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3.木苺と野犬との戦い

目指すところもなくひたすら歩くというのは意外としんどいものだ。


どれくらい歩いただろう?

ちょっと広めの公園にでも連れてこられたのかと高をくくっていたが、そうではないらしい。

時計がないので何とも言えないが、かれこれ一時間以上は歩いている気がする。

それなのに人どころか建物すら一向に見える気配がない。


「のどが渇いた…」


そういえば、ファミレスで飲んだメロンソーダ以降何も口にしていない。

ついでにお腹もかなり減っている。

母が気合を入れて晩御飯を作ってくれると言っていたので、ファミレスではドリンクバーのみだったのだ。

こんなことなら、ファミレスで何かお腹に入れておくべきだった…。


今更どうしようもない事で頭がいっぱいになる。

まるでお母さんが見つからない迷子の気分だ。

思わずその場にしゃがみ込む。

心が弱くなっているうえ、お腹が減って力が出ない。


「…ん?」


正面を見据えると草薮の中に赤い木の実が生い茂っていた。

視線の高さが変わり気づいたのだが、周りをよく見ると茂みのそこかしこに赤の点がある。


「木苺かな…?」


野山の植物はまったくわからないが、甘いにおいがして美味しそう。

本来であれば、お腹を壊したりしないかとか洗って食べなくてはいけないとか気にしなくてはいけないのだが、腹の虫は待ったなしだ。


「お、おいひい…。」


甘酸っぱい味が口の中に広がる。

五臓六腑に染み渡るとは、たぶんこういうことなのだ。

私は無我夢中で木苺らしきもの(面倒なので木苺ということにする)を食べた。

幸い木苺はたくさん実っている。

いくら私でも食べきれない量だ。


「少し非常用に持っていこう」


私はバットケース(ちなみに色はピンク)からマイバットを取り出し、摘んだ木苺をバットケースに収納した。

これだけ歩いて誰にも会えないのだ。

この先いつ食べ物にありつけるかわからない。

それに私の制服はセーラー服で、ポケットはスカートにしかついていない。

この唯一のポケットに木苺をしまいこむのはいろいろ危険だ。

転んでしまったらスカートどころかパンツまで真っ赤に染まってしまう。

その上、甘い香りに誘われて虫等が寄ってきてしまうのは遠慮したい。


それにしても、バットを入れるしか利用用途が無いバットケースに木苺を入れる日が来るとは。

そのおかげで、右手には抜身の金属バットである。

間違っても後ろから人に声をかけてはいけない。

正面からでも怪しまれること間違いない、要注意だ。


私の今の姿は…

土で汚れた、白い夏のセーラー服。

髪は手櫛で直したが、おそらく乱れているであろう背中まで伸びた黒のロングストレート。

鏡がないので確認できないが、前髪が乱れていれば某ホラー映画のヒロインのようになっているかもしれない。

そして、ほんのり甘い香りが漂うピンクのバットケースを背中にしょいこみ、右手に愛用の金属バットを手にしている。

極めつけはバットに書かれた『一打入魂』の文字。


うん、不審者そのものにしかみえないでしょう!




さて、木苺である程度お腹を満たし再度歩き始める。

残念ながら、育ちざかりは木苺だけではお腹いっぱいになれない。

今の私が欲しているのは肉と米だ。

野菜はバランスを考慮し最低限度で構わない。

誰か、タンパク質と炭水化物を下さい。



また1時間ほど歩くと今度は河原にたどり着いた。

人や建物の姿は一向に見えない。

どんだけ広い森なんだ、ここは。


深く考えても仕方がないので、先ほどバットケースにしまいこんだ木苺で休憩をしよう。


木苺で耐性がついたのか、目の前の川の水を飲まないという選択肢は私にはない。

川の水は透明で泳ぐ魚影もくっきりと見えるくらいだ。

コップなんてもちろん持っていないので、手ですくって飲んでみる。

うん、ミネラルウォーターよりも美味しい。

今更ながら木苺も洗って食べてみる。

より一層瑞々しく美味しく感じる。




「――、―――っ!!」



もうそろそろ河原から移動しようとしたその時、何か声らしきものが聞こえた。

何を言っているかまでは聞き取れないが、何か生き物が発した音であることには間違いない。

きょろきょろと音の発生源を探す。


いた!


上流方向の河原からだ。

小学生高学年くらいの女の子が、森から川岸に向かって走ってきた。

後ろには野犬みたいなのが追いかけてきている。

その数3匹。しかも女の子と同じくらいの大きさだ。

女の子は川の浅瀬に逃げ込むが、野犬はしつこく川際で吠え続けている。

野犬は川に入っていくことはないようだが、このままでは女の子は動くことができない。

幸い野犬は私には気が付いていないようだ。


私には幸い武器(金属バット)がある。

動物虐待は嫌だけど、女の子を助けたい。

まずは野犬から女の子を離さないと。


私は息を吸い込んで、大声を張り上げる。


「くぉらー!!犬どもっ、女の子をいじめるなっ!!」


野犬は私に気付いた。

ついでに女の子もびくっとなっていた。


野犬がそのまま逃げてくれれば一番よかったんだけど、そのまま私に襲いかかろうと走ってきた。



(しゃーないな。

ほんとはバットが痛むから嫌なんだけど…)


私は足元の手ごろな石を拾い、ノックの要領で野犬めがけてバットを振りぬいた。


キャインッ!


1匹の脳天に命中した。

まさか当たるとは思ってなく、驚いた。

しかも野犬はそのまま動かなくなった。

…ごめんよ。女の子を襲う君たちが悪いんだ。


残り2匹は俄然私を襲う気満々だ。

しかし、ノックするほど野犬と私との間に距離はない。


1匹が飛び掛かってきた。

私は一歩踏み出し、お腹めがけてバットを思いっきり振りぬく。

なんせ野犬の大きさは小学生高学年の女の子と同じくらいのサイズだ。

手加減をすれば間違いなく腕が持っていかれてしまう。


キャインッ!!


「…あれ?」


思ったより手応えがない?

多少手がびりびりするが、野犬が数メートルふっとんでいるのはなぜか。


最後の野犬は2匹の惨状をみて森へ逃げて行った。

……良かった。

3匹目が襲ってきたら危なかったよ…。





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