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8.今日から私はモルモット…?

予約投稿が間に合いませんでした…

ーーーピチチチ…。



森に鳥のさえずりが響く。

木々が程よく陽光を遮り、眩しくはない。

異世界とは言え、森にはマイナスイオンが充満しているのだろうか。

実に爽やかな朝だ。




おはようございます!

改めまして、小池田カナといいます。

高校三年生で昨日まで野球部の女子マネしてましたが、事故の拍子なのか異世界に来てしまったようです。

初日から色々ありましたが、なんとか無事異世界でも朝を迎えることができました。

…朝って、平等に来るんですね。


そして………、今日からモルモット(研究対象)になります!!



…そう、研究されるんです。

……ははは。





元の世界に戻るまで、この世界で生き延びるため、アルトさんと契約を結ぶことになりました。

自暴自棄になったわけではありません。

私の命を預けるといってもよい契約なので、悩みに悩んだ上に出した結果です。

当然、契約条件は私からも交渉させてもらいました。

異世界の常識を全く知らないとはいえ、現役女子高生を研究させる訳だし。

もちろん、いかがわしい契約内容にはなっていませんので。

あしからず!




それでは、話を昨晩へと少し戻させてもらう。


私は、目の前のアルトさんを凝視しながら考えた。

先ほどあれだけいっぱいいっぱいになっていたのに、頭の中は妙に澄み渡っていた。

冷え切ったともいえる。

それほどに、アルトさんが言った『研究』という言葉に違和感しか感じえなかった。

『研究』といえば、物事を深く追い求めるといった学術的な言葉とだったはず。

ここで、アルトさんの言葉を思い出して、『研究』という言葉を私なりに当てはめてみる。


君を『研究』させて欲しい。

それを私に当てはめて言い換えると、

小池田カナを『研究』させて欲しい。

もしくは、女子高生を『研究』させて欲しい。

もしくは、異世界から来た年頃の珍しいお嬢さんを『研究』させて欲しい。

というところだろうか。


……。


ぞわっとした。

『研究』という言葉に、犯罪の香りが漂っていると感じるのは気のせいか。

『研究』の類義語として、『ストーカー』とか『ハァハァ』とか入れても文章に違和感がないのはなぜか。

アルトさんの爽やかイケメンという第一印象を、180度覆す破壊力を持っている言葉のように思える。

…なんて恐ろしい言葉だ。


これは契約以前の問題だ。

まずはアルトさんに『研究』という言葉を問いただす必要があるな。


「…アルトさんは私の何を『研究』したいんでしょうか」

「何をって、そうだなぁ。

カナは希少だから、こちらの世界の理や魔法の修練の過程とか、どのようにこちらの世界に馴染んでいくかを観察したいと思っている」


……。

観、察、ですか。


「…アルトさんはなぜ『研究』したいんですか?

『研究』することで、アルトさんにどんな利益があるんですか?」

「…。」


アルトさんは言いにくそうに眼を泳がす。


「…言いにくいことですか?」

「…。」


アルトさんは黙ったままだ。

しょうがない、核心をついてみるか。


「先に断わっておきます。

不快に思われたらすいません。

この世界の理は知りませんが、私のいた世界の理だと、個人的な理由で特定の人物を『研究』・『観察』するのはかなりグレーです。

知識をくれたり生活をみてもらえるとしても、私はお断りします」

「え?」

「だって、気持ち悪いじゃないですか。

確かに私は珍しいかもしれませんが、感情を持った人間です。

興味本位で常に見られ続けるというのは、耐えられません。

野垂れ死んだ方がマシです」


幸い私には金属バットの加護がある。

それでも異世界の理の知識が無いのは手痛く、生きていくだけで苦労するだろう。

元の世界に戻る方法を探すのもすごく時間がかかるだろう。

わかってはいるが、それでも受け入れることはできない。

私は仮にも18歳の高校生だ。

プライバシーの取り扱いがとってもセンシティブなお年頃だ。

この世界の理では理解されないかもしれないけど、プライバシーの無い『研究』・『観察』は耐え難い。


「カナはそのままで良いんだよ?

ただ、研究させてくれるだけで、衣食住を保障されるのに?」


アルトさんは理解しがたいという顔をしていた。

理解しがたいのはこっちだ。

出会って数時間の人に『研究』させて欲しいと言われ、信用できるか。



うなずく気配のない私に、アルトさんはため息をついた。


「ほんとにいいの?

自分で言うのもなんだけど、こんな好条件で生きていく術を身に着けさせようとする人間はこの先いないよ?」


…いい加減しつこいな。

言葉は通じるのに、話が通じない。

理が違うというとこんなに話が通じないものなのか。


私も負けじと大きなため息をついてやった。


「アルトさん、考えてみてくださいよ。

ポーラちゃんが大きくなって私くらいになったとき、見ず知らぬ男がいきなり現れて『お嬢さんに興味がある。面倒を見るから研究させて下さい』というんです。

お父さんとしてどう思われますか?」

「そんなの嫌だ!」


アルトさんは被り気味で答えた。


「ポーラちゃんだってきっと嫌だと思いますよね?」

「…。」

「私もそうなんですよ。

ちょっと毛色が珍しいだけで、普通の女の子なんです」


私の言いたいこと伝わったかな…?

さすがにこれでも伝わらなかったら、夜明けとともにアルトさん達に別れを告げよう。

ポーラちゃんにサヨナラ言えないかもしれないけど仕方ない。



「…すまない。

俺が悪かった…」


で?


「滅多にいない研究対象だから、大事なことを失念していた。

カナが不快に思っても仕方がない。

…本当に悪かった」

「…。」


アルトさんはどうやら謝ることが出来る大人のようだ。



「ずうずうしいと思うが、それを承知でもう一度お願いしたい。

こちらも譲歩するから、研究させてほしい」


まだ言うか。

しつこいな。

しかし、あなたまだ大事なこと私に言ってないですよね?



「…アルトさんはなぜ『研究』したいんですか?

『研究』することで、アルトさんにどんな利益があるんですか?」


私はもう一度同じ質問をした。

ここまでしつこいのなら、何か理由があるのではないか。


「ああ。

確かに利益はある」

「どんな?」


やっぱりあったか。


アルトさんは頭を掻きながら、言いにくそうにゆっくり話し始めた。


「…俺は、ファーラン王国王都の魔法研究所に席を置いている研究者なんだ。

今はポーラの魔法の修行で長期休暇中だけどね。

カナに偉そうに説明したけど、この世界での魔法および加護についてはまだまだ研究が発展途上なんだ。

魔法研究所自体、設立は10年前だしな。

魔法を使えるものは多いけど、修練は親から子へ教え受け継がれてきたもので、体系化が進んでいない。

加護に至っては、滅多にいない。

だから、実態は全く謎なんだ」


アルトさんは私から目を逸らさずに続けた。


「カナは魔力も持っているから、教えればすぐに魔法を身に着けることが可能だろう。

更に滅多にいない『加護』持ちだ。

君を研究することで、魔法や加護の研究は恐らく飛躍的に進むだろう。

何より、研究者である俺の意欲を掻き立ててならないんだ」

「…。」


…なるほど。

アルトさんは研究者だったのか。

都合の良いモルモット(研究対象)を前に研究意欲が掻き立てられたと言うわけか。

私は『研究』の類義語として列挙していた言葉が、アルトさんが意図する『研究』の意味と違っていて少しほっとした。


「アルトさんが研究者として、私を『研究』したい理由はわかりました。

了承はしかねますけど…。

それにしても、設立してまだ10年ならそこまで研究成果を上げないといけないんですか?」

「…。

この世界では15年前に大きな戦争があってね。

沢山の人が亡くなったんだ。

魔法を教える親が亡くなった子が、教え受け継ぐ子を亡くした親が増えたんだ。

それによって戦争前より魔法を使えるものが、ぐんと減ってしまったんだ。

この世界は魔法を使えるかどうかで、生き延びやすさが全く違う。

戦争後もそうして着々と人口が減っていってしまったんだ」

「お子さんを亡くした大人が、親を亡くした子供に教えてあげないんですか?」

「それが出来れば一番良いんだけど…。

魔法はとても感覚的なもので、血を同じくした者同士で受け継ぐことを慣例としていた。

だから、他人に教えるというのは忌避されてきたんだ。

血を問わず魔力を持つものに魔法を授けることを目的に設立されたのが、魔法研究所というわけさ」


そうか。

アルトさんは他人の私に魔法を教えてくれると言っていた。

魔法を教わる私にも利益になるし、他人に魔法を教えるというアルトさんのお仕事にも役に立つから一石二鳥なんだね。

それにしても、この世界では魔法が人の生き死にに影響が出るくらい根深いんだな。

『研究』されるのは嫌だけど、人のためになるなら甘んじて受けるべきか。


「…わかりました、アルトさん。

条件を飲んでくれるなら、本当はすっごく抵抗あるけど『研究』させてあげます」

「ほ、ほんとうかい?」

「はい。

この世界の理や魔法の修練については、アルトさんに全面的に従います。

ただし、研究所に報告するときは私の個人を特定する情報は一切伏せてください。

これを守らないときは、スリーパーホールドで締めます。

次に、私が異世界に馴染んでいく過程を見守っていただく分はありがたいですが、分別を持ってください。

観察はダメです。

これは譲れません。

疑わしきときは、腕ひしぎ十字固めで堕とします。

確実にクロと判断した時は、フルスイングでケツバットです。

因みに疑わしいことが3回続いても、クロとみなします。

この条件を飲んでもらえますか?」

「…。

条件はわかったけど、締めたり堕としたりってよくわからないし、怖いんだけど…」


アルトさんはわからないなりに、なんとなく理解しているようだ。


「わからないにこしたことないですよ。

…お互いのためにね」




こうして私とアルトさんの間に、モルモット(研究対象)契約が成立した。






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