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クールな赤ずきんちゃんとヘタレなオオカミさん

 むかしむかし、あるところに、赤ずきんちゃんと呼ばれるかわいい女の子がおりました。

 ある日、赤ずきんちゃんはお母さんにおつかいを頼まれました。森の奥に住むおばあちゃんが病気になってしまったのです。赤ずきんちゃんはお母さんから赤ワインと果物の入ったバスケットを受けとると、さっそく森へと出発しました。お母さんは元気よく出発する赤ずきんちゃんに、

「森には狼が出るから気をつけるのよ!」

と注意をしました。赤ずきんちゃんは振り返って、

「はぁい!」

と大きな声で返事をすると、おばあちゃんのお家を目指して歩き始めるのでした。


***


「……そして赤ずきんちゃんは何事も無くおばあさんのお家にたどり着き、無事にお見舞いの果物と赤ワインを届けることが出来たのでした。めでたしめでたし」

「待って!! 一番大事な部分が抜けてるよ!?」


 森で一番大きな木の下に座って本を読んでいた少女は、読書の邪魔をされたことに微かに眉をひそめた。かぶっていた赤いフードをあげると胡乱げに傍らの少年を見上げて、

「……もしかして、一番大事な部分って狼のこと? 狼が登場する部分なら、邪魔だから飛ばしたけれど」

「狼の存在全否定!? 可哀想だからもうちょっと狼に優しくしてあげて!!? っていうか狼が登場するから話が盛り上がるんだよね!? そんな扱いしちゃダメでしょ!!」

 傍らに立つ少年がするどくツッコむ。そのたびに、少年の頭についているふさふさな・・・・・・とふわふわした尻尾・・・・・・・・がピョコピョコと揺れた。

 少女はじっとその動きを見つめていた。もちろん少年の言葉なんて聞いていない。世の中にはお説教なんかより大事な事が山ほどあるのだ。

 少女はしばらくの間、お説教を大人しく聞いているふりをして熱心に見つめていたが、ついに堪えきれなくなったようにそっと手を伸ばした。

「つまり! この童話は狼がいて初めて輝くの!! ミリィはもっと優しい心を持って!? 狼差別、ダメ、ぜった―――おさわり禁止!」

「あう」

 伸ばした手が少年の尻尾に触れようとしたその瞬間、ぴしゃりと手を叩かれて、少女はがっくりと肩を落とした。

「……あともうちょっとだったのに……。ヴァルのいじわる」

 そう呟いて恨めしげにヴァルと呼ばれた少年を睨む。少女――ミリィ――が頭一つ分ほど背の高いヴァルを睨むと、自然と上目づかいになった。

「……ちょっとくらい、触らしてくれてもいいと思うの」

「くっ……! あざと可愛い……!!」

 あまりの破壊力に、ヴァルが顔(主に鼻)を押さえて横を向く。

 ミリィはヴァルの発した言葉の意味が判っていないようで、不思議そうに小首を傾げていた。






「……それでさ、ミリィに聞きたいんだけど」

「なぁに?」

 しばらくたって、気を取り直して問いかけると、ミリィがきょとんと大きな瞳を瞬かせてヴァルを見上げた。

 やっと鼻から血が出るのを回避したところなのに、ヴァルを見上げるミリィの可愛さにまたもや顔に血が集まる。

「いや、たいしたことじゃないんだけどね。……なんでさっきは狼が出る部分を読まなかったのかなって」

必死に手で顔をあおぎながらヴァルが言うと、ミリィはあぁ、と頷いた。

「だって私、狼が嫌いだもの」

「えぇーっ!?!?」

 ヴァルは思わず叫んだ。ミリィがうるさい、と顔をしかめているが気にしない、というか気にする余裕が無い。

「ミリィ、狼が嫌いだったの……!?」

「そうよ。……もしかしてヴァル、私が狼が嫌いなこと知らなかったの? 私、ヴァルに言ってなかったかしら」

「知らなかったし、そんな話聞いてないよ! なんで……!?」

「なんでって、物語の悪役を好きになる人は珍しいと思うけれど」

 ヴァルが目に涙を浮かべながら問い詰めると、ミリィは引き気味に答えた。

 ミリィが言った『狼は悪役』という言葉に、ヴァルは頭を殴られたような衝撃を受けた。


 ヴァルは狼である。正式には人狼と人間のハーフだ。つまり、ヴァルは見た目が童話に出てくる狼にソックリなのである。

 もちろんヴァルは人間なんて食べない。ヴァルの好物はミリィ特製のりんごパイだ。だが、好物がパイだからといって、耳と尻尾と微かに尖った犬歯が消える去るわけではない。

 そして、ミリィは狼が嫌いだ。つまり、

「ミリィは僕のことが嫌い……!?」

「なんでそうなるの……?」

 いつの間にか口に出して言っていたらしい。ミリィの呆れたような冷たい視線が痛い。

「……だって、ミリィは狼が嫌いなんでしょう……?」

 眉が下がって、人差し指が勝手にのの字を書く。ヴァルの子どもみたいないじけ方にミリィがため息をついた。

「それは狼が悪役だからよ」

 先ほども聞いた、わかりきっていたはずのミリィの答えに、ヴァルは先ほどよりもショックを受けた。目の端に涙がたまる。

「うん、だから」

「だから私、ヴァルのことは好きよ」

「……え?」

「だってヴァル、童話に出てくる狼と違って優しいじゃない。耳も尻尾もあるけれど、毛並みはきれいだし、ふわふわだし。」

「え、……え?」

 照れたように笑うミリィに、ヴァルの頭の理解が追いつかない。きょとりとヴァルが目を瞬かせた拍子に、溜まっていた涙が一滴、頬を滑り落ちた。

「笑った顔も好きよ。私まで嬉しくなるもの。きっと悪い狼が笑っても私は嬉しくはならないでしょうから、そこも違うわね」

「ちょ、ちょっと待って!!」

 すうはあ、と深く深呼吸をすると、ヴァルは恐る恐る尋ねた。

「それは、つまり……ミリィは僕のことがその、す、好き、なの?」

「だから、さっきからそう言ってるじゃない」

 だんだんとミリィの言葉を理解するにつれて、ヴァルの顔も真っ赤に染まっていく。ミリィがヴァルを嫌っていないことが、好いてくれていることが、信じられないほど嬉しい。

 目の前では、いつもは無表情なミリィが珍しく、頬を赤くして笑っている。

 幸せで、嬉しくてたまらなくて、ヴァルはめったにお目にかかれないミリィの笑顔を目にしっかりと焼き付けると、

「えぇっ!? ちょっとヴァル!? ヴァル――!?!?」


―――鼻血を吹いて、倒れたのだった。






ミリィ

赤ずきんちゃん。

ロリな見た目の17歳。基本的に無表情なクール系女子。駄菓子菓子実は天然。

森の奥に住む魔女のおばあさんに育てられる。そのせいで少々世間知らずに育つ。おばあさんに貰った本と赤いフード付きポンチョが宝物。


ヴァル

オオカミさん。

人狼と人間のハーフの18歳。

幼いころ偶然出会った赤ずきんちゃんに一目惚れをする。今までに何度となく告白しようとしたものの、ヘタレゆえに失敗し続けている。

常識人なツッコミ属性。


魔女のおばあさん

本作には登場していない魔女のおばあさん。ミリィの育て親。ミリィの実の母親が育てていないのは、仕事が忙しくてミリィをおばあさんに預けているだけ(たぶん)。

ミリィを溺愛している。ミリィに惚れているヴァルを最近、敵認定した。

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