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プロローグ

そこには確かに悪魔がいた。

まるで夢でも見ているような光景だと、少年は思った。

けれど、これは夢ではない。

自分と同じ姿形をした何かが、彼の目の前に立っていた。

人のカタチをした、別の何かがそこにいた。


『オマエカ……チカラガホシイトイウヤツハ』


その何かは、少年にそう尋ねる。

少年は、首を縦に頷かせて、


「ああ、その通りだ。俺は力が欲しい。強大なる力が……絶対なる、闇の力がな」

『スベテヲキョゼツスルホドノチカラガホシイノカ?』


すべてを拒絶する力。

それこそまさしく、悪魔との契約によって得られる、禁断の属性魔術。

その名は闇。

光ある所に差す陰の力。


「ああ、欲しい」

『ソウカ。ナラバモウマヨウナ。オレヲウケイレロ。ソウスルコトデオマエハゼッタイナルチカラヲエル』

「そうかよ。けど、お前が思っている以上に、俺の心の闇は深い。逆にお前が俺の闇に染まりきるんじゃねえぞ」

『アンズルナ。ニンゲンゴトキニアクマハケサレナイ。ソンナニオレノチカラハヨワクナイ』

「それを聞いて安心した……なら、早くやらせろ」


少年は目の前の悪魔に右手を差し出す。

瞬間、彼と悪魔の足元には、巨大なる黒い魔法陣が展開し始めた。

それが、彼の周りに何個も展開されて行く。

悪魔憑き。

この現象、まさしくそれに相当する。


『アトモドリヲスルナライマノウチダゾ? ケイヤクニジブンノイノチヲササゲルミタイダガ、ソンナコトヲシタラ、モクテキヲハタストドウジニイノチヲオトスコトニナルガ』

「構いやしねぇよ。どうせ俺はこんな世界なんてどうでもいいと思ってるからよ。目的が果たせれば、それだけで十分だ。人間なんて、いるだけ邪魔だ」

『リョウカイシタ。ナラココロシテウケイレルガヨイ!!』


そして、少年に黒い光が差し込む。

すべてを闇に侵食するその光は、彼の身体を容赦なく貫いて行く。


「アガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


苦痛。

恨み。

妬み。

怒り。

負の感情のすべてが、彼の身体を蝕んでいく。

それこそまさしく、悪魔の本質。

希望の光あるところに、絶望の闇あり。

世の理における、二大要素の裏の面。

彼は今、表に居ながらその力のすべてを受け入れようとしているのだ。

それにはあまりにも彼は光を浴び過ぎていた。

だからこそ、人間にとってはこれだけ苦痛を伴うことになる。

どんなにその人物の心の奥底が闇に染まっていたとしても、どうしても人間と言うのは光が混じる。

混沌は、害をもたらす元凶とも言える。

これぞまさしく、拒絶。


『オラオラドウシタ? オレヲノミコムンジャナカッタノカ? コノテイドノクツウニタエラレヌヨウデハ、オレタチノチカラヲスベテウケイレルコトナドフカノウダゾ?』

「う、せぇよ……黙ってそこで自分の半生でも思い出してろ悪魔がぁ!!」


それなのに。

それなのにこの少年は力を欲する。

人間であるが故に、悪魔の力を欲するのだ。

すべては復讐の為。

すべては破壊の為。

憎いのだ。

壊したいのだ。

斬り裂きたいのだ。

飲み尽くしたいのだ。

足りない。

まだ足りない。

このままじゃまだ足りない。

光を浴びているこの世界を闇に包ませてみたい。

固い地面に赤い雨を注がせてみたい。

目の前にいる誰かを、この手で八つ裂きにしてみたい。

死。

死死。

死死死。

死死死死死。

死死死死死死。


『ナニ……? オレノカラダガ、スコシヅツキエテキテイルダト?』


気付けば、先ほどまでははっきりとそこにあった悪魔の肉体が、段々透けてきている。

そう……力を少年に吸収され始めているのだ。

それも、人間の身体には耐えきれないほど、強大なる闇の力を。

本来悪魔憑きとは、悪魔がその力の一部を人間に与えるだけのもの。

故に、悪魔は人間を使役し、人間は悪魔にその力を借りるのだ。

何かを代償といて……主に命を代償として。

しかし、この少年の場合は違う。

自らの命を代償として、この力をすべて飲み干そうとしているのだ。

所謂これは、悪魔の抹殺。


「マッテヤガレ……今すぐテメェをノミツクシテやるからよ」

『バカナ……ニンゲンゴトキガコレホドマデノチカラヲソノミニキュウシュウデキルトハ……』


彼が抱えている憎悪は、特定の人物に対してのみではない。

理不尽なまでに不条理が広がっている、この世界にすべてに対する恨み。

そこに希望などない。

そこに光など差さない。

彼の心の中からは、いつの間にか完全に光が消え失せようとしていた。

ただ一点の光があるとすれば。

ただ唯一の彼の居場所があるとすれば。

それはすなわち、光の器(てんし)の少女……寺内麻美のみだった。

しかし、彼女はこの世から消えた。

少年にはもう、帰る場所なんてない。

故に、世界を滅ぼそうが自分の身体が消え失せようが関係ない。

ただ、壊すのみ。

すべてを、壊すのみ。

無に帰すのみ。

仇を、殺すのみ。

殺。

殺。

殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺


『ウガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

「ニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイ!!」


負の感情。

彼を覆い尽くすその負の感情が、悪魔すらを呑み尽くそうとしている。

どんどん、その姿を消して行く悪魔。

そして。


『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』


そして悪魔は完全にその姿を消した。

そこにいるのは、一人の少年のみ。

周りにはすでに何も存在せず。

あるのは『無』のみ。


「ク……クク……」


そして、少年は始める。


「ヒャアアアアアアアアアアアハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!」


自らの、復讐を。

すべてを、闇に。

彼のものに、罰を。



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