悲観の狼
一行がアンメルツの町に到着したのは、夕刻であった。とりあえず今晩泊まる宿を手配しにキレンコフは一人歩いて行った。残された二人はとりあえず町の見物へと出かけることにした。
アラキ「へぇ~意外と綺麗な町なんだなぁ・・・」
ユミィ「そうね。この町は歴史が古くてね・・・、その割には綺麗な方ね。」
ユミィによるとアンメルツの町が生まれたのは今から500年前、当時共和国を収めていた『フィッシアーノ5世』が交易の中継地点として創ったのがこの町であるという。この町は戦争が繰り返される毎に名前が変わっているらしく、当初の名前は『海峡交易地点北西部』と硬い名前だったという。現在は共和国化ということもあって半ば名前が固定された。
アラキ「お前詳しいよなぁ~、うんすごいわー」
ユミィ「えっ・・・あ、ありがとう・・・」
アラキの突然の称賛に驚愕しつつ赤面してしまうユミィ。村からこの町に至るまでとは性格が180度逆なので仕方ない。
微妙な空気の中、宿の手配が終わったキレンコフが戻ってきた。
キレンコフ「宿の手配が終わった・・・。ん?どうしたんだ、ユミィさん・・・。」
ユミィ「え?い、いやいやいや!ななななんでもないですぅ!」
赤面したままのユミィ(おっさん)とそれを白い目で見ているアラキを後目に、キレンコフは宿屋に入っていった。その背面を見た2人も続いて中に入る。
中はまるで西部劇の酒場のような雰囲気で、しっかりとジャズがかかっていた。
支配人「いやはや、ようこそいらっしゃいました。それではお部屋にご案内いたします。ささ、どうぞこちらへ!」
支配人に部屋に案内される。支配人によると、食事は午後7時からであり、現時刻は6時20分。食事まではまだ時間がある。部屋に荷物を置いた3人はとりあえず一階のバーカウンターで酒を一杯ひっかけることにした。
カウンターに座ると、アラキの目の前にブランデーが横から流れてきた。
アラキ「な、なんだ?」
アラキが横を向く、3席離れたところに男が一人座っていた。
アラキ「このブランデーはあんたが?そうだったら悪いな。頂くぜ」
謎の男「・・・、カウンターで会った奴はFriendさ・・・。」
アラキ「なんだこのおっさん!?」
マスター「あのお方は流れ者の用心棒でして・・・名前が」
マスターが名前を言いかけた時、その男は口を開いた。
謎の男「俺の名前は・・・悲観の狼・・・Lonely Wolf・・・。」
アラキ「変な名前だな!恥ずかしくないのかよ?」
ユミィ「やめなさい!アラキ君!」
悲観狼「いいのさ・・・、おれも好きでやっていることだ・・・。このNameは宿命を背負わなきゃやっていけねぇ・・・。冗談じゃねぇ・・・。」
アラキはとりあえず、なぜ自分にブランデーを奢ってくれたのかを問う。
アラキ「俺はあんたに奢ってもらうような義理はないし、なにせ初対面だ。なんで俺に接触を?」
悲観狼は葉巻に火をつけつつ答える。
悲観狼「フッ・・・あんたにただならぬAppeal(魅力)があったからさ・・・。良かったら俺を雇わないか・・・。Moneyは安くしとくぜ・・・?」
アラキ「お前ホモか!?」
ユミィ「なんでそうなるのよ!?ていうか、用心棒さん雇うの?」
アラキ「俺はホモは嫌いなんだよ!」
悲観狼「同族嫌悪か?・・・冗談じゃねぇ・・・。自分をRelease(解放)しろよ・・・。とにかく俺はついていくぜ・・・兄弟・・・。」
その男は図々しく、食事の際も遠慮なしにアラキの隣に座ってきた。
アラキは強敵の猛攻に疲れ果てて、食事ものどを通らなかった。
早々に部屋に戻ったアラキは、疲れで昏睡した。
が・・・、その晩アラキの部屋の灯りが消えることはなかったという。
新しく仲間に加わった悲観の狼・・・、果たして彼の本当の目的とは何か?
一行がその真意に気が付くのはまだまだ先である・・・。