数十年前
少し昔話をしよう。
それは数十年前まで遡るのだが、とある街に住んでいた一人の少年の話だ。
その少年の話をする前に、まずはその少年についての話をしなくてはならない。
少年の名前は由雪迅。
黒髪で黒い瞳をしていて、その目は相手を威嚇するように鋭く、そしてすべてを否定するかのように冷たいものだった。
彼のことを見たら誰もがこう思うだろう。
由雪迅は……孤独にして人を寄せ付けないタイプだと。
事実、彼の周りには誰もいなかった。
いや、というより彼自身から誰かが近寄って来ることを拒絶していた。
親にすら心を開かないこの少年は、他人のことが嫌いだったのだ。
何故こんなにも歪んだ性格になってしまったのかは分からない。
しかし、これは普通の小学生がとる態度ではないことは明らかだった。
さて、いつまでも由雪についての説明をしているわけにもいかないので、そろそろ本編の方に入らせてもらうことにしよう。
先に述べておくことがあるとすれば、この物語の主人公は由雪迅である。
その性格故に残酷な描写や年齢不相応な発言が描かれる可能性があるが、それは仕方のないことなのだと理解して欲しい。
舞台は学園ではあるが、平和な日常などそこではたいして描かれないことだろう。
さて、覚悟が決まったのなら、次から始まる彼の昔話を読んで貰いたい。
*
Side由雪迅
「……ちっ」
これで何度目だろうか。
俺の存在がムカつくからと言って、知らない奴らが何人も喧嘩を売ってくるのだ。
大した力を持ってない奴が、俺に喧嘩売るんじゃねえよ、雑魚共が。
束にならなければ何も出来ない奴らに、俺が負ける筈がないと言うのに……哀れな奴らだ。
「おい由雪。今日こそはテメェをぶっ倒してやるよ!」
「ぶっ倒す? ぶっ倒れるの間違いじゃねえのか?」
「なっ……リーダーになんてこと言うんだテメェ!!」
とても小学生同士で交わす会話とは思えないが、これが俺の毎日だ。
現在の社会が荒れているのを象徴するかのように、俺達小学生もまた荒れていた。
……いや、俺と雑魚共は少し違う。
俺は別に、この腐った社会のせいで荒れたわけではない。
元から人が、世界が、そして自分自身が嫌いなのだ。
何故すべてが嫌いになったのかなんて俺にも分からない。
けど、正直言って生きているのは面倒臭い。
まぁ多少の楽しみがあるとすれば……。
「まぁ何時もはヤラレてばかりだけどよ、今日の俺達は一味違うぜ?」
「なんて言ったって、俺達もついに魔術が使えるようになったんだからな!!」
この世界では、使い方を学びさえすれば誰だって魔術を扱える。
系統はいろいろあるが、説明するのは面倒だからこの際省く。
そして目の前にいる雑魚共も例外なく魔術が扱えるのだ。
ダセェな……今頃かよ……。
「へぇ……それが?」
俺はドヤ顔で言ってきた奴らに対して、そう言葉を返す。
俺のその言葉が単なる虚勢にしか聞こえなかったらしく、奴らはこう答えた。
「今更ゴメンナサイしたところで許してやらねぇからな!」
「魔術がまだ使えない癖に、でしゃばるんじゃねえぞ!!」
「……アホくさ」
それで挑発してるつもりなのか?
はっきり言って、今時そんな威嚇の仕方じゃ、怯えてくれる奴なんていないんじゃねえのか?
確かにコイツらの言う通り、俺は今まで喧嘩の中で魔術を使ったことはない。
まぁ使えない奴らと殺り合うのに魔術なんて不要だと思っているからだ。
事実、それを使わなくてもコイツらをボコボコにすることは出来た。
ただ、今まで気分が晴れなかったのは事実だ。
弱い奴らばかりをなぶっていても、はっきり言ってただ体力を無駄に消費するだけだ。
けど、さっきコイツらは魔術が使えるようになったと言ってきた。
ということは……。
「コッチも手加減なしでテメェらをいたぶれるってワケだ!」
「あんま調子乗ってんじゃねえぞ由雪! テメェは今日ここで俺達に倒されるんだよ!!」
リーダーらしき男が俺にそう言ってくる。
……駄目だな、全然なってない。
俺に勝ちたきゃ、その程度の決意じゃまだ足りない。
「甘いなお前達……『倒す』程度じゃ俺には到底適いっこないってのに」
「んだと!?」
この程度の挑発に簡単に乗らされているようじゃあ、まだまだテメェらは魔術かじった程度の単なる雑魚でしかない。
俺に勝ちたいのなら……。
「俺に勝ちたかったら、俺を殺すつもりでかかってこいよ!!」