恋する王女 4
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国境の防衛強化は急務なようで、ジェラルドから話を聞いた二週間後にシャルルは北へ向けて旅立つことが決定した。
それに伴い、わたしは今、お引っ越し作業中である。
どうしてか?
それはもちろん……むふふふふっ!
「エドウィージュ様、顔が崩れていますよ」
「レーヌ、せめて表情が崩れているって言ってちょうだい。顔が崩れたらとっても怖いと思うの」
城の使用人に指示を出しているレーヌのツッコミに、わたしはにやけた顔のまま答える。
お引っ越し作業中と言っても、正直わたしがすることはほとんどない。
座ってお茶を飲みながら、時折入る確認に答えるだけで、荷物の詰め込み作業や運び出しは全部城の使用人がしてくれるからだ。
しかも確認もほとんどレーヌが答えてくれるから、わたしに直接質問が飛んでくることなんて三十分に一回もない。はっきり言って、退屈である。
……でも、いいの。王都のお邸でシャルルの帰りが待てるんだもの!
シャルルは明日、旅立つ。
そしてわたしは明日、シャルルが王都に賜ったサティ侯爵家の真新しいタウンハウスにお引越しをするのだ。
結婚が延期になったので、せめて、自分の帰りを邸で待っていてほしいとシャルルが言ったのである。
お父様たちは渋ったけれど、お城から目と鼻の先にあるお邸なので、いつでも会いに行けるからと最終的に許可を出してくれた。まあ、わたしが行きたいと我儘を言ったのもあるのだけど。
「家でシャルルの帰りを待つ……って、とっても妻っぽいわよね、レーヌ?」
「妻ではなく婚約者ですが、まあ、そうですね」
「レーヌもジェラルドも連れてお引越ししていいって言うし、シャルルはとっても優しくて紳士だわ」
「本当に優しくて紳士なら、いい加減エドウィージュに会いに来て、とっととフードの下の素顔を晒せばいいのにとわたくしは思います」
「シャルルはきっと照れ屋なのよ!」
「エドウィージュ様は変なところでポジティブですね」
レーヌはそういうけど、シャルルはとっても忙しいのよ。侯爵領の運営のお仕事を頑張って覚えてたのに、北の国境の防衛なんてお仕事まで舞い込んできたんだもの。わたしに会いに来る暇なんてこれっぽっちもないわ。
……わたしは、こうしてお手紙をくれただけで充分よ!
シャルルが先日使いのものに持たせて届けてくれた手紙には、結婚が延期になったお詫びが丁寧につづられていた。
十三年前のぶっきらぼうな感じのシャルルも素敵だったけど、大人の落ち着きの出た彼もまた素敵ね。お手紙の文章から、彼の優しい人柄が伝わってくるようだわ。
「素敵なお手紙よね」
「たった八行ですけどね」
何度も何度もシャルルの手紙を読み返していたらレーヌが鋭くツッコんでくる。
いいじゃない八行でも。量じゃなくて質なのよ。見なさいこの流麗な字と「あなたが俺の邸で健やかにお過ごしになられることを祈ります」という優しい一文を!
でも、それを言うとレーヌは「普通ですよ。むしろ素っ気ないです」なんて言うから、わたしはいそいそと便箋を封筒に納めてぎゅっと胸に抱いた。
……レーヌはわかってないわ。シャルルがわたしのために手紙を書いてくれたのよ? わたしはそれだけで、バターなしでバゲットが何本も食べられるわ!
まったく交流がなく、会うことすらなかった十三年という月日を考えると、天と地の差である。
だからレーヌの「結婚まで何度も会って心を通わせるのが普通なんですよ」という言葉は気にならなかった。「隣国に嫁いだファヴィエンヌ様だって季節ごとにお会いになる機会を設けていらっしゃいましたよ」なんて言うけど、それはそれ、これはこれよ。
「シャルルはとってもシャイなのよ! そしてとっても忙しいんだから仕方がないの」
「シャイな男が陛下の御前でもフードを取らずに、文句を言った大臣のカツラを風魔法で飛ばしたりしますかね。そのあと、宙に浮いたカツラを容赦なく燃やしてましたよ。大臣が滂沱の涙を流していました」
「素敵ね!」
「そうですか……」
つける薬なし、とレーヌが首を横に振る。
何とでもおっしゃい! 十三年も恋焦がれてきたわたしの気持ちは、その程度のことでは小動もしないわ! むしろ言われたままで終わらせないシャルルがカッコいいじゃないの!
わたしとレーヌがくだらない言い合いをしていると、大きなバラの花束を抱えたメイドが入って来た。
素敵な花束ね、と思っていると、メイドがわたしの元にそれを運んでくる。
「姫様、こちらはシャルル・サティ侯爵様からでございます」
「なんですって⁉」
わたしはメイドから花束を受け取ると、胸いっぱいにその香りを吸い込んだ後で、ドキドキしながら花の中に埋もれるようにしてあったカードを取り出した。
「『明日は、この花と同じ花を邸にたくさんご用意しておきます。シャルル・サティ』ですって! 見てちょうだいレーヌ! シャルルってばとってもロマンチストだわ‼」
「いや、花くらい自分で届けろよ。手間を惜しむな」
「何か言ったレーヌ」
「いいえ。とってもロマンチックですね」
にこりと微笑んだレーヌにわたしは大きく頷く。
……結婚は延期になっちゃったけど、シャルルが優しくて天にも昇る気持ちよ!
わたしはじっと花束を見下ろして、名案を閃いた。
「そうだわ! ダヴィドおじいちゃんのところに行って、この花束に永久保存の魔法をかけてもらいましょう! シャルルからのはじめてのプレゼントだもの。枯れたら悲しくてお墓まで作っちゃいそうよ!」
「重いですエドウィージュ様。本当に重いからもう少し恋の病を軽くしてください」
「行くわよレーヌ!」
どうせここにいたところで、わたしの出番はほぼない。
荷物詰めも完了してあとは運び出すだけなので、部屋の中に待機している必要もないだろう。
わたしはバラの花束を抱え、頭が痛そうにこめかみを押さえるレーヌを連れて、魔法師団の老師であるダヴィドの部屋へ向かった。
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☆あらすじ☆
伯爵夫人のオレリアは、政略結婚相手の夫ルクレールのことが大好き
だけど、彼からは冷たい態度を取られたまま二年が経ってしまった。
過去の恋人を引きずっているらしい彼との関係に悩んでいた矢先、
占い師に渡された不思議な指輪をはめたら、突如透明になってしまう。
不安に包まれるオレリアだったけど、透明になった彼女に夫はなんだか
優しくて…!?すれ違う二人が本当の夫婦になるまでを描いた少し
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