前向き
宏人の大学へ行ってみて初めて、授業がけっこう遅くまであることを知った。
夕食が残されていることはなかったし、宏人は食器もいつもきれいに洗ってくれていた。
でも、帰りが20時頃になることがあるのなら、もしかしたら友だちと外食している時もあるかもしれない。
宏人ともっと話をすべきだなと改めて思った。
今夜帰って来たら話をしよう。と、その前に、祥太は欲しいと思っていた壁時計を注文した。
それから久しぶりに春希と竜之介にスマホでメッセージを送った。
宏人の大学に行った話をすると、二人から返事がきた。二人とも大学生活が忙しいようだった。
二年生のうちにできるだけ授業を受けて、三年からは自由時間を増やすんだ、と似たようなことを書いていた。
宏人も今が一番忙しいのかもしれない。
祥太はいろんなことを考えていて、夕べ宏人と約束したことをすっかり失念していた。
春希からのメッセージで、宏人くんとはうまくやってる? と聞かれてその時に思い出した。
今夜のことを思うと、春希にどんな風に返事をすればいいか分からなくなった。
すると、春希の方から、また今度会おうね、とメッセージがきたのでホッとしてスマホを閉じた。
どうしよう。
宏人との約束のことを思い出すと、急に緊張してきた。
どうしたらいいのだろう。
何となくちぐはぐな気がしている。
おかしいのは自分なのだ。
好きなんだから喜べばいいのに、なぜか胸がもやもやするのだ。
四年前と何も変わっていないのか。
そう考えてから、祥太は少し真面目な顔になった。
宏人の言う通りかもしれない。
今夜、宏人とちょっと深い関係になったら、少しは自分の気持ちを理解することができるかもしれない。
それを考えて、前向きに男同士のやり方というのを調べてみることにした。
食事の支度よりもこっちの方が大事かもしれない。
ようやくそのことに気づく。
男同士の恋愛を真剣にマスターしよう。祥太は意気込んだ。
「ただいま」
宏人は言ったとおり、20時頃に帰ってきた。
祥太は調べものに熱中しすぎて、夕飯を食べるのを忘れてしまっていた。
急いで何か作ろうと冷凍庫を探った。
冷凍うどんがあったので、それを食べようと思った。
宏人は慌てている祥太を見て眉をひそめた。
「どうしたの?」
「えっ‼」
夕方から男同士のやり方をを調べていくうちに、祥太は青ざめていた。
全く意識していなかったので、宏人がいかに自分を大切に思ってくれているか、調べて分かった。
宏人と自分の体格差など、もろもろを考えて自分が受ける側だと理解した。
「宏人、ご飯食べた?」
「食べてないよ。だって、祥太が何か作ってくれていると思ったから。急いで帰って来たんだよ」
「え? うわ、ごめん。俺、調べものに夢中になって、夕飯作るの忘れていたんだ。俺も食べてないから、冷凍うどんでいい?」
「いいけど」
冷凍うどんは沸かしたお湯に放り込むだけでいい。
トマトときゅうりがあったので、簡単なサラダにする。
宏人はカバンを置くとバスルームに入り、手を洗って出てきた。
祥太はドキドキしていたが、お湯を沸かしながら忙しいふりをした。でないと、心臓が口から飛び出しそうだった。
「祥太」
ドキーッと心臓が跳ねる。
「お、おう!」
いつの間にか背後に立っていて、体が密着している。
「どうしたの? なんか、すごく僕のことを意識しているよね」
にやにやと楽しそうに言って、耳に息を吹きかけてきた。
「い、いや、その……」
「よかった。祥太、てっきり夕べのこと忘れてんのかと思ったけど、少しは考えてくれてたんだね」
余裕の笑みに祥太はうっとたじろいだ。
「大丈夫だよ。僕もちゃんと勉強したからさ」
経験の違いか? 祥太は余裕がなくて膝が震えそうなのに。
「あ、お湯がぶくぶくいってる」
宏人が火を止めると、すぐに冷凍うどんを具材ごと入れて火をつける。
作り方を見てスマホで時間を確認した。このIHにはタイマー機能はついていない。
「祥太、うどんは僕が作るから座ってなよ」
こちらは緊張しまくっているのに、宏人はすごく楽しそうだった。
しかし、余裕がないのは本当だったのでおとなしく座った。
スマホでも見ようと思ったが、先ほどまで調べていたので、内容を思い出して体が熱くなった。
あああ、こんな時、テレビがあったらよかったのに、と祥太は思った。




