魔法師団長への褒章 1
お読みいただきありがとうございます!
初日はまとめて数話投稿します(≧▽≦)
ブラン王国第三王女であるわたしエドウィージュと、大魔法使いシャルル・サティとの出会いは、わたしが五歳、シャルルが九歳の時に遡る――
その頃のシャルルはまだサティ侯爵ではなくただの「シャルル」で、小柄でひょろひょろ~っと細い、か弱そうな男の子だった。
シャルルは孤児だったが、彼が六歳の頃に、たまたま孤児院を訪れた老齢の魔法使いが魔法使いの素養を認めて弟子にした。
その魔法使いが、王家直属の『魔法師団』で老師という立場にいるダヴィドであったことから、シャルルの生活は孤児院から城に移った。ダヴィドはシャルルという新たな弟子の生活から面倒を見ることにしたらしい。
ゆえにシャルルは六歳から城暮らしだが、いくら老師とはいえその弟子と王女が同じ生活圏内で過ごすわけもなく、わたしとシャルルの出会いは本当に偶然の産物だったと言えるだろう。
あの日わたしは――
「んん~! と~れ~ないぃ~‼」
城の広い中庭の、大きなブナの木の根元で、ぴょんこらぴょんこらと飛び跳ねていた。
小さな手を空に向かって伸ばして、ぴょんぴょんぴょん。
飛び跳ねるたびに、赤いリボンが結ばれたふわふわの金髪と水色のドレスの裾が揺れる。
「あとちょっとなのにぃ~」
「いや、全然ちょっとじゃないと思う。かすりもしてない」
ぜーぜーと息を切らせながら飛び跳ねていたわたしの背後から、変声期前の高い声が聞こえてきた。
わたしは「全然ちょっとじゃない」と言われ、ムッと口をとがらせて振り返る。
そこにいたのは、ぼさぼさの紫色の髪に、よれよれの黒い魔法使いのローブを羽織った男の子だった。
わたしより数歳年上だろう。真ん中のお兄様と同じくらいの年だろうか? だけど、こんなにぼさぼさでよれよれな男の子を、今まで一度も見たことがない。
「だぁれ?」
「俺のことはどうだっていいだろう。それより、早くしないと落っこちそうだぞ」
「そうだった!」
わたしは今、ブナの木に登って降りれなくなった子猫の救出中だったのだ。
この子猫は、魔法師団の名誉職「老師」のダヴィドおじいちゃんが「ほれ、お誕生日プレセントじゃ」と言ってくれた猫なのだ。
まだ生後三か月ほどで小さいのだけど、とってもやんちゃで、目を放すと何をするかわからない。
今日も、わたしがお歌のレッスンをしている時にいなくなって、気がついたらブナの木のてっぺんのあたりでぷるぷる震えていたのだ。
「マノン、がんばってー! 今助けてあげるから!」
マノンとは猫の名前である。
わたし付の侍女やメイドが梯子を取りに行っているから、もうすぐ木に登って助けてあげられるはずだ。あともう少しの辛抱である。
「あれはあと数分も持たないな」
「そんなっ!」
「ほら、足が震えている。落ちるぞ」
淡々とした少年の言葉に、わたしは青ざめた。
マノンはまだ小さいのだ。あんな高いところにどうやって上ったのかはわからないけれど、落っこちたら大怪我をしてしまう。
「仕方な……って、おい、何をするつもりだ」
「何って、上って助けるのよ!」
ブナの幹にしがみつたわたしを、少年が残念な子を見る目で見つめ、やれやれと首を横に振った。
そして、わたしの首の後ろを、猫の子を掴むようにむんずと掴む。
「馬鹿なことするな。お前まで下りられなくなるぞ。まあ、それ以前に登れないとも思うが」
「しつれいね! 木登りは得意なのよ!」
「王女が木登りが得意でどうするんだ」
わたしはぱちくりと目をしばたたいた。この少年は、わたしが王女だって知っていたらしい。名乗ってないのに、すごいっ!
同時に、少年だけわたしのことを知っていて、わたしが少年のことを知らないのは不公平だと思った。だから口をとがらせて言う。
「わたしはあなたのことを知らないわ‼ なのにあなたがわたしを知っているなんて、ずるいわよ!」
「シャルルだ。いいから幹から手を放せ。ほら」
邪魔、と首の後ろを引っ張られて、わたしはたたらを踏んだ。小さな女の子相手にとっても乱暴だと思う。彼は紳士じゃない!
真ん中のお兄様のお勉強に「紳士学」とかいう授業が最近増えたから、わたしは知っている。男の人は紳士でないといけないのだ。それがえーっと……ステイタス、とかいうやつである。
兄が聞いたら「微妙に間違っているぞ妹よ……」と言われそうだが、五歳児のわたしの中ではそうだった。この少年――シャルルは、まだステイタスとやらが足りないのだ!
「マノンがおちちゃうっ!」
「いいから黙ってろ。お前が騒げばあの猫が落ちるぞ」
わたしの声とマノンが落ちることに何の関係があるのかはわからなかったけれど、わたしは慌てて両手で自分の口を押えた。
シャルルは「それでいい」と頷くと、マノンのいる、ブナの木のずっとてっぺんへ手のひらを向けた。
「風よ」
ふわり、と柔らかい風が吹いた。
その風は高いところにいたマノンの小さな体を浮かび上がらせる。
わたしの悲鳴が喉の奥で凍った。
だけど、マノンはわたしが想像していたようなひどい目には合わなかった。
風で宙に浮かされたマノンが、ゆっくりゆっくりと降りてくる。
何の衝撃も感じさせず、地面まで降り立ったマノンが、ふしゃーっと上体を低くしてシャルルを威嚇した。
……マノンってば、助けてもらったのに。
マノンが恩知らずなことをしたので、マノンのお姉さんであるわたしがしっかりしなくては。
わたしはシャルルに向き直ると、お母様から教わったばかりのカーテシーというごあいさつでお礼をすることにした。
ちょん、とドレスの裾を軽くつまみ、小さく膝を曲げる。
「ええっと、ありがとう、シャルル! あなたはわたしのヒーローだわ!」
それからにこっと笑うと、シャルルが瞠目し、それから顔を赤くしてぷいっと横を向いた。
「おい、俺が魔法を使ったことをじじいには言うなよ。本当はまだじじいがいないところで使っちゃダメなんだ」
「じじい?」
とは誰のことなのか。
わたしが訊ねる前に、シャルルが「まずい、訓練に遅れる!」と叫んで駆けだした。
「あ! シャルル!」
「じゃあな、王女!」
走りながらシャルルが振り返り、ニカッと笑う。
ぼさぼさの髪によれよれのローブ。
そんなびっくりするような外見の彼の笑顔は、青い空のように爽やかで綺麗だった。
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☆おしらせ☆
「身代わりに差し出された幽霊令嬢は伯爵様の最愛花嫁になりました」
のコミカライズが、本日からはじまりました!
最初はどど~んと1~3話一挙公開!
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どうぞよろしくお願いいたします(*^^*)
☆あらすじ☆
家族にも疎まれ、社交界からは「幽霊令嬢」と忌み嫌われていたレベッカは、妹ロクサリーヌが庭師と駆け落ちしたことで、名門イヴェール伯爵家へ代わりに嫁ぐことになる。当主レイモンドは「夫婦になる気はない」と冷たく告げるが、レベッカは逆らわず、静かに邸での生活を始めた。噂とは異なる控え目な彼女に戸惑いながらも、二人は言葉を交わさないまま日々を過ごす。しかし、ある出来事を境に、レイモンドはレベッカを放っておけなくなっていく。――これは、周囲から疎まれてきた幽霊令嬢レベッカの心に、レイモンドがそっとあたたかさを取り戻していく物語。









