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指差歓呼

作者: 泉田清
掲載日:2026/08/21

 スマホに目をやる。ネットニュースを見るために。

 起床してすぐ、仕事の前、昼休憩、帰宅中、一日に何度目にするだろうか。あまりに頻度が高くてほとんど内容が変わってないように思えるくらいだ。まるでアナリストか新聞記者かのようにシャカリキになって情報を得ようとしている。政治家の失言、悲惨な事故死、芸能人の醜聞、プロスポーツの試合結果、それらの陳腐な批評、そうまでした得た情報はほとんど役に立たない。一日に更新される情報が多すぎ、それらを絶えず目にしていないと不安になってしまう。「ネットニュースをみる」という行為そのものの中毒になっているのだ。


 朝起きて顔を洗う。眉の下から鮮血が流れる。二日前、眉毛を整えた際できた傷から。おかげで昨日、一昨日と、誰かと顔を合わせる度に「アッ」という顔をされた。その誰もが「傷」については触れない。触れるまでもない小さな「傷」だと思っているのか、触れてはいけない話題だと思っているのか。あまりに鮮やかすぎる赤色で偽物に見える。血を拭う、ピリリと傷口が痛む、指には絵の具のような赤色がついている。やはり本物だ。真偽を確かめるにはそれに触れる必要があるのだ。

 

 職場の道路向かいにちょっとした広場がある。そこで毎年夏祭りがあり、クライマックスには今どき珍しい、盆踊りも行われる。盆休みに遅番をさせられる事が多いので、仕事中に何度となく祭囃子を聞かされた。祭りの光景を目にしていつも不思議に思う。集まってくる親子連れ、ハッピ姿、浴衣姿が、去年も一昨年も、十年前であっても同じ者たちに見えてしまう。そんなはずはない。その証拠に見よ、よく見れば親はもちろん子供たちも手にスマホを持っている。私もまたそうだ。今は二十年前でも三十年前でもない。

 だからといって、いちいち真偽を確かめている時間はない。そうこうしている間にも、スマホに膨大な量の情報が流れ込んでくる。うわべしか見る時間がないともいえる。「夏祭りにやってくる人々=親子連れ」で充分だ。彼らの幸せのイメージを抱いていたい。ドン!どこかで花火が上がった。この地区では盆踊りが行われ、別の地区では花火が上がるというわけだ。私は未だ退勤出来ない。こうして盆休みは過ぎて行った。  

 

 帰宅して、パソコンの前に座り、ネットニュース番組を観ながら夕食を摂る。決まらない政策、強盗殺人、著名人の訃報、相変わらず目を覆いたくなるものばかり。それでも、スマホで見るよりは幾分マシである。番組はテレビ局のものであり、いくばくかのジャーナリズム精神がある。テレビ報道の方がまだマシな情報を提供してくれるわけだ。テレビはとっくに部屋の隅で置き物と化してしまった。それでも受信料を払い続けている私は愚か者だろうか。プロスポーツの試合結果がダイジェストと共に流れる。おや、と思った。応援していたチームが勝利したのだ。スマホでチラと見た限り、敗北したと思っていたのだが。

 画面をよく見る。日付が昨日になっていた。つまり私は、昨日放送のニュース番組の、過去動画を観ていたことになる。思わず「アッ」と声が出た。恐ろしいほどの虚脱感に襲われる。何年か前パソコンが壊れてしまい、一週間ほどインターネット環境が著しく損なわれた期間があった。それと似たような虚脱感が再び訪れたのだ。


 昨日のニュース番組を真面目腐って観ていたという事実。何という無駄、何という愚行、何という恥辱、とんでもないバカ者になった気分だ。これが四六時中ネットニュースを見続けた者の末路である。

 何の気力も無くなり、食べていた皿も投げ出し、しばらく座椅子に身を投げ出す。目を閉じると、外の国道を何台もの車が走っていく。画面に夢中になっている傍らでこんなにも多くの車が走っていたのだ。


 目を開けると食べかけの皿がある。それを口に運びながら、日付を指さし確認し、ようやく今日のニュース番組に辿り着いた。ヨシ!やはりいつもと変わらない。この世は平常運転だった。

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