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兄妹以上、家族未満。  作者: 木島冴子
真夜中は別の顔
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真夜中は別の顔6



藤吾は不良たちと乱闘の末、勝利した。


無傷でというわけにはいかなかったけれど。


騒ぎをききつけた教師たちが駆けつけてきて、不良たちは蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。


いつもどおり“ええ子”の藤吾は、不良から義妹を助ける優しいお兄ちゃんの役割を演じた。


あたしもそれに乗じる。


助けてもらったんだから、そのくらいはしないとね。


でも、元をただせば藤吾のせいじゃないか。


藤吾の正体をばらせばよかった、と後悔してもあとの祭だった。


結局、教師たちは、不良にからまれたあたしを助けるため乱闘になった、という藤吾の説明を信じて、事を大きくはしなかった。


さすが生徒会長様。藤吾を疑う教師はいなかった。


「痛っ、傷口によう染みるな」


傷だらけの藤吾と保健室にいる。


養護教諭は不在らしく、あたしが藤吾の手当てをすることになった。


痛がる藤吾を無視して腕の傷口に消毒液をかけ包帯をまく。


足を引きずり逃げて行った不良たちにくらべれば、この程度、大した傷ではないだろう。


五人を相手に、これだけで済んだのが奇跡だ。


しかし、喧嘩するなんて馬鹿みたいだ。


あたしは藤吾の手当てをしながら不思議に思った。


「あのさ、どうして喧嘩するの? 藤吾…お兄ちゃんなら笑顔で無視しそうなのに」


頭のいい藤吾なら、喧嘩なんて体力の無駄や、くらいに考えそうだけど。


あたしの問いに藤吾は目をまるくする。


「けったいなこと聞くな。ええ子ちゃんしすぎると、たまには息抜きしとうなるやろ」


藤吾の答えは意外だった。


「それで喧嘩?」


思わず聞き返してしまった。


だって、あまりにも子どもっぽい。


「どつき合いは昔から得意や」


にやりと笑う藤吾は悪ガキそのものだった。


「昔からって?」


どうやら喧嘩っぱやいのは前かららしい。


あたしは好奇心からきいた。


「父さんの仕事の都合で京都からこっちに引っ越してきたときやから、小学三年くらいか。ほんで、この訛りのせいでいじめられた」


「いじめられていたの? いじめていた、の間違えじゃなくて?」


「人を何だと思ってん。昔は繊細で内気な少年やったん」


かつていじめられっ子だった少年はやがていじめてくる相手に反撃するようになり…。


「こうして今は悪タレになった、と」


思わず本音がもれてしまった。


「なにか言うたか?」


藤吾がにらんでいるので話題を変える。


「それにしても喧嘩しなくてもよかったんじゃない? 先生を連れてくればよかったんだよ」


それはふと思いついたことだった。


「まさか、あたしのことを心配して、そんなことも考えられないほど、あわてていたとか? いや、それはないか。わかった、あれでしょ! 喧嘩も強い生徒会長ってことで自分のイメージを上げようと……」


あたしはそれ以上言葉をつむげなかった。


傷の手当てを終えて顔を上げたあたしが見たのは、今までに見たことのない藤吾の紅潮した顔だった。


えっと、図星ですか?


あたしのことを心配した?


あの藤吾が?


「あんまり口悪いとふさぐぞ」


混乱するあたしに低い声で藤吾がいう。


それが何を意味するのか、とっさに理解したあたしは自分の口を両手でふさいだ。


唇をうばわれないように身構えるあたしを馬鹿にして笑う藤吾。


口調はいつもと変わらない。


でも、まだ少し耳が赤かった。


それを指摘したら藤吾に首を絞められそうなのでやめておこう。


そしてあたしもこの事を深く考えるのはやめよう。


それこそ眠れぬ夜を過ごしてしまいそうだ。




この一件後、藤吾はあたしと登下校を一緒にするようになった。


藤吾が生徒会の仕事の時は誰かと一緒に帰るように手配してくれた。


かいがいしい事だ。


おかげで不良たちにからまれる心配はなくなった。


だが、夜出かけるのだけは変わらなかった。


あたしと一度家に帰ってから、またどこかへ出かけるのだ。


どこへ出かけているかは知らない。


真夜中は別の顔。


あたしの知らない藤吾がいる。


そして今日も夕飯は一人。


慣れっこ、だけどね。




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