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29.魔法の基本~手始めは火から~


私たちはカイトの話にひと段落つけた後、いつものように森の際の木陰を辿りながら川の上流を目指した。

途中、中天を迎えたので簡単にお昼を済ませ、ついでに水汲みも終わらせてしまう。

そうして森の中へ入りしばらく進むと、今晩のお宿マナの木に辿り着いた。

最初にお世話になった方のマナの木だ。

マナの木には名前が無いので、初めてお世話になったマナの木をその1、私が精霊と契約したマナの木をその2と便宜上呼ぶことにする。

今晩お世話になるのは、マナの木その1だ。



「アルトさん。

日が暮れるまでまだ時間ありますけど、どうしますか?

ブラッドベリーでも摘みに行きますか?」


マナの木その1からブラッドベリーの茂みまで森を突っ切れば割と近い。

片道1時間はかからない。

ガドさんもおねだりしていたことだし。


「いや今日はよそう。

今回は今までより長めに森に籠ろうと思う。

今からブラッドベリーを摘んでも傷んでしまうからね」


ほう。

収納魔法を使っても傷むのか。

入れたからと言って腐らないという訳ではないらしい。


「今日から早速魔法の修練をしようと思う」

「え?

魔法ですか?」

「うん。

魔法の修練は感覚的に覚えてもらうしかないから、時間がかかる。

ついつい先延ばしにしてしまっていたし」

「…はあ。」

「今日はポーラの復習がてら、カナには魔法の基本を学んでもらおうと思う」


基本か…。

どんなことをするのだろうか。

なんだか楽しみだ。






「では、魔法の基本を始めよう。

カナは疑問に思ったらすぐに質問してよいからね。

まずは概要を理解してもらおうか。

魔法とは契約を結んだ上で、人間は魔法という力を、そのかわり精霊へ対価として魔力を与える。

以前に説明したからその点は大丈夫だよね?」


私はこくりと頷く。


「魔法と一口で言っても様々だ。

便宜上は、その性質から大きく4分化もしくは5分化している。

ポーラはわかるよね?」

「はい。

火・水・土・風の4つの元素魔法に聖魔法があります」


ほうほう。

元素魔法はなんとなくわかるな。


「聖魔法ってなんですか?」

「聖魔法はね、怪我や病気を治したり穢れを清めたりする魔法だよ」

「えっ、何でも治せちゃうんですか?」

「さすがに全てとは言えないね。

もちろん契約の程度や魔力量による差異はあるけど、大神官位になると体の欠損や死に至る病以外はほぼ治せると言われている」

「じゃあ、オリビアさんの病気も…?」


オリビアさんは勢いのある人で、遠目に見れば元気そうだ。

しかし近くに寄れば、顔色が悪いことがわかる。

肺の病を患っていて、もう半年も療養目的でコポ村にいると言っていた。


「うーん。

たぶん治せると思うけど、その質問は大っぴらにしない方が良い」


アルトさんは真剣な顔でそう言った。


「カナには追々話そうと思っていたけど、この世界で神官が属する教会の持つ力は非常に大きい。

ここだけの話、ファーランを始め大帝国すらその力は及ばないと言われている。

…治していい症状なのか治すべき人なのか判断するのは教会だ。

魔法で治せるかという意味では、恐らく治せる。

神官が治せるかという意味では、答えは違ってくる」

「…」

「ま、この話は長くなるし俺の主観も入るだろう。

このことについては保留ということにしても良いかな?」

「…はい」


アルトさんの言い方だと、この世界の宗教――教会は取扱いに注意が必要なようだ。

デリケートな宗教は地球上にもあった。

…どこの世界でも宗教は恐ろしい面を持ち合わせているようだ。



「よし、話は脱線してしまったが元に戻そう。

以上大きく分ければ5分化出来る魔法だけど、聖魔法は適性があって使える人間は少ない。

逆に元素魔法は、程度の違いはあれど精霊と契約したものは皆使える」


ふんふん。

私もそのうち使えるようになるということか。

…あれ?

収納魔法は?

アルトさんが見せてくれた魔法の中で断トツで便利なアレだ。


「アルトさん、収納魔法はどこに分類されるんですか?」

「うん。

収納魔法は便宜上そう呼ばれているだけで、厳密には複合魔法と言う。

元素が混ざり合っているから、分化されていないんだよ。

四元素を全て用いて空間を引き裂いてその狭間に収めることを、通称収納魔法と呼んでいるんだ。

別名生活魔法ともいう」


そういえばアルトさんは魔法は応用が利くと言っていた。

収納魔法はその応用の一例ということなのか。

…ふむ。




「では、早速実技に入ってみようか。」


アルトさんはそういうと、お昼に汲んだばかりの水瓶を全て魔法で出した。

なぜ?


「魔法の基本は火だからね。

万が一の時は俺の魔法で対応するけど、念のためね」


なるほど。

アルトさんは魔法研究所にお勤めになるくらいだから、相当魔法は手練れているはずなのに。

用心深いんだろう。


「さて、まずはポーラ。

火を出してみてくれるかな?」

「はい」


ポーラちゃんはそういうと、見えないボールを支えるように両手を前に出した。

すると、両手の間から火が生まれ、その火はどんどん大きくなった。


「…うん。

ちゃんと出来たね。

では次はカナの番だ」

「えっ」

「ポーラみたいに両手に魔力を集中させて、火をイメージするんだ」

「ア、アルトさん、私まだ魔力なんて全く感じること出来ないんですけど」


私はあれからアルトさんの言いつけ通り、バットを肌身離さず持つようにしている。

もちろん、人目があるところではバットケースに収納しているが。

しかし、一向に精霊のオーラや自身の体を巡る魔力とやらを実感することが出来なかった。


「あ…そうだったね。

うーん。

魔力は揺るぎなく巡っているんだけどなあ。

…とりあえずポーラを真似てみて火をイメージしてみようか」


私はポーラちゃんを見て、同じポーズをとる。

両手の間に火をイメージ…?


「…何もない両手から火をイメージ?」

「そうだねぇ。

ポーラには自分の魔力を燃やすイメージって伝えたけど、カナはまだ見えないからなあ」


魔力を燃やす…?

確かに魔力を実感できない私には無理だなあ。


「うーん。

イメージは人それぞれだからなぁ。

では、カナは火と聞いて頭に思いつくものはあるかい?」


火か。

マッチの火。

最近マッチってあんまり見ないよね。

タバコの火。

止める止めると言っているけどいつも口だけで、父は未だに禁煙できずにいたな。

コンロの火。

…私は料理が出来ないから滅多に見ないけど。

キャンプファイヤーの火。

今年は野球部の夏合宿が無いから、従姉妹とキャンプに行くの楽しみにしていたのに…。


…いかん。

雑念が邪魔をする。


私がイメージする火も、対象こそ違えど何かを燃やすイメージだ。

何かを燃やすイメージ…。

あ、あった。


私は足元に無造作に転がっていた枝を拾った。

幸い乾いてよく燃えそうな枝だ。

長さも30cm位あるから、万が一成功しても火傷はしないだろう。


「じゃ、これを燃やすイメージで」

「うん。

それでやってみようか」


…。

……。

………。


何も起こらない。

そりゃそうだろう。

ただ枝を持って、じっと見つめているだけなんだから。

これだけで火が点くと思っていた私は、魔法を甘く見過ぎていたのだろう。


…火ってそもそもどうやって点くものだったけ?

もう一度、私の頭に浮かんだ火を思い出す。


マッチは、摩擦か。

タバコは、それ自体で発火させるわけでは無い。

コンロは、ガスを捻れば点く。

キャンプファイヤーも、それ自体が発火するわけでは無い。

松明で点火するの楽しかったなあ。


…いかん。

またもや雑念が。


今挙げた中で最もマシなのはマッチかな。

しかし、どうやって摩擦させれば…。

私がこしこし摩擦させても、それはもはや魔法ではないだろう。


うーんうーん。

私の貧弱な想像力では、なかなか実用的なイメージが湧いてこない。

浮くのは元の世界の、異世界では役に立たない情報ばかり。

思えば元の世界はなんて便利な世界だったのだろうか。

失って初めてその便利さに気が付く。

この手に持った木の枝がチャッカマンだったら、すぐ火が点くのに。

そういえばチャッカマンは魔法の杖だと誰かが言っていた。

今なら私もその意見に深く同意する。



「…カナ、無理そうかい?」


火が点く気配がない私を心配して、アルトさんが声をかけてくれた。


「そうですね…。

どうやって燃やせば良いかわからなくて」

「…?

どうやっても何も、火を灯せば燃えるだろう?」

「…火を灯す方法はわかるんですが、それをどうやって魔法で行えばよいかわからないんです」


マッチのように摩擦を加える…魔法でどうやって?

そういえば、山火事なんかは雷が落ちたエネルギーで発生する場合があるって聞いたけど、怖くてそんなこと出来ない。

間違いなく死ねる。

死なない程度に火を点ける方法ってないもんかな。


「カナ、思い詰めても仕方ないよ。

また明日試してみることにして、今日は別の魔法をやってみよう」

「そうですね…」


視線をあげるとポーラちゃんも心配そうな顔をしていた。

木から漏れた光が神々しい。

まるで天使。

はあ、癒され…あ!

あの手があった!



私はポーラちゃんの背後に駆け寄る。

そこは鬱蒼とした木々に遮られず、太陽の光が地面に集まる場所であった。

私は地面に木の枝を挿した。


お願い!

光よ光よ光さん、屈折してこの枝に集まってくれー!


私は心の中でそう唱え、目を閉じ両手を合わせて拝んだ。

…もう、これしか思いつかないんだ。




…ぷすぷす。


ん?


恐る恐る目を開けると、枝からは線香のような細い煙を上げていた。


…これって、もしや?


私は、固唾をのんで見守った。




…ぱちぱち。


おお!

燃え尽きかけた花火みたいに火が点き始めた。

もう少し火力が欲しいな。


私は両手で火を仰いだ。




そして額に汗がにじむ頃、枝の火はろうそくの火位に育った。



「アルトさんっ、ポーラちゃんっ!

私、出来たよっ」


私は火が点いた枝を手に二人に駆け寄る。

二人は信じられないものを見るように私を凝視したまま固まって、しばらく動かなかった。



あれ?

どうした二人とも。




残念な方向で考え始めたら、本当に残念なことになりました。


明日でちょうど30話になるので、整理がてら登場人物紹介を載せる予定です。

割り込みは予約できないので、登場人物紹介のみ20時頃投稿予定です。

本編はいつも通り投稿します(´・ω・)


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