最低最悪な門出
次の日の朝。アラキが出発する日がやってきた。
見送り人はスズメと犬一匹・・・。それと村民のうめき声である。門出がこんな形とは最悪だ。
アラキ「チッ・・・、縁も縁もないお前らのために行ってくるっつうのに。まったくやってもらって当然じゃねぇんだよクソが。」
悪態を付いているアラキだが、彼の言い分は至極当然である。突然家に押しかけられて、義理もない人のために1500キロも旅をするのに、感謝の一言もないからだ。そのうえ押し付けてきた当の本人もまだ現れない。アラキのイラつきと怒りは頂点に達しようとしていた。
アラキ「あんのクソじじぃ・・・来たらぶっk・・・」
言いかけた瞬間、遠くから馬の鳴き声が聞こえた。黙認できるだけでも村長と思わしき人物を含めて3人はいる。
アラキ「やっとお出ましか。おせぇよクソッタレ。」
村長の顔は申し訳なさそうな・・・ではなく、微笑を浮かべていた。
ギック・リー「おう、もう行くのか?」
アラキ「うるせぇ!何がもう行くのか?だ!それがこれからお世話になる人への態度じゃねぇだろコラ!」
喧嘩腰のアラキの言葉を無視し、昨日アラキに言われた通りに手配した面々を紹介し始めた。
ギック・リー「お前さんに言われた通り、とびっきり美人だったガイドのお姉さんを連れてきたぞ!」
アラキ「なんだこのおっさん!?」
そのふくよかな女性は、お世辞にも綺麗・・・どころではなく女性と呼べるかも怪しいなりをしていた。
アラキ「ふざけんな!俺はおっさんを連れて来いって言ってないだろ!」
ギック・リー「でも確かに彼女は村一番の美人``だった``んだぞ?お前は幸せもんだ。彼女の名前はユミィだ。」
ユミィ「よろしくね!アラキくん!これから頑張ろうね!」
アラキは心の中で死ねと連呼していた。不思議と怒りは沸いてこなかった。もはや呆れである。
アラキ「だまれ!俺はおっさんには興味ないんだよ!病院に行け!」
ユミィ「ひ、酷い・・・、グス、ヒック・・・」
ギック・リー「女性を泣かせるとは・・・度し難いなまったく・・・。」
アラキ「で、ほかのメンバーは?」
ギック・リー「おおそうじゃたぁ!馬車引きは手配できなかったが、料理人を手配したぞ!出張料理人のキレンコフだ。」
紹介されたその大男は優に210㎝は超えていた。その威圧感に圧倒されたアラキは・・・
アラキ「あっど、どうも!コ、コウ・アラキですでございます!!よっよろしくお願いしまァァァァァァァァァァす!!」
緊張で大声しか出ない。さっきまでの威勢はどこに行ったのやら。アラキはすっかり毒気を抜かれてしまった。
キレンコフ「あ・・・どもっす・・・。」
大声のアラキとは対極的に、キレンコフの声はその図体に相応しくなく、まるで小鳥のさえずりだった。そんなキレンコフの態度を見たアラキは
アラキ「まぁ仲良くやろうや、兄弟。」
調子に乗るのが早すぎる。これがこの男の性質である。性質が悪い。
ギック・リー「さて、メンバーの自己紹介も終わったことだし、装備の説明でもしようかね・・・。」
そう言うと、ギック・リーは説明を始めた。アラキ一行に渡されたものは、軍資金約5000デシア(日本円で5万円)と各種ライトやロープなどの冒険必需品。そして賢者への秘薬引き渡し紹介状である。この紹介状はノーティスの指印が血で押されていた。
アラキ「うえ・・・気持ち悪ぅ・・・オエッ!」
ユミィ「大丈夫ッ?アラキくん!」
アラキ「オェ”!余計気持ち悪くなったわ!」
ユミィ「えぇ・・・。」
ギック・リー「さて説明は以上だ!頼むぞ!救世主達よ!彼らに神の加護があらんことを!」
犬一匹と村長に見送られながら、寡黙な巨人とおっさん♀に挟まれた救世主は村を後にした・・・。




