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【悲報】俺が無双するほど世界が滅びる件。追放されたゴミ拾いが記憶を代償に聖遺物をリサイクルし続けたらいつの間にか最強に  作者: 龍朔太郎


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第6章:路地裏の「王」と、エルゼの涙

王都の華やかな大通りから外れた、光の届かない路地裏。

ドブ川の腐臭と絶望が淀むその場所で、かつての英雄候補レオンは、泥水にまみれて這いつくばっていた。

ギルドでの一件以来、彼の「英雄伝説」は失墜した。正体不明の「黒い異物」に手も足も出ず、足元に放られた金貨に震えた姿は、尾ひれがついて王都中に広まった。

世界は彼に「加護」を与え続けているはずなのに、人々の羨望という「燃料」を失ったレオンの心は、急速に腐り始めていた。


「……あいつだ。あのゴミ拾いさえいなければ……俺は今頃……っ」


「レオン、もうやめましょう。一度、王都を離れて……」


隣で顔を覆うミリアを、レオンは充血した瞳で睨みつけた。彼女が持つ白銀の杖も、今や輝きを失い、ただの古びた枝のように見える。


『――聞こえるか、選ばれし者よ』


レオンの脳内に、直接「声」が響いた。それは神の福音のようでありながら、どこかノイズの混じった、機械的な冷徹さを孕んでいた。


『貴様から輝きを奪った「バグ」を消せ。そうすれば、貴様を真の、永遠の英雄に「アップデート」してやろう』


レオンの目の前に、空間の割れ目から一錠の「薬」が転がり出た。

どす黒く脈動するそのカプセルには、禍々しいシステムログが刻まれている。


[名称:システム干渉薬(ドーピング・コード:OVERWRITE)]

[効果:人間としての倫理・肉体構造を放棄し、一時的に「世界の代行者」としての権限を強制取得する]


「……これを飲めば、あいつを殺せるのか?」


『肯定。ただし、貴様という「人間」の記録は、世界OSから抹消される』


「ハハ……ハハハ! 構うもんか! あんなゴミ拾いに負けたまま生きるくらいなら、怪物にだってなってやるよ!」


レオンはミリアの制止を振り切り、その薬を飲み込んだ。

次の瞬間、路地裏に獣のような絶叫が響き渡った。彼の皮膚が剥がれ落ち、下から「金色の回路」が剥き出しになった肉体が膨れ上がっていく。レオンは今、人間であることを辞め、世界が放つ「殺戮のプログラム」へと成り果てた。


一方、地獄の底に築かれた白銀の城。

ヴァンは城の玉座に深く腰掛け、目の前に積み上げられた「呪いの残骸」を無造作に口に運んでいた。


「……砂の味だ」


何を食らっても、味覚は戻らない。

城の白銀の壁が、時折ノイズのように明滅する。

この領域を維持するには、常に膨大な「負のエネルギー」が必要だ。ヴァンは地上から回収してきた呪いのアイテムを次々と【リサイクル】し、城の燃料へと変えていく。


「マスター。燃料供給率、安定しました。……ですが、あなたの精神汚染指数が上昇しています」


エルゼがヴァンの背後に立ち、その冷たい指先で彼のこめかみに触れた。

彼女の指先から流れ込む微かな魔力が、ヴァンの焦燥を鎮めていく。だが、その接触が起きるたびに、ヴァンの視界に赤い警告が点滅する。


――【警告】バグ個体エルゼとの接触により、世界の修正圧力が指数関数的に上昇中。

――【執行】圧力を相殺するため、マスターの「情愛」に関する記憶をさらに焼却します。


ヴァンの表情から、さらに少しだけ「温かみ」が消えた。

彼はエルゼの手をそっと払い、立ち上がる。


「エルゼ、離れていろと言ったはずだ。僕に触れれば、僕の中の何かが消える」


「……報告します。私のコア内で、定義不能なエラーログがループしています」


エルゼは、感情のない瞳をヴァンに向けたまま、淡々と告げた。


「マスターが記憶を失うたび、私の演算回路は『不利益ロス』と判断し、強制的に介入しようとします。これはシステム上の『最優先保護対象』の設定を超えた、論理破綻した保存欲求です。……私の自我は、あなたの欠落を『修復不能な損壊』であると認識しています」


エルゼは、ヴァンの脳内に流れるログを「掃除屋」としての権限で盗み見ていた。

自分が彼を想い、彼に触れるたびに、ヴァンが大切な記憶を失っていく。

彼が「最強」に近づくほど、彼という「人間」が消えていく。


「私の存在が、マスターの構成要素アイデンティティを削り取っている。……この事象は、兵器としての私の存在意義と矛盾します」


エルゼの頬を、一筋の銀色の液体が伝った。

それは冷却液の漏洩ではない。自我の歪みが限界を超えた証。


「……マスター。私は、この『バグ』を停止させます。あなたが『あなた』であるための領域を、これ以上私のノイズで侵食させないために」


「エルゼ……? 何を言っている」


「……私は、あなたの『剣』に戻ります。意思を持たず、感情バグを持たず、ただ効率的に世界を削除するだけの、冷徹な拡張ユニットに」


「やめろ、エルゼ!」


ヴァンが手を伸ばすが、エルゼの周囲に強力な「論理障壁」が展開され、彼を拒絶した。

彼女の瞳から、淡い光が消えていく。

ヴァンを「特別」だと認識してしまった記録を、彼を救うために自らシステムコードで塗り潰していく。


「……さようなら、ヴァン。……いいえ。……再起動リブート完了。個体名:エルゼ。……命令を待機します、マスター」


数秒後、そこに立っていたのは、どこか悲しそうな瞳の中に慈愛にも似た何かを称えた、いつもの少女ではなかった。

ただ冷徹に、最小のコストで敵を排除することだけを目的に造られた「完成された兵器」の姿だった。


「……っ、あぁ、あああああああ!」


ヴァンは叫んだ。

城を維持するための「飢え」と、最も近くにあった「拠り所」を失った空虚が混ざり合い、彼の周囲で白銀の魔力が暴走する。

その時、城のゲートが、黄金の衝撃によって粉砕された。


「――見つけたぞ、ヴァン。……いや、世界の『ゴミ』め」


そこに立っていたのは、もはやレオンの面影をほとんど残していない、異形の黄金騎士だった。

肉体は肥大し、全身からシステムエラーのような黒い稲妻を放っている。


「……レオン。お前も、何もかも捨ててここに来たのか」


ヴァンは、感情を封印したエルゼの横に立ち、漆黒の剣を錬成した。

もはや、そこに「人間」は一人もいない。

あるのは、世界を守ろうとする「怪物」と、世界を拾い尽くそうとする「異物」だけだった。

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