episode1:現実世界にて。
※一部グロテスク表現が含まれます。ご注意ください。
僕の父も祖父も剣道を嗜んでいた。
しかも、この父と祖父の2代は全国剣道大会で優勝するほどの実力を持っていた。
結果、父の代で片柳家の剣道道場を開いた。
仕事の傍らで開いた道場だったが、昼間は祖父、夕方からは父が指導を行い、門下生の集まりも上々。
その影響で、一人息子の僕に物心つく前から剣道の英才教育を受けさせていた。
幼い頃から剣道に触れる機会が多かった僕は、僕という人間が構成される歳にはめきめきと力をつけ、全国少年大会で最年少で優勝するに至った。
小学生だった僕には厳しい稽古だったけど、結果も伴い充実感に満ち満ちてた。
何より勝つと両親や祖父が褒めてくれて、それがさらに力になっていた。
残念ながら祖母は僕が生まれる前に亡くなっていたけど、天国から僕を見守ってくれているだろう。
学校の友達と遊ぶことも楽しかったし、勉強もある程度できたので毎日が本当に楽しかった。
こんな幸せが続いて、成長していくんだなと幼いながらに感じてた。
本当にそう思っていた。
しかし、それは起こった。
―――片柳家一家惨殺事件―――
こう呼ばれたらしい。
僕がこの事件名を知ることはなかったのだけれど…。
「みんな、ばいばーい!」
「詠人ばいばーい!」
学校の門で友人たちと別れ、帰路に着く。
いつものようなありふれた日常だ。
しかし、その日僕は10歳の誕生日を迎え、家で家族が誕生日会を開くことになっていた。
「楽しみだなーっ。何をプレゼントしてくれるんだろう。食べ物も唐揚げとかあるかなー!」
ウキウキした気分になり、自然と独り言がこぼれる。
「お父さんも仕事早めに切りあげて帰ってくるって言ってたし、もうお家にいるかなー。」
自然とスキップのような歩き方になる。
僕の家は学校から10分ほど。
大人なら5分ちょっともあれば着く、さほど遠くない距離である。
上機嫌で色々なことを思い浮かべながら帰ってれば時間も早く過ぎるし、この10分の距離も例外ではない。
「あっ、見えてきた!」
視界に、二階建ての見慣れた自分の家と平屋の道場が入ってきた。
塀に囲まれ門には、片柳道場の大きな看板がかけらている。
このあたりにはお金をかけたらしく立派な門構えだ。
その代わりといっては、家は立派とは言い難く質素とも言い難い。
普通の家という他にない。
道場といえば、想像してもらえるような建物だ。
普段、門下生を道場に呼び修練を積む場合には、門は開いている。
しかし、今日は特別な日。
閉まっているはずだ。
でも…、
「あれー?開いてる?」
おじいちゃんが頑固な面もあり、門の開閉はしっかりしているはず。
「道場を開けてたのかな?でも、今日は開けないってお母さんもおじいちゃんも言ってたしなー。」
不思議に思いながら門をくぐる。
門をくぐると真っ直ぐに家があり、小さい垣根をはさんで右奥に向かえば道場がある。
さらに家の玄関までには、定間隔に並んだ石造りのタイルでつながっている。
僕のお気に入りの日課は、このタイルを片足でジャンプしながら行くこと。
「でも、まずはおじいちゃんに…!」
門が開いてたということを報告する。
「この時間なら道場かなー?」
毎日の修練に励んでいるはず。
あの年齢になっても、鍛え上げた肉体を保ち続けるために。
おじいちゃんのそういう所をすごい尊敬して憧れてた。
「まぁー行ってみよーっと!」
道場の玄関の前に着くとこちらも開いていた。
「あれ…?おじいちゃーん?」
靴を脱いで道場の中に入る。
電気はついているが、開けた道場内に見渡す限り人影は見えない。
「いないのかなぁ?防具そうこかなー?」
奥にある倉庫の方にも行ってみることにした。
こっちも電気がついていた。
「おじいちゃーん?いないー?おじいちゃーん!」
返事はない。
どうやらいないようだ。
「お家の方にいるのかなー?」
ここでの探索を終え、家に向かってみることにした。
「よっ、ほっ、うわっ…よっと…!危ない危ないー。」
無事にタイルをジャンプして玄関の前に立つ。
「ただいまー!」
扉を開けて家の中に入る。
靴を見るとお父さんの靴を見つけ、その中におじいちゃんの草履もあった。
どうやらこっちにいるみたい。
でも、放りっぱなしにするなんて珍しいなぁ。
「よいしょっと。」
草履をきれいに並べる。
そして僕は習慣通り、2階にある自分の部屋に荷物を置きに行った。
「おじいちゃーん、ただいまー!おじいちゃーん?」
返事はない。
「お母さーん、ただいまー!お父さーん?」
こちらも返事はない。
どうやら2階には誰もいないみたい。
「んー?やっぱり1階かなー?そうかな!」
自分の部屋を出て1階に降り始める。
向かう先は居間だ。
いつもそこには大抵専業主婦のお母さんがいるし、お父さんとおじいちゃんもそこだろう。
階段を降りているとテレビの音は聞こえるが話声は聞こえない。
「うーん?」
みんなでお昼寝してるのかな?
居間の襖の前に立つ。
「ただいまー!」
元気よく襖を開ける。
すると、
「え……?」
僕の目の前に理解を超えた光景が繰り広げられていた。
まず目に入ってきたのは、赤黒い色に染まった畳と壁。
そしてテーブルの上に置かれた料理。
そのテーブルの周りで動くことのない物体が3つ。
「………………………。」
呆然として言葉が出ない。
出せなかった。
襖を開けたことによって、赤黒い液体が僕の足元を濡らす。
「ひっ…冷たっ…!」
身体の無意識な反射で意識が戻る。
恐ろしいことが起きている。
幼いながら頭がそれを理解し始めた。
しかし、確認しなきゃ。
その言葉が頭の中を何回もループする。
動くことのない3つの物体。
顔を、顔を確認しなきゃ。
「うっ………。」
震える足を一歩踏み出す。
「オ、オロエェェッ……………!」
自然に湧き上がってきたものが出てくる。
その勢いでうずくまってしまう。
さらに涙や鼻水も溢れ出す。
すると、居間とつながった台所に誰かがいる気配がした。
そう気がついたときには、こちらに移動してきた。
「………。」
無言で歩いてくる。
しかし、僕は顔をあげることができなかった。
「楽にしてやる……。」
この言葉が最後だった。
それ以降のことは覚えていない。
当時の僕は大して力がなかった。
あったとしてもこの犯人に対して、抵抗できたかは分からない。
絶望しか残らなかった。
後悔した。
こんなあっけない終わり方は嫌だ。
大切な人達ともう一度幸せな日々を過ごしたい。
もしやり直せるならば、何もせずに終わりたくない。
どうしようもなかったことだったのかもしれない。
けど、僕に勇気が。
僕に力が。
もっと力があれば変わったかもしれない。
いや、変えてみせる!
だから。
だから僕は力を求める!
1週間に一度のペースで投稿できればと思っております。
拙い文章ではございますが、これからよろしくお願いいたします。
性転換&魔法ものも書いてます→「ぐだぐだっ☆」(N3747BR)
お手すきの際にでも読んで頂ければ幸いです。




