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籠の鳥王女は愛されたいので好きにすることにした  作者: 狭山ひびき
籠の鳥王女と魔法使い

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15/20

浮気の一報が届きました 4

お気に入り登録、評価などありがとうございます!

 ティファニーは約束通り、さっそく次の日に邸を訪れてくれた。


 今日は魔法使いの黒いローブ姿ではなく、薄緑色の春らしいドレスを着ている。

 ティファニーは顔立ちが整っているので、華やかなドレスがとても似合う。きっと、魔法師団ではモテモテだと思うの。

 ブルネットの髪を、今日は首の後ろで紫色のリボンで結んでいる。

 サロンで優雅にティーカップを傾ける様は、とっても絵になっているわ。


 ……確か、ティファニーって子爵令嬢よね?


 レーヌ情報によれば、子爵家の末娘だったはずだ。

 年齢は二十一歳で、わたしより二歳年上。

 結婚はまだで、実家からはいくつもお見合い話が来ていたけれど、北の砦の防衛強化で出張になったから、お見合い話は全部断ったとか。


 ……今は仕事に専念したいって言ったらしいわ。自立している女性って感じがして素敵ね。


 ティファニーが来るまで、わたしはマノンとお庭で日向ぼっこをしていたんだけど、マノンってばティファニーが来た途端にふらっと散歩に行っちゃったの。

 だからサロンには、わたしとティファニーのほかには、レーヌと護衛のジェラルドしかいないわ。

 レーヌは侍女として、お茶のお代わりなどを手配してくれて、ジェラルドは扉の内側に立って護衛騎士の仕事をしているから、まあ、部屋にいてもお喋りの相手ってわけじゃないんだけどね。


「エドウィージュ王女殿下、何からお話いたしましょうか?」


 ティファニーがにこっと笑った。

 何からと訊かれても、悲しいことに、わたしはシャルルのことをよく知るわけではないのよね。

 一方的に想い続けてはいたけれど、彼との接点は求婚されるまでまったくなかったもの。


 ……求婚されても、シャルルが忙しくて会えていないから、シャルルの趣味とか好きな食べ物とかっていう基本情報も知らないのよね。あれ? これって妻(未来)として由々しき状況じゃないかしら。シャルルが帰って来るまでに情報収集をして彼のことを理解しておかないと!


 今更ながらに、わたしは自分が妄想の中のシャルルしか知らないことに気が付いた。

 もはやそれは「知っている」とすら言えない。だって妄想だもの。

 わたしが知るシャルルって、わたしが五歳の時にマノンを助けてくれて、ダヴィドおじいちゃんの弟子で、最年少で魔法師団長になって、わたしに花束と手紙をくれた人ってことよ。これだけだわ! 大変!

 危機感を覚えたわたしは、ティファニーに向かって身を乗り出した。


「まずはシャルルが魔法師団でどんな様子なのかを教えてほしいわ。詳しくっ!」


 ティファニーは食い気味なわたしに気圧されたようにわずかに身を引き、こほんと一つ咳ばらいをした。


「かしこまりました。わたしから見た団長のお話をしますね」

「ぜひ!」


 これにはレーヌも興味があるのか、わたしに紅茶のお代わりを入れるふりをして聞き耳を立てているのがわかった。

 なんかレーヌのシャルルの評価は低そうなので、この機会にシャルルにいい印象を持ってほしい。ティファニー頼んだわよ!


「団長は、そうですね。まず、とてもクールな方です。口数はあまり多くなく、黙々と仕事をなさる印象があります。ですが魔法の腕はさすがダヴィド老師の弟子と申しますか、十代のころから抜きんでた魔法の才能をお持ちでした」

「うんうん、それで?」

「わたしは五年前に魔法師団に入団しましたが、団長は十三歳の時から団員だったと聞いております。団長は第一部隊、わたしは第二部隊の所属ですのでそれほど接点があるわけではありませんが、入団したての頃は、不慣れなわたしを気遣って、寡黙ながらにもいろいろ世話を焼いてくださいました」


 ティファニーがうっとりとした表情で微笑む。

 うんうんとわたしが拳を握り締めると、今度は怪訝そうになった。なんでだろう。


「硬派な方で、いつもフードをかぶっていらっしゃいますが、とても凛々しい方です。表情はあまり崩されませんが」

「え⁉ シャルルの素顔を見たことがあるの⁉」


 すると、ティファニーはびっくりした顔になった。


「もちろん。いくら何でも四六時中フードをかぶっているなんて不可能……まあ! まさかエドウィージュ王女殿下はシャルル様の素顔を見たことがないんですの⁉ 婚約者なのに⁉」


 ティファニーが口に手を当てて大袈裟に驚いた。

 そんなに大袈裟にすることかしらと思ったけれど、考えてみたら婚約者なのに相手の素顔を知らないというのはおかしなことかもしれない。


 しゅん、と肩を落とすと、レーヌがすっと一歩前に出る。


「エドウィージュ様とシャルル様が婚約されてから、シャルル様は領地経営のためにお忙しくされていました。そしてすぐに北に旅立たれたので、エドウィージュ様とのお時間を作ることができないままだったのです。致し方ないことかと存じますが、お戻りになればいくらでも、その素顔を拝見する機会はございます。だって、夫婦になられるのですもの」


 そ、そうよね? 夫婦になるものね? いつでもフードの下の素顔が見られるわよね?


 レーヌに慰められて、わたしは気を取り直す。

 一方ティファニーはレーヌに剣幕に驚いたようだった。


 ……レーヌレーヌ、ティファニーがちょっと怖がっているわ。別にティファニーが悪いわけではないと思うの。だからそんなに……ってなんでティファニーを睨んでいるの?


 レーヌが険しい顔をしていることに気が付いて、わたしはレーヌの腕を軽くぽんぽんと叩いた。

レーヌがわたしに視線を向けてにこっと笑ってくれる。よかった、いつものレーヌだわ。


「そ、そうですわね。夫婦になられるのですもの。この先は、機会があると思いますわ」


 なんか「この先は」という言葉が強調された気もするけど、まあ事実よね。だってこの先しかないもの。過去は変えられないんだから。


 ティファニーはそれから先も、シャルルのことをたくさん話してくれた。

 だからわかったんだけど、ティファニーってシャルルのことをとっても尊敬しているみたい!

 楽しそうに頬を染めながらシャルルの活躍とか、シャルルと関わった時のお話をしてくれるの。シャルルがとっても素敵な紳士で、妻(未来)としては鼻高々よ!


 だけど、ティファニーが話せば話すほどに、レーヌの表情が強張っていくのが解せないわ。


「って、ずいぶん長くお話してしまいましたわね。今日のところはこれで。また来ますわ」

「ええ、ぜひ! まだまだシャルルのことが知りたいわ!」


 わたしが大きく頷くと、ティファニーは一瞬だけ変なものを見る目になった気がするけれど……きっと気のせいね。

 すぐに笑顔で「また近いうちに」って言って帰って行ったわ。


 楽しみにしているわね、ティファニー!




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