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兄妹以上、家族未満。  作者: 木島冴子
真夜中は別の顔
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真夜中は別の顔5



ぼくは大切なものなどつくらへん。


父さんと母さんが離婚した時、ぼくはまだ小学校に上がる前やった。


離婚した原因は当時、子どもやったぼくにはようわからん。


父子家庭やからと、陰口たたくババアどもを見返すために“ええ子”の仮面をかぶり出したのもこの頃やった。


母さんが出ていったあと、もともと無口やった父さんは、さらに口をきかなくなった。


深夜にテレビをつけっぱなしで、無表情のまま見ている姿は子ども心にこわかった覚えがある。


大切な人をうしのうたことが父さんをそうさせるのなら、ぼくは大切なものなどつくらへん。


そう決心した。


高校に上がってすぐ、父さんが病気で亡くのうた。


悲しいなんて思うこともなく、逆に一人になってせいせいしていた。


われながら薄情な息子やと思う。


父さんの葬式に突然、母さんが現れたのにはびっくりした。


母さんの顔などとっくに忘れていた。


一緒に暮らそうと言い出したときには、阿呆やないかこの女、と思うた。


しかも、それを提案したのが再婚した相手というのも笑い話や。


どんなお人好しや思うた。


実際、寺山邦夫はやはり馬鹿がつくほどのお人好しやった。


そして頑固やった。


結局その頑固さにぼくは負けた。


高校までは我慢しようとした。あと一年ほどのことや、と。


今までどおり“ええ子”のふりして、鬱憤がたまったら不良どもをのせばいい。


それを義理の妹に見られてしまったのは誤算やった。


修子のことは、事前に知っていた。


母さんが写真を見せてくれたから。


中学のセーラー服を着て笑っている修子は愛されて育った子やとすぐにわかった。


自分とはちがう存在やと。


からかってキスしたら、とんでもないしっぺ返しが待っていたが。


修子はぼくのことを知らされていないようやった。


突然、知らん男と暮らせといわれたら驚くのも無理ないことや。


戸惑う修子を適当にからかいながら、つまらない日々を送った。


寺山夫妻がどんなに仲良うしようが、ぼくには関係なかった。


ちょうど、ストレスもピークを迎えた頃、二人が新婚旅行に出かけ、ぼくは仮面をかぶる必要がのうなった。


修子の前では“ええ子”を演じなくてもよかった。


二週間の時間は神さんが与えてくれたご褒美だと思うた。


連絡もとらず、深夜を過ぎて帰ったぼくに修子が泣き出したのには正直引いた。


女に泣かれたのは初めてやないが、怒鳴られ説教された上に泣き出されたのは初めてやった。


さらにその理由が心配したからというのが、ぼくには理解できない。


けれども、心がすこしこそばゆうなった。


今にして思えば、あれが温かいということなのやろう。


父さんと二人の時には、どんなに望んでも決して得られなかったものやった。




「会長、妹さんが不良にからまれています!」


生徒会室に飛び込んできた女子によれば、下校途中の修子を五人の不良がとりかこんでいるらしかった。


そいつらには心当たりがあった。


修子の入学式の日、からんできた不良ども。


生徒会長のぼくを脅してきたので、返り討ちにしてからというもの、うらまれていた。


単細胞な奴らを相手に喧嘩するのは、いい気晴らしやった。


今の今までは。


修子を人質にとった奴らに腹が立った。


ここでぼくが助けに行けば、修子がぼくにとって大切な存在やと認めることになってしまうやないか。


それでも走り出さずにはいられなかった。


その理由を考える前に身体が動いていた。


「修子っ!」


のりこんできたぼくの声に一番驚いた顔をしたのは、不良達ではなく、修子やった。


「藤吾…お兄ちゃん?」


目を丸くして、ぼくを見ている修子。


相変わらず、ぼくを『お兄ちゃん』と呼ぶことに抵抗があるようやった。


怪我はしていないようだ。


ぼくは安心した。


と同時に安心している自分におどろいた。


大切なものなどつくらないと誓ったのに。


なんでこんなことになったんや。


「みんな、おまえらのせいや」


怒りにまかせて、ぼくは不良どもに殴りかかっていった。


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