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兄妹以上、家族未満。  作者: 木島冴子
真夜中は別の顔
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真夜中は別の顔2



藤吾と二人っきり。初めての夜。


初めての夜って、なんかいやらしくきこえるけど、両親がいないというだけで、別にいつもと変わりない夜だ。


夕飯は手抜きして宅配ピザにした。


初日から!って思うかもしれないけれど、あと二週間もあるのに初日から手料理はあたしがきつい。


父さんと二人の頃はいつもあたしが料理していたけどママが来てからはさっぱりだったから。


こういうのもたまにはいいよね。


でも、明日からはきちんと作ろう。


冷蔵庫にはなにが残っていたかな。


足りないもの学校帰りに買わなきゃ。


お風呂から出たあたしはリビングにいるだろう藤吾に声をかける。


「出たよ。お次どうぞ」


テレビを消して藤吾が立ち上がるのを横目で見ながら、あたしはキッチンに向かった。


冷蔵庫を開けて中を確認する。


野菜は一通りある。


ひき肉が残っているからハンバーグとかいいかも。


ちょっと多めに作っておけばお弁当にも使えるし。


あっ、明日のお弁当どうしよう。


うーむ。購買か食堂だな。


献立が決まって満足したあたしが冷蔵庫のドアを閉めてふりかえると藤吾が立っていた。


「うぁっ」


飛び退こうとしたが後ろは冷蔵庫。


藤吾と冷蔵庫にはさまれて、あたしは身動きがとれなくなった。


藤吾はいつもの優しい笑顔……ではなく。


眼鏡の奥で冷たく光る瞳があたしを見つめている。


………。


奇妙な沈黙があたし達の間に流れていた。


なに、これ。なに、これ。


いわゆる壁ドンならぬ、冷蔵庫ドンか!


ぐるぐるとあたしの中におかしな妄想がふくらんでゆく。


おもに沙紀が吹き込んだものだ。


「と、と、藤吾…お、お兄ちゃん!?」


緊張で声がうわずった。


一体、どうしたっていうんですか? あたし達は義理とはいえ兄妹ですよ!


混乱するあたしをよそに藤吾は近づいてくる。


大きな手があたしの頬にふれた。


うそ!


手はあごをとらえて上を向かせる。


いやでも藤吾と視線があった。


美しい顔が近づいてくる。


あたしはぎゅっと目をつぶる。これから何をされるか、おして知るべし。


けれど寝てもさめても王子さまのキスはなかった。


代わりに聞こえたのは嘲笑だった。


「キスされるとでも思うた?」


馬鹿にした笑いと聞き覚えのあるいじわるな声がした。


目を開けると藤吾が笑っている。


それは、いつもの優しそうな笑みではなく腹黒い底意地の悪そうな笑みだ。


あたしはわけがわからない。


この笑い方には覚えがあるし、この嫌味な言い方にも覚えがあった。


藤吾はあたしをつきとばすように、あごから手をはなした。


冷蔵庫に背中を預け、あたしは藤吾だった人を見上げた。


「まぬけな面やな」


その表情はあの時の男にそっくりだった。


校舎裏であたしのファーストキスを奪った男に。


「何で?」


藤吾イコールあいつの図式があたしの頭の中で組み立てられる。


そんなことあっていいのか。


「ほんまアホやな。まだわからん?」


動揺するあたしを侮蔑するように見下す藤吾。


「二重人格?」


「おまえ、頭打ったか?」


あたしの問いにあきれているのがわかる。


でもさ、にわかには信じがたい。


あの優しかった藤吾がよりにもよって憎きあいつだなんて。


「ええ子にするのもたいがいやな。えらい疲れた。餓鬼相手にからかうのも飽きたしな」


にやにや笑いながら言う。


からかう、という言葉でピンときた。


これまでの数々のスキンシップ。


異常なまでのあれは、あたしが動揺する反応を楽しんでいたんだ。


乙女の純情、もてあそびやがって。


「詐欺だ! みんなに言ってやる」


「言うても、誰も信じへんと思うよ」


あたしの宣戦布告に藤吾はまるで動じなかった。


むしろ自信にあふれていた。


藤吾の言うことは正しい。


けれども、あたしは叫びたかった。


王様の耳はロバの耳、と叫びたかった童話の主人公と同じように藤吾の正体をみんなにバラしてやる。


でも、きっと誰も信じてくれないだろう。


あの生徒会長がそんなことするわけない、と口をそろえるに違いない。


せいぜいあの不良達くらいだろう藤吾の真実を知っているのは。


だが不良達は世間から冷たい目で見られている。


彼らが真実を言ったとしても誰も信じてくれない。


みんなが信じるのは藤吾の嘘で固めた人柄だ。


狡猾なやつ。


あたしはなにも言えなくなった。


「ほな、両親帰ってくるまで、二人で仲よう、留守番しよか」


似たような台詞を前にも言われたが今回はちっとも嬉しくなかった。




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