か幾何学的な模様を描き始め、メリーの頭を侵食し始める。
「貴女の憎悪、私と同じ。だからあの使えない王子の代わりに貴女を私の仲間にすることにしたの」
そしてその女性の言葉と共に、メリーが王子に対して抱いていた憎悪の矛先が何故かアリスへと変わって行く。
女性が魔術を使っている、ようやくそのことに思い至った時にはもうメリーは殆ど意識がなかった。
「さぁ、あの売女に然るべき報いを」
そして最後にそのマイアの言葉を最後に、メリーは意識をなくした……




