お兄ちゃんは心配性? 4
「よろしうな、修子ちゃん」
天使のような笑顔で微笑む藤吾…お兄ちゃん。
お兄ちゃんと呼ぶのにはかなり抵抗があるのだが。
つい数週間前まで赤の他人だった人をお兄ちゃんと呼べるほど、あたしの頭は柔軟にできていない。
真知子ママの時でさえ「ママ」と呼ぶには、かなり苦労したのだ。それなのに。
「よ、よろしくお願いします」
あれよ、あれよ、という間に同居することになってしまった。
入学式から帰ると家には一人ぶんの引越し荷物が届いていた。
それらはすべて二階の空き部屋に入れられる。
その部屋は父さんの書斎になるのだと思っていた。
ちょうどあたしの部屋の真上だ。
どうしてリビングの椅子が四つそろえられたのかも納得した。
すべては、もう一人増える家族のためだったのだ。
真知子ママと父さんはお互いに再婚同士。
ママに前夫がいたことは知っていたが、子どもがいたことは知らなかった。
計算するとママが十九歳の時の子ってことじゃないか。
父さんの話によれば、離婚した前夫に息子――つまり藤吾はついていったそうなのだが最近その人が亡くなった。
一人残された藤吾を不憫に思った父さんが家族になろうと言い出したらしい。
ママは初めのうちは遠慮していたのだが父さんの熱意に甘えることにしたのだそうだ。
二人があたしに言いそびれていたのは、話をどうきりだそうか迷っていたらしい。
年頃の娘に気をつかった結果、いきなり同居というとんでもないこの事態を招いたわけだ。
というか、あたしの高校進学はこのためだったのか。
真知子ママのすすめで夏目学園を受けたのだが裏にはそういった画策があったのだ。
「お兄ちゃんができて嬉しいだろう修子」
初めて四人そろった席で夕食をしていたとき、父さんが言った。
あたしは目の前に座る島崎藤吾をあらためて見た。
私服姿の藤吾は、にこにこと笑みをうかべている。
さらさらの薄茶色の髪に眼鏡の奥の優しそうな目。
やっぱりかっこいい。
みんなが騒ぐのもわかる気がする。
家に父さん以外の男性がいるのは新鮮だ。しかも、中年男性ではなく若い男性。
箸を握る藤吾の手はがっしりしていて大きく、灰色のVネックシャツからお腹は出ていない。
あたしは不覚にもドキドキしてしまった。
藤吾はお兄ちゃんでしょ、と自分に言い聞かせる。
「もっと早く言ってくれればよかったのに」
あたしは藤吾から視線を外して愚痴をこぼす。
せっかく家族になれたと思っていたのに真知子ママが遠慮していたことが寂しかった。
「ごめんなさい、修子ちゃん」
「ちがう。真知子ママを責めたわけじゃないから」
ママを傷つけてしまった。あたしはあわてて取り繕う。
「そうだ、真知子さんのせいじゃない。私がきちんとしていれば」
父さんの反省話がはじまった。これがはじまったらお手上げだ。
「ママやて」
クスッと馬鹿にしたような声が耳をかすめた。
声の聞こえた方――藤吾を見るが微笑を返される。
またもや心拍数上昇。
空耳かな。
父さんも真知子ママも何も聞こえていないようだった。
こうしてあたしの高校生活ははじまった。




