兄妹以上、家族未満。4
その日一日は、本当に遊びたおした。
藤吾は絶叫系のアトラクションは苦手らしい。
上から下に落ちるだけのフリーホールには、二度と乗らへんからな、と宣言した。
一方、あたしはホラーハウスやミラーハウスのような迷路系はさっぱりだ。
道を間違えて入口に戻ったときは、藤吾にあきれられ、子どもように手を引かれて、連れて行かれた。
あたしの方向音痴はどうにも直らない。
「最後は、これでしょう」
夕方の閉園時間が迫るなかで、あたしが選んだのは観覧車だった。
藤吾は観覧車を見て、うっと顔をしかめる。
あれ? もしかして絶叫系が苦手なんじゃなくて、高いところが苦手なんじゃ…。
あたしが顔色をうかがうと藤吾はなんでもないことのようにふるまった。
観覧車に乗り込むとき、藤吾の握る手が強くなった気がした。
観覧車のなかは二人がけの席が向かいになっていた。
あたしが左側の席に着くと藤吾がそのとなりに座る。
…………奇妙だ。
普通は向かいの席に座るのでは?
あたしと藤吾は肩がぶつかるくらい近い距離でとなり同士、座っている。
ちなみに手はつないだまま。
恋人同士ならまだしも、兄妹でこの座り方は…おかしい気がする。
だが藤吾は自然に座った。
気にしすぎかな。
あたしはそう自分を納得させていた。
高い観覧車の上から夕日に染まる街並をみるのは、けっこうな感動だ。
橙色から紺色へと変わる空の色。
それが、やがて黒へと変わる様をあたしは見ていた。
夕闇のなかたくさんの小さな家に明かりが灯されていると、そこに人の温かさを感じる。
あの一つひとつに、誰かがいて、そこへ帰る人々がいる。
観覧車の窓の外を見ながらあたしは思った。
もうすぐ観覧車は頂上へと届こうとしていた。
ふと、となりの藤吾が静かなのが気になった。
あたしは視線を藤吾へ移す。
藤吾は目をつむっていた。
端正な顔のなかで眉が八の字になっている。
その滑稽さにあたしは笑った。
「なんや」
藤吾がうすく目を開き、あたしを見た。
「高いところダメなら観覧車のらなければ良かったのに」
「別にダメやない。少し苦手なだけや」
その強がりにあたしは微笑する。
本人がそう言うなら、そういうことにしておこう。
藤吾がじっとあたしを見る。
「顔になにかついている?」
熱心に見られるほど可愛い顔ではなかったはずだ。
「いいや。……今日は楽しかったやな」
照れているのか微妙な間をおいて、藤吾は言った。
「うん。楽しかった。ねぇ、もしかして、今日はこの間のお詫び?」
藤吾の風邪騒動で沙紀たちとここへ来られなかった。
でも、それを悪びれる藤吾ではないはずだが。
あたしの予想に反して。
「せや。悪いか?」
藤吾は素直だった。
その素直さにあたしも応える。
「ううん。ありがとう。今日みたいに素直な藤吾があたしは好きだな」
………………………
沈黙。
藤吾があたしをおどろきの目で見ていることだけは分かる。
あれ、今あたしなんて言った?
好き?
誰を?
藤吾を。
ぽろりと言ってしまった言葉を反芻する。
言葉にした瞬間からそれがあふれる。
あたしは穴があったら入りたい衝動にかられた。
なんでよりにもよって、藤吾なんだ。
義理の兄妹なのに。
混乱した頭のなかで、この場をしのぐ言い訳が口をつく。
「好きっていうのは、家族の好きであって、異性の好きとはまた別物で…」
けれど、藤吾と呼び捨てにしてしまったことについては、どうあがいても言い訳が思いつかなかった。
もはや、これまで。
あたしは気まずくて、うつむくことしかできなかった。




