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兄妹以上、家族未満。  作者: 木島冴子
真夜中は別の顔
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真夜中は別の顔1



さらなる問題は唐突にあらわれた。


「新婚旅行?」


四人の食卓にもだいぶ慣れた夕飯の席。


その四文字熟語が父さんから発せられた。


あたしは寝耳に水。


思わずききかえしてしまった。


「そうだ。結婚したからには夫婦みずいらず。ハネムーンを楽しまないとな」


四十過ぎのおやじがなにを言うかと思えば。


新婚旅行(ハネムーン)!?


藤吾も聞かされていなかったらしく目を丸くしていた。


父さんは実娘、義理息子のおどろきもよそにうきうきとしゃべる。


「四月は引っ越しやらで忙しかったが、ようやく生活も慣れたし時間のある時にと思ってな」


それで夫婦そろって二週間の海外旅行。


平日にいいご身分ですね。


学校があるあたしたちは家で留守番というわけだ。


ん!?


って、ことはあたしと藤吾は二週間、二人っきり!?


「ちょっと、ま」


「いいですね、夫婦みずいらず。ゆっくりしとうて下さい」


あたしの言葉をさえぎって藤吾が言った。


このお兄ちゃん、なんてことを。


「修子ひとりだけ残していくのは心配だったんだが、藤吾くんが一緒なら安心だ」


つい最近まで娘ひとりを家に残して夜遅くまで残業していたのはどこのどいつだ。


あたしは父さんの首を絞めたくなった。


「でも、二人だけっていうのはまだ…」


真知子ママが心配そうにあたしを見る。


そうだよ、ママ。もっと言ってやって。


多感な思春期の少女の気持ちなんて中年男にはわからないんだから!


「母さん、ぼくが修子ちゃんに何かするとでも?」


さわやかに発言する藤吾には下心などまるでない様子。


そう言われるとあたしひとりが意識して馬鹿みたいだ。


「そういうわけじゃなくて…」


あたしの応援もむなしくママは言いくるめられてしまう。


「真知子さん、それはないだろう。藤吾くんにも選ぶ権利ってものがある」


豪快に笑う中年男。


実娘に対して遠慮のないそのお言葉。痛み入ります。


たしかに、あたしは絶壁で、チビで、色気がないことは認めるけどさ。弱冠、傷つくよ。


「二人で留守番しよな」


意気消沈していたあたしの頭をぽんぽんと軽くたたく藤吾の大きな手。


優しい手の暖かさが心地よかった。


でも、その手の上で藤吾が何を考えていたかなんて、あたしには知る由もなかった。





「戸締り忘れないようにね」


「はーい」


「なにかあったらすぐに連絡するのよ」


「はーい」


「それから…」


「ママ、急がないと飛行機出ちゃうから」


玄関先で真知子ママと父さんを送り出すまで、ゆうに二十分はかかった。


月曜日の早朝。二人は新婚旅行へと向かった。


ヨーロッパ周遊の旅。帰るのは二週間後の月曜日。


つまり十四日間、あたしは藤吾と二人っきりの生活というわけだ。


「それって恋愛フラグ?」


沙紀の言葉にあたしは飲んでいたジュースを吹きだしそうになった。


昼休み。教室でのランチタイム。


あたしは同級生の沙紀とお昼を食べていた。


「ないない。絶対にないから」


紙パックジュースをにぎりしめながら否定するあたしを沙紀は大きな目でじっと見つめる。


あたしと藤吾が義理の兄妹になったことは校内では周知のことだった。


やましいことをしているわけではないし隠す必要もないだろうというわけで学校にも事情を説明してある。


藤吾の苗字が島崎から寺山に変わったことで、あたしの存在は生徒会長の義理の妹として知れわたった。


入学当初は休み時間になると上級生(おもに藤吾と同じ二年生)と思われる一団が教室の外からあたしを見物にきたものだが一週間ほどでおさまった。


しばらくすると、あたしの下駄箱に藤吾宛てと思われる恋文が入れられるようになった。


あたしはメッセンジャーではないので、そういうことはできないと丁重に謝った上、一人ひとりに手紙を返した。


正直あれは面倒くさかった。


そして三週間が経った今、ようやく平凡な高校生活が始まった矢先。


「ひとつ屋根の下、義理の兄妹が二人っきりだよ! 少女漫画の王道でしょう」


興奮する沙紀をよそにあたしは購買のたまごサンドを食べた。


「残念ながら風呂場ではち合わせとかはないから」


期待を裏切るようで申し訳ないが、うちの脱衣所はきちんと鍵がかかるし、洗面所は別にあるので、そういったことは起きたことがない。


藤吾がやたらにスキンシップする話はやめておこう。


おかしな誤解をまねきそうだ。


「でも、あれだけの美形だよ。修子もドキドキするでしょう」


沙紀の言葉にあたしはためらいながらもうなずいた。


それは認めよう。


藤吾はかっこいい。


あの優しい表情で微笑まれると心拍数が跳ね上がる。


毎日会っていてもドキドキしてしまう。


あたしの反応を、にやにやしながらうかがう沙紀。


「修子ってさ…」


「寺山ちゃん、夏目、来週の創立記念日にネズミーランド行かない?」


沙紀が言いかけた途中で同じクラス坂口安子が声をかけてきた。


坂口安子は一年A組の学級委員長だった。


姉御肌で高校から編入してきたあたしをなにかと気にかけてくれる。


その坂口さんの提案で、あたしと沙紀それから坂口さんとその友達、女子四人でネズミーランドに行くことになった。


「そういえば生徒会長さんとの生活はどうなの?」


坂口さんが興味津々にきいてくる。


人気者の生徒会長の話は誰もがききたがる。


「うん。だいぶ慣れたよ」


無難な答えをあたしはした。


まちがっても今日から二人きりなんてこと言えない。


「それが聞いて。今日からね、もがっ」


あたしはあわてて沙紀の口をふさいだ。


このおしゃべり美少女め。


あたしは沙紀をにらむ。


「世間の目を考えてよ」


こそこそと沙紀に耳打ちをするが、わかっているのやら。


あたしは再度念を押し、口をふさいでいた手をどかした。


「それがね今日から会長と二人っきりなんだって!」


沙紀が暴露した。


もうどうにかしてくれこの軽口娘。


だが意外にも坂口さんは冷静だった。


「夏目、妄想しすぎ。生徒会長さんは真面目だからね。義理の妹に手を出すなんてナイナイ」


そうなのだ。


藤吾は品行方正、清廉潔白を絵に描いたような人物だ。


生徒からも教師からも一目置かれる存在。


その藤吾があやまってもあたしに手を出すなんて絶対にありえなかった。


たとえなにかあったとしても誰も信じてくれないだろう。


藤吾は完璧だった。


「ううっ、そんなのつまらなーい」


「「つまらなくないから」」


あたしと坂口さんは同時につっこみを入れていた。


恋愛至上主義なところのある沙紀は不満そうな表情であたしを見る。


「修子はどうなの? 会長のこと好きじゃないの?」


ずばりきた沙紀の質問。


あたしは藤吾のことどう思っているのだろう。


正直よくわからなかった。


でも坂口さんもいるし、なにか答えなきゃ。


「…それはないと思うよ。お兄ちゃんとしては好きだけどね」


自分で口にした言葉だけれど、なんだかうわすべりな気がした。


けれど坂口さんは「だよね」と同意してくれたから、この答え方でよかったんだと思う。


一方、沙紀は「ふーん」と返してきただけだった。


否定するわけでも同意するわけでもない。


答えにしっくりきていないことを見透かされている気がした。


あたしは複雑な迷路に足をふみいれてしまったのかもしれなかった。




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