17.異世界4日目の朝
…異世界3日目の夜は色々あった。
興奮して眠れないかもしれないと思ったが…、杞憂だった。
やはり、慣れない生活を強いられて体が疲れているからだろうか。
さっきはあれほどチラついていたのに、再び横になるとマナの実の輝かしさは全く気にならなかった。
毛布を頭から包まると、の〇太並みの速さで眠りについた。
翌朝目覚めると、既にアルトさんとポーラちゃんは起きていた。
「…おはようございます」
「おはよう」
「おはよう、お姉ちゃん」
二人は朝食の準備をしていた。
私はどうやら寝坊してしまったようだ。
急いで顔を洗うも、二人は朝食の準備を終えてしまっていた。
…申し訳ない。
本日の朝食は昨晩と同様、炙った肉だけが具のサンドイッチとお茶だ。
基本的に炭水化物とタンパク質があれば満足な私だが、もうそろそろビタミン的なものが欲しくなった。
…時間があったら、ブラッドベリーでも探しに行こうかと思う。
「…アルトさん、今日はどんなことをするんですか?」
私はパンを頬張りながら、アルトさんに尋ねた。
「そうだねぇ。
ミラさんに頼んだカナの着替えが今日か明日出来るから、コポの村に戻るのもいいけど…。
折角森に入ったから、先日泊まったマナの木でも目指そうか。
森から出ずにね」
「「え?」」
私とポーラちゃんは同時に声を上げた。
こんな目印の無い森の中、迷わないのだろうか。
「お父さん、森の中だと迷っちゃうよ?」
ポーラちゃんは、私が疑問に思ったことを質問してくれた。
「迷っても良いけど…。
ポーラなら迷わずにマナの木に辿り続けると思うけどなぁ」
アルトさんはニヤリと笑っていった。
「お父さん?
距離があるから、ここからだとマナの木の気配を辿れないと思うよ?」
「確かにここから気配を辿ってあのマナの木に着くのは、俺でも無理だよ。
…精霊の気配以外にも、マナの木を辿る方法は無いのかな?」
「……魔法?」
「半分正解」
アルトさんは、学校の先生のようだ。
すぐに答えを教えるのではなく、ポーラちゃんに考えることも教えている。
「ポーラ、この辺りはコポの村から見てどの辺りかわかるかい?」
アルトさんは魔法で地図を出した。
「えーと…。
コポの村の北東に位置するヒューイの森の…、川沿いを歩いて…、この辺りで森に入ったから…この辺り?」
ポーラちゃんは地図上に昨日歩いた道筋を指で辿りながら、ある一点を指した。
ポーラちゃんは地図が読めるのか。
私はポーラちゃんの年齢位の時は、たぶん読めなかった。
「そう、だいたいこの辺りだね。
じゃあ、先日泊まったマナの木はどの辺りかな?」
「うーん。
………ここ?」
ポーラちゃんはコポの村と今いるマナの木の中間辺りを指した。
「正解だね。
これでどこを目指せば良いのかわかっただろう?」
地図だけで判断するならば、コポの村を目指して南東へまっすぐ進めば目的地にたどり着けそうだ。
そう、まっすぐ進めればの話だ。
ここは森の中。
道なんてない。
障害物があれば避けなくてはならないので、到底まっすぐ進むことは不可能だ。
せめて方角がわかれば何とかなるかもしれない。
しかし、ここまでの道程でアルトさんはコンパスらしきものを使っていなかった。
この世界には無いのかもしれない。
太陽の向きで判断するのかな。
森の緑が深すぎて、葉っぱが邪魔だ。
太陽の姿を確認するのは困難そうに思える。
…そもそも、この世界は地球と同じく東から西へ太陽は沈むのだろうか。
今の私には答えが出ない問題だが、ポーラちゃんには簡単だったようだ。
「まずはコポの村、人の気配が密集している場所を目指せば良いんだね?」
ポーラちゃんは確信をもって、そう答えた。
精霊同様、人の気配を察知することもできるのか。
地図を読み取り大まかな方向を割出し、代わりの道標を頼りに目的地を目指すということか。
ということは、魔法で人の気配を察知するってことなのかな?
「これからコポの村を目指して森の中を進みます。
何事も無かったら、中天頃から精霊の気配に注意を向ける。
その頃には、精霊の気配を掴めるんじゃないかな…と思うんだけど」
どう?とポーラちゃんはアルトさんを見た。
…上目遣いで可愛い。
「うん。
今日はその方法で歩こう。
ポーラ、迷わず目的地にたどり着く方法は他にもあるからね。
魔法に慣れている者なら、
鳥の目を借りて空高くから目的地を探したり、
鼻を強化して匂いを辿るといった方法で探したり、
選択肢を増やすことが出来る。
後、数は少ないが魔法を使えない冒険者もいるからね。
彼らは、太陽や星の位置と地図を照らし合わせて向かうべき目的地を探したりするんだ」
なるほど。
魔法が使えない冒険者の件は、地球でも使われている方法だ。
「旅では何が起こるかわからない。
常にどんな方法があるか考えることを忘れないようにね」
アルトさんはそういうと、手早く出立の準備を始める。
私とポーラちゃんも慌てて後に続くのだった。