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13.精霊の気配

目指すところもなくひたすら歩くというのは意外としんどいものだ。


…。

……。

知らず知らず、既視感を覚えるセリフを呟いたのは気のせいではないだろう。

森に入ったときはまだ太陽が高かった。

今はだいぶうす暗くなっている。

もうすぐ日が落ちる頃合なので、体感時間にして少なくとも3時間は森の中を彷徨っているだろう。




私たちは今、ポーラちゃんを先頭に森の中を歩いている。

ポーラちゃんは何かを探すように慎重に歩を進め、アルトさんと私はそれについていく。

アルトさんはどこを目指して歩けば良いかわかっているみたいだが、ポーラちゃんにヒントを出さない。

因みに私にはどこを目指せばよいかさっぱりわかっていない。

目を凝らしても、耳を澄ましても、ちっとも感じない。

別に近眼でも難聴な訳でもない。

修練が足りないから感じないのだ。



ポーラちゃんが必死に探しているもの。

この世界ではごく当たり前の存在で、異世界から来た私には馴染なく全く感じ得ないもの。

そう、ポーラちゃんはわずかな精霊の気配を頼りに、マナの木を探しているのだ。





時間を遡ること数時間前、その頃私たちはまだ森の際の木陰を歩いていた。


「…お父さん、まだ川沿いを歩くの?」


疲れた様子を微塵も見せていなかったポーラちゃんが、ふと足を止めアルトさんに尋ねた。


「ん?

ポーラはもう疲れたのかい?」

「疲れてないけど…。

今日は野営なんでしょ?

マナの木を目指すなら、もうそろそろ森に入った方が良いんじゃないかなと思って」

「…ポーラはこの距離から精霊の、マナの木の気配がわかるのかい?」

「うん。

なんとなくだけど…」


ポーラちゃんはもじもじしながら答えた。


「そうか。

随分広い範囲で気配を探れるようになったんだね」


アルトさんは嬉しそうにポーラちゃんの頭を撫でた。

ポーラちゃんも嬉しそうだ。


「一昨日、お姉ちゃんの棍棒のオーラを見てから、精霊の気配を感じやすくなったような気がするの」


アルトさん曰く、ポーラちゃんの魔力は平均より多いらしい。

それでも、修練に入ったばかりのポーラちゃんがその時感じ得る精霊の気配は数十メートルほどだったという。

二日前、川辺からマナの木までは30分ほどかかっていた気がする。

道が悪い森の中とは言え歩く速度はそんなに遅くなかった。

少なく見積もっても1キロメートル以上の範囲で気配を感じ得るようになっているのではないだろうか。


「へぇ。

ポーラにまで加護の恩恵が与えられたのかな?」


アルトさんはニヤリと笑った。

あ、この顔は悪い笑顔だ。

なんだか嫌な予感がする。


「じゃあ、今日はポーラにマナの木を探してもらおう。

一昨日身を寄せたマナの木以外をね」

「えっ!?」


ポーラちゃんは相当驚いていた。


「もちろん、この場所から探せとは言わないよ。

最寄りの川辺まではお父さんが連れて行ってあげよう。

そこから、森の中に入ってマナの木にたどり着くまでが、ポーラの修練だ。

…良いね?」

「…うぅ。」


…ご覧になりまして?

父の優しさをみせ、修練という武器をチラつかせ、断る隙を与えない強引さ。

見事な飴と鞭の使い分けだ。

愛娘の成長を喜んでいるのは本心だろう。

しかし、『加護』という言葉が出た時点で、アルトさんの並々ならぬ研究への情熱があふれ出たのを私は見逃さなかった。

こうなったら、多少のことでアルトさんが譲るということはないだろう。

私は心の中でポーラちゃんを労うことしか出来なかった。




「あ、あった!」


ポーラちゃんは嬉しそうな声を出し、駆け出した。

ポーラちゃんが目指す先はほんのり光り輝いている。

あそこにマナの木があるのだろう。


「こら、ポーラ。

足元に気を付けないと危ないよ」


アルトさんはニコニコしながらポーラちゃんの背中を見守っていた。


「さすが、ポーラちゃんですね」


アルトさんのお墨付きがあったとはいえ、数時間集中して探し当てた根性こそがさすがだ。

私は生温い目を向けながら、そう言った。


「まあね。

俺の娘だから、これくらい当然だよ」


アルトさんはそうとは気づかず、ニコニコだ。

親バカ全開ののアルトさんは、私の視線の意味に気が付かなかった。



「それにしても、マナの木って光るんですね」


ポーラちゃんは光へ向かって一直線に走っている。

辺りがすっかり暗くなっているから、私にも目指すべき方向がわかる。

はて、二日前のマナの木は光っていただろうか…?


「カナには光って見えるの?」


アルトさんは驚いて私の方を見た。


「え?

光って…ないんですか?」

「光るには光るけど、今は未だその時期ではない。

それにどんなに目が良くても、マナの木までの距離はまだあるよ。

マナの木の気配は感じるけど、俺にはまだ視認できない。

…カナには今、マナの木が光って見えるんだね?」


やべ。

アルトさんの研究スイッチが入ってしまった。


「ああ、はい。

光って見えます」

「光るってどんな色?」

「白に近い黄色っすかね」

「ふむふむ。

どんな風に見えるんだい?」

「ポーラちゃんの走る真っ直ぐ先に、小さく光ってる感じ?」

「光り方ってどんな感じ?

出来るだけ具体的に教えて」

「遠くにある家の明かりみたいな?

ぽわーと優しくほんのり光っているような…?」

「ぽわーってどんな感じ?

ほんのりって?」

「え、えーっと…」


語彙力がないため具体的に表現出来ない私も悪い。

しかし、アルトさんよ。

いささかしつこすぎやしないか…?


私はポーラちゃんに助けを求めるべく足を速める。

早歩きというよりも、もはや駆け足だ。

足元が暗く危ないが、致し方ない。

もちろんアルトさんはそれについて来る。

いつの間に出したのやら、手にはメモを持っている。

アルトさんは全く足元に視線を落とさない。

歩きスマホならぬ、駆け足メモだ。

なんて、迷惑な大人なんだ…!


私はアルトさんに少なからず恐怖を感じながら、研究バカを引き離すべく走りだした。





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