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兄妹以上、家族未満。  作者: 木島冴子
お兄ちゃんは心配性?
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お兄ちゃんは心配性? 5



同居から三週間が経ち。


藤吾があの時の破廉恥な男とは別人なのか同一人物なのか、いまだ答えは出ず。うやむやになっている。


あれから報復されることもないし、あの時のことが藤吾から話されるわけでもない。


ましてや自分から「あたしにキスしましたよね」なんてたずねる勇気もない。


もう他人のそら似でいいや、と思う今日この頃。


この世には三人くらい似た人がいるっていうし。


あたしはそう納得していた。


それよりもなによりも。


今、あたしには新しい問題が浮上していた。


『お兄ちゃんの愛が重たすぎて困る件について』だ。


ライトノベルのタイトル風にしてみたけれど、ほんとうに困っている。


「はぁ~」


かれこれ一時間。リビングのソファに座ってそれを考えていたあたしは何十度目かのため息をついた。


飲もうと思って淹れた紅茶もすでに冷めてしまっていた。


「どうしたん? 修子ちゃん」


突然、美形のアップが目の前に現れた。


「うぁっ!」


身をかがめてあたしをのぞきこむ藤吾の顔がすぐ近くにせまる。


息がかかるくらいすぐ近く。


これが美形じゃなくて、ぶさいく…いや少なくともあたしの好きなタイプの顔でなければこんなにドキドキしないのに。


たいぶ慣れてきたが突発的だと思わず驚いてしまう。


その拍子にあたしはソファからずり落ちた。


「大丈夫?」


あわてた藤吾がリビングの床にしりもちをついたあたしのそばに膝をつく。


ひぇぃ。


叫びだしそうな悲鳴をこらえてあたしは藤吾から距離をとる。


「だ、大丈夫だから」


だから王子さまみたいにひざまずくのはやめて、とのどまで出かかった言葉をなんとか飲み込んだ。


ひざまずいて手をさしだす仕草がすごく様になっているだけに笑いにもならない。


さしだされた藤吾の手は辞退して、あたしはふたたびソファに座る。


と、ごく自然に藤吾があたしのとなりに座った。


な、な、なんでそこに座るの???


向かいにはもう一つソファがあるというのに。


よりにもよって、なんでとなりに!?


一応、二人がけとはいえそれほど大きくないソファ。


となり同士、密着とまではいかないが腕と腕が触れ合うくらいの近さではある。


ちょっと横を向けば微笑む藤吾がすぐそばに。


あたしはすぐに視線を前にもどした。


いやこれ、心臓に悪すぎる。


ドキドキはとうにこえ、ばくばくと早鐘みたいに心臓がなっている。


心なしかとなりにいる藤吾の重みがあたしにのしかかっているような気もする。


き、緊張する。


あたしはのどが干上がるのを感じた。


そうだ! 紅茶を淹れたんだった。


ずいぶん前に淹れた紅茶がソファの前のテーブルに置いてあったはずだ。


あった、あった。


紅茶を淹れたオレンジ色のマグカップに手をのばす。


「紅茶冷めとるで。新しいのにとりかえよか」


ひょいと藤吾の手もマグカップにのびる。


あたしは硬直した。


取っ手をにぎらずにカップそのものを持ったあたしの両手は今、さらに大きな藤吾の手に包まれていた。


つまり現状の説明をすると、藤吾が彼の両手であたしの手ごとマグカップを握っている。


パニックになるな。冷静に、冷静に。


こういうときは羊の数をかぞえるんだっけ。いや、それは寝るときか。


あたしはかなり動揺していた。


藤吾の手のあたたかさがダイレクトに伝わってくる。


手をはなして欲しいな、とちょっと藤吾をうかがうと、にっこりと微笑を返され、さらにぎゅっと手を包まれてしまった。


そういうことじゃないんだってば!!!


あたしの心が叫びたがっている。


そう。これが新しい問題。


『お兄ちゃんのスキンシップが重たすぎて困る件』についてだった。


兄妹にしてはやたらにスキンシップが多い…気がする。


つい三週間前までは一人っ子だったからよく分からないけれど。


たとえば、あたしがリビングで雑誌を読んでいた時に驚かせようとして後ろから抱きついてくるし、ママに頼まれた夕飯の買出しを一緒にした時も迷子になったら困るからってずっと手をつないで歩く…。


手をつなぐなんて、お兄ちゃんは心配性? なのかもしれない。


しかし、いくら極度の方向音痴のあたしでもすぐそばの藤吾からはなれて迷子になるほど子どもではない。


それに今気づいたけど、これってただのバカップルじゃないか。


だが藤吾に自覚はなく天然らしい。


今も無邪気な瞳であたしを見てくる。


ここは義妹として注意すべきなのだろうがまだ兄妹になって三週間。


気まずくなるのは嫌だなぁ。


よし。注意するはつぎにしよう。


ひとまずあたしはこの状況を打破することにした。


「いいよ。新しいの自分で淹れるから」


なるべく自然をよそおって藤吾の両手をマグカップからひきはがす。


そしてすばやくソファから立ちあがりキッチンへ向かう。


少しずつスキンシップを減らしていかないと、あたしの心臓がもたない。


背中に藤吾の視線を感じつつ、あたしはリビングをあとにした。





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