兄妹以上、家族未満。2
その日の朝は最悪やった。
起きたときから、悪寒はするし、頭痛もひどかった。
風邪を引いたのはあきらかやった。
リビングへ行くと修子がやたらと手の込んだ弁当を作っている。
遊園地へ行くらしい。
ぼんやりとする頭でそれを聞いていた。
嬉しそうな修子に看病してくれとは言えなかった。
ひとりで寝よう。
いつものことや。
椅子から立ち上がり、修子に続いてリビングを出ようとしたところで、ぐらりと世界が揺れた気がした。
ぼくは夢をみていた。
小学五年生のとき、風邪を引いたときのこと。
のどが渇いて目を覚ますと部屋に誰もおらんかった。
家に父さんの姿はなく、枕元には“会社へ行きます。薬を飲んで安静にしていなさい”という走り書きだけが置いてあった。
行かんで欲しかった。
がらんとした部屋にたった一人で残されて心細かった。
まるで世界に一人きり。見捨てられたみたいやった。
寝たきりのぼくの横。
誰かが視界の隅で動いている。
かすむ目でそれがなにか、ぼくは見極めようとした。
「あっ、目が覚めた?」
修子がぼくをのぞきこんでいた。
ぼくは驚いた。
まさかいるとは思わなかった。
「なしておる? でかけるんじゃなかった?」
修子はぼくの額の汗をふく。
「病人おいていけるほど、あたしは薄情じゃない」
それから修子は何も言わずに、汗を拭きつづけた。
額にあたるタオルが冷たくて気持ちいい。
それから体温計を渡されて、熱を測らされた。
「それほど熱はなさそうだね。ご飯食べられる? 薬飲む前に、食べないといけないから」
いつの間に作ったのかお粥がさし出された。
正直、体がだるく食べる気がおこらない。
それを見つめたままでいると、修子はかん違いしたのか、スプーンを握るとお粥をフーフーと冷まし、ぼくの口にはこんだ。
さしだされたスプーンを断るわけにもいかず、一口食べる。
「うまい」
思わず言ってしまった。
修子はにんまりと笑う。
「あったり前じゃん」
それから同じ事を何度かくりかえし、すぐにお粥の器は空になった。
「料理、上手いんやな。母さんよりも上手いかも」
お世辞ではなく本音だった。
そういえば、修子の手料理を食べたのは初めてかもしれない。
母さん達が旅行に行ってから、クラブのアルバイトシフトを夜にも入れたので、夕飯はほぼ外食。
お昼はいつも学食だ。
一緒に食べたのは初日の宅配ピザだけだ。
母さんがいるときも料理している姿を見かけなかったので、できないものと決めつけていた。
「父子家庭だったからね。料理は得意だよ。父さんの料理は最悪。だって、塩味しかしないんだから」
修子はあとかたづけしながら言った。
「母さんの料理も最悪やった」
ぼくがよく覚えているのは卵焼きを焦がす母さんの姿だった。
消し炭とまではいかないが苦味のきいた卵焼きの味もよく覚えている。
「うそ、真知子ママの料理は美味しいよ」
修子はおどろいた。
そうだ。
久しぶりに母さんの手料理を食べた時は衝撃やった。
ぼくが覚えていた母さんの味とはまるでくらべものにならないほど、美味かった。
その理由はなんとなくわかる。
「たぶん、料理教室に通ったんやないかな」
母さんは努力家やから新しい家族のために頑張ったのやろう。
「あたし、ママのそういうところ好き」
修子とたわいのない話をするのは、とても楽しかった。




