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7.私の金属バットには精霊の加護があるらしい

説明回です。

長めです。

どうやら私の金属バットは精霊に加護されているらしい。


「…なぜ?」


私はアルトさんが興味深げに弄んでいる金属バットに視線を固定し、疑問を口にした。


この金属バットとの付き合いは長いが、物自体はどこにでもあるただの金属バットだ。

兄からのお古であるが、特に小池田家の家宝として有難く奉ったことは一度もない。

日本には古来から八百万の神様がいるとかいないとか、昔話やジ〇リのアニメで聞いたことがある。

最近はトイレにも神様がいることは有名だし、身の回りに神が宿るといった信仰も昔からある。

しかし、金属バットに神様(もしくは精霊)が宿るというのは、さすがに聞いたことがない。

いつどこで精霊とやらが私の愛用バットに取りついたのか。


「なぜなのかはわからないけれど、その武器で狼が倒せた理由説明できるよ」


アルトさんは静かにそういい、金属バットを私に返した。


「この世界には精霊に気に入られることで、本来の力がより強化されることがある。

それは人であったり物であったり土地であったり…。

対象は様々だ。

カナの武器も精霊に気に入られ、本来持っている力以上を狼に対して発揮したんだろうね」


……。

私には何の変哲も無い金属バットにしか見えないんですけど。

そんなすごい力が出ちゃってたんですか。


「カナがいた世界では魔法がなかったんだよね。

魔力がある人間ならわかるよ。

カナの武器には温かいオーラがたゆたっているのが見える…」


アルトさんは眩しげに金属バットを見た。


「お父さん、ポーラには何も見えないよ」


ポーラちゃんは目を細めて金属バットを見つめる。

私が同じ顔をしたら変顔になるが、ポーラちゃんはそんな顔でも可愛い。


「ポーラの魔力ならまだ見えないかな。

カナからも魔力を感じるから、修練次第ですぐ見えるようになると思うよ」

「えっ!まじっすか!?」


かなり喰い気味で反応してしまい、アルトさんの顔は若干強張っていたのはたぶん見間違いではないだろう…。

「修練って、何をどうしたら良いんですか?」


精霊について全く実感はわかないが、見れるものなら見てみたい。


「そうだな…。

アドバイス程度に聞き流してくれるか?」

「それでも構いませんっ」


自分でもわかる。

今私の目はアルトさんを獲物として捕らえ、さぞ目がぎらついているだろう。



「精霊を常に意識するんだ」


…へ?

それだけでいいの?


「カナのいた世界には精霊はいない、もしくは目に見えない存在なんだろう?

こちらの世界では、精霊は見ようとしないから見えないんだ。

見えなくても精霊はそこにいる。

いつも周りにいて力を貸してくれている精霊を意識するんだ」


目に見えないものを意識する…?


私はグリップを両手で強く握り、金属バットを見つめた。

アルトさんは、バットに温かいオーラがたゆたっているって言っていた。

湯気みたいに包み込んでいる感じなんだろうか。

精霊とか正直よくわからないけれど、見えなくてもいつも力を貸してくれていたのか。

訳も分からず異世界に来て、誰に頼っていいのか全く分からない状況で、こちらの意思を問わず守ってくれる存在がいたなんて、とても心強い。

目に見えるようになるとわかった途端、手のひらを返すように態度を変えるのは非常に現金だけど…。





力を貸してくれてありがとう。

私もあなたが見えるようになるよう努力するよ。





「あ、ポーラにも見えた!」


ポーラちゃんが嬉しそうに声をもらす。


え?

私にはまったく見えないんですけど。


「武器の持ち主であるカナが精霊を意識し、精霊が喜んだんだ。

だからオーラが強くなって、ポーラにも見えるようになったんだよ。

修練はすぐ身につくものではないから、カナが見えるようになるまでは根気が必要だ。

…それにしてもこんなに早くオーラが増加するなんて、凄いな。」


そういうものなのか。

この程度で喜んでくれるなんて、精霊というのは随分健気で可愛らしいんだな。

今まで知らなかったとはいえ、なんだか申し訳ないな。

今度から些細なことでも感謝するよう心がけよう。


「あ、またオーラが増えたね。

お姉ちゃん、何を考えているの?」


ポーラちゃんは不思議そうに私を見上げた。


私は思わず顔が赤くなった。


やだ!

私がコロコロ意識を変えた途端、精霊のオーラがリアルタイムで反応しちゃうのかな。

好意が視覚化されているようで、恥ずかしい…!


「この程度で恥ずかしがるなんて、精霊が見えるようになったら大変だよ。

『一打入魂』とは、その武器を使う度に魂が宿るよう、祈りの力を込めていたってことだろう?

精霊はその思いに応えているだけなんだ。

カナは無意識にもかかわらずそれだけ強い思いを込めていた。

だけど、カナは精霊の存在を知覚していないので精霊からの気持ちは、カナへはひとつも伝わらない。

それが、これからはカナの修練次第でどんどん伝えることが出来る。

その喜びは計り知れないだろうね。

加護どころじゃないね。

愛されているね、カナは」


アルトさんはニヤリと、悪い笑顔を浮かべた。

私が恥ずかしさを通り越して、悶絶しそうになっているのがわかっている笑顔だ。


私はたまらなくなって、金属バットをバットケースに収納するしかなかった。





「そういえば、昼間アルトさんが言っていた空間魔法も精霊の加護なんですか?」


あれから食事の後片付けをそれぞれ分担して終わらせ、後はもう寝るだけとなった。

マナの木の加護があるので、寝ずの番をする必要はないそうだ。

ポーラちゃんはアルトさんの傍で毛布にくるまり、既に眠りについている。


「精霊の力を借りているけど、加護ではないよ。

魔法と加護はちょっと違うからね。

魔法は精霊に魔力を対価に、力を貸してもらって初めて使えるんだ」


そういってアルトさんは説明してくれた。


まず、魔法を使うに当たり必要なものがふたつある。

一つ目は魔力。

二つ目は精霊との契約だ。

契約を結んだ上で人間は精霊に魔力を与え、精霊から魔法という力を借りる。

魔力は人によって潜在量が異なり、修練によって増加する。

精霊との契約は個々によって条件がことなるので、それによって必要な魔力の量も変わってくる。


例えば、魔力が少ない人が精霊と信頼の厚い契約を結ぶとする。

精霊は人を信頼しているからこそ、少ない魔力を対価に魔法を貸す。

しかし、魔力が多くても精霊と薄い契約しか結べない場合は大変だ。

使える魔法が小規模なものに限定されたり、規模は限定はされなくても膨大な魔力を求められ、非常に燃費の悪い魔法しか利用できなくなってしまう。


…ふむ。

私を精霊に魔法をおねだりに置き換えて考えてみる。

大好きなおばあちゃんのおねだりなら、ナデナデひとつで遠くへのお使いでもなんでもいうこと聞いてしまう。

兄ちゃんのおねだりなら、おねだりとかこいつ気持ち悪いなと軽蔑しつつ、ケーキやアイスをおごって貰わないと割に合わないと感じてしまうってことかな?


そのことをアルトさんに伝えると、気の毒そうな視線を私に向けた。


「まあ、だいたい合っているかな」


私は理解が及んでいたことにほっとする。


「そうなると、魔法と加護の違いってなんなのですか?」


「極端な話になるけど、加護は魔力も契約も必要としない。

精霊から与えられるものなんだ」


なるほど。

私にも魔力はあるけれど、精霊はまだ見ることが出来ない。

明らかに修練が不足しているのだ。

そんなお粗末な魔力が対価として価値があるとは思えない。

更に、精霊自体を知覚したばかりなので、今の私は契約のしようがない。

それにもかかわらず、私は今日、本来出しえない金属バットの威力で狼を2匹も殺している。

金属バットの力を魔法とするならば、お粗末魔力はともかく契約という大前提を満たしていないのではないか。


「じゃあ、加護を受けられれば、精霊の力はだれでも使えるということですか?」


「うーん。そうなるね。

でも人であれ物であれ土地であれ、加護の対象になれるのはごくわずかだ。

一つの国に5つもあれば多いくらいなんだよ。

それに、加護を受けたくてもこちらから申し出ることはできない。

決定権は精霊にしかない。

あと、使える力も精霊の裁量で左右される。

加護どころか精霊から愛されているってことが、どれだけすごいことが想像できるかい?」


……。

話がどんどんスケールアップして、正直よくわからない。

想像なんて出来ません。

だけど、なんだか大変なことになりそうなのはわかる。


ぶるっと身が震えた。


「…恐れているのかな?

そうだね。

カナは無防備すぎる。

自分の持っているものを理解し、警戒することを覚えた方が良い」


アルトさんはそう言うと私の頭を子供のようにポンポンしたが、目は笑っていなかった。


「脅すようだけど、カナは今のままだと必ず権力を持つものに利用される」


…笑顔を浮かべているアルトさんが怖い。


「カナは元の世界に帰りたいと言ったね?

権力者に一方的に利用されれば、帰ることはまず不可能だ。

それは、カナの望みではないね…?」

「はい…」

「ならば、一刻も早くこの世界に馴染むことだ。

さっきも言ったね?

異世界から来た人は目立つんだ。

だから、なるべく早くこの世界の理を理解すること。

そして、今のままではその武器の加護も目立ったままだ。

魔力を持たないものなら知覚できないが、多少あるものなら一目瞭然だからね。

だから、一刻も早く魔法を覚えた方が良い」

「…魔法を覚えて加護を隠すんですか?」

「いや、加護を隠すことはできない。

しかし、加護も魔法も精霊の力を借りていることに変わりない。

加護で強化した武器も魔法で強化した武器も見た目も効果も同じだ。

何が言いたいかわかるかい?」


アルトさんはいたずら小僧のような顔をした。

もう先ほどの怖さはない。


「…木を隠すなら森の中?」

「そう、中々言い得ているね。

魔法が使えれば、その武器は魔法で強化していると誰もが思うだろう。

魔法を使えるものは比較的多い。

だから、加護は隠せないから魔法に紛れ込ませるんだ。

それだけ加護は希少だってことなんだけどね」


アルトさんはマナの木を見上げながら言った。

精霊が生まれるというマナの木。

私の金属バットのオーラを簡単に見て取れたアルトさんの目に、マナの木はどのように映るのだろうか。




……。

聞きづらいことだけど、アルトさんに言われたばかりなんだ。

このことは早めに確かめなければならない。



「…アルトさん、寝る前にもうひとつ聞いてもいいですか?」

「んー?

なんだい?」


アルトさんはすでに横になっていて眠そうだ。

…申し訳ない。


「アルトさんにとって私は利用価値があるのですか?」

「…なぜそう思うんだい?」

「アルトさんは私のことをポーラちゃんの命の恩人と言ってくれました。

そのお礼として、食事や寝る場所を提供してくれるのは、とても助かってます。

でもこれって、明らかに私の利益の方が大きいと思うんです」

「んー。

そんなこともないんだけどねぇ…」

「なにより、アルトさんはこの世界の理を教えてくれたじゃないですか。

リスクも含めて、この世界でどのように生き抜くべきかを教えてくれたのです。

これだけ情報を与えられて、警戒しない私は間違いですか?」


アルトさんは警戒することを覚えろと言った。

ここまで色々教えてくれたアルトさんがそういったのだ。


アルトさんは横になったまま私の顔をじーっと見た。

私も見返した。

目を逸らしたら何かに負ける気がしたから。


時間にして数秒だと思うが、やけに長く感じた。

目線を逸らしたのはアルトさんが先だった。



「うん。合格だ」

「!?

ど、どういうことですか?」

「カナの言うとおり、俺は意図をもって君にこの世界の話をした。

ただし、カナが俺の思惑に乗ってこない場合は破綻するよう仕掛けた。

その結果、カナは俺の話から自分で答えを出し俺を警戒した。

だから、合格なんだよ」

「い、意図って、なんなんですか?」


いつから私は試されていたんだろう。

それでなくても、今日は森から目覚めて今に至るまで色々ありすぎた。

明らかにキャパオーバーだ。

そんな私に抜き打ちテストなんて、頭が回らない。

アルトさんが言っていることがわからない。


「カナ、君は意外と頭の回転が速い。

それに異世界から来たばかりだというのに、泣きわめき自暴自棄になることがなかった。

たまに思考が追い付かず冷静さを欠くことがあるみたいだけど、概ね肝が据わっている。

なにより希少な『加護持ち』だしね」

「はあ…」

「だから俺はカナに契約を持ちかけようと思う。

俺はカナに、この世界で一人で生き抜けるようになるまでの衣食住を提供しよう。

さらにこの世界の理や魔法についてもできる範囲で教える。

ここまでは、理解しているか?」

「はい…。

で、私はアルトさんに何を提供すればいいのですか」


アルトさんはそこで少し言いよどんだ。

悪く言えば少しもじもじしている。


「カナは基本的にはそのままでいい。

その、君を研究させて欲しい」



……はい?




お疲れ様でした。

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