「神より。お前らちょっとは異世界創ってやるこっちの身にもなれ」
地球の上の遥か上、そのまた上のずっとずっと上の方。といっても空を飛ぶんじゃなくて、空間として、次元としてずっとずっと上の方に、神様は住んでいました。
その場所は、天界と呼ばれています。
広い広い天界の、とある場所。全てが真っ白に塗りつくされた、大きな大きな城がある。入口には大きな字で“CREATER”、創造神の居城である。とても清らかで、優雅なお城であり、尖塔も四方に立ち並んでいるとても立派な建物。
しかし、当の本人はというと、威厳もほとんど持ち合わせていない新人の女神。人間でいうと高卒なのだが、実際の姿は中学生のようである。そして清らかな住まいとは裏腹に、彼女は額に青筋を浮かべて癇癪を起こしていた。
「どいつもこいつも簡単に異世界行きやがって……一々お前らの行き先創ってやってるこっちの労力も考えろよ!」
人間界の娯楽を読みあさった結果、ツインテールが気に入った彼女は彼女は自らの髪の毛を左右でくくっていた。このお城の持つ広大な空間のほとんどは、現世の漫画で埋め尽くされている。顔もいくらでも整形り放題なので、思いつく限りの美少女に仕立て上げた。
と言っても、神様の中で一々容姿を人間に近づけるのはかなり奇特な部類に入る。大概の者は龍など見るからに威厳がありそうな獰猛な姿であり、人間に扮するにしても仙人じみた白髪の老人である場合が多い。どれもこれも、威厳を第一に考えてだ。
ただし、新世代の、つまりは若手の神はそうではなかった。新し物好きな彼らは格好良い男の姿や美しい女の姿をトレースした。先代の連中は「若いもんの考える事は分からん」とだけ言って納得し、それにかまけて新世代はそのまま人間の姿。しかもこの創造神のように人間界の娯楽を一々取り寄せる者まで現れる。
そして新米の創造神はというと、水晶玉の前で怒り狂っている。最近は地球で、特に日本では違う世界に飛ぶ願望を持つ者が多い。そんな欲求を一々叶えようとする福の神がひょいっと飛ばすのは良いのだが、一々彼らを飛ばす異世界を創るのは彼女の仕事。転送するだけの福の神と違って、ゼロから世界を創造するのには時間も手間もかかる。そのため、漫画の続きが読む事が出来ずに彼女はイライラしていた。
今日も新たに三種の異世界を作りだす。同じように魔法が存在しているが、ところどころ違っていて、なおかつ送り込む人材のポテンシャルが発揮されるようなもの。大きな仕事は押しつけるくせに注文がうるさい福の神を想い浮かべては彼女はさらに苛立ちを募らせる。
そんな彼女は、後ろに現れた気配に気づいていなかった。現世の娯楽、それもホラー映画にはまってしまった神様だ。世界を安定させて、維持させていくのが仕事なので維持神と呼ばれる。最近の奴のお気に入りの格好は、人体模型だった。
人体模型が、ようやく仕事が終わって一息ついた創造神の耳元で、とびきり恐怖を与えるような声でぼそぼそと呟いた。
「良いじゃない……あなたは創ってポイするだけ。僕なんてね……君が毎日創れば創るだけ仕事が増えるんだよ。分かってる? ねえ、ねえ、ねえ……」
「ぎゃああぁあああ!」
変な声がしたかと思い、振り返るとそこには人体模型。維持神だとは分かっていても、彼女は恐怖する。青ざめた顔つきで反射的に飛び退き、息を荒げて気味の悪い模型を睨みつける。
「お、おお、驚かせんな!」
「あー、ごめんごめん。あまりにムカついたからちょっと文句を言いにね」
「知るか! こっちだって文句言いたいわ! 元はと言えば福の神が原因なんだよ!」
それもそうだねーと、軽い口調で模型は彼女に迫る。関節が曲がらない仕様になっているので、非常に滑稽な行進に見える。ただ、わざわざそう見せているのだろうか、かなり怖いと創造神は感じた。
「という訳で仕事これ以上増やさないでくんない?」
「だから好き好んでやってる訳じゃないんだって」
模型が近づくごとに後ずさりながら、彼女は答えた。近寄るなと身振りで示すが、それを理解した上で維持神は近づく。
「仕方ない、ここは奴に頼むか」
「奴って?」
人体模型の腕があがり、カクカクと体ごと向きを変えてある方向を示す。それが指差した方向に何があったかを考え直して、すぐさま創造神は気がついた。
「あー、破壊神くんに頼むのか」
「そういう事。じゃあ早速行こうか」
その提案に乗る事にして、二人は足並みを揃えて西に住む破壊神の家へと向かう。あちらも新米の神様なので、多少の頼みぐらいならば聞いてくれるだろうと高をくくって、二人は彼の宮殿へと向かった。
「という訳で何個か異世界ぶっ壊してください」
「断る。ダリぃ。今仕事ねーんだから作らねーでくれ」
耳くそをほじりながら、金髪の男――破壊神――はそう告げた。ピアスをつけて、指輪をはめて。他の神様からは『何かを間違えた男』と呼ばれているが、本人は気にしていない。何せ中身はというと容姿に似合わずいたって大真面目で仕事熱心、むしろ委員長のようなものだからだ。
それなのに、なぜそんな態度を取るのかと二人は訴え出る。が、それに対して簡単に彼は切り返した。
「だって今問題のある世界なんてそうそう無いだろ。異形の化け物が現れてどうしようもなくなった世界をぶっ壊して一から始めさせる事で救済するのが俺の仕事だ。何の問題もない世界、それも他の世界からの訪問者がいる状態でぶっ壊す訳にはいかない」
「くっ、破壊神のくせに……理屈的な」
「端からアホのお前らと違って俺は元々それなりに分別がある」
「ちょっとその言い方酷くない? じゃあもう良いよ、山の神にある事無い事吹き込んでやるから」
それまで自信満々な態度で、二人を馬鹿にしてきた破壊神の表情が大きく揺らいだ。それは、創造神が口にした山の神の名前を聞いたその瞬間だった。神の中にも一応は恋愛というものがある。話の流れから、維持神は『破壊神は山の神にくびったけ』なのだと気付く。
「おいお前何考えて」
「私達の事馬鹿だのアホだの落ちこぼれだの言ってきて、丁寧に仕事頼んだのに出直してこいだなんて。あー、ついでに夜な夜な山の神をストーキングするクソ野郎だと……」
「分かった! 手伝うから止めろ! 後ストーキングはしてねえ」
「ふむ、それで良い」
自分たちの欲求のために世界を破滅させようとするとは、実質悪魔と大して変わらないじゃないかと破壊神は呆れる。だが、彼としても最近の地球はなんだか変だとも思っていた。
やけに次元を越える連中が多い。これには何らかの要因が関わっているのではないか、と。だがこれは見当違いな破壊神の思いこみであり、やはり新卒の福の神が馬鹿の一つ覚えの如く人間の欲求を叶えているからというのが理由である。
「じゃあまずは来訪している地球人を元の世界に戻すのが仕事だ。行くぞ」
「えっ、マジで?」
破壊神がようやく話に乗ってきて、これからだという時に腰を折ったのは創造神だった。
「えっ、帰さないとダメなの?」
「当たり前だろうが! ていうかこんな私的な理由で一個世界潰せるわけねえだろ! 二個の世界を一つにまとめて……ってのを繰り返したら良いだろ。そしたら維持する世界の数も減るし、帰ってきた連中が話を広めれば違う世界への夢も薄れるし」
「もしかして……今まで創った世界全部?」
「だから当たり前だろうが!」
「何個創ったと思ってんの! 一昼夜で終わる訳ないじゃん!」
「知るかぁあっ! 面倒な仕事持ってきたくせに文句をつけるなぁっ!」
そこで三人は黙り込む。話を持ち込んだ少女と模型はしばし見つめ合って悩んでいるようであった。数秒ほどお互いに見つめ合って、結論は出たらしい。
「めんどいからとりあえず明日にするわー」
「はあ?」
その考えの豹変ぶりに、思わず破壊神は顎が外れるかと思うほどにあんぐりと口を開けた。マジで言っているのかこいつは、そんな風に今日一番の呆れを示している。
ちなみに、明日するを何度も言いまくった結果、この話は無かったことになったとかならなかったとか。
本来は長編にでもしようかと思った物語。
長編にした場合は本当に異世界に行って各地の勇者を神様設定によるチート能力でフルぼっこにして現実世界に帰すお話。
だけど時間無いし、多分面白くないしでこんな感じの短編に。
タグもそうですが悪ふざけ満載です。