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兄妹以上、家族未満。  作者: 木島冴子
兄妹以上、家族未満。
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兄妹以上、家族未満。3



父さんと真知子ママが帰ってくる日曜日。


といっても、彼らの飛行機が日本に到着するのは午後十時半の予定だから、家に帰ってくるのはさらに遅い。


だらだらと過ごせるのも今日が最後。


藤吾との二人生活もあと数十時間後には終わる。


嬉しいような寂しいような複雑な気持ちだった。




「行くんや」


朝ごはんの後、あたしがリビングのソファに寝転がっていると声がした。


なんだろう、と身を起こすと、一昨日の風邪から復活した藤吾が私服で立っていた。


普段かけている眼鏡をはずし、コンタクトレンズをしている。


こうしてみるとカッコいい。


外見だけは好いんだ。外見だけは。口を開くと最悪だけど。


あたしは見惚れてしまう。


「出かけるんや」


あたしが何も言わないままでいると藤吾がふたたび言った。


藤吾が誰かを誘っている。


誰を?


部屋の中を見回すと、藤吾とあたししかいないので、あたしにかけられた声らしい。


「あたし?」


念のため聞き返えすと藤吾は呆れていたが、うなずいてくれた。


「遊園地、行くやろ」


それは一昨日の話で、沙紀たちとのネズミーランドはドタキャンしていた。


お土産買ったよー、というメールが遊園地のマスコットキャラクターのストラップ写真とともに送られてきた。


今日あらたに予定を入れなおした記憶はない。


「誰と?」


あたしはまさかとは思いつつ藤吾を見た。


案の定。


藤吾は自分自身をさしていた。


「なんで?」


理由が分からない。


あたしがどうして藤吾と一緒に遊園地へ行かなければならないんだ。


二人で遊園地?


それは、いわゆるデートじゃないか。


あたしの混乱をよそに、藤吾は有無を言わせぬ様子。


結局、急かされるままに外へ連れ出されてしまった。




夢の国へようこそ。


マスコットキャラクター、ネズネズが出迎える、まさにここはファンタジーランド。


藤吾と二人で遊園地に来ていることがすでにファンタジーですが。


冗談はさておき。


入場ゲートをくぐると灰色の丸い耳と出っ歯のキモカワイイキャラクター、ネズネズがあたし達を出迎えた。


藤吾とならんで歩いていると、人目を引く。


ネズネズに群がっていた人たちの視線はいつのまにか藤吾に集まっていた。


もちろん、となりにいるあたしもその洗礼を受けた。


「恋人?」


「…には見えない。兄妹じゃない?」


「でも似てなくない?」


声が聞こえる。


恋人にも兄妹にも見えないあたしと藤吾の関係って一体何?


恋人にしては、藤吾の容姿とあたしでは不釣り合い。


兄妹にしては、似ていない。


義理の兄妹といえばそれまでかもしれないが、あたしの気持ちはたぶん違っていた。


藤吾は慣れた様子で視線を無視していた。


モテる方はあしらい方もお上手で。


あたしたちは園内の奥へと向かった。


休日の遊園地は家族とカップルで混んでいた。


人気アトラクションの待ち時間はゆうに二時間を越えている。


「遊園地は久しぶり」


あたしは園内を歩きながら藤吾に言った。


最後に行ったのは小学校低学年の時だから、七、八年ぶりだ。


あの時は、母さんも一緒で楽しかった思い出しかない。


「ぼくは初めてやな」


あたりをもの珍しげに見回しながら藤吾がつぶやく。


ハジメマシテ、オメデトウゴザイマス。


「えっ!? どんな不思議の国の住人?」


あたしはまじまじと藤吾を見る。


おどろいたあたしに、藤吾は気分を害したように声が低くなる。


「あんな、高校生で遊園地が初めてゆう人間なんてごまんといるで。そんなおどろかんでもええだろう」


そりゃ、そうだ。


人間、何事も初めてのことはある。


が、念のため再度確認する。


「家族で来たことはないの?」


「うんと小さな頃はあったかもな。でも覚えてへん」


そうだ、真知子ママは藤吾が幼い頃に出て行ったんだっけ。


あんまり詳しくは知らないが、亡くなったお父さんともあんまり仲良くなかったらしい。


あたしは急に使命感にかられた。


遊園地の楽しさを藤吾に知ってもらわねば。


「じゃあ、あたしが案内してあげよう」


お姉さんぶって偉そうにするあたし。


藤吾から嫌味のひとつでも来るかと覚悟していたが、意外にも右手をさしだされる。


「ほなひとつ、よろしう。迷子になりやすい妹のために、お兄ちゃんは手をかしましょか」


あたしの苦手を逆手にとって藤吾は言った。


これでは断る理由が見つからない。


あたしは藤吾の右手に左手を重ねた。


つないだ手は自然と指がからみ合い、いわゆる恋人つなぎになった。


これって兄妹ではしないつなぎ方だよな、と思いながらも、あたしも藤吾も、お互いの手を離しはしなかった。




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