恋する王女 1
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一日一話にしようかと思ったのですが、ヒーローが出てくるまでもうちょっとかかるので、少しペースを上げます(#^^#)
わたしが必死に意識を失わないように努力している間にも、大広間は蜂の巣をつついた騒ぎになっていた。
「エドウィージュ王女殿下を⁉」
「孤児のくせに無礼な!」
「いくらなんでもそれは……」
などとあちこちから声が上がっているが、貴族たちよりなにより驚いたのは間違いなくわたしの家族だろう。
「私の可愛いエジュを奪おうというのか‼」
お父様は腰を浮かせて、ちょっと意味のわからないことを言った。
「まあ、わたくしのエジュには結婚は早いと思うの」
お母様も意味のわからないことを言った。わたしは十八歳です。
「エジュはまだこんなに小さいんだぞ‼」
一番上のお兄様は、親指と人差し指をくっつけて叫ぶ。わたしはそんなミジンコみたいな大きさではありません。
レオンスお兄様はあんぐりと口をあけて固まっちゃっているわ。
そんな中――
「その心意気やよし! わたしからエジュを奪うというのなら決闘だ‼」
と、ものすごく場違いな声がした。
「ま、まままま待ちなさいアデライド! その手を柄から離すんだっ!」
「ええい放せラウル‼ 妹を掛けて決闘をするのだ‼」
「意味がわからない! せめて妹の結婚をかけてと言ってくれ!」
見れば、プレオベール公爵家に嫁いだ一番上のアデライドお姉様が、夫であるラウルお義兄様に背後から羽交い絞めにされて騒いでいる。
どうでもいいけどお姉様、パーティーだって言うのにそんな騎士みたいな格好で来たの? 相変わらずドレスが嫌いなのね。
……ラウルお義兄様も大変ね。
凱旋パーティーをあわや決闘パーティーに変えようとしたアデライドお姉様を、ラウルお義兄様がなんとか壁際まで引きずっていく。
決闘を邪魔されたお姉様は、お義兄様に怒りの矛先を向けたようで、くるりと体の向きを変えるとお義兄様の襟元を掴み上げた。
……本当に、本当に、ラウルお義兄様は大変ね。
心底お義兄様に同情していると、こほん、と隣から咳ばらいが聞こえてきた。レオンスお兄様だ。
レオンスお兄様がちらっちらっとわたしの方を見て来るので、わたしはにんまりと笑った。
……お兄様。約束は約束ですよ。
さっきの控室での約束、忘れていませんからね?
もちろん、お父様たちを説得してくれるんでしょう?
ギャーギャー騒いでいる外野に、きっとシャルルも困っているだろう。
跪いたまま微動だにしないが、フードの下の隠された表情は困惑しているはずだ。そしてきっと不安に違いない。だって、わたしとの結婚を反対されるかもしれないんだもの!
……ああでも、なんてことかしら? つまりはそういうことよね? あの十三年前の邂逅で、シャルルもわたしに恋してくれていたって‼
今すぐに「きゃー!」と叫んで飛び跳ねたいところだが、わたしは王女である。王女がそんなことをしてはいけない。もうすでにお父様たちが大混乱で王族の威厳なんてほっぽり出しているけれど、わたしだけはしっかりしなくては。きりっ!
……さあお兄様、頼みますよ!
レオンスお兄様に向かって軽く拳を握り締めて見せると、お兄様はがっくりと肩を落とした。
「……本気か?」
「わたしはいつも本気です」
「はあ……」
レオンスお兄様は気が進まないなぁと言いたそうな顔で立ち上がると、まだぎゃーぎゃー騒いでいるお父様の側によった。
そしてぼそぼそと何かを囁く。
するとどうだろう。
あれほどうるさかったお父様がぴたりと止まり、真剣な顔で何かを熟考しはじめた。
レオンスお兄様はやり切った顔で席に戻って来たけれど、一体何を言ったのかしら?
「ねえお兄様、お父様に何を言ったの?」
「『我が国の魔法師団が大きな戦果を挙げた背景には、ファヴィエンヌがドゥファン国に嫁いだことが理由に上げられます。ファヴィエンヌがいなければ我が国は戦争に加担しなかったでしょう。つまり、周辺国は我が国の王女を娶れば背後に我が国の魔法師団の力が借りられると知ったはずです。エジュには各国から縁談が届くでしょうね。遠くに行くと、なかなか会えませんよ? ファヴィエンヌのように』と言って見た」
「えーっと?」
「まとめると、いつでもエジュと会いたければ近場で手を打っておけ、ってこと」
あーなるほど!
お父様はとにかく娘を溺愛している。
ファヴィエンヌお姉様がドゥファン国に嫁いだせいで会えない会えないと嘆いていたものね。
わたしまで遠くに嫁がせたくはないはずよ。だって、結婚にも反対するくらいなんですもの。
「お兄様、賢いわね」
「まあな。俺も、エジュに遠くに嫁がれたくないからな。……近場なら何かあったらすぐに離婚させられるし」
「何か言った?」
「なにも」
でもまさかレオンスお兄様がこんなに頼りになるとは思わなかったわ!
お父様が難しい顔で黙り込んだから、自然と大広間の中が静かになっていく。
やがて、しん、と静寂に包まれた中、国王の威厳を取り戻したお父様が威厳たっぷりに言った。
「わかった。我が愛娘エドウィージュとの結婚を認めよう」
やったわ~‼
だけど、人生はそう甘いものでもなかった。
それをわたしが知ることになるのは、凱旋パーティーから三か月ほどあとの、初夏のことである。
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